獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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今回はいつもよりも短いです……


死者行軍の過去と獣の動き

ジフノラ樹海を突破した子供たちの内上位7名に入れなかった子供たちは、馬車に無理やり乗せられていた。

目的地は、帝都処刑場だ。

そこには、斬っても斬っても余るほどの罪人がいる。

最も多いのは、帝国最大の大監獄であり、次に多いのは黄金の獣が管理している強制収容所だ。

しかし数が多いからと言って、大監獄の中に居る者達が全員罪人かと聞かれるとそうではない。

それは強制収容所にも言えたことだが、怪しいから、疑いがあるからと言っただけで抑留されている者達もいる。

無実の罪で捕まっている者もいるが、そう言ったものは強制収容所にはいない。

異民族か、異民族とつながりがあると言うだけで十分罪を適用される。

強制収容所にはどちらかというと、そう言った者の方が多い。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

 

馬車に無理矢理乗せられ、最も信頼し、愛する姉と離ればなれにされたクロメは、俯き譫言のように同じことを呟き続けていた。

 

「着いたぞ。全員下りろ」

 

馬車を覆っていた布をめくり上げながら、一般兵はめんどくさそうに告げた。

ジフノラ樹海を突破したからと言って、正規の兵に勝てると思うほど子供達も馬鹿ではない。

特に樹海を突破したばかりで体力が落ちているのならばなおのことだ。

一人一人順番に降りて行く中、クロメだけが姉と離ればなれになったショックからか、座り続けていた。

 

「おい、さっさと降りろ!!」

 

一向にに降りようとしないクロメに業を煮やした兵が、馬車の中に乗り込むとクロメの髪を掴み引っ張った。

 

「痛い痛い、やめて!!」

 

髪を力任せに引っ張られたクロメは痛みを訴えるが、それを聞き入れる様な優しい人間が、この様なことをそもそもする筈がない。

 

「ほらさっさと降りろ」

 

投げ飛ばされる様にしてクロメは、無理矢理馬車から降ろされた。

 

「きゃっ!!」

 

「ほら、さっさと立て」

 

クロメはゆっくりと落ちあがると、他に連れてこられた子供たちの最後尾に並び着いて行った。

生き残った子供たちが連れてこられた先は、処刑場であった。

帝都処刑場と言う名称を指すところではなく、文字通り人を殺す場所であった。

晴天の元に在り、綺麗に清掃が行き届いているが、それだけでは隠すことができない程の死が蔓延している。

多くの人の命が散っているこの場所は、慣れない者を強く拒む感覚を子供たちに植え付けた。

 

「思った以上に残っていたようだな」

 

自分達を親から買い取った張本人が子供たちの目の前に現れた。

肉付きは悪く、骨の上に直接皮がはりついている様な感覚を感じさせる片眼鏡を左目に埋め込んでいる男は、背筋を凍らせるような笑みを浮かべていた。

 

「では、これより五人一組のチーム分けをする。チーム分けは試験結果に基づき振り分ける」

 

男は、兵から渡された紙を見ると、子供たちの方へと向き直った。

 

「Aチーム、クロメ、ギン、ナタラ、ウーミン、レムス。Bチーム……」

 

誰がどのチームになり、誰と一緒になるのかを淡々と告げていった。

 

「今呼ばれたのが、今後生活仕事を共にする仲間だ。さて、次にお前達には人を殺すことに慣れてもらう」

 

いきなり人殺しに慣れてもらうと男は言った。

いきなりのことに子供たちは誰一人理解が追い付いてはいなかった。

 

「何、殺してもらうと言っても国を安寧を乱す輩だ。死んで当然の悪党を君たちの手でこれからも殺すんだ。ならば慣れるのは早いことに、こしたことはないであろう?。では、Aチームからやってもらう。他のチームは割り当ててある部屋で待機だ。部屋につれていっていろ」

 

「「「はっ!!」」」

 

