待っていて下さった方々申し訳ないです。
ふとエスデス様ヒロインとタグに書いておきながら、絡みが少ないなと感じたためエスデス様メインで書きました。
キョロクから帝都へ帰還した翌日のことだ。
イェーガーズは、負傷したメンバーを除いて既にナイトレイド捜索に取り掛かっており、ウェイブは一日の報告をするために一人エスデスの元を訪ねていた。
「そうか、まだ見つからないか」
「すみません隊長、あの時俺がもっと確りしていれば」
「いい、お前は役目を全うした」
「ですが!!」
「もういいと言っているだろ!!何度も言わせるな!!」
「……すみません」
エスデスにもウェイブの気持ちが分かる。
護衛対象であるボリックが殺されたのは、自身の未熟が原因だ、と反省する余地があり次にと切り替えることができる。
しかし、仲間を殺された気持ちを簡単に割り切り、切り替えるには経験が必要だ、それも仲間が殺される。
ウェイブには決定的なまでにその経験が足りず、自身が原因であると自身を追いこんでいるがために、焦る気持ちを余計なまでに募らせている。
武力と言う一面で見れば、既に完成していると太鼓判を押してもらえるウェイブだが、精神面ではまだ未熟であるが故に、焦ってしまう。
エスデス自身が、危険種専門の狩猟民族出身であり、幼少期から弱肉強食の喰うか喰われるかの世界で教えられ育ったためか、焦れば焦るほど自身が不利になることを直感で理解している。
ウェイブも、その未熟さが経験を積めば解決してくれるであろうと、エスデスは直感的に感じていた。
「俺はこれで失礼します」
「ああ、今日はゆっくり休め」
エスデスはウェイブを見送ると、自身がやらなければいけない仕事に取り掛かった。
将軍職もあるが、そちらは簡単な報告だけで良いため楽である。
だが、イェーガーズの職務はそうはいかない。
表面上は大臣とも仲良くやっているため、常日頃ならばそこまでも難しくはない。
しかし、今回ばかりそういう訳にはいかない。
護衛対象を殺されてしまったため、面倒な書類が増えているのだ。
エスデスは憂鬱な気持ちになりそうになりながらも、書類をまとめていた。
本人は、書類作業のような地味な作業が自身に向いてないことを良く理解しており、それよりも人や危険種関係なく、爽快で刺激的な狩りをやりたい気持ちでいっぱいだ。
そんな時だった。
「失礼するわよ、隊長」
「ドクターか」
「隊長に頼まれていたことだけど、もう大丈夫よ。クロメの症状は、ドーピングしている薬の副作用の様なものだから、アタシが調合したスタイリッシュな薬で一発で治ったわ」
「そうか。ならクロメは明日から、いつも通りの仕事ができると言うことだな」
「ええ、何なら今すぐ危険種の討伐に行かせても大丈夫よ。アタシが保障するわ」
「さすがの腕だな、ドクター」
クロメがドーピングで、地力を底上げしているのはイェーガーズ内で暗黙の了解となっている。
そのため定期的に薬を何らかの方法で摂取しなければ、副作用や禁断症状に犯され精神的肉体的の両方から苦痛を感じるのだ。
そのインターバルが最近は特に短くなってきており、さらに追い打ちを掛ける様に、ボリック護衛任務で長期的に帝都を離れたことも重なり、任務中に薬が切れてしまったのだ。
そんな状況の中でも、クロメは任務続行の意思を見せたため、最後まで任務に同行させる許可を出したのが仇となってしまった。
「それで、クロメは今どうしている?」
「あの子なら、今は部屋で寝ているわ」
「……そうか、分かった」
「じゃあ、アタシはこれで」
「ご苦労だったな、ドクター」
スタイリッシュが退室するのを確認したエスデスは、気晴らしに窓の外を見た。
外は既に日が落ち、月明かりと家々に灯る火の光が光り輝いているのみであった。
「もう、そんなに時間が経っていたのか」
エスデスが書類仕事を始めた時間が、昼食をとった後からと言うことを考えるとかなりの時間が経ったことになっている。
「私も今日は帰るか」
エスデスはあまり着飾ったり、物を持たないため、身支度に時間を掛けることなく手早く済ませると、イェーガーズ本部を後にした。
表面上は賑わっている帝都だが、一歩脇道に入れば光はなく闇のみが広がっている。
老若男女問わず死体が転がっているのも日常茶飯事だ。
そんな帝都のメインストリートを抜けると、帝国の威信の象徴とも言える宮殿が待ち構えている。
エスデスは、いつものことであるため何の気負いもなく入って行った。
「お疲れ様です、将軍」
「お疲れ様です、エスデス将軍」
「お前達もご苦労」
