転生したのに最強じゃないってどう言うことだってばよ! 作:オルクス001
根無し草
その日、1人の少年が16年と言う短い期間で、人生に幕を下ろした。歩道を歩いていたところ、トラックが突っ込み即死だったそうだ。
× × ×
「ん、ここは……?」
俺が目を覚ました場所は、どこまでも白く、無い空間だった。立ち上がって、辺りを見回すが本当に何も無い。
どうしようもない為、まずは自己把握からする事にした。
俺の名前は、
ちょっと待て、ってことは俺……。死んでる⁉︎
気がついたら死んでいた。そんな突拍子もないことを誰が、素直に受け入れられるだろうか。しかし、何故か俺は、冷静にそれを受け止めていた。
そんな俺が、これからどうしようかと思案に暮れていると。
「どうしたんじゃ?」
後ろから不意に声をかけられ、振り向くと、白髪白髭のおじいさんがいた。
その姿を見た瞬間、頭に1つの考えが浮かぶ。
「あなたは……神……ですか?」
「よくわかったのう」
そういう彼は、聖書で見るような絶対的な存在ではなく、神聖さを身に付けた老人のような感じがした。
「いや、16で死んで、これからどうしようかと」
「なるほど……」
その時だった。突如視界が真っ暗になり、先程まで神のいた場所には光の珠が浮かんでいた。その光はフヨフヨと俺の周りを1周すると、目線の位置まで移動する。
「お前、面白そうなやつだな。別世界に転移してやるよ」
俺には光の言うことが理解できなかった。
要するにラノベでよくある異世界転生か? それなら嬉しいが、如何せんこいつが信用できない。それに先程までいた神の姿も見えない。どうしようか決めかねていると、突如足元が輝き出す。
「ちょっと待て。まだ俺は何も言ってないぞ」
「は? お前の意見なんて知るかよ。お前は俺の暇つぶしのために異世界へ行くんだ。少しの身体強化と魔力だけはやるから頑張んな」
なんとも勝手な話だ。
俺は目の前の光に鉄拳でもお見舞いしようかと、1歩を踏み込む。しかし、手を伸ばせば届く距離だと思っていたが、届かない。1歩、また1歩と歩みを進めるが、一向に届かない。まるで光との間に距離の概念が無いように思える。その場に浮遊し続ける光と距離はどこまでも遠く、またどこまでも近かった。
× × ×
次に俺は草むらで、目を覚ました。
んー、どこだよここ。
場所を確認するため、立ち上がろうとした時。
「⁉︎」
突如頭に様々な情報が流れ込んできた。そして最後に。
『これで大体この世界についてわかったろ。生活に必要な武器と、金は置いてあるから頑張んな』
ここは魔物のはびこる、剣と魔法のファンタジー世界というわけだ。異世界ものでは、定番中の定番だろう。
てことはあれも魔物っすよねぇ。
前方にいるのは、FFのチョコボにツノが生えた感じの奴で、数匹でジリジリとこちらに寄ってくる。
えーと、武器は?
辺りを見回すと近くに鞘に収まった刀が落ちてあった。鞘から抜くと、太陽の光を受け、キラリと輝く刀身がそこにはあった。
敵の数は……5匹か……。
うーん、身体能力は強化されたんだよなぁ。少々、不安である。しかし、どうするべきか迷う俺をよそに1匹が突進してきた。それに驚いた俺は、咄嗟に蹴りを当てる。
「ガァ!」
悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ似非チョコボ、そして驚く俺。
意外と飛んだ……てかあいつの体重軽すぎだろ。
次に2匹をまとめて刀で切り払う。
死ぬ前の俺から比べたら、まぁまぁ身体能力が上がってる?
残りは3匹。前方に2匹、背後に回り込んだ1匹だ。足に力を入れ、まずは2匹の間を走り抜ける。それと同時に胴体を裂く。一瞬の出来事に2匹は反応できずにこと切れた。最後に背後から来た1匹を振り向きざまに、首を切り落とす。
ふう、身体能力強化ってそこまでじゃん!
走った感じ、死ぬ前より少し身体が軽くなった感じだ。
俺が、身体強化の具合を確かめていると、後ろから拍手の音が聞こえた。振り返ると、そこには見知らぬ男性が立っている。
「お見事。メタルソーサーが数匹集まってるのが見えたから、心配になって来て見たが、いらなかったようだな。ギルドの者かな?」
あれはメタルソーサーって言うのか。つかギルド? そんなものまであるのか。
「いえ、違います」
「じゃあ一体?」
その問に俺は頭を抱える。まさか転移した等とは言えず、しかし、こちらに来てまだ時間もたっていないため、答えの準備もしていない。
俺は苦し紛れに答える。
「旅人ですよ」
俺の答えを聞き、驚く彼。無理もない、いくらファンタジーでも16歳で旅してるなんてあり得ないだろう。
「どこの国から? その獲物を見るようじゃ、東方からか?」
更に痛いところを突かれた。
「出身国……ですか……無い……ですね」
「出身国が無い、ねぇ。名前は?」
「片桐 竜胆です。ファミリーネームは片桐です」
「そうか珍しいな。俺はセルゲイ・ロウだ。クロスベル自治区で警官をやってる。出身国が無いなら面倒ごとになる可能性もあるな。ついて来い、宿ぐらいなら紹介してやる。お前のその戦闘能力に興味もあるしな」
戦闘能力に興味があると言われた俺は、不安に駆られる。
よくある最強主人公ではない為、死と隣り合わせの生活は、出来ればしたくはない。しかし、少し迷ったものの俺は、彼にについて行くことにした。他に行く当ても無く、また、国籍なしのままだとこれからどうしようもないだろう。その点、街の警官なら色々と融通を聞かせてくれるだろうと言う予想だ。
これから起きるであろう様々な体験に胸を踊らせ、俺は彼の後を足どり軽くついて行くのだった。