ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
「セン君、今回は君に大事な話がある」
「はい……」
もう何度目だろうか。僕は榊博士に支部長室に呼び出されていた。
螺旋の樹監査長の役職を受けた後、螺旋の樹調査メンバーを募集した所、ゴッドイーター達が殺到した。どう考えても海水浴のせいだけれど。
で、螺旋の樹調査もちゃんとした任務であるから最低四人まで。僕がいる段階で残るは三人。そして調査に少なくともラケル博士か榊博士の同行が必要なため残るは二人。
つまりは狭き門である。
「話は聞いているよ。調査の同行を求める声が殺到しているとね」
「えぇ、まぁ。……監査長になってからが凄いです」
気のせいか知らないけど、やたらと僕を誘ってくるゴッドイーターが増えた。
例えば食事に誘ってくれたりとか、差し入れを贈ってくれたりとか、僕の開発したアイテムの報告書を頻繁に出してくれたりとか。
男性だったら、まぁ何というか処理関係での本とかそういった人を扱っているお店の紹介。女性だったら……言うまでも無いかもしれないけど、色仕掛け。
僕と交友関係の深い人達は違うけれど、転属されたばかりのゴッドイーターにそう言った傾向がみられるのは確かだ。
後は外部からの査察が増えたり、極東支部への配属を希望する人達が増加してたり。後は士官学校から見学授業をお願いされたりと言う事もある。
……僕が監査長になったばかりなのに、この仕事量は一種の苛めではないだろうか。
まぁ、それはさておき。
「ご存じの通り、螺旋の樹はまだまだ不明な点が多い。しかも螺旋の樹はそれぞれの階層が異なる変化を持つため、規則性が無い。今はまだアラガミの確認はされてないが、もしアラガミに類する存在でも入れば――あそこは地獄となるだろうね」
「はい、それにゴッドイーターとしての身体能力も無いですから。あそこでは生殺与奪が平等に行われます」
「フム、その通り。しかし近頃のゴッドイーターは力押しによる任務の遂行が多いのが確かだ。地形利用及び地形把握が軽視されている傾向にあると、私は考えている」
「そこは僕も同感です。さすがに乱戦を経験したゴッドイーターは話が別みたいですけど」
「……だが、ここは一気に改革を起こすべきだ。ロケーションはアラガミの捕喰によりどんどん変化しつつある。
ましてや螺旋の樹は不規則な構造になっている。十分な地形把握と現状分析、それらを兼ね備えていなければ、いざと言う時の戦闘どころか、調査の役にも立たないだろう」
瞬間、榊博士の眼光が鋭く煌めく。
また嫌な予感がするぞ、コレは。
「セン君、フライアの許可は取りつけておいたから、ゴッドイーター達の地形把握のための訓練を設計してほしい!」
「……へ?」
「大丈夫、資金に関しては君のおかげで潤う程あるし、いざと言う時はグレム局長殿が資金提供してくれる。お金の面では心配いらないよ、君のやりたいようにやればいい」
「……え、いや、あの……。つまりフライアの膨大な空間を使って、アスレチックみたいなのを作れって事ですか? その、僕訓練内容とか考えるの苦手なんですけど……」
「ご名答! 大丈夫、訓練を重視する人物にはアテがあるから。それにこれは噂で聞いたけど、新型の神機兵開発してるんだって?」
「えっ!?」
「この間、リッカ君と親しげに話してる光景を見かけたよ。その時に少し、ね」
榊博士の言う通り、僕は新型の神機兵を独自に開発している。と言うのも、神機兵を作る時に得た妙な楽しさを頭が覚えてしまっているからだ。
が、こちらは完全に僕の独自プロジェクトになってしまうから僕一人で進める必要がある。で、その時にどこからか話を聞きつけたリッカさんが参加を表明。
ちなみに今回の神機兵のコンセプトは『戦闘用』ではなく『監視用』だ。
「その新型神機兵、何でも殺傷能力は無いそうだね」
「えっと、まぁ。アラガミと戦うのが目的じゃないですからね。違法侵入した民間人を保護するのが目的ですから。一応、それなりの戦闘能力はあります」
「……それは面白い。どうだい、今回試験的に導入してみると言うのは?」
