――タツミside
あれから数日が経った。
俺は首切りザンクを倒すことが出来ず、結果的にアカメに助けられてしまった。
「タツミ……そろそろ傷も癒えて来ただろう。ザンクから奪取したこの帝具、お前が付けて見ろ」
ナイトレイドのボスであるナジェンダの義腕が、握っていたザンクの持っていた帝具を俺に差し出してきた。
「いいの!?みんなは!!」
俺は、皆が持っている帝具を見ているだけに嬉しく思った。
「帝具は一人一つだ」
「体力、精神力の摩耗が半端ないからね」
元々優秀な軍人であり、帝国の腐敗っぷりを目の辺りにし帝国を見限ったブラート兄貴(ホモ疑惑あり)はキメ顔で、ただの変態と思う時もあるラバックは忠告気味に言った。
『あんまカッコ良くねーけど、この眼……凄い能力だしな』
俺自身が苦戦したからこそ分かる、厄介な性能を持った帝具を興奮気味に額に取り付けた。
「文献に乗ってなかった帝具だから謎が多いが……」
「心を覗ける能力があったろう。私を視て見ろ」
何故かアカメから期待混じりの視線を俺に向けて来た。
任せろ、俺ならできる内心そう思った。
「夜は……肉が喰いたいと思っている」
「完璧だな!!」
素で思ったことを言っただけなのに当っているとは、どれだけアカメは食い意地が張っているのかと思ってしまった。
けど、帝具自身の機能ではないのは確かだ。
「いや、まだ能力発動してないだろ」
「心を覗かれるなんて嫌よ。五視あるならもっと別の能力試しなさいよ」
さっきから皆文句ばっかり言いやがってと、不貞腐れ気味になるが、ここで拗ねたら本当に子供だと余計バカにされるので他の能力を試すことにした。
『俺の知らない残り一つの能力よ……発動しろ!!』
そう思った瞬間、額に装着した瞳型の帝具がカッっと見開きその帝具が見ている光景が頭の中に入って来た。
頭に入ってくる光景は、丁度目の前にいたと言うこともあり、アカメ、マイン、シェーレ三人の下着姿が視えてた。
『なんだ、この素晴らしい能力は……!帝具ってスゲ……』
桃源郷を見せてくれる帝具に感謝しようとした時だった。
頭の血管が切れ、血が噴き出した。
「まずいぜ拒絶反応だ!」
「急いで外すんだ!!」
「な、なんだ、急に疲労感が」
アカメが駆け寄り額に装着している帝具を外してくれた。
「これは革命軍本部に送ろう。解析し貴重な戦力にするだろう」
アカメから受け取ったナジェンダは義腕で帝具を転がしながら言った。
「多いだけ革命軍が有利って事か」
「そうだ、この帝具に関する文献を読んでおくといい」
ナジェンダから帝具の文献を受け取りパラパラと内容を見て行くと、帝具一つ一つが事細かに記されていた。
「ところで、一番強い帝具ってなんだ?」
ある意味、帝具を知るものならば誰もが思う純粋な疑問だろう。
それを俺は、帝具に詳しそうなボスに訊いた。
「用途と相性で変わるさ……だがあえて言うなら”氷を操る帝具”と”槍の帝具”だと私は思う。幸い片方の使い手は、北方異民族の征伐に行っているがな」
「へえ、どんな人が使ってるんだ?」
使い手を知らなければ当たり前の疑問、一般市民で終わる人達は関わらずに済む人たちでもある。
「片方は、ドSで政治や権力と言った物には興味ないが、もう片方は問題だな」
ボスがそう言うとみんな口々に言いだした。
「人体の黄金律と評されるほどの完璧な肉体を持つ、黄金の獣の様な男だ」
と兄貴が思い出すかのように、
「純血主義で、異民族の血を嫌っている最悪なやつよ!!」
とマインが怒り心頭と言った感じで、
「人を間違いなくかぎ分ける嗅覚を持っていて、敵味方を見分ける観察眼を持っている」
とレオーネが手を頭に回しながら、
「皇帝を裏で操っている大臣でさえ、意見具申によって完全に打ちのめされてるんだよ」
とラバックが頭を掻きながら、
「帝国の政治警察権力を一手に掌握しているんですよ」
とシェーレが眼鏡の位置を直しながら、
「粛清対象には一切の情を入れることなく抹殺する」
とアカメが凛としながらも、拳を震わせながら、
「それでいて、今の帝国が未だ存続できているのはそいつのおかげだな」
とナジェンダが言った。
誰も名前を言おうともしない。
革命を成功させるうえで最も障害となる男であり、その男が生きている限り革命は成功しないと言っても過言ではないだろうと皆が思っている。
だが、この男が死ぬことによって起きるデメリットもまた大きく、革命軍は何としてもこの男を味方に引き入れたいと考えている。
しかしそれが叶わないと分かるのはもう少し後になってからだ。
side END
――帝都宮殿、謁見の間
皇帝の前に一人の兵士が片膝を着きながら頭を垂らし報告した。
「申し上げます。ナカキド将軍、ヘミ将軍、両将が離反、反乱軍に合流した模様です!!」
その報告に謁見の間に集まっていた者達はざわめき出した。
ただ一人、ムソウを除いて。
「戦上手のナカキド将軍が……」
