20150102誤字修正
タツミ達が”竜船”に乗り込んでいる同時刻――
本当に珍しいことにムソウはエスデスと共に帝都メインストリートを歩いていた。
保安部の担当警備範囲を、エスデスが新たに率いる新部隊に引き継ぐため、と言う役割もあるがエスデスとしては、ムソウと二人っきりで帝都のメインストリートを歩いていると言う事実だけで十分満足、とはいえないものの、嬉しく思っていた。
流石に職務中ということもあり、腕を組んで歩くと言うことはなかったが、美形がそろって歩くだけで暗い影が差している帝都に光が差し込んで来たと言うものだ。
「それにしても、こうして二人っきりと言うのも久しぶりだな」
いつもドSを見慣れているエスデス部隊や大臣が見たら、誰だっ!!と言いたくなるほど、乙女な顔つきをしているエスデスは、満足そうな声音で言った。
「それもそうだな。お前は将軍職で忙しく、私は諜報部からの情報、保安部の報告、収容所の活動状況などを一人でやっていると必然的に忙しくなるからな」
諜報部のもたらす情報、保安部の上げて来る報告、そして収容所で行われていること等の活動状況など、極力見る人の数を制限または、減らす必要がある。
そうなれば必然的にムソウの仕事量は、一般職員の量をはるかに超えることになる。
しかし、ムソウの知能はもちろんのこと、情報処理能力、判断力なども一般人の尺度で測ろうと考えることさえおこがましく感じる程高い。
だからこそムソウが二つの組織の長官職についていながら、現在まで一度たりともシステムを破たんせずに機能させていることこそが、ムソウの能力の高さを逆説的に証明することになっている。
「それにしてもエスデス、お前はかなり人望あるな。私の場合は畏れられていると言うのに」
「それなら私よりもムソウの方が羨ましい。ムソウの場合は、その身に纏う圧倒的覇気とカリスマ性からくる畏れ。それに対して私に抱かれているのは恐怖心からくる恐れだ。私もいずれは覇気やカリスマ性で畏れられたいものだ」
見回りをしながら、メインストリートの中でも比較的力のある店などに挨拶や顔見せなどをしていると、ほぼすべての人が低頭で礼をしながらもどこか脅えた様子であった。
ムソウもエスデスも罪がなければ一般民には無害である事には違いないが、その圧倒的力におびえてしまうのは仕方がないとしか言いようがなかった。
「長官」
エスデスと歩き次の店へと向かおうとした時だった。
保安部の者がムソウの元へと駆けて来たのだ。
「どうしたんだ?」
「ああ、報告だろう。この先に甘えん坊という甘味処がある。先に行っておいてくれ、私も直ぐ向うから」
「そうか、分かった」
せっかく恋人と水入らずで過ごし良い雰囲気になってきたら、いきなり彼氏に仕事の電話が掛かって来て、雰囲気がぶち壊され落ち込んだ彼女のような雰囲気を纏いながら、エスデスは言われた通りに先に行くことにした。
ムソウは、エスデスが先に行っていることを確認すると駆けて来た者の報告を聞き出した。
「竜船は無事出向いたしました。乗船者を確認していたところ、怪しいものは三名ほどおりましたが、乗船時の確認では大臣からの特別招待状を持って居たため、乗船拒否できず乗船させてしまいました」
「大臣からの特別招待状?」
ムソウが疑問を感じてしまうのも仕方がないことだ。
竜船への乗船方法は、完全に分担しており、乗船に関することは文官がそれも大臣派の人間が仕切っている。
乗り込む者の中には、良識派の中でも反大臣意識の強い者が乗り込むため、警備の方は良識派が取り仕切ると言う線引きがされている。
そのため、ムソウは竜船に乗船する、乗船者リストを見る機会が存在せず、招待方法も知らされていない。
だからムソウが乗船者に招待状が配られていること、特別招待状なるものが存在することを知らないのも仕方がないことだ。
そして、その特別招待状こそが、大臣が標的を殺すため三獣士を乗り込ませるために用意させた特別枠である。
「それで、他に怪しい者達はいたか?」
「一人、若い少年が。招待状は本物の様でしたが、纏っている雰囲気や足運びなどが怪しかったため、第Ⅳ局ⅣCに問い合わせたところ、そのような者は存在しえないとの返答でした。しかし乗船に対して我々は一切手出しできない決まりになっているため、我々は止めることができずその若者は普通に乗船していきました」
「そうか、分かった。第Ⅴ局と帝都警備隊に竜船を回収するように命令を出しておけ」
「了解しました!!」
保安部の者は敬礼をすると、また駆け足で保安本部へと駆けて行った。
ムソウも部下が駆けて行きだすのを見届けず、エスデスに先に行く様に言った甘味処へと足を向けた。
「すまないな。待たせたか」
エスデスは店の前に在る長椅子に腰を掛けていた。