榊博士の言葉に、思わず喉が詰まる。
ごくりと唾を飲み込んだ。
――今、僕の頭の中には悪戯小僧のような計画が浮かびつつある。
「……分かりました。その話、受けてみます」
「うむ、出来次第声を掛けてくれ。ゴッドイーター達のスケジュールを合わせるよ」
そうして、僕は退出する。
今、僕は非常にいい顔をしているだろう。ジュリウス曰く『企み事』を考えている時の顔だそうだ。
さて……どんな仕掛けを作ろうかな。
「……いやぁ、怖いね。私は彼が一番怖い。表情豊かに見えて中々のポーカーフェイス、中立性を保ち、決して主導権を譲らせないコミュニケーション。そして顔にそぐわぬ奇天烈な発想且つ大胆な行動力。――彼を味方に引き込んでおいて、大正解だった。
――ラケル博士、貴方が彼の傍にいて良かったよ。もしヨハンやオオグルマの下に入れたら……アーク計画を止める事は出来なかっただろうね」
と言う訳で。
あれから凡そ一ヶ月ほど時間を掛けて、アスレチックが完成した。
その名は『センの古城』。……うん、とあるゲームのダンジョン名と僕の名前を掛けただけなんだ。ぶっちゃけ、何でこんな名前にしたんだろう。
ちなみに内装はまんま、古代の城である。オラクル細胞を使用して完成した。万能度半端じゃないね。
で、そんな中身だけれどそれはゴッドイーターの反応を見る事で楽し……徐々に分かって行くだろう。
ちなみにゴッドイーターは決して死なないように調整されてある。つまり一般人が仕掛けに掛かったら死ぬと言う訳だ。ゴッドイーター専用の訓練だしね。これくらいしなきゃ。
で、フライアに召集を掛けてみた所かなりの数のゴッドイーターが集まった。と言うか、非番まで駆り出したから、それはかなりの数が来るとは思っていたけれどここまで集まるとは思わなかった。
……やばい、本当に楽しくなって来た。
「セン、何でも地形訓練と聞いていたが。フライアでか?」
「うん、螺旋の樹の方が広さ的には良かったんだろうけど、やっぱり訓練ならここかなって。
……っと、本題に入るね」
と言う事でルール説明。
まず三人一組に分かれて、一チームずつセンの古城に入ってもらう。そこから城の最深部――まぁ、そこまで行けば、フライアの職員が待機してるからそこまで三人で一緒に到達してもらう。
それと城のあちこちに宝箱を用意したから、その中にあるAチケットを回収してくる事も目的になる。
で、最深部までの到達時間と回収してきたAチケットの枚数に応じて、成績が決まり、一番高かったチームにはAチケットプラチナを三枚ずつ……まぁ、合わせて九枚配給する。
訓練だけど、やっぱり報酬とか成績とかあるといいよね。
「……訓練と言うからには制約があるのだろう」
「うん、勿論」
まずゴッドイーターの身体能力に物を言わせた踏破は禁止。例えばジャンプで崖を飛び越えるとかはダメ。後は地形を無理やり破壊するとかも含まれるね。
そして必ず三人一緒に到達する事。見捨てるとか、論外。訓練にダミーアラガミは一切いないから、神機は必要ない。
一応新型の神機兵を一部配置しているけれど、殺傷能力は無いし、一定の範囲か一定時間逃げ切れば、自動的に待機状態になるから心配はいらない。
そして城内の様子は全てカメラでモニタリングしてるから、何か反則行為とかあったら訓練はすぐに中止。
後は、心が折れた場合チームリーダーがリタイアの旨を口にすれば、その場で訓練中止になる。
「と、何か質問ある? 無かったら、皆でチーム決めてから始めるよ」
「あの……この訓練施設って、テストはされてるんですよね」
「うん、僕が一通り回ったし、一応一人でも突破は出来るよ」
その様子に何名かが胸を撫で下ろす。
しかし、皆一つ忘れてはいないだろうか。
――僕が設計したのだから、僕が突破できるのは当然だと言う事に。
ちなみに一応偉い関係者に評価を聞いてみた所。
『……鬼ね。でも、こんな密室空間で男性三人が各々の魅力に気づき合い、互いの想いを深めていくのも――』
鬼と言う評価を下したラケル博士。
『……セン博士、貴方限度って分かってるかしら。ちゃんと他の人の事も考えて――』
