IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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楯無お姉さんにはちゃんと見張りがついています。
ダリル・ケイシー嬢が…

そして千冬さんのヤバさがここでまた一つ…


陽炎 ~ 夏風 ~

Ichika View

 

それにしても…これだけの面々が揃いも揃うとはな。

食後の茶を飲みながら俺は居間の光景を見渡す。

1年生の国家代表候補生が揃い踏みだ。

オーストラリアの『サイレント・ゼフィルス』

日本の『天羅』

イギリスの『ブルー・ティアーズ』

フランスの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』

ドイツの『シュヴァルツェア・レーゲン』

中国の『甲龍』

イタリアの『テンペスタ・ミーティオ』

そして例外中の例外(イレギュラー且つイリーガル)である、俺の『輝夜』

…一国に戦争を吹っ掛ける事も可能な戦力だ、いや、やらないが。

束さんに言わせれば「実質的には『輝夜』だけでも世界に喧嘩を売れる」とまで言わせられるかもしれない

いや、それこそやらないが。

 

「む、何だ、お前ら来ていたのか」

 

その声と共に居間に入ってきたのは千冬姉だった。

 

IS学園での仕事に一区切りついたんだろう。

それに今はスーツ姿ではなく私服で居る。

どうやら本当にプライベートのようだ。

 

「姉さん、お帰り!」

 

真っ先に飛び上がったのはマドカだ。

千冬姉の帰宅が嬉しいのか、さっそく抱き着いている。

千冬姉は少し困ったように見えるものの、それでも嬉しそうにしている。

 

「こら、飛びつくな。

汗の匂いが移ったらどうする?」

 

「姉さんの汗の匂いなら私は平気だ」

 

やれやれだ。

千冬姉に飛びついているマドカをはがすと、今度は猫のような動きで俺の肩の上によじ登り、ものの数秒で肩車だ。

その後、千冬姉は冷蔵庫に何かの瓶を入れる。

それに関しては後に確認しておこう。

 

「お帰り、千冬姉。冷えたお茶も用意しておいた」

 

「助かる、外はどうにも暑くてな。そうだ、夏休みの課題はどうしている?」

 

「夏休み前に早々と終わらせたよ、ISの調整もしてきてるから、残る期間には訓練くらいしかやることは無いよ。

そうだ、昼食は食べていくか?」

 

「そうだな…」

 

 

 

 

Chifuyu View

 

「そうだな…」

 

冷えた麦茶をグラスに注ぎながら居間を見渡す。

1年の専用機持ちが雁首を揃えている。

簪は洗い物に専念しているようだが…。

面白い、ここはひとつからかってみるか。

凰が意味深な目で見つめてきているが、まあ良かろう。

『不平があろうと不満を言わせない』、それが私のスタイルだ。それを一貫しよう。

 

「いや、昼食は結構だ、外で食べてくるとしよう。

教師という仕事は忙しいからな」

 

 

「分かった、新しいスーツも出して部屋に置いてある、使ってくれ」

 

気が利いているな、本当に助かる。

後でさっそく持っていくとしよう。

グラスに注いだ麦茶を数回に分けて飲む。

一気に飲めば体に悪いからな。

それに健康に関しては昔から一夏もうるさく言ってくるから私もすっかり感化されてしまっている。

 

「お前たち、遊びに来たのは結構だが、時間も考えておけよ」

 

そして私はキッチンの前まで移動する。

だが入りはしない。キッチンは一夏とマドカの独壇場だ。

私が昔に何かを無理に作ろうとしてボヤを起こしてしまったのは一夏だけが知る話だが。簪はずいぶんと手際が良いな、マドカも手伝い始め、速さは倍になる。

 

そして私は簪とマドカに背を向け、居間に向かい合う。

 

「夕餉を共にするのは許可するが、『この場にいる者』の宿泊は認めないぞ」

 

遠まわしに簪の宿泊は許可しているということだ。

マドカもそれに気付いたのか、耳打ちをしている。

 