門番に対しても高圧的ではあるが、労いの言葉を掛けてエスデスは宮殿の中へと入って行った。
宮殿の中は、夜であることいこともあり静まり返っていた。
時折見回りをしている近衛兵とすれ違う程度で、他はいつもと変わらずエスデスは宮殿内にある自室へと着いた。
「ふぅ」
エスデスは、軽く息を吐くとおもむろに軍服を脱ぎだした。
形の良い胸が服と言う枷から解き放たれ、その存在を自己主張させる。
見た目だけならば、誰もが手を伸ばしたくなる存在である。
しかし昔から綺麗は華には棘があると言うよおに、エスデスと言う華には物理、精神に効く毒を持っている。
そのため理性的である者であれ欲望で忠実である者であろうと、エスデスの持つ毒が如何に危険か、触れる前から分かり切っているため手を出すようなことはない。
そのような者達が、エスデスと言う華が既に一人の男の物になっていると知ればどのような顔をするか、想像するのは難しくはない。
エスデスは服を脱ぎ終わると、そのままシャワーを浴びに行った。
目を閉じお湯がエスデスの全身を温め、白い肌を紅く染め上げる。
「クソ!!やってくれたなナジェンダ」
エスデスは、いきなりシャワー室の壁を力いっぱい殴りつけた。
部下の前では見せられない、怒りとも憤りともつかない表情を浮かべている。
「もう同じ手は食らわんぞ。次会った時は蹂躙してくれる」
静かに決意を新たにしたエスデスは、シャワーを止め髪の水気がなくなる程度に拭き全身を拭くと、帝国の男どもが金を出してでも見たいであろうYシャツだけの姿でベットに倒れ込んだ。
そしてゆっくりと睡魔に身を任せたエスデスは、その日、懐かしき日のことを夢として見た。
数年前――
エスデスが帝国軍に仕官した日のことだ。
「帝国軍人とは言え、この程度か」
背の丈が現在と比べると二回りほど小さく体型も今ほどメリハリがないエスデスは、殺しこそしていないものの気を失わせた帝国兵を踏みつけながら告げた。
当時は、まだ不況の影響が表面化になっていなかったため、軍に仕官したエスデスはあっさりと入隊することが叶った。
帝国も自然界と同じで弱者は淘汰され、強者が生き残る弱肉強食の世界だ。
ただし必要な強さが、必ずしも武力であるとは限らない。
そんな帝国を護る盾であり、敵を葬る矛である軍人たちが常日頃から訓練している練兵所で、弱肉強食の精神を示すためにエスデスは、さっそく問題を起していた。
「新入り、いい加減にしろ!!」
「ふん、私は弱い者の下に付く気はない」
「何だその口のきき方は!!少しは慎んだらどうだ!!」
「弱者が何と囀ろうと、私には関係のないことだ」
「何だと!入ったばかりの小娘が!!」
「なら、その小娘に倒される程度の部隊員の隊長は、余程指導する才能がないんだな。こんなのが私の上司だと思うと、帝国軍に入ったのを今からでも取り消したいものだ」
「……どうやら少し教育する必要があるようだな」
エスデスが配属された部隊の部隊長である男は額に青筋を立てながら、腰に差している剣を抜き放った。
一点の曇りもなく、刃こぼれしている様子は見受けられない新品の様に綺麗な剣だ。
余程丹念に手入れを施しているのか、一度も使ったことがないかのどちらかだ。
部隊長は残念なことに後者に当る。
軍の上層部に親戚がおり、そのコネで部隊長に成り上がっている男であるため、部隊長に必要な実力が一切ともなっていない。
口調こそ出来る男を装っているが、その実態は、権力を笠に着て女を買いあさる様な小物だ。
「確かお前は、危険種を狩って生きて来たんだったな。なら、俺は剣を使うがお前は訓練用の剣で十分だな」
訓練用とはいえ当たれば痛いが、あくまでも訓練用。
刃引きがされているため、斬ることができないので簡単に致命傷を与えることはできない。
せいぜい鈍器として役立てるくらいしか、使い道がないものだが、頭や顔、喉などの急所ならば致命傷を与えることも可能だろうが、的の小さいため相応の技量が求められる。
エスデスは、求められる技量を十分以上に身に着けている。
「ハンデとしては十分だな」
刃引きされている剣を無造作に構えながら、エスデスは上から目線で言い放った。
それが癇に障ったのか、男は何の合図もなしにいきなり斬りかかった。
しかし所詮は、権力で得た地位の持ち主だ。
剣の筋はブレており、これではまともに人を斬るどころか訓練用の人形でさえ斬れない。
エスデスはそんなブレブレの太刀筋で振り下ろされる剣を、横から思いっきり刃引きされた剣で殴りつけた。