まるで母親のように説教したレア博士。
『いいじゃないか! そうだ、セン君。今度初恋ジュースの改良を加えた、失恋カレーと言う物を……!』
子供のように目を輝かせ、何故か僕に商品開発を持ち出してきた榊博士。
『ふむ、悪趣味だな。だが見る分には面白くなりそうだ』
ある意味、一番常識的な回答をしたグレム局長。
ちなみにヒバリさんやフランさんは溜息。リッカさんは子供のように目を輝かせ、クジョウ博士は髪が少なくなってた。
「よし、それじゃあ行ってみようか」
じゃあじっくりと見ていこう。
1チーム目
コウタ、エリナ、エミール
「うわ、スゴ……。雰囲気出てる」
「実地訓練より本格的だぜ、コレ」
そう言って、コウタさんが歩き出した時カチと音が鳴った。
「? 隊長、今何か踏まなかった?」
「へ、いや何も……って、うぉっ!」
途端、コウタさんの眼前を一本の矢が過ぎ去る。それを追うように二本目、三本目の矢が通り過ぎていった。
「なるほど、床のでっぱりを踏むと矢が飛来すると言う仕掛けだな」
「……ちょ、ちょっと待って! まさか訓練一発目がコレ!?」
どこか慌てた様子のエリナちゃん。まぁ、そうだよね。
床をよく見れば分かるが、色が違うのと少し出っ張っているパネルがあり、そこを踏むと矢が飛んでくる仕掛けになっている。
ゴッドイーターの体だと弾かれるけど、まぁ、痛みはあるだろう。ちなみに僕は胸に三本とも刺さりました。
「ふむ面白い! 騎士ならこの程度の難所など容易く踏み越えてやろう!」
「止まれ、エミール!」
雄叫びを上げつつ突っ走っているエミール。
何、大丈夫。
――どうせ次のエリアで足を止めるからね。
「……おい、エミール。どうし……マジかよ」
一本の細い通路で、人が二人横に並んで何とか通れるくらいの細い通路―と言うよりも橋に近いけど―と、その道中に振り子のように揺れるギロチン。
無論、触れれば奈落までぶっとばされる。ちなみにギロチンとは言ってるけど、切断力は無い。僕だって壁までぶっとばされたから大丈夫。
「……おい、エミール」
「何かね、隊長」
「お前、さっきこの程度の難所、乗り越えるとか言ってたよな」
「……よかろう、騎士に二言は無い。このエミール・フォン・シュトラスブルク! とうに火中へ身を捧げた。ならば刃如き恐れるに足らず――ぶべらッ!」
エミールがギロチンにぶっとばされ、三回転しながら壁に激突し奈落の底に落ちていった。
「っ、おい! 本当に大丈夫なのかアレ!」
『うん、大丈夫。ちゃんと梯子用意してるから』
さすがに時折僕が音声でアナウンスしないと、訓練にならない。実地訓練じゃないからね。
心を折らせるのが目的じゃないし。
「セン……。あのさ、これって誰から監修受けた?」
『うん。まだ直接あった事は無いけど確か……ツバキって人かな』
「……嘘、だろ」
何度か電話越しに話してみたけれど、凄く良い人だった。何でも今は欧州にオペレーター及びサポートメンバーとして、あるゴッドイーター二名と共に遠征中らしい。
その名前を出した途端、コウタさんが震えだした。……あー、そういう事か。
『まぁ、頑張って。観察力が大事だからね』
と、意外にもギロチン地帯をスムーズに突破して、見事宝箱をうまい具合に回収。何度か転がって来る大岩から逃げてたけど、そこも何とか突破していた。
――さて、ここから僕が一番楽しみにしていた場面。
「むっ、宝箱だ!」
「これでAチケットもあらかた回収したなー」
「で、どうするの隊長。このまま上を目指すか、まだ探索するか」
「ぬおっ!」
「このまま上に行こう。最深部って言ってたけど、まずこの城の全体図を把握しなきゃいけない。それに、下の方はエミールが言うには何も無かったそうだし」
「でも、一通り探索する方がいいんじゃない。私達、一番初めだからこういったところで成績稼いでおかないと」
「――! ――!」
「うーん……。エミール、お前はどう思う? ……エミール?」
「ちょっと、返事位しなさ……い、よ……」
そういってエミールを見るために振り返る二人。
