ヤングガン・オンライン   作:ゼミル

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※10/12:誤字修正


13:BoB(4)・Killers

 

 

「俺とシノンが追いかけていた相手……銃士Xさんが人違いだって気づいた俺は、強引なラッシュで彼女を押し切ってから慌ててシノンの元に戻ったんだ」

 

 

シノンの涙が納まるなり、3人はすぐさま互いの情報交換を行った。

 

一登を中心に彼の右手側にシノン、左手側にキリトが腰を下ろし、各自思い思いの姿勢で背を岩肌に預けながら意見を交わし始める。第3者からしてみればどこからどう見ても一登が美少女を左右に侍らせているようにしか映らない光景。

 

まずキリトが銃士Xとスタジアムで対面してからシノンの元に駆けつけるまでの経緯を話し――シノンと死銃の間に投じられた発煙弾は銃士Xを倒したキリトが彼女の所持品から拝借した物だった――次に一登が立体駐車場から援護射撃を行うまでの経緯を明かした。

 

 

「そっか、スタジアムでも一兎がシノンを助けてくれたんだな。ありがとう、俺からも礼を言わせてくれ……それから、俺のせいで危うくシノンと一緒に殺しかけたのは本当にごめんなさい」

 

 

深く下げられた頭に引かれて艶やかな黒髪も揺れる。声色も罪悪感からかとてもしおらしく聞こえ、まるで美少女ゲームに登場するクラスの図書委員を務める儚げな雰囲気のヒロインを前にしている錯覚に一登は襲われる。

 

一見儚げな美少女に、こうも深々と謝罪をされると謝られている方が居心地悪く感じてくる辺りやはり美人というのは得だなぁ、とついつい思ってしまう一登。

 

――――だがキリトはれっきとした男である。

 

冗談はともかく、今度はシノンの番だ。3人の中で最も間近で死銃を目撃し、あまつさえ殺されかけさえした彼女の証言は極めて重要なだけに、話を聞く側の一登とキリトも気合を入れて耳を傾けざるをえない。

 

にじり寄らんばかりの雰囲気を醸し出す少年2人に、シノンはついついたじろいだが、残念ながら距離を取ろうにも彼女のすぐ後ろには洞窟の壁。シノンは観念してその瞬間の記憶を脳裏で再生しながらゆっくりと話し始める。

 

死銃と相対した時の記憶を蘇らせる事はトラウマの根源たる鮮血の記憶と同じぐらい苦痛ではあったが、シノンは心の痛みに必死で耐えながら語り続けた。

 

死銃が透明化可能なメタマテリアル光歪迷彩を所持し、サイドアームとして54式拳銃を装備していた事を話す。敵が完全に姿を消す事が可能な装備を持っているのを知れただけでもかなりの収穫だ。

 

 

「スナイパーライフルと、拳銃と、透明化できるマント以外に死銃がどんな装備を所持していたか覚えてますか?」

 

「今挙げた装備以外は思い出せないわ。マスクで隠した顔と両腕以外はマントに隠れて見えなかったし……ごめんなさい、こうなるんだったらもっと観察しておけば良かった……後はそうね、これはうろ覚えなんだけど、死銃が私を狙ったのはキリトへの挑発が目的だったみたい」

 

 

その発言を聞いて、一登は意味ありげな視線を向ける。

 

一登からの視線を受けたキリトは観念し、自分がSAOサバイバーである事を白状した。死銃の正体がSAO内でかつて殺しあった殺人ギルド<ラフィン・コフィン>の生き残り、キリトにとって因縁の相手である事も。

 

白猫からの資料でキリトがデスゲーム経験者である事どころかリアルでの本名・性別・年齢・住所などの個人情報すら一登は把握していたし、具体的な名前は出さなかったが本戦開始に大まかな話は既にキリトから聞いている。

 

しかし、死銃の正体が殺人ギルドの主要メンバーだという事は初耳だったので、これには一登も流石に驚いた。

 

 

「――――そして俺はラフコフのメンバーを2人、自分で殺したんだ」

 

「……あの時酒場で言った事はやっぱりそういう意味だったんだ」

 

 

『でも俺は……確かにこの手で、人を、殺そうと、殺して……!』

 

酒場での告白を聞いた時点でシノンもキリトが殺人を犯した事があるのだという確信を持っていた。その確信は正しかったという事だ。

 