「では、私はさっそく出向くとする。何分と忙しい身だからな」

 

「行ってらっしゃい、姉さん!」

 

マドカが私の部屋から新しいスーツを持ってきてくれた。

まったく、マドカもよくできた妹だ。

私の姉としての威厳が失われてしまう日も近いのだろうか。

いや、私も精進せねばな…。

学園に待機命令を言い渡しておいた篠ノ之の様子見をせねばならんし、やれやれ…忙しいものだな。

 

 

Madoka View

 

早くも姉さんは外出していった。

ちょっと寂しいな。

もっと一緒にいたかったんだが…私も姉さんを見習って教師になってみるべきか…いや、そうしたら今度は兄さんと過ごす時間が少なくなってしまう!

どうすればいいんだ!

 

 

 

Ichika View

 

なにやらマドカが唸っているが、何を悩んでいるのやら。

 

そこから先は室内で過ごすことになった。

人数が人数なので、ボードゲームくらいしか暇を潰すものがない。

なお、千冬姉の部屋に入ろうとしていたラウラを全力で止めた。

千冬姉は自分の部屋を見られるのを極端に嫌う。

要は散らかっているんだ、それを見れば学園で見せている姿から期待をいろいろと裏切ってしまうことになりかねない。

もっとも

 

「がああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!????」

 

一度だけ間に合わず、ドアノブに触れてしまったラウラが感電してしまった。

なんということは無い、勝手に部屋に入ってしまわないように、留守にしている間はこんなトラップを用意しているというわけだ。

これを掻い潜って部屋に入れるのは俺とマドカ、そして簪だけだ。

 

「…言わんこっちゃない」

 

「千冬さん、過激だね…」

 

流石に簪もビックリしている。

まあ、30分ほどはラウラは動けないだろう。

なので肩に担いで居間に運ぶことにする。

なお、倦怠感は酷いかもしれないが、それ以上は人体に害はないのだとか。

本当かどうかは怪しいのだが。

実際にラウラはそれくらいの時間で復活したからそれ以上は文句を言うまい。

千冬姉の部屋に入ろうとすればどうなるのか、良い前例になってくれたからな。

…気の毒だとは思うが。

 

 

 

 

ボードゲームをして時間を潰し、気づけば夕刻近くになっていた。

そろそろ夕餉の支度を始めようとは思うが、冷蔵庫の中身だけでは心許無い。

 

「夕食の材料を買ってくる、皆は待っていてくれ」

 

 

その呟きに簪もマドカも立ち上がる。

この数日、簪はこの家に宿泊しているから、買い物には付き合ってくれている。

マドカは…まあ、日常的にだ。

今夜の献立を考える。

この人数だし…肉じゃがでも作ってみよう。

 

「この人数分の買い物をするのは大変でしょ、アタシも行くわ。

お昼はご馳走になったんだし、夕飯はアタシが作ったげるわよ」

 

次に立ち上がったのは鈴だった。

 

「じゃあ僕も!得意料理を振る舞うよ!」

 

シャルロットも

 

「ならば私も行く!クラリッサからの本の料理を教えてもらっているからな」

 

 

ラウラが料理?…思いつかない。

 

「では私も!

普段からお兄さんには剣術特訓に付き合ってもらっていますから、そのお礼も兼ねて!」

 

メルクはイタリア料理などをいろいろと作れるかもしれない。

それはそれで楽しみではある。

 

「でしたら、わたくしも料理を振る舞いますわ!」

 

「「「「「絶対にお断り!」」」」」

 

簪、マドカ、シャルロット、鈴、ラウラ、メルクの声が完全に揃った瞬間だった。

気持ちは分かる。

俺もセシリアが『つくった料理』とやらを食べた経験がある。

…素直に言うとマズイ。

良いのは見てくれだけだ。料理雑誌に載っている写真に見てくれだけを近づけ、味や香りなど二の次三の次だ。一度だけ無理矢理に飲み込んだものの、全力疾走をしてトイレにて嘔吐したのは嫌な思い出の一つだ。