男の横に控えていた兵たちは、敬礼すると他のチームの子供達を連れて行った。

中には状況を理解できていない子供もいるようだが、そう言った子供たちは暴力によって黙らされた。

これが今の帝国の現状だ。

それを子供たちは痛みによって痛感させられていた。

 

「さて、残った者達には、これから処刑される罪人を殺してもらう。先ほども言ったが全て国を乱す反逆者だ、遠慮はいらん。まずはクロメからだ」

 

いきなり名前を呼ばれたクロメは、身体をビクリと震わせた。

慣れない環境と言うのもあるが、今のクロメは最愛の姉であるアカメと無理矢理離れ離れにされているのだ。

その精神状況は、最悪の一言に尽きる。

 

「この刀を使いなさい」

 

しかし男にとってクロメの精神状態など知ったことではなかった。

求めているのは、使えるか使えないか、ただそれだけである。

使えなければ切り捨てる、使えるならばキルランク上位であるエリートたちと同じ性能を引き出せるように薬を使ってドーピングする。

人道的、倫理、人権、そのようなものはこの場には存在しない。

あるのはただ一つ、自身の有用性を証明し続け、生かされ続けることのみである。

 

「あれが罪人だ」

 

兵たちによって、既に拘束されている男が連れてこられた。

 

「俺は無実だぁぁぁぁあああああ!!全てぇええオネストが悪いんだぁあああ!!」

 

男は恥も威厳もかなぐり捨て、泣き叫んでいた。

 

「何をしている。あれを斬りなさい」

 

「無理です無理です」

 

クロメは首を横に振り、自分には出来ないと必死に告げる。

 

「君が良い子にしていないと、君の大好きなお姉ちゃんの迷惑になる。それに会えなくもなるぞ」

 

お姉ちゃんの迷惑になる、会えなくなる。

その言葉がクロメの心に突き刺さる。

自身を守ってくれる愛しのお姉ちゃん、困った時何も言わずに手を差し伸べてくれるお姉ちゃん。

お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。

クロメはアカメのことばかりを考えながら駆け出した。

そして初めて持った刀を目を瞑って振り下ろした。

 

「がっ!!」

 

丁度急所を切り裂けたためか、男は血を吐きながら倒れ伏した。

 

「おお、よくやった!!」

 

男は一人目にして一撃で、殺したこの事実を嬉しく思い拍手と共にクロメに賛辞を送った。

しかしクロメは口元を抑えたが、いきなり人を殺したためか堪えきれず吐き出した。

 

「では次ギン。君だ」

 

名前を呼ばれたギンと言う少女は、びくりとクロメと同じように肩を震わせ、おずおずと前に出た。

男はクロメが使った刀とは別に用意されている刀をギン手渡した。

残された面子も、いきなり人が殺される所を見せつけられたため気分が悪そうだ。

しかし男には関係ない。

 

「さあ、やりたまえ」

 

連れてこられた罪人に向ってギンは駆けだした。

 

 

 

 

 

 

兵の中に混じっている、ムソウの部下である諜報員は、現状を確りと頭の中に記憶していた。

堂々と何かに書いていたら、それこそ『私はスパイです!!』と自らばらしていることになる。

そのため、諜報員には記憶力や捕まった時のために、自決手段が最低でも二通り以上用意することが義務づけられている。

他にも逃走手段や、変装術、暗殺術など広く深く技術技能を持っている。

それほどの技能を身に着けていなければ諜報員は務まらないのだ。

 

「さすがにまだ子供か。使えるようになるには、まだ時間が掛かるようだが中々の人材たちだな」

 

ムソウに提出する報告書に何と書いたものかと諜報員は悩んでいた。

現状をそのまま書き連ねて提出しても問題はないが、その程度のことは他に潜入している諜報員が、既に提出しているであろうことは予想できる。

ムソウが気に掛けている機関に対し、諜報員が一人だけということはまずありえない。

他の諜報員と決定的に差をつけるには、どうしても報告する内容の質が左右する。

 

「後は、最近出入りしているスタイリッシュくらいか……」

 