キリトの過去を知っていく間に、シノンは段々と彼に対する共感を抱き始めていた。手を血に染めた過去に苦しみ、この<GGO>で忘れかけていた己の罪とトラウマに真っ向から向き合わなければならない事態に陥っている。

 

――――キリトは私だ。私と同じ、罪からの逃亡者。

 

 

「俺は恐怖と怒りに任せて剣を振り続けた。根っこの所じゃ奴らと一緒さ……いや、ある意味ではもっと罪深いかもしれない。だって、だって俺は自分のした事を、無理矢理忘れようとして――――」

 

「――――辛い事を忘れようとするのは人として当たり前の事ですから、それは仕方が無いと思います」

 

 

キリトの独白が、もう1人の少年が声を割り込ませた事で唐突に途切れた。

 

洞窟の天井ではない、もっと遥か遠くの何かを見つめながら、一登が呟く。

 

 

「僕も、消し去りたいぐらい嫌な記憶は幾らでもありますから」

 

 

淡々とした言葉と口調、呟きの瞬間垣間見せた能面よりも感情が感じられない無表情から、一登もまた普段の振る舞いからは想像も出来ないような壮絶な体験を経験してきたのだと、シノンとキリトは本能的に悟った。

 

シノンは身体を起こし、一登の服の袖を掴んだ。彼の両の瞳を真っ向から覗き込み、リアルでは学校のアイドルとして誰からも愛されている少年の奥底に潜む本性を、少しでも読み取ろうと試みた。

 

発言の際、一登もまた彼の言う『消し去りたいぐらい嫌な記憶』を脳裏で蘇らせていたに決まっている。忘れたい、と口に出せば出すほど脳裏に強く刻まれ、より強く詳細に思い出してしまうものだから――――自身の経験談を頼りに、シノンは行動に移したのだ。

 

 

 

 

そして、シノンは。

 

少年の瞳の奥で微かに見え隠れする濃密な死の気配をほんの一瞬だけ目撃した……気がした。

 

 

 

 

「――――貴方はどれだけの死を見てきたというの?」

 

 

勝手にそんな質問がシノンの口から飛び出した。

 

少し考えてから、ほろ苦い笑みと共に一登は正直に答えた。何故か、誤魔化す気にはなれなかった。

 

 

「……分かりません。わざわざ数えてませんし、そもそも多過ぎて覚えてませんよ」

 

「そう、なんだ」

 

 

一登も同類なんだと、シノンは唐突に悟った。キリトも今の一登の言葉にシノンと似たようなものを感じ取ったのであろう。目を見開き、ジッと一登を見据えている。

 

そして、思う――――どのような形であれ、キリトも一登も人の生き死にまつわる経験の当事者であるという過去を明らかにしたのだから、2人も自分に倣って正直に曝け出さなくては不平等ではないか?

 

同時に、もし彼らにまで見捨てられたらと思うと……という考えも俄かに頭をもたげる。キリトの場合は仮想空間のみでの繋がりだから最悪シノンが<GGO>を引退してしまえば済むが、問題は一登の方だ。リアルでも同じ学校に通っている彼にまで拒絶されれば、それこそシノンの学生生活は地元で暮らしていた時以上の暗黒時代と化してもおかしくない……

 

 

「ねぇ、先輩」

 

 

敢えて、リアルでの関係を滲ませた呼称を使って一登に問う。

 

 

「あの日、先輩は『私が人殺しだったとしても関係無い』って言ってくれました」

 

 

実際は『朝田さんが悪い人かどうかは関係ない』だったけれど、これぐらいの誤魔化しは許されて欲しいと切に願いながら、続ける。

 

 

「その言葉、本当に信じて良いんですよね……?」

 

 

シノンではない、朝田詩乃としての縋る様な問いかけに。

 

公魚一登は一分の躊躇いも無く頷いてから、キリトには聞こえないよう少女の耳元に唇を近づけ、小声ながら確固たる決意を籠めてシノンの本当の名前を囁く。

 

 

「もちろんです。俺は朝田さんを信じています……裏切られない限りは、ですけどね」

 

 

後半の言葉が少し引っかかりはしたが、シノンが遠藤に苛められる様になったきっかけと同じく彼も友人と思っていた人物に裏切られた経験があったのかもしれない。

 