握りが甘かったのか、男が持っていた剣はそのまますっぽ抜け、剣は明後日の方へ向かって飛んでいきご都合主義の様に剣が地面に突き刺さるようなことはなく、そのまま地面に落ちると練兵場全体に金属特有の高い音を響かせた。
「思ったよりもあっけないな」
「い、今のは油断しただけだ!!」
「命のやり取りをしようと言う者が油断か、お前の命は余程安いらしいな」
「な、何を!!」
今にも激高しそうな様子の部隊長を見かねた、他の部隊員が部隊長を抑えにかかった。
「部隊長抑えてください」
「ここで問題を起したら大変なことになりますよ」
「そうですよ。特に今日は――」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!あんな小娘に虚仮にされたんだ、相応の償いはさせないと気が治まらん!!」
抑えにかかった部隊員を暴れた振りほどこうとするも、所詮は訓練された兵と成り上がりの部隊長。
その力の差は歴然であり、部隊長は直ぐに取り押さえられた。
その様子を遠巻きに見ていた、他に練兵場を利用している別部隊の隊員たちは、よりによって今日問題を起こすなよと心中穏やかではなかった。
何故今日問題を起こすなと思っていたかというと――
「何の騒ぎだ」
たった一言。
声量も張り上げた様な大声ではなく、あくまで話しかける様なものだが、その一言は騒がしい練兵場に居ながら全ての者達の耳に届いた。
格の違いを思い知らされる存在感、黄金の髪をなびかせ、総てを見下ろすような二つの黄金の瞳。
帝国において武では大将軍であるブドーを優にしのぎ、文において並び立つ者がいない皇帝以上に皇帝らしい風格を身に纏った黄金の君。
その名を――
「ム、ムソウ長官!!い、いえ何でもありません!!」
「その割には、そこの男が喚いていたようだが?確か軍で部隊を預かっていると記憶しているが」
「問題ありません!!少し身内内でごたついているだけです!!」
「そのことを問題と言うと思うが、まあいいだろう。だがそこの娘の意見は違うらしいな」
ムソウが見ている視線の先には、部隊長が持っていた剣を拾い上げ今にも襲い掛かろうとしているエスデスがいた。
「おい誰か!!新入りを止めろ!!」
エスデスが何をしでかすか、いち早く察した者が声を張り上げた。
その声で周りにいる者達は、エスデスを取り押さえるため、エスデスに向かって駆けだした。
唯でさえ部隊長が喚いている様子をムソウに見られているのだ。
エスデスがムソウに襲い掛かりでもしたら、ただでさえ悪くなっていると思われる心証を更に下げることになる。
ムソウの心証を悪くしたことがある。
その事実が存在するだけで、帝国に仕える者の昇進する機会が奪われることになるからだ。
それだけはこの場にいる者達全員避けたいと思っている。
「長官、お下がりください」
「あの者達では、あの娘を取り押さえる事は叶わないでしょう」
ムソウの護衛に付いている者達がムソウの前に立ちつつも、的確にエスデスの戦力を計っていた。
エスデスが将軍と呼ばれるまでに成長した時ならば、ムソウの護衛に付いている者達を完封できただろう。
しかし、今のエスデスでは危険種相手の豊富な経験を有しているが、ある一定レベルを超えた対人のスペシャリスト相手には勝てない。
特に、その地位から常に命が危険にさらされているムソウを護衛する者達だ。
その者達が命を懸けてとなれば大将軍であるブドーの足止め、人数が集まれば一矢報いることさえ可能な者達だ。
「いや、大丈夫だ。あの娘は私と闘いたいようだからな。お前たちが組み伏した所で諦めまい」
「しかし、長官の身にもしものことがあれば!!」
「長官の護衛が私どもの職務ですので」
どこまでも職務に忠実な者達だ。
その職務に対する忠誠心はムソウにとっても好ましく、護衛に付いている者達の評価を上げるに値する。
「邪魔だ!!」
エスデスは、自身を取り押さえにかかってくる兵士たちを、殺さないように手加減していた。
もし殺しでもしたら、自身が狩るに値すると上から目線で評価した黄金の男、ムソウと戦わずしてムソウの前に立ちはだかっている護衛たちに殺されると直感で察したからだろう。
「それなりの技量はあるようだな」
「ええ、間違いなく将軍級の器ではあります」
「将来的には我々では守り通せないでしょうが、今の技量では我々だけ十分です」
「だからこそ私自ら技量を計る。この様な場所で終わらせるには惜しい人材だからな」
だからと言って、諜報部や保安部にスカウトするかというとそうではない。
既に軍に入っているため、利害関係のことも考えると引き抜くことは得策ではない。