さて、ここで唐突だけれど皆が想像する宝箱の罠と言えば、ミミックだと思う。ミミックと言えば、宝箱から口を出すコミカルなイメージが有名だろう。
――だから、そのイメージをここでぶち壊す。
エミールはミミックに現在モグモグされている最中である。大丈夫、甘噛みだから。
このミミックこそが、新型神機兵であり不法侵入した民間人の保護を行う役目を担う。今回はその試験と言う訳だ。
不法侵入の再発防止のために、インパクトを強くしておかなくてはならない。
そのためのイメージがコレだ。
ぺっ、とエミールを吐き出したミミックが大きく立ち上がった。
体内に収納されていた長い四肢と胴体を曝け出す。――八頭身と、本来の神機兵と変わらない高さ。だけれど、その手足は極端に細く長い。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
一目散に逃げ出す三人。
――途端、ミミックが大きく体を曲げて、足技――ソバットを繰り出した。
「嘘だろっ!?」
一応アラガミとの戦闘用に格闘技は入れておいた。
ちなみにミミックのデザイン自体は前の世界の記憶から完全コピーである。しかし、このデザイン考えた人本当に凄いな。
初見のインパクトが半端ない。
で、その後エリナちゃんが半泣きになりながらも、みんな揃って無事に最深部に到達。ちゃんと宝箱も全部集めてきてるから、凄い。
さすが、極東支部。
2チーム目
アリサ、ハルオミ、カノン
このチームは何と言うか安定してた。アリサさんが冷静に分析しつつ、ハルオミさんがさらりとやり遂げ、そしてカノンさんをエスコート。
チームワーク……と言うよりも、個人の技量が高すぎるチームだね、コレ。でも連携はかなりいいと思う。
大岩もアリサさんが階段の窪みから気づいていたし、ハルオミさんはスナイパーを務めるだけあって、視力がかなり良く暗闇でも冷静に周りを見ていた。
――が、問題のミミック。ここにハルオミさんが気づいたのだ。
「待て、何かコイツおかしくないか?」
「えっと、何がですか?」
「いや、何と言うか……微妙に箱が……。あー、そういう事ね」
……やられた。ハルオミさんには完全に見抜かれてる。ミミックは宝箱に擬態した際に、僅かに、箱が上下に揺れるのだ。それも本当に注意しなければ分からない程に。
この人、洞察力が異常だ。いつも飄々としているが、やっぱりかなりの場数を踏んでる。
「? ハルさん?」
「いやー、セン君も男の子って事さ。ま、見てなよ」
……完全に僕のせいにしやがった。いや、僕のせいなんだけれども。
どうやらハルオミさんも反応が見たいらしい。いいぞ、もっとやれ。
そこらにあった手頃な石を拾って、箱に当てる。――マズい、触れた瞬間に反応するから、あの衝撃でも起動する……!
で、八頭身になったミミックを見た時の反応。
「っと、危ない危ない。にしてもデカいってのはいい事だね。だが、細すぎるのは何ともなー。50点!」
「ドン引きです、ドン引きです、ドン引きですッ!」
「わ、私もあれくらいのインパクトがあれば……!」
ハルオミさんはミミックの体術を軽々と躱しながら点数付け。アリサさんは半泣きになりながら、喚いて逃走。
カノンちゃんは、今のままでインパクトがあるからそれでいいと思う。
このチーム、アリサさんが取り乱した事で少々のタイムロスがあったけれど、1チーム目よりもかなり早いタイムでゴールした。しかも宝箱全回収。
やっぱり極東育ちはおかしい。
3チーム目
ジュリウス、ロミオ、ナナ
ある意味活躍してほしいブラッドの一チーム目。ナナちゃんは天真爛漫な様子で古城を楽しんでいるし、ジュリウスはジュリウスで罠を「なるほど」と頷きながら、回避している。ロミオの反応が一番普通だと思う。
「確かに、センの考えそうなトラップだな。アイツの性格がよく出ている」
「どんなところに?」
「最初の矢だが、あれは気を引き締めさせるための物だろう。出鼻を挫けさせるための些細な遊び心だろうな」
「なるほどー。他には?」
おいやめろ。こっちが恥ずかしくなって来る。と言うか、ジュリウス明らかに僕が聞いている事を分かってて言ってるよね?
