転生したのに最強じゃないってどう言うことだってばよ! 作:オルクス001
静まり返った廊下に、扉を叩く軽い音が響く。
扉の向こう側から部屋に入るように促され、俺は足を踏み入れた。
「あら、ロイド。どうしたの?」
「やあ、エリィ。こんな時間にごめん」
既に荷解きは終えており、ランディやリンドウと同じくここに残るようだ。
「貴方は悩んでいるみたいね。無理もないわ。正直言って、この部署、無理があるもの」
確かにこの部署は、警察内の様々なしがらみや打算によって作られたもので、具体的な目的も無い。もしこれで何の成果も得られなかった場合、間違いなく支援課は消えるだろう。
「そう言えば、エリィはどうして警察に? 警察学校へは行ってないらしいけど」
「ありていに言えば、社会勉強よ」
彼女は、ずっと警察を続けているつもりはないらしい。なので、出世コースから明らかに外れているここでも問題はないのだとか。
ちなみに警察へは筆記と射撃の試験で入ったそうだが、どれも満点だったらしい。聞けば聞くほど俺とは違う。
少しの会話の後、俺はティオの部屋へ向かうためエリィの部屋を出る。
ティオの部屋の扉をノックをするも反応がない。部屋の中に気配がないので、どうやら留守にしているようだ。
しかし、皆の話を聞いていると、ますます自分がどうしたいのかわからない。気付けば俺は、1階に足を運んでいた。1階の隅では、ティオが何やら機械を見ている。
「ティオ、何してるんだ?」
「ロイドさんですか。見ての通り、端末のチェックです」
彼女がチェックしている端末とは、ZCFのカペルシステムを財団で改良した凡庸端末らしく、警察部から導力ネットワークを通じて、情報のやり取りが出来るらしい。が、俺にはさっぱりな話だ。
「そうですね。ロイドさんは、【導力ネットワーク計画】についてどの位知っていますか?」
【導力ネットワーク計画】。俺もクロスベルタイムズで、読んだことはあるが、しっかりとは理解していない。
彼女曰く、財団がここクロスベルで主に進めている計画で、旧来の通信機器を発展させ、文字や画像のやり取りを出来るようにするものらしい。
彼女は、わかり易く説明したつもりなのだろうが、俺にはわかりづらかったようだ。とにかく今は、指揮系統や情報伝達を効率化させるものとして覚えておこう。
しかしその様子だと、彼女もこのまま残るようだ。何かの事情によって、無理やり働かされているのかと思いもしたが、彼女はそれを否定し、「私なりのここにいる理由がある」とだけ答えた。
彼女が自室へ戻ったあと、俺は外へ足を運んだ。満天の星空を見上げ、夜風に当たっていると、中央広場の方から子供が2人、こちらに駆け寄ってきた。
「こんなところにいたのか兄ちゃん!」
正体は今日助けた、リュウとアンリだった。どうやら俺達に礼を言うため警察署からここを聞き出したらしい。
彼らの無邪気な姿を見ていると、心にかかっていた雲が晴れていくような気がした。いや、彼らに感謝され、俺が兄の何に憧れて警察官になったのか、思い出したのかもしれない。
彼らが帰った後、俺は再び空を仰ぎ、自分の単純さに苦笑いを浮かべていた。
思い出す兄の言葉。
『男なら目の前のものに本気でぶつかってみろ。てめぇの真実を掴めば、てめぇがやりたいことがわかるはずだ』
確かにエリィの言う通り、無理のある部署かもしれない。確かに俺が思っていた仕事とは違うかもしれない。でも、それでも俺は、
× × ×
翌日、俺達は課長室に集まっていた。
「1晩待ったぞ。答えを聞かせてもらおう」
俺は考えるまでもなくここに残る。他の3人も残るようだ。後は、ロイドだけだが……。
全員の視線が彼に集まる。
「俺もここに残ります」
静かに、だが、はっきりと彼は答えた。
「もう少し悩むのを期待してたんだがな」
彼の答えを聞き、セルゲイは頭を掻きながらそう言った。
「とにかく、これで正式に結成だ。これから忙しくなるから覚悟しておけ」
「はい!」
5人が、同時に応える。それは、特務支援課結成の合図でもあった。
ちょっと短くなってしまった。