転生したのに最強じゃないってどう言うことだってばよ! 作:オルクス001
ジオフロント。それはクロスベル市の地下に張り巡らされた広大な空間だ。そこには下水道や導力ケーブル等が張り巡らされており、インフラ整備も整っているため、とても魔獣がいそうにない場所で、俺が予想していたホラーゲーム等でよくある薄暗く、狭い空間とは大違いだった。
しばらく進むと、ティオが何かを感じ取ったようで、警告を発する。
「2体、来ます!」
その言葉で、全員に緊張が走る。
前方からこちらに向かってくるのは、ネズミだった。しかし、俺が見てきたそれとは違う。全身が青く、全長は子供1人分、そしてその大きな耳には鋭い刺が、幾つも生えている。それが全部で3体。
「ランディ、リンドウ、俺で手分けするぞ。2人は後方で支援を頼む」
ロイドの指令で、全員が動き出す。
俺は飛び込んでくる魔獣を一刀の元に切り伏せた。
この程度の魔獣なら俺も楽に進めそうだ。
他のメンバーも難なく勝利するのを確認すると、俺は刀を鞘に収める。
「さて、先に進もうか」
再び歩みを進めること数分、子供の啜り泣く声が聞こえてきた。どうやら発生源はダクトの中のようだ。
それに真っ先に気づいたエリィが、様子を見に行く。
俺達がもしものために外で見張りをして待っていると、中から1人の男の子を連れ帰ってきた。目を真っ赤に泣き腫らした彼は、アンリと言う名前で、開いていたマンホールから興味本位で侵入したらしい。それも友達と一緒に。
当然ながらその友達は、この場にいない。どうやら魔獣に追われている途中ではぐれたらしい。
彼の安全のためには、1度戻るのが得策だ。しかし、はぐれたもう1人も早く見つけないと危険だ。かと言って、今日初めて顔合わせしたメンバーで、いきなりの戦力分散はすべきでない。どうしようもないジレンマが俺たちを襲う。
「仕方がない。この子を連れてもう1人を探そう」
ロイドの言葉に全員が頷く。
こうして俺達は、アンリを連れ、妙な静けさがあるジオフロントを進むのだった。
× × ×
「おかしい。魔獣の気配がしない」
「センサーにもかかりませんね。奥の方で数匹いるようですが」
俺はこの静けさに不安を覚える。
これまで魔獣独特の気配がジオフロント内にあったのだが、今は全く感じないのだ。それが逆に俺達の不安を煽り立てていた。いつしか鞘を握る手に力が入る。
辺りを警戒しつつ進むこと数分。俺達は、大きく開けた場所に出た。そして、その奥では、1人の子供をスライム状の魔獣【フロストグミ】が5体で囲んでいた。
「おい、あのままじゃガキが危ねえぞ!」
「サーチ&デストロイ! サーチ&デストロイだ!」
そう言うと俺は、フロストグミの上を飛び越え、子供との間に入る。
近づいてきた1体を素早く切り捨てると、もう1体をアーツで仕留めた。自分が魔法を使っていることに感動を覚える俺。
残りの3体をロイド達が倒したのを確認すると、子供は安堵からかその場に座り込む。だが、その目はキラキラと輝いていた。
「すげえ。兄ちゃん達新人?」
「ん? ああ、そうだ。よくわかったな」
「すげえ! 帰ったら自慢してやるぜ」
しかしこの子供、名前をリュウと言うのだが、反省の色が全く見えない。それにさっきから交わす会話に違和感がある。一応会話としては成立しているのだが、ちぐはぐな言葉に見える。
「制服も来てないのによくわかったな」
そうロイドが言った途端、リュウの表情が変わる。ロイドが、警察だと明かすと、リュウは驚きの声を上げた。
「うっそだあ! だって警察って使い物にならない事で有名じゃん」
これは酷い言われ様である。しかし、ロイドとエリィは現在の警察の状態を知っているのか、苦笑いを浮かべる。本当にそこまで悪いなら、俺は支援課に入って正解だったのだろうか……。
色々と聴きたいこと、言いたいことはあるものの、これ以上ここに留まるのも危険なので、出口へ向かうことに。が、もう遅い。突如頭上から降下してきた巨大なゼラチン魔獣に行く手を遮られたのだ。
地響きと共に着地する魔獣のただならぬオーラに、その場にいた全員が硬直する。その魔獣に【目】の部分は見当たらないのだが、まるで睨まれたかのようにそれから目が離せなくなっていた。
くそっ! さっきから魔獣の気配がしないと思ってたら、コイツのせいか!
「おい、どうするロイド! 今の装備じゃやばいんじゃねえか?」
ランディが指示を仰ぐが、相手が待ってくれるはずもなく、ゼラチンの1部が泡立ち始める。攻撃の合図だ。
魔獣の【視線】が、ティオへと向けられる。
気がつくと俺は走り出していた。そして、彼女と魔獣の間に入ると同時に身体に強烈な打撃が加えられ、俺は後方へと飛ばされる。どうやら、ハイドロポンプのような技を喰らったらしい。
「リンドウさん! 大丈夫ですか? どうしてあんなことを」
「どうしても何も、身体が勝手に動いたんだから仕方が無いだろ。不可抗力だ。気にするな」
彼女がすぐさま駆けつけ、治癒アーツを使う。
彼女の後ろで、ロイドが魔獣の正面に立ちはだかっているのが見える。彼が身代わりになり、その内に他を逃がす魂胆らしい。
「まったく、俺より無茶な奴がいるぜ」
彼1人が身代わりに出たところで、作戦が成功する確率は極めて低いだろう。それに、仮に成功したとしても残るのが1人なら、絶対に逃げ切れない。いくら彼のトンファーの防御能力が高くても、だ。
「1人でどうやって逃げるつもりだよ」
「それは……」
「2人ならまだ可能性はある」
俺はロイドの隣に移動すると、柄に手を掛ける。
「自己犠牲もいいが、少々短絡的だな」
その声と共に、目の前に刀を持った長髪の男性が現れた。その後ろで細切れになる魔獣。
早くて、見えなかった……だと?
その男性に興奮を抑えきれない様子で、駆け寄るアンリとリュウ。リュウはむしろ剥き出しである。
彼は【アリオス・マクレイン】。
アンリ達を連れ出口へ向かう彼の後を追い、外へ出ると、そこにはカメラを構えた女性が待ち構えていた。どうやら新聞記者のようだ。カメラのシャッターを切りながら、ひたすら口を動かしている。
「うんうん。貴方達が、新しく設立された支援課ね。惜しくもギルドに及ばずっと」
「彼らの事もあまり悪くは書くな。最初に子供を見つけたのは、彼らだ」
こちらのフォローをするアリオスだが、彼の言葉など耳に入っていないのか、彼女は独占インタビューの交渉をしながら一緒に帰ってしまうのだった。