後、隣のラケル博士が目を輝かせ始めているから勘弁して。
――え、何で男三人の一チームにしなかったのかって?
「後はあのギロチンだが、よく見るとアイツなりの思いやりが出ている」
「マジで? 行く手阻んでやろうと言う風にしか見えないけど……」
「きちんとタイミングを合わせれば、充分突破できる。そして全てのタイミングを一定にしてある上に、連続してある個所には安全地帯がしっかり用意されている」
――だって、男三人だったら……アレ、意外に悪くないかも……。
――あぁ、違うんですってば。僕にそういう趣味は無いです!
「大岩も同じだ。それに階段の窪みがしっかり用意されている。注意深く地形を観察し、理由を考えれば、誰にでも攻略が出来る」
「……ジュリウス、よく見てるなー」
「そして、そこの宝箱だが、恐らくそれが噂の神機兵とやらだろう。見てみろ、箱が微かに上下に動いている」
「ん……おぉー! マジだ!」
――だから、さっきのは古城を突破するには相性がいいって意味で……!
――手を放してください! 僕に男色趣味なんて無いですって! と言うか、力強いですね博士……!
「えっと……つまり、ジュリウス。一言で言うと?」
「根は優しいが、それを隠そうと企み事をする。つまりは性格が悪い」
「なるほどなー」
で、無事ラケル博士の追及を逃れる事には、既に四チーム目が入ろうとしていた。
ちなみに3チーム目はぶっちぎりとまでは行かないが、充分トップクラスな記録を叩きだしていた。
4チーム目
ネル、シエル、ギルバート
いや、もうね何というか。このチームが連携一番うまい。
シエルちゃんがタイミングを計りつつ、ギルが周囲を確認。そしてネルちゃんが突っ込んで、安全確保。
タイム凄く早いし、やっぱりベテラン勢は違う。
宝箱も次々と回収し、大岩もシエルちゃんがタイミングを完全暗記し、突破。
マジで何だ、このチームワーク。
で、問題のミミックまで到達した。
「……?」
「どうかしましたか、隊長?」
「え、いや、その……。何て言うか、体が構えていると言うか、何と言うか」
「つまり近くに敵がいるって事か?」
「えっと……まぁ、そんな感じかな。敵がいないって分かってるんだけどね」
ネルちゃん、完全にミミックを察してる。
さすが極東支部が誇るゴッドイーター。直感が極めて高い。
……さすがに神機兵、壊したりしないよね。
「もしかしたら、何らかのミスでダミーアラガミでも出てるかもしれないぜ」
「大丈夫。センさんがいるから」
「……そうですね、隊長もそう仰るのですから、私も信じます」
「……だな、疑って悪かったよ、セン」
……罪悪感ヤバい。
と言うより、ネルちゃん僕を信頼過ぎだと思う。いや、素直に嬉しいけれど。
僕の事を微塵も疑っていない。……何て言うか複雑な気持ちだ。
どうもあの螺旋の樹以降、ネルちゃんからのスキンシップが多くなってきた気がするし。……まぁ、何度でも言おう。素直に嬉しいけど。
「っ!」
ネルちゃんが宝箱に触れた瞬間、背後へ飛び退く。
回避した……?