「反乱軍が恐るべき勢力に育っているぞ……」
「早く手を打たねば帝国が……」
誰もかれもが思っているのは、己が保身だけだ。
特に自身が諜報部に探られているとは知らない者、気づいていない者達ほど、それが顕著でありうろたえぶりが大きかった。
「うろたえるでないっ!!!」
そんな中幼き皇帝は、己が臣のうろたえぶりに喝を入れた。
「所詮は南方にある勢力、いつでも対応できる。反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率がいい!!」
威勢よく皇帝が言ったのは確かに利にかなっている。
が、それは先代皇帝の時だったらの話であり、今の帝国では兵士の士気、練度共に厳しいのが現状だ。
特に今の大臣になってから、大臣の気に入らない者達は地方に飛ばされている。
その者達はなまじ優秀なため、反乱軍に加われば、帝国は厳しい立場に追いやられることになる。
「……で、良いのであろう大臣?」
「ヌフフ、さすがは陛下、落ち着いたモノでございます」
新鮮な肉を喰いちぎりながら皇帝を褒め称えると、謁見の間にいる者達を見下ろしながら宣言した。
「遠くの反乱軍より近く賊、今の問題はこれに尽きます。帝都警備隊長は暗殺される、私の縁者であるイヲカルは殺される!首切り魔も倒したのはナイトレイドで帝具は持って行かれる!!!」
肉を喰いちぎり、食べながら言うが、その全てが事実なため誰もが押し黙らされた。
「やられたい放題……!!!」
「悲しみで体重が増えてしまいますっ……!!!」
(((((((いや、体重はあんたの食生活だろ)))))))
この瞬間ばかりは、皇帝とこの場に集まっている大臣以外の心が一致した瞬間だった。
「……あの異民族はどうしたのだ?アジトを見つけるプロなのだろう?」
「連絡を絶っています。おそらく消されたのでしょうな。それに穏健である私も怒りを抑えきれません!!北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻します」
エスデスを呼び戻す。
大臣がそう言った瞬間、集まっていた者達は将軍が離反したという報告を聞いた時以上に驚き、慌てふためきだした。
「て、帝都にはブドー大将軍がおりましょう!」
軍部所属の一人が、帝都にいる帝国の英傑と称され大将軍である、ブドーがいるのだからエスデスを呼び戻す必要はないと必死に大臣に諫言した。
しかしそれは聞き入れられることはなかった。
むしろ皇帝もエスデスを呼び戻すことに賛成だったので、他の者が否定しようと権限が皇帝に集約されている以上皇帝が是と言えば否も是となるのだ。
ムソウとしてもエスデスを呼び戻すことには賛成だった。
あの女以上に明確な判断基準がある者はいない。
喰うか喰われるか、強者か弱者か、狩るか狩られるかとシンプルなのだ。
「エスデス将軍を呼び戻すまでは、無能な警備隊に喝を入れなさい!!最早賊の生死は問いません。一匹でも多く、賊を狩り出し始末するのです!!」
余程賊の手によって、遠戚とはいえ縁者の者が殺されたのが堪えたようだ。
どの道賊の手によって殺されていなかったとしても、保安部に遅かれ早かれ強制収容所送りになる罪人だったのだ。
ムソウとしては、その手間が省けたから仕事が減った程度の認識でしかなったが。
「では今日はこれで解散します。皆さん各々の仕事に励み一早く賊を狩り出しなさい。さ、陛下行きましょう」
皇帝の背を押すようにしながら、大臣は皇帝とともに退席した。
この場に集まっていた者達も、皇帝が出て行くのを確認すると疲れた表情で扉から出て行った。
ムソウも早々に執務室へと戻ると、保安部第Ⅴ局、保安部の中でも刑事警察を司る部署の局長とその部長たちをムソウは集めた。
「これより、帝国の害悪となっている麻薬密売組織の一斉検挙、粛清対象の一斉粛清を執り行う。取り締まり、粛清対象は配った名簿通りだ。抵抗する者、粛清対象は全て殺せ、摘発対象で捕縛した者は全て収容所へ送れ、以上解散」
ムソウが言い放つと保安部の局長と部長たちは、ムソウの執務室を礼儀正しく敬礼し出て行くと慌ただしく駆け出して行った。
ムソウが一切の妥協を許さない人間であり、部下である者達の評価は、何を成したかで測っている。
ならば、測っていただける機会にどれだけ成すかでムソウから評価されるとなると、ムソウを崇拝に近い思いを抱いている彼らはがぜんやる気が出ると言うものだ。
そうしたものがあるからこそ、ムソウが指揮する保安部、諜報部は常に高い実績をたたきしているのだ。
取締、粛清対象の中にはナイトレイドが依頼を受けた暗殺対象もいたが、運良く保安部の動きを察知することが出来たため難を逃れることが出来た。
奇しくもムソウが取締、粛清を実施した日は原作でシェーレが殺される日でもあった――
シェーレが助かりました。
これが今後どういう風に物語に影響して来るか……