一登のジャケットの袖に触れる指先への力を強め、肩が触れ合うほどの近さに居る少年の存在を、改めて確かめる。本質的にはアミュスフィアが作り出す擬似的な電気信号に過ぎなくとも、指先と触れ合う肩から伝わる少年の身体の存在感に、シノンは確かな安心感と覚悟を決めるだけの気力を持つ事が出来た。

 

そうして少女は覚悟を決める。

 

自らの傷を曝け出す事を。

 

 

 

 

「私もね、人を、殺した事があるの――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そうして一登は朝田詩乃という少女の過去を知った。

 

一登はまず、右腕にすがり付いてくる後輩の少女が、一登がハイブリッドに所属した時分よりももっと幼い時に人を撃ち殺した事があるのまず驚き、次に憐憫の情に襲われた。

 

初めての殺人の記憶が5年経った今でも精神に深過ぎる傷跡を残している事は、告白し終えるまでの態度のみならず、一登と詩乃が初めて会った路地裏で目撃した彼女の発作からも明らかだ。銃を連想させるあらゆるキーワードや動作を目撃する度に再発するトラウマの苦しみなど、一登には想像もつかない。

 

また一緒に昼食を取った時に見せた、妙に人を突き放すような態度。恐らく事件直後、詩乃は人殺しの汚名を背負った事で周囲から迫害を受けていたのではないか。ならば彼女の放つ近寄りがたい雰囲気も納得が出来る。

 

 

「……これが、私の過去。強盗を撃ち殺した過去に5年間、私はずっと苦しんできた――――2人は、どう思った?」

 

 

今にも消え去ってしまいそうな切ない微笑を浮かべながら一登とキリトに問うてみる。

 

やはりと言うべきか、先に口を開いたのは一登の方だった。

 

 

「――――君は」

 

「……」

 

「何でその時、強盗の拳銃を奪って撃ち殺したんですか?」

 

「お、おい一兎……!」

 

 

キリトが抗議の声を挙げたが一登は無視。

 

『殺るに相応しい理由と必要性がある以上、何時かは必ず誰かがしなければならない事だった』――――一登の言葉がシノンの中で蘇る。

 

酒場で一登が説いたのは行動を起こすに足る理由の有無について。行動するに足る理由が存在するのであれば人殺しすら許容される、一登が説いたのは極端に言えばそういう事だった。

 

――――なら私が5年前のあの時、何であんな行動を起こしたのか。シノンは自問自答し、やがて1文字1文字の意味を噛み締めるように、自分の中で出した答えをゆっくりと露にした。

 

 

「……守らなきゃ、そう、思ったから」

 

 

強盗が現れたあの時、シノンは母親と一緒だった。父親を事故で亡くして以降心を病んでしまった母親。

 

 

「お母さんを守らなきゃ――――その考えだけで頭の中が一杯になって、気がついたら強盗の腕に噛み付いてて、その時に強盗が落とした銃を拾って……ただ私は夢中で……!」

 

 

大切な家族を必死に守りたかっただけなのに、その結果幼い少女の心に癒したくても決して癒えてくれない傷だけが刻まれてしまった。

 

 

 

 

――――彼女は僕と同じだ。唐突に一登は悟った。

 

 

 

 

公魚一登と朝田詩乃は、まるで鏡合わせの存在だった。

 

2人共、母親を守る為の力を欲して銃を握った。一登はハイブリッドの人々という支えが存在したが、詩乃には支えが存在しなかった。一登の心の傷はハイブリッドの仲間が癒してくれたが、詩乃の心の傷は誰も癒してくれなかった。一登の周囲は彼の意思を尊重し、時には厳しく接しつつも肯定してくれたが、詩乃の周囲には彼女を無視し、虐げる人々しか集まらなかった。

 

一登は幸運で、詩乃は不運だった。少しでも運命が変わっていれば、一登と詩乃の立場は逆になっていたかもしれない。もしかすると詩乃も一登と同じく、ハイブリッドの殺し屋に仲間入りしていた可能性も考えられる。

 

もし詩乃も白猫さんに拾われてハイブリッドに加わっていたら……一瞬浮かんだ妄想を、一登は苦笑と共にすぐに掻き消した。血生臭過ぎる裏社会は詩乃のような繊細な少女には決して似合わない。