そして、立ち上がったミミックを見て一言。
「そっか、コレ閉所での戦闘訓練も兼ねてるんだね」
「いや、どう考えても逃……」
「つまりはこういう事ですね、隊長」
「うん……! 殴り倒すっ!」
と、ネルちゃんがミミックへ右ストレートをぶちかました。
壁にめり込んで、機能停止するミミック。
……神機兵、壊さないでほしかったんだけどな……。
けれど、僕の言ったルールではジャンプとかは禁止であって、撃退は禁止とは言っていない。皆、逃げるだろうと考えてたし。そこは完全に僕の落ち度だ。
耐久性とか考え直さないといけないなぁ……。
「……なぁ、隊長」
「どうかした?」
「どうにも間違っ……いや、何でもねぇ。行こうぜ」
ギル、君が一番常識人だ。……ネルちゃん、どんどん戦闘能力増加してるなぁ。
――で、4チーム目の結果もかなりのトップクラス。
が、神機兵ことミミックは完全に損傷しており、修復が必要なためミミックは出せなくなってしまい、洗礼を受けたのは極東組だけ。
……もう少し、反応見たかったんだけどなぁ。
まぁ、矢やギロチン、大岩だけでもかなりのインパクトがあったみたいでリタイア者も続出してくれたから良かった。
ちなみに肝心の優勝だが、2チーム目ことアリサさんとハルオミさん、カノンちゃんがかっさらっていった。
あの後、僕が三日間、アリサさんやエリナさんに口を利いて貰えなかったのは余談である。
そんなこんなから一週間。僕は榊博士に呼び出されていて、ゴッドイーターの戦闘傾向についての結果報告を聞いていた。
「……うん、ゴッドイーター達の作戦行動が全体的に慎重になってきてる。望み通りの傾向だ」
「と言う事は……」
「結果的には成功だ。お疲れ様、セン君」
「……少し休みが欲しいですね」
あの後は大変だった。
やけになって、リベンジを挑んで来る人もいればソロで行く事を望んだりとか、色んな人が殺到して、処理に追われてしまった。
「ははっ、極東に休みがあると思っているのかい?」
「……ですよねー」
「でだ、セン君。今回の件を踏まえ、本部から君へ、役職が追加された」
「へ……?」
「フェンリル極東支部直属、特殊訓練長。――異例の昇進ラッシュだね、セン君」
「……えっと」
つまりいまの僕の肩書きは。
フェンリル極東支部直属、開発研究部副長。
フェンリル極東支部直属、特殊任務オペレーター。
フェンリル極東支部直属、螺旋の樹監査長。
フェンリル極東支部直属、特殊訓練長。
「……四つ、ですか」
「近い内に、君を研究開発責任長にしようと言う声も挙がっている。もしかすると君に支部長の座を譲るのもそう遠くないかもしれないね」
「……もうやめてください」
今のまま支部長とかになったら過労死する自身がある。
と言うか、僕の肩書き多すぎやしませんかね。
監査長はともかく、特殊訓練とか僕には到底向いていない。……いや、だってね。
「……辞退って出来ますか?」
「その場合は、他の役職名が送られてくるだろうね」
「……そうですか」
ヤバイ、ストレスがマッハだ。
誰か助けてくれ。
「そうだ、セン君。君に依頼が届いている」
「依頼……?」
「フェンリル士官学校だからだよ。元卒業生として、講演会をしてほしいとの事だ」
「元、卒業生……ね」
何とも都合のいい話だ。
一度は記録を抹消しておいて、名が売れれば元卒業生として扱う。散々、人を無能扱いしておいて。
「護衛として、ブラッド隊の隊長及び副隊長。そしてラケル博士。以上の三人が同行を認められている」
「……罠と言う訳でも無さそうですね」
「どうする? 受けるか受けないかは君の自由だ」
「――受けます。断ったら、ここ全体の面子に関わりますし」
「……すまないね」
「いいですよ。その分、色々な物を貰ってますから」
さて、今度は士官学校か。
短編はまだまだ続きます。
次の更新は少し遅れそうです。
後、もしかすると他所の原作とのクロスが入るかもしれません。いつかのACの時みたいに。
一応書きたいなと思っている内容としては以下の通り。書くかどうかは私の気分次第になりそうです。
「艦隊これくしょん」
センが提督として艦隊指揮に参加。ハーレムになりそう。
「テイルズオブエクシリア」
槍使いとしてセンが参加。ダイジェスト形式。
「インフィニット・ストラトス」
整備+操縦関係。こちらもダイジェストかなぁ。
「ブラックラグーン」
台詞回しがキツいですが、一回やってみたいです。予定としてはラグーン商会傾向で。
「空の境界」
伽藍の堂務めで書いてみたい。