「いや、大丈夫だ。今店の者に名物を持ってこさせている所だからな」
「そうか」
ムソウはそれだけを言うとエスデスの横に腰かけた。
まだ視線を感じると言うことは、諦めていないのかとムソウは内心思った。
流石にこのタイミングで仕掛けるほど馬鹿ではないとしても、こちらに向ける視線と殺気が強すぎる、もう少し気配を消せないのだろうか、常に命を狙われる立場であるムソウや元々が狩猟民族であるエスデスにとって、刺客として送られてくる暗殺者の気配など手に取るようにわかる。
そこいらの刺客に比べたら十二分に使える部類だろうが、私の命を狙うならばもう少し、気配を抑える術を身に着け視線を露骨にこちらへ向けない様にするようにしないと、ムソウやエスデスの命を脅かす事は不可能だろう、いやムソウやエスデスの命を脅かすとなるとそれこそ一国を落とせるほどの者でなければほぼ不可能だろうが。
まあ、そのようなことはさておき。
「店主、茶を頼む」
「は、はい!!ただ今お持ちします!!」
そんなことをムソウ達を想っているとは全く考えていない、視線をを向けていることが気づかれている者はと言うと。
……エスデスとムソウと言う、革命を成功させるための最難関の二人が護衛も連れることなく仲良く外に出ている。
二人と敵対する者や邪魔だと思っている者達から見たら、刺客を送り込み暗殺するチャンスだと思うだろう。
だが、ムソウ達に視線を向けている者であるレオーネは、帝具で獣化している今だからこそ気が付くことができた。
あれは、刺客を誘い込む罠であると。
レオーネは帝具、ライオネルによって獣化しており、本能さえも獣化の影響で強化されているから、だからこそ感じ取ることが出来たのだ。
エスデスから滲み出る禍々しい殺意を。
そんなエスデスさえもがちっぽけに感じ取れる、常人では防衛本能によって強制的に気づけない様になっている、ムソウから発されるプレッシャー。
今すぐにでも無条件で跪きたくなるほどの存在感、だけではない。
それは表面上のものにしか過ぎない。
ムソウの内側に在るもっと悍ましく、恐ろしいもの。
ムソウに殺された者達の魂で作り上げられた骸の城。
そして、何よりもムソウの中に溢れかえる黄金の骸の軍勢――
はっ、と我に返ったレオーネは、見てはいけない何かを幻視しまった気がしていた。
冷や汗が雨のように落ちる。
震えが止まらない我が身を抱きしめ、自身を必死に落ち着かせると、ムソウとエスデスの暗殺を諦め本来の目的である動向を探るだけに留め、撤退することにした。
悔しいがここは本能に従い退く、レオーネは自身の力不足を感じながらも逃走を決断した。
この決断は、間違っていなかった。
ここで下手に誘いに乗ったのならば、死以外の結末は存在しなかったのだから。
「む?気配が消えた……誘いには乗らなかったか。残念だ、新しい拷問を試したかったのだが」
エスデスは、レオーネが居た場所を見つめながらぼやいた。
ムソウはムソウで、自分達を監視していた存在が消え去ったのを感じ取っていた。
一般兵では相手にならないだろうが、所詮は人の域を越えない存在だ。
脅威となるほどの存在ではない以上、これ以上気にかけても仕方がないと判断し、竜船に乗り込んだ不審な者達がどうなるか、また生きていたならばどのような名目で捕縛するかを考えていた。
エスデスとの見回りを終えたムソウは、宮殿内にある自身の執務室へと戻った。
処理しなければならない書類が多いこともあるが、それ以上に常に報告される新鮮な情報を知り、早急に判断しなければならないことがあるからだ。
情報は、一日過ぎれば価値を失う場合さえあるからだ。
その中のでも今気にすべきものは二つ。
一つは、エスデスが今回新設する新部隊。
部隊名はまだ分からないが、招集られた者達は分かった。
帝都海軍所属のウェイブ
帝都警備隊所属のセリュー・ユビキタス
焼却部隊所属のボルス
帝国暗殺部隊所属のクロメ
ジョヨウの元教師で、現在はジョヨウの太守の元で働いているラン
帝都技術開発局のDr.スタイリッシュ
誰もからも個性的な面子であり、それぞれのプロフィールもまとめてあった、経歴も含めて。
誰もかれも、とは言わないが、集められた者達は一癖も二癖もある者達だ。
ある意味目立つのは、軍属ではないランだが、その経歴は招集された者達の中でも一部を除けば平凡だ。
だが、その一部こそランがこの召集に応じるに至る理由だろうとムソウは考えた。
ムソウ個人の意見で言えば、面白そうなのはランとクロメ位だ。
クロメの場合は、国に買い取られ、暗殺部隊の一員になるべく育てられ今では薬物着けの体にされていることをムソウは知って言る。
それこそが、クロメが帝国を裏切れない理由でもある。