 

 

「僕は、シノンを尊敬します」

 

「え…………」

 

「家族を守る為に自分の手を血で汚せる人は、今時滅多に居ませんよ。つまりそれだけシノンはお母さんの事を大事に思ってるって証でもあるんじゃないですか?……少なくとも、僕からしてみたらシノンの行いは決して間違ってません。どんな事をしてでも家族を守りたいって気持ちは、僕も痛い位分かりますから」

 

 

まるで子猫が12.7mm弾でも食らったかのような驚愕の表情が少女の顔一杯に広がった。

 

人を殺した事を真っ向から肯定されたのは、少女にとって初めての事だった。

 

何と言い返せば良いのか分からなくなって、シノンは半ば勢いで一登の肩口に顔を埋める事で誤魔化す。そこへシノンとは反対側に腰を下ろしているキリトが口を挟む。

 

 

「俺も一兎に聞きたい事があるんだけど、良いかな」

 

「僕が答えられる範囲で良いなら構いませんよ」

 

「――――何で一兎は、そうも人を殺す事を肯定できるんだ?」

 

 

キリトの質問はシノンにとっても気になる内容だ。リアルや仮想空間を問わない好青年ぶりに隠された一登の真の素顔、その一端に触れるであろう質問。

 

 

「詳しくは言えませんけど……」

 

 

そう前置きしてから、一登は断固とした口調で言い切る。

 

 

「世の中には死んだ方が世間の為になる人間が間違いなく存在しているんです。ただ自分の楽しみの為だけに関係の無い人を苦しめ、命を奪う――――そんな人間は殺された方が良い。僕はそう信じているだけなんです」

 

 

一旦言葉を区切って、僅かな時間一登は思案に耽る。

 

仮想空間で撃った人物の命を現実に奪い去る謎の存在――――死銃。犠牲者は寝食の時間すらゲームに費やすヘビーゲーマーだったとはいえ、彼ら自身は決して命を奪われても良いような悪人ではなかった。

 

ゲームの世界で自己顕示する為だけに、わざわざカタギの人間を殺してまわる様な人物は、ハイブリッドの流儀としても一登個人の正義感としても決して見過ごす訳にはいかない。

 

 

「キリトの目的は死銃なんですよね」

 

「ああ、そうだ。このまま放っておいて、またあの拳銃の犠牲者を出させる訳にはいかないからな。そもそも死銃の目的も俺なわけなんだし……」

 

「だったら僕もキリトに付き合いますよ」

 

「……危険だぞ?もう優勝争いなんて二の次になるし、そもそも優勝どころか命の危険だってあるんだ」

 

「元々この大会には腕試しの為に参加したんですから、優勝出来なかったとしても僕は気にしませんよ。今は優勝なんかよりも死銃を止めるのが先決です。それに――――」

 

「それに?」

 

「死銃はやり過ぎました。カタギの人間の命を奪った上に……何よりシノンとキリトまで狙ったのが俺には許せない」

 

 

固い決意と、ゾッとするほど冷たい怒りが同居した顔で一登は断言する。

 

 

「――――タダじゃおきません。2人を狙った事を後悔させてやります」

 

 

 

 

 

 

「……なら私も、一兎とキリトと一緒に死銃と戦う」

 

「シノンまで……一兎にも言ったけど本当に危険なんだぞ。あの黒い拳銃の力なんかなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けているんだ」

 

「デスゲームの中で殺人ギルドの幹部をしていながら最後まで生き残ったのは伊達じゃない、って事ですね」

 

「その通りだ。ラフコフの幹部連中はどいつも凄腕揃いだった……そんな印象に残るぐらい強い奴らと殺し合っておきながら、その癖名前は忘れてるってのも変な話だけど」

 

 

真剣な表情で頷いてから、おもむろに苦い笑みを浮かべてキリトは自嘲した。

 

 

「ともかくさっき逃げ切れたのも大半は一兎のお陰だ。死銃だって今度からは一兎の事も念頭に入れて対策を取ってくると思う――――またさっきみたいにあの銃で狙われるかもしれない」

 

「それでも、もう、私は逃げない」

 

 

シノンは薄く笑う。自分と同等以上の強敵を前にして、それでも譲れないものの為に戦う事を選んだ猫科の肉食獣の笑み。

 

