転生したのに最強じゃないってどう言うことだってばよ!   作:オルクス001

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迷い 前編

「なんということをしてくれたんだね!」

 

 俺達は今、副局長のお叱りを受けている。原因は先のジオフロントでの話だ。手柄をギルドに取られ、それをあの女性記者の所属する【クロスベルタイムズ】にすっぱ抜かれた事が、相当頭に来たのだろう。口から泡を飛ばして怒鳴っている。

 俺はというと、その情報伝達の早さにただただ驚いていた。

 途中、ロイドが何かを言おうとするも、怒鳴り声でかき消される。

 

「セルゲイの奴め。勝手なことばかりしよって。おまけに浮浪者までメンバーに加えるとは、一体奴は……」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえ、俺は低い声で呟く。

 

「誰が浮浪者じゃ、この野郎」

 

 副局長以外の4人が、ギョッとした目でこちらを見る。

 副局長は何やらブツブツと独り言を言いながら思案中の様で、俺の言葉は耳に入っていないらしい。すると、彼は唐突に顔をこちらに向けある事を提案してきた。

 

「悪いことは言わん。今日中に着任を辞退したまえ」

「はっ?」

 

 ロイドが戸惑った声をあげる。無理もない、なんせ全く話のつながりが見えないのだ。その他のメンバーも頭に疑問符を浮かべている。

 

「なに、悪いようにはせん。お前達の希望の課に配属してやろう。いいか? 今日中に奴に辞任の意を伝えてこい」

 

 そうまくし立てると、俺達は追い出された。

 部屋の前で、呆然とする俺達1行。どうやら副局長の様子を見るに、セルゲイもまた、警察内で厄介者扱いをされているようだ。

 すると、示し合わせたようにセルゲイから通信が入り、支援課の本部に来いと言われるのだった。

 

 × × ×

 

「ここが……?」

 

 俺を除く4人が、複雑な面持ちで目の前の雑居ビルを見上げる。

 特務支援課の本部。正式には【特務支援課・分室ビル】というのだが、このビル、とにかくボロい。少し前までは、例の【クロスベルタイムズ】が使っていたらしいが……。

 

「ああ。2階と3階が俺達の部屋になってる」

 

 手短に説明すると、俺は中に入り、その後を4人も半信半疑でついてくる。

 この雑居ビル、外見はボロボロだが、中は綺麗になっており仕事をするには申し分ない。既に家具等も置かれており、完全に専用の建物と化している。

 セルゲイのいる部屋に入ると、早速支援課について説明を受け、一晩考える時間をもらった。

 支援課の仕事を簡単に説明すると。ギルドの丸パクリで、評判を向こうから奪うための課らしい。正しくは、政治との柵で普通は動けないような仕事をこなすための部所。ギルドのような住民の大小様々な依頼を受けたりもするのだとか。

 クロスベル自治州は、【エレボニア帝国】と【ガルバード共和国】に挟まれた場所にあり、政治についてもその両国の派閥が出来ている。街の治安維持を担当するはずの警察もまた、双方からの圧力でまともに機能していないのだ。そんな中、落ちてしまった住民の評判を得るために発足された部所がこの特務支援課。と言う訳だ。

 俺はここ以外に行く当てがないから、このまま残るつもりだが他のメンバーはどうするつもりなのだろうか。特にロイドは悩んでたな。

 

 × × ×

 

「ハァ。なんだか思ってたのと違うなぁ」

 

 俺は部屋に戻るなりため息をつき、ベッドの上に倒れ込んだ。

 懐から1枚の写真を出し眺める。そこには俺と兄さん、そして兄の婚約者であったセシル姉が写っている。

 俺の兄であるガイ・バニングスは、1課に所属していてとても優秀な警官だった。

 そんな兄さんに憧れて警察官の試験を受け、合格したのだ。そうして配属されたのが、この特務支援課。俺が目指していた、兄さんのような仕事とはかけ離れている。

 

「俺は一体どうしたいんだろ」

 

 そう言えば、他の4人はどうなんだろ。……気になったなら聞きに行くしかあるまい。俺は早速、隣に住んでいるランディの元へ向かう。

 部屋に入ると、彼はソファで寛ぎ、雑誌を読んでいた。

 

「よっ! 俺様の城へようこそ!」

 

 荷解きは済んだようで、既にワインなども置かれている。その様子を見るに、彼はここに残るらしい。

 

「ん? ああ、俺はこのまま厄介になるつもりだぜ。さすがにお前は悩んでるみたいだな。せっかくとった資格を無駄にしたくないってとこか?」

「そう言うわけじゃないんだ。ただ、理想と違うなってだけ。そう言えばランディは、どうして支援課に?」

「あー、聞きたい?」

 

 一瞬、真剣な表情になるもすぐに穏やかな笑みを浮かべる。

 話を要約すると、彼はもともと警備隊をしていたらしい。道理であんな大きな武器を自由自在に操れるわけだ。

 配属の理由は、女性絡みの問題らしく、首になりかけたところをセルゲイ課長にスカウトされたようだ。

 

「そうだ、正式にお友達になったらいい店教えてやるよ」

「あははは。あ、ありがとう」

 

 苦笑いで部屋を出る。

 さて、隣はリンドウか。彼は、警察官でなければ、この街の住民でもない。一体どうして支援課に入ったのだろうか。

 彼の部屋は殺風景で、必要最低限のものしか置いていない。具体的に言うと、ベッドとイス、それにテーブルだけだ。

 

「どうしたんだ? まぁ、なんとなくわかってるけどな」

「ハハハ。まずはありがとう、俺の無茶に付き合ってくれて。君は強いんだな」

「いやいや、俺も結構怖かったんだぜ?」

「そうか、本当にありがとう。君は……ここに残るのか?」

「ん? まあな。他に行くあてもないし。」

 

 そうだった。彼はこんな年齢で、旅をしている子だったのだ。自己紹介の時には、出身の国がないと言っていた。実際には、ないのでなく故郷を知らないのか、捨てたのだろう。そんな彼はおそらく、俺が思いもつかないほどの過去を持っている。

 

「……ご、ごめん」

 

 俺が謝ると、彼はキョトンとした顔になり、次に笑った。

 

「そんなに深い理由じゃないから大丈夫。まぁでも、詳しいことは、聞かないでくれるとありがたいかな?」

「わかった。話が聞けてよかったよ」

 

 適当に挨拶を交わし、部屋を後にする俺。

 後は、エリィとティオか。もう寝てるかな? そんなことを考えつつ、彼女達の部屋がある3階へと歩いていった。

 

 × × ×

 

「はぁ〜。俺が最強なら、今日の奴なんてイチコロだったんだが」

 

 ロイドが出ていった後、窓から外の景色を見つつ呟く。

 俺がこっちに来るためにもらった力は、身体能力の向上と平均的な魔力のみ。しかも身体能力はほんの少しで、もし俺が運動音痴だったら即死だっただろう。具体的に言うと、生前(と言うと少し変だが)は体育の授業で平均より上くらいだったのが、今は1位争いに入れるくらい。それだけだ。

 後はゲームの動きを真似たりして、何とか凌いでいる状況だ。もう何から何まで「運が良かった」としか言いようがない。

 ……これからもあんなのと戦うのだろうか。どう考えてもお先真っ暗である。正直な所、今日の光景を思い出すだけで、鳥肌が止まらない。だが、この仕事を辞めるという選択肢は無い。

 

「まあ、死なないように頑張るかな」

 

 俺は窓から空を仰ぎ見る。そこには、どこまでも広がる闇の空に、いくつもの星が輝きを見せていた。


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