それに、だ。

料理の腕に関しては千冬姉と並ぶ程のヘタらしい。

この夏休みの間、学園の調理実習室にて幾度もなく爆発騒ぎを起こしているらしい。

そんな人物に我が家のキッチンに入らせることはさすがに出来ないだろう。

誰でもいいからセシリアに料理を教えてやってほしい。

言っておくが俺はお断りだ。

無駄な作業とまで罵るつもりは無いが、向上するのに過度な時間が掛かりそうだ。

 

 

 

その後、早速全員で出かけることになった。

とはいえ、この人数だとやはり玄関が非常に込み合う。

俺が真っ先に外に出る。

それに続けてマドカと簪が出てくる。

あとは順番だ。

靴が近くにある者がどんどん先に出てくる。

自転車を使ってしまおうかと思ったが、辞めておいた。

この人数だ、暇つぶしがてら歩いて行こうと決めた。

またいつものように右腕には簪、左腕にはマドカがくっついてくる。

更にはラウラを肩車、もうお決まりのポジションだ。

…シャルロットとセシリアが妙な視線を向けてくるが、簪とマドカはどこ吹く風、余裕の微笑みで受け流している。

こういう所は楯無さんや千冬姉の影響を受けているんだろうなぁ…。

なお、鈴からすれば普段通りの光景にしか映っていない…筈だ。

そしてそんな俺を見てメルクはニコニコとしている。

これもまた学園では繰り返されていた日常だ。

学園に入学するハメになる以前の俺ならば想像も出来はしないが。

 

それにしても…近所のスーパーに行くだけの筈なのに、この騒がしさ。

これが女子高生というものだろうか、本当に騒がしい。

改めて振り返ってみる。

日本、中国、ドイツ、フランス、イギリス、オーストラリア、イタリア。

様々な国を出身とする女子がそろい踏みだ。

この光景は中々に見られないだろう。

そんな光景を俺は目の前にしている。

一年前の俺だってこんな事は考えていなかっただろう。

外国人の知り合いなんて、それこそラウラをはじめとした黒兎隊の皆と荒熊隊だけで終わると思っていたんだから。

それでも今の俺はこの様々な国の人たちの中心にいる。

この光景をいつまでも守りたい。

それだけじゃない、いつの間にか考えるのを辞めてしまっていた事もある。

皆だけでなく、俺は俺自身も守っていかなくちゃいけない。

それが…黒翼天との約束でもあるんだから。

 

 

Lingyin View

 

一夏が何か難しい顔をしてるのが見えた。

また何か考えてるのかもしれない。

でも、こういう顔をしている時には、あまり触れないようにするのがベスト。

それに関しては簪もマドカも承知している。

 

「へ~、このスーパーも変ったわね…」

 

日本に住んでいたころに訪れた筈なのに、何だか知らない店にも見えた。

この店でマドカや簪と一緒に牛乳を沢山買ったのが昨日の思い出のように脳裏から溢れてくる。

沢山の牛乳を買って、一夏に持たせて困らせたっけ。

中国に帰ってからも牛乳を飲んでいたのに、身長はそんなに変わらなかった。

…バストサイズも変わらなかったのは本気で悔しい。それなのに簪やマドカの成長具合は…。

 

「まあ、いまさら気にしてないけどね…。

それよりラウラ、買い物するんだからそろそろ降りなさいよ」

 

「うむ、了解した。ではまた後で頼む兄上」

 

「またするつもりかよ」

 

帰りも肩車が確定らしい。

って今度はアタシと交代しなさいよ!

…こんな事だからアタシは一夏から妹扱いされてるのかもしれない。

どうせアタシはブラコンよ!

しっかりその点は自覚してるわよ!

そして一夏はシスコンよ!

自覚は無いみたいだけどね!