 

「こんな穴倉に隠れて怯えながら生きるよりも、私は銃口に向かって死にたい」

 

「シノン……そんな、死ぬ前提で戦いに出ちゃダメですよ」

 

 

思わず、といった体で一登もまた失笑を漏らしつつ、シノンに押さえられていない方の手を持ち上げて彼女の頭に置いた。可愛らしい我儘を言う幼い子供を諭すかのように、自然な動作で青い髪の少女の頭をポンポンと叩く。

 

シノンは一登の突然のボディタッチに一瞬キョトンとし、それから抗議するべきか否か少しの間迷ったものの、不快感は覚えなかったのでそのまま払い除けず、しばしの間一登に頭を撫でられ続けた。

 

 

「一兎の言う通りだ。俺達は奴を止める為に、勝って生き残る為に死銃と戦うんだ」

 

「なら、さ」

 

 

頭に乗せられっぱなしの一登の手をようやく掴み止めたシノンは、髪の色よりも深く透き通る青色の瞳の中に2人の少年の姿を捉える。

 

 

「私がもう1度、死銃にあの銃で撃たれそうになったら……また助けてくれる?」

 

 

まるで物語に出てくるか弱いヒロインみたいね、と自分に対する自嘲と嫌悪感を抱きそうになる。

 

けれど、聞かずにはいられなかった。

 

少女はずっと誰からも助けてもらえなかったが、これまで出会ってきた人々とは全く違う、人の生と死を目の当たりにしてきた彼らならば、或いは今度こそ――――

 

 

 

 

もちろん、と少年達の声が重なった。

 

シノンの視界が突然歪んで、彼女の頬を熱い滴がまた滴り落ちる。

 

だけど今度の涙は、決して悲しみの涙ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、死銃の対策会議を始めるとしようか」

 

 

再び溢れ出たシノンの涙が止まったのを見計らってキリトが言った。すかさず一登も加わりキリトの後に言葉を続ける。

 

 

「まずは死銃の装備や戦い方を確認しましょう。死銃のメインアームはサイレンサー装着型のL115A3スナイパーライフル。ボルトアクション式で装弾数はマガジンに5発、薬室に1発。通常弾以外に命中すると相手を麻痺させるスタン弾も使用。サイドアームは54式拳銃。武器以外の装備としては透明になって姿を消せるめ……めた……」

 

「メタマテリアル光歪曲迷彩よ」

 

「……透明マントを着用。それ以外に手榴弾や防弾ベストの類を装備しているかは不明。ここまでが判明している事です。ここまでで、2人は何か気づいた事や疑問点はありますか?」

 

 

一登が両横の2人に意見を問う。するとシノンが口元に手を当てて考え込む仕草をしながら呟き始めた。

 

 

「そうね、基本的にスナイパーライフルは私のヘカートみたいに要求筋力値が高い傾向にあるし、照準精度を上げる以外にもボルトアクション式となるとセミオートと違って1発1発を手動で装填しなきゃならないから、リロード速度を上げる為に器用さを上げる必要もある。

 狙撃は発砲したら即その場から離れるのが鉄則だから素早さもそれなりに上げている筈……その分耐久値の強化は切り捨ててるだろうから、質の良い防具を装備していない限り死銃の弱点は紙装甲って事になると思う」

 

 

すると反対側に座るキリトが反対意見を出した。

 

 

「いや、SAOではHPが0になれば即座に死ぬ仕様だったから、どのプレイヤーも防御や耐久にある程度強化を割いていたんだ。SAOサバイバーである死銃がSAO時代と同じ傾向のビルドで強化していったとしたら、防御もそれなりに固めている可能性は高いな」

 

 

同じSAOサバイバーであるキリトの意見なだけに、今の内容は非常に信憑性が高いように一登とシノンには感じられた。

 

 

「機関銃やグレネードで面制圧をしてこない分、遠距離からの狙撃と透明になった状態での奇襲が怖いですね……」

 

「そうね。でも変な話よね、死銃って姿を消せる装備を持ってるくせに目立ちたがりとか、ちぐはぐだと思わない?ペイルライダーの時だけじゃない。私の時だってそう、わざわざ姿を現して、中継カメラの前で大げさなアピールまでして……」

 