薬が切れかかった時の禁断症状は、薬のレベルによって変わる。
そして、クロメに使われている薬のレベルはその中でも群を抜いて高く、その恩恵は大きいもののその反動もまた大きい。
そのためクロメが国を裏切るのは、即禁断症状との戦いを意味するため、禁断症状の恐怖心のため裏切らないと断言できる。
何故ムソウがそれを断言できるのか、という疑問を感じる者もいるだろう。
それは、ムソウも少なからず関わっているからだ。
薬物摂取によるドーピング、それによる強化兵の製造は、常に帝国の闇と共に進化してきている。
ならば、ムソウかその存在に気が付かない訳もなく、早い段階でムソウに害がある機関はつぶしている。
現在残っているのは、二つだけであり、一つはアインザッツグルッペンが使用する毒を生み出す機関、もう一つは大臣直轄の機関だけであり、クロメは大臣直轄の機関に所属している。
他の者は、比較的ありふれた経歴で面白みに欠けているものの一般兵に比べたら面白い程度の者達だ。
全員のプロフィールと経歴を見終えたムソウは、書類をまとめると手近な火を使い燃やした。
こういった情報は、誰が狙うか分かるものではないし、一度見てしまえば覚えてしまうので、これ以上所持していてもデメリットしかないから簡単に処分できたのだ。
元々が報告用の物であり、きちんと人事の方でも保管してあるから、と言う理由も、もちろんある。
「失礼します!!」
保安部の者が慌ただしく執務室へと入って来た。
「どうした?」
「竜船を監視していた者が、竜船付近で水竜の様なものが船上へ向かって突進したのを確認したため、第Ⅴ局と帝都警備隊の者達が緊急突入しました。こちらの損耗はないですが、船上にて、エスデス軍三獣士、リヴァ、ニャウ、ダイダラの三名の死体を確認、帝具は持ち去られた模様、水竜の様なものはリヴァの持っていた帝具によるものだと後程情報で断定。死者は他には確認できず名簿によりますと一名行方不明者が出ました。ナイトレイドおよび他の刺客の確認は出来ず、ただ今行方不明者の捜索をしております」
行方不明が一人に死亡したのはエスデス軍の三獣士のみで、帝具は全て持ち去られている。
ならば行方不明になったのは、大方ナイトレイドのメンバーか反乱軍の刺客のどちらかということになる。
今回はしてやられた結果になる。
警備を担当していた良識派もそうだが、怪しい人物を乗り込ませた大臣派も勢力を削られる結果になるのは明白だ。
「分かった。行方不明者の捜索は今すぐ打ち切り、通常の警備体制に戻せ」
「了解しました」
報告をしに来た者は、敬礼をするとすぐさまムソウの命を捜索している者達へ伝えるべく駆けて行った。
再度書類や報告書を見ようと目線を落とそうとした時だった。
自分の足にすり寄る一匹の猫に変装している者がいた。
「チェルシーか」
「あはははぁあ、やっぱりばれちゃうか」
一瞬煙が出ると、すぐさま晴れるとそこには、ヘッドホンをしているミニスカートを穿いているディーラーと一目で見るならば誰もが思う感想だ。
だが、その見た目に反しチェルシーは反乱軍に所属させている、ムソウの手駒の中でも優秀な暗殺者だ。
「そう言えば、お前が所属していた地方の部隊は壊滅していたな」
「あれは危なかったですよ~」
口をとがらせながら、チェルシーは不貞腐れ気味に言った。
「それでこれからはどうしたら良いんですか?」
「このまま反乱軍に居座り、そのまま仕事を続ければいい。身の危険を感じたならばすぐさまこちらへ戻って来ても構わん。お前の仕事はあくまで間諜なのだから。ことを起こす日取りが分かったならば私に直ぐ情報を寄こせ」
「りょーかいです」
チェルシーは可愛らしく敬礼をすると適当な保安部の兵に変身し執務室を後にした。
変幻自在ガイアファンデーション、質量さえ誤魔化してしまう辺り、戦闘には全くと言って良い程使い道がないが、裏方、それも諜報や暗殺向きの帝具であり使い、使い方一つでは戦闘向きの帝具よりも脅威となりえるのだ。
それはさておき、もう一つは安寧道だ。
諜報部からもたらされた情報によれば、安寧道は蜂起派が増え続け、信者もその気になるものが増えて来ている。
最も懸念すべきは、やはり大臣の息のかかった存在であり教主の補佐の座に収まっているボリックだ。
蜂起派がいくら増え様が、大臣による帝国のバックアップがあるため武装蜂起が起きることはない。
現状は大臣の手駒ではあるが、教主を殺し奴が教主にでもなれば、大臣は間違いなく我々に牙を向けさせるのは明白だ。
ならば、ナイトレイドの攻めに乗じて奴を処分するか……
ムソウは今後のことを考え決断をした。
久々の更新です。
今までと書き方が変わっていたらすみません。
今後も少しずつ書いて行こうと思います。