 

「メニューはどうしようかしら」

 

やぶれかぶれの思考はゴミ箱に放り捨て、アタシは食材を選ぶ。

一夏はいろいろと苦労している身、だから少しは疲れが取れるものにしたい、もしくはスタミナ料理…よし、決めた!

 

「豚の生姜焼きにしよう、…ってアッチは…何やってんのよ」

 

セシリアが大量の調味料を買い物籠に放り込んでいる。

アンタね…そんな大量のタバスコだとかクミンだとか苦汁(にがり)を使って何をするつもりなのよ…。

そのセシリアの暴走を、アタシとシャルロットの二人がかりで止めることになった。

 

「離してくださいな!

わたくしも!

イギリスの代表候補生として!」

 

「アンタのつくる料理は壊滅的なのよ!」

 

「おちついてセシリア!

ここは皆も料理を作るんだから!」

 

「ラウラ!メルク!

アンタも手伝いなさいって、どこに行ったのよラウラとメルクはぁ!?

一夏も簪もマドカも居ないし!?」

 

アンタらあとで覚えてなさいよぉっ!!

 

 

Kanzashi View

 

献立は家を出る前から決めていたから、あとは食材を買うだけだった。

此処のスーパーは、たとえ夜になっても新鮮な食材を置いてくれることもあるから、こういうときには大助かりする。

それに値段もお手頃だから購入もしやすい。

 

「なるほど、簪の献立は肉じゃが、だな」

 

一夏にはさっそくバレた。

それに関しては仕方なかった。

料理はそこそこ出来るほうだったけど、一夏と交際を続けていたら、自然と料理の腕も鍛えられていた。

初めて一夏が作ってくれた料理の味だって私は忘れていない。今の私の料理の腕は一夏と同じ位かな、なんて。

 

「美味しい肉じゃがを作るから、楽しみにしててね」

 

「ああ、楽しみしてるよ。さて、マドカとラウラは…」

 

マドカはお魚の売り場に行ってたと思う。

「メニューはシーフードサラダだ!」とか言って走って行ってたっけ。

きっと今頃は色々と割引だとかサービスをしてもらっているかもしれない。

理由はわからないけど、マドカはこの近隣の商店街では人気者だもん。

ラウラは卵を探してたかな…?

ほかには…蒟蒻を探してくるとか…何を作るつもりなんだろ…?ちょっと不安。

メルクはパスタを作るつもりらしく、今はその具材を見ていた。

 

「あっちが騒がしいな…?」

 

「何かあったのかな?」

 

一夏と一緒に買い物籠を持って歩いていく先には、皆が居た。

何やらセシリアを中心にして騒ぎになっている。

鈴とシャルロットが必死に宥めようとしているけれど、埒が明かないのは目に見えてる。

セシリアの料理は今でも私の記憶に鮮明に残っている。

一夏が真っ青になって屋上から飛び降りて何処かに走り去っていく瞬間、全員揃って『これだけは食べてはいけない』と悟っていたのだから。

 

「…仕方ない、あの日の二の舞は俺としてはお断りだからな。

それにキッチンを壊されても困る」

 

一夏が全力疾走して皆のところに向かう。すれ違いざま

 

「…ぁぐ…!?」

 

セシリアのうめき声が小さく聞こえた。

ドイツ軍仕込みの体術の一つなんだとか。それによってセシリアが一瞬で気絶した。

 

「よし、これで大丈夫だろう」

 

オマケにセシリアを肩に担いで軽々と運んでいる。

やっている事が忍者か誘拐犯みたいだった。

ラウラが教えたことなのかな、これって?

それともヴィラルドさんかな…?

はたまた千冬さんか、お父さんかな…?

 

そう思わせるほどに見事な手際だった。

 




キッチンはかつては彼の独壇場

妹、さらには愛する人も出入りをするようになり、今では共同の作業場所

そして今宵だけはみんなも一緒に

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 夏夜 ~』

問題はそこじゃねぇよ

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