ナイトレイド side
「今回の案件は、安寧道と呼ばれる広く民衆に信仰されている宗教だ」
「あ、それ俺の村にも広まって来てたぜ!!旅立つ時に村長が渡してくれた神の像もその宗教のヤツだ」
その像のおかげでアカメの持つ帝具村雨から助かったんだと思うと、タツミは改めて像を持たせてくれた村長に感謝の念を送った。
それと共に、金を盗られた時本気で売ろうと思ったが売らなくてよかったとその時の自身を褒めてやりたいとも思っていた。
「安寧道はこの10年で信者を増やし帝都の東側で大きな勢力となっている。近々この安寧道が武装蜂起、つまり宗教反乱を起こす、私達はこれを利用する考えだ」
「ちょ、ちょっと待て、そんな反乱が起きたら一体どれだけの民が死ぬんだ!!むしろ反乱は止めた方がいいんじゃないのか!!」
「帝都の腐敗政治は民を虐めすぎた。安寧道の反乱を防いだとしても必ずどこかで民衆の怒りは爆発する。もうそこまで末期に来ているのだ……この国は」
タツミの言いたいことは分かる。
ナジェンダとて、意味もなく人が殺されるのを嫌い、革命軍へと入ったのだ。
だが、人の上に立つ存在となると必ずどこかで決断しなければならない時が来る。
今回がまさにそれだ。
悔しい、悔しくないと言った私情の問題ではないのだ。
ナイトレイドや革命軍は簡単なミスが即死につながる。
そのことはタツミとてナイトレイドに入ると決め、仕事をしてきて十分わかっている。
だからと言って、「はい、そうですか」とそう簡単に割り切れる問題でもない。
「まあ、話は最後まで聞いて方がいいよ」
葛藤に駆られているタツミを見て、チェルシーはため息を吐きながら言った。
「前に話したバン族の反乱や北の勇者のことは覚えているだろう?」
「どちらもエスデスに鎮圧された反乱だろ?」
「あれの失敗は単独で帝国に楯突いてしまったことにあると思う。帝国の力は未だ強大だ、安寧道の反乱だってしばらくすりゃ鎮圧されちまい多くの血が流れる」
ラバックがタツミを諭すように言い切った時だった。
「そこでいよいよ革命軍の出番だ」
バンッと叩きつける様にナジェンダは地図をテーブルに広げながら言った。
「安寧道の武装蜂起が始まった瞬間、私達と同盟関係にある西の異