諜報機関の長とスタイリッシュが、近頃二人っきりで良く話をしているのは有名だ。

何について話をしているのかは誰も知らないし、知らされてもいない。

調べるだけの価値は十分だろうが、危ない橋を渡ることになるのは、誰の目から見ても明らかだ。

だからこそ、その情報に価値があるのだが、一人で調べるにはリスクが高すぎるのも事実であり、他に入り込んでいる諜報員と手を組むのも考えられる手段である。

しかし他の諜報員までもが見つかってしまった場合のリスクも考えると足踏みしてしまう。

そんな時であった。

 

「ああ、君」

 

「はっ!!何でありましょう?」

 

いきなり背後から諜報機関の長である男に声を掛けられたのだ。

 

「ドクターの元へ行って制作状況を確認しに行ってくれ」

 

「ドクタースタイリッシュの元へですね」

 

「出来るだけ早く結果を出したいのでね。遅れている様なら速める様に催促して来てくれ。何ならある程度の報酬を払っても構わん。そこの采配は君に任せる」

 

「了解しました」

 

いきなり呼びとめられたことに驚いていたが、これはチャンスだと諜報員は思った。

制作状況が何を指しているかは、諜報員にはおおよその見当はついている。

ドーピングするための薬物だ。

被検体のことなど無視した物で、副作用や後遺症など一切考慮していないものだ。

詳しい実情は知らないが、ある程度の情報は諜報機関に働いていればおのずと耳にするものだ。

向かう先が向かう先のため、その足取りは決して軽やかではないが、ムソウが望む情報を手に入れるため向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告御苦労。下がっていいぞ」

 

ムソウは、報告書を提出した諜報員を下がらせると、報告書に目を落とした。

ムソウの執務室内では、報告書をめくる音だけが静かに立っていた。

報告書を読み終えたムソウは、軽く息を吐いた。

 

「思ったよりも早い段階で、面白い情報が手に入ったな」

 

諜報員の有能さに、ムソウは満足げな表情を浮かべていた。

諜報機関に入り込んでいる者からの報告書には、買い取った子供たちをドーピングで、地力を底上げすること。

更に子供たちをランク分けしていること。

最も興味が引かれたのは、ランクが8位からしか存在していないことだ。

つまり上位7人は、どこか別のところにいると言うことになる。

諜報機関であるのにも関わらず、数日と掛からず情報が手に入るのだ。

諜報機関でありながら、簡単に情報が知れるこの体たらくでは、その機能や存在意義そのものを疑ってしまう。

 

「そうなると、もう一方の方も、少しばかり力を入れて調べさせるか」

 

北西の辺境にあるロウセイ山。

その近辺に新たに生まれた村。

新たに生まれるにしては、タイミングが良過ぎるため疑うなと言う方が無理である。

そのためすでに何人も諜報員を派遣してはいるが、場所が辺境に位置している関係もあり、未だに情報は入って来てはいない。

最悪の展開としては、諜報員が全て消されていることだ。

内容が内容のため年単位で音信不通もありえなくはないため、ムソウとしても迂闊に動いて職務の邪魔をするわけにはいかない。

そのため、どんなに情報がなくとも生存報告を兼ねて5年に一度は報告書を提出させるようにしている。

任務前に事前申告がなければ、消されたと判断するための判断材料にするためだ。

 

「別件で北方太守を調べさせているが中々尻尾を出さないか……最悪、道中少し遠回りになるが直接出向くか」

 

北の異民族と領土が隣接しているラクロウ城、その太守が内通している可能性が出て来ている。

完全な確証がないため、諜報員と保安部員を既に派遣しているが、流石に太守と言う地位。

異民族と内通すると言うリスクを冒しているだけあり、未だ尻尾を出してはいない。

まとめて処理するか、ムソウはそう結論づけると、次の案件に思考を切り替えた。




誤字がないか日頃から探してはいるんですが、中々見つからないです。
評価を付けてもらえるのは嬉しいのですが、そのたびに誤字が指摘されていて……

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