また、動きを一目見ただけで、諜報部や保安部の職務に向いていないことを察していた。
ならば、ムソウに出来ることは、せいぜい軍の上層部に圧力をかけるか、いい報告を上げることだ。
軍の上層部に親戚のいる程度の部隊長が悪い報告をしたとしても、ムソウの報告と天秤にかけ、どちらを優先するか、それは自明の理だ。
「ですが、我々の職務は長官をお守りすることです」
「ふむ、それも確かだ。ならば命令だ。私の背後に控えておけ」
「!?分かりました」
「……了解しました」
ムソウの護衛に付いている者達は、不服であると内心思っているが、命令である以上従わない訳にはいかない。
最上位に位置するムソウからの命令だ、従わなければ、それこそ軍法会議にかけけられる。
そのことを理解してか、護衛たちはムソウの背後に回り、周囲を警戒することにした。
「私はムソウ、帝国で諜報部と保安部の長官だ。娘、お前の名前を聞いておこうか」
「私の名前はエスデスだ」
「エスデスか。名は体を表すと言うが、まさにお前のためにある様なものだな」
加虐的な笑みを浮かべているエスデスに対してムソウは告げる。
「それは褒め言葉として受け取っておこう」
年齢から考えると言葉遣いが部不相応ではあるが、帝国に仕官する前まで一人で危険種を狩り続けて来ているのだ。
そこからくる絶対的な自身が、性格に影響を与えている。
「私に全力を見せて見ろ」
ムソウが不敵な笑みを浮かべながら言うと、エスデスは一気に駆け出した。
一気にムソウと距離を詰めったエスデスは、そのままムソウの首に斬りつけた。
とった!!エスデスは内心、絶対的確信を抱いていた。
しかし剣の刃から、人の肉を斬り骨を断つ感触が未だに感じられず、それどころかエスデスの予想に反して、金属と金属が衝突した甲高い音が鳴り響いていた。
ムソウは一瞬のうちにサーベルを抜くと、自身の首とエスデスの剣との間に割り込ませたのだ。
「実力は十分、才能もある、努力もしているようだ。しかし欲望を何より優先する姿勢はいただけない」
ムソウは空いている手でエスデスの顔を掴むと、地面に叩きつけた。
「っ!?」
「ほう、耐えるか」
「まだだ!!」
「そこから立ち上がるとは、気概もあるようだな」
ムソウに勝には気概だけでは足りない。
そのことをムソウは、一瞬のやり取りで感じ取っていた。
しかしエスデスとて、弱肉強食の野生の世界で今まで生き延びて来ているのだ。
簡単に引き下がりはしない。
だが、立ちはだかる壁は高く超えることが不可能と感じてしまうほどだ。
「ならば、敬意を表し少し本気を見せてやろう」
ムソウがそう言った瞬間、エスデスの意識は途絶えた。
エスデスが目を覚ましたのはムソウが帰った後であった。
起き上がり周りを見渡すと、今いる場所が見慣れた自身の部屋であるとエスデスは理解した。
そして、それと同時に自身が敗北したことも。
今まで敗北を味わったことのなかったエスデスは、言い知れぬ感覚が自身を支配していることを理解できずにいた。
欲望と本能と直感で生きて来たエスデスは、ある意味野性的であるとも言える。
そして、自身の中に在る普遍的なルールが『弱肉強食』である。
弱者は淘汰され、強者に従わされる。
そのルールに当てはめるならば、自身の意識を一瞬で刈り取ったムソウに自身が従わなければならないことになる。
だが、それを簡単に認めるほどエスデスは弱くはなかった。
『次こそは、次こそは自身が勝つ』、それだけを今エスデスは考えていた。
結果的にエスデスはムソウに勝ことは未だ叶っておらず、帝具を得た当初でさえムソウに簡単にロンギヌスを出させることは叶わなかったが、今では早い段階でださせれる様になかったのが唯一の誇りでもある。
何度も襲撃する内に、初めて敗北した時感じた気持ちが、敗北感であると理解し、次に理解したのがムソウが世界でも比類なき強者であると言うことであった。
そんな中でエスデスの中に残る女の部分が、ムソウと言う圧倒的にして絶対的強者に惹かれて行ったのだ。
ある意味でお約束とも言える展開でもあったが、納得できる者でもあった。
自身にどこまでも素直とも言いかえることができるエスデスだ。
その行動もまた早かったとだけここに記す。
次は零1巻の最後に乗っている話をベースに書きたいと思います。
もしくは、本編が見たいと要望が有ればそろそろシュラを『自主規制』してもいいんじゃないかとも思ってます。
どのタイミングで『閲覧禁止』するかなんですよね~
以上
ではまた次の話で。
P.S.誤字脱字などは随時教えていただけたら修正します。