「そりゃあ、自分の存在をこの不特定多数にアピールするのが死銃の目的なんだろうからなぁ。自分にはゲームの中から本当に人を殺す力があるんだって事を、とにかく大勢のプレイヤーに知らせてやりたいんだと思う」

 

 

何とも傍迷惑な話だ。3人の少年少女の顔が一斉に苦々しく歪む。

 

 

「他にも気になるのが犠牲者の死因なんだ。俺にこの世界に来るよう依頼した人間の話によれば、<ゼクシード>や<たらこ>の死因は心不全らしい」

 

 

それは白猫からの資料で一登も知っている。ウィルス入りの悪戯メールが原因のショック死が当初は疑われたが、死体発見当時は時間の経過による腐敗が激しかったせいで詳しい検死が不可能だったという。

 

 

「ゼクシードやたらこってプレイヤーが過去に持病を患ってたりは――――」

 

「いや、2人とも運動不足ではあったらしいけど持病は持ってなかったらしい」

 

「うーん……」

 

 

首を捻り、腕組みをして唸り声を漏らす。

 

高血圧や心臓の持病を持っていたとしたら、スタジアム前でのシノンの時のように何らかの理由で<GGO>内で極度の興奮に陥り、結果現実の肉体に発作を招いてしまった可能性も残されていたのだが……

 

そこでふと一登はある事に気付いた。持病といえば、突然の発作を抑えるのに不可欠なのが薬だ。

 

 

 

 

薬――――毒薬の投与。

 

 

 

 

だが一体どうやって?仮にゲーム内での銃撃に合わせて現実の肉体に毒薬を投与するとしたら、一登ならどうする?

 

これまで一登が行ってきた殺しの仕事を振り返ってみる。

 

ハイブリッドでの仕事は基本組織ぐるみ。つまり1つ1つの仕事を取っても一登のような実行担当の殺し屋のみならず、標的の情報収集や仕事内容に応じた武器の準備を受け持つ複数の支援要員が動員される。地味な裏方仕事を担当してくれる彼らが居てくれるからこそ、一登達殺し屋は万全の状態で殺しに挑めるのだ。

 

実際、一登よりも遥かに凄腕の殺し屋である塵八や毒島も、現地での支援が不十分な海外での仕事を受け持った時に色々と苦労した経験があるという。また敵の数が多い時は単純に塵八や毒島の助力を頼む場合もある。

 

つまり一登が言いたいのは、人を殺すという行為を個人で達成するのは、一般的なイメージよりも格段に難しいという事だ。

 

通り魔的犯行ならまだしも、証拠も残さず計画的に殺人を達成したければまず相手の行動パターンを把握しなければならない。個人でこなそうと思えば、それだけでもかなりの労力と時間がかかるものだ。

 

 

「…………」

 

 

犠牲者は自宅でアミュスフィアを装着して<GGO>へダイブ中に殺された。犯行現場は被害者の自宅でほぼ間違いない。

 

犠牲者が出た同時刻、死銃は多数のプレイヤーの前に姿を晒している。つまり死銃というアバターを操っていた人物もダイブ中だったという事になる。

 

ゲーム内での目撃証言がそっくりそのままプレイヤーの現実でのアリバイと化すのがVRMMOゲームの特徴だ。犠牲者の死亡予想時刻に死銃が<GGO>内で目撃されている以上、最早オカルトじみた遠隔殺人能力でも発動させたのでもない限り、死銃を操作していたプレイヤーが犠牲者を手にかけるのは不可能――――

 

 

「(なら逆に考えてみたらどうなんだろう?)」

 

 

 

 

――――死銃を演じるプレイヤーが<GGO>内から生身の被害者を殺したのではなく、全く別の人間が現実で被害者を殺していたのだとしたら?

 

 

 

 

単純な話だった。

 

単独での実行が不可能なプランも、犯人が複数ならば実行は可能だ。

 

 

「…………もしかして、かもしれませんけど」

 

 

酷く強張った顔で、一登は自らが導き出した推測をシノンとキリトに打ち明ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「<GGO>で偽の犯行を見せつける役と現実で実際に標的を殺す役――――つまり死銃は2人、いいえ、複数犯なんじゃありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 




駄目だ話が進まな過ぎて15話じゃ終わらねぇ見通し甘すぎた!(汗)
無理矢理な推理で申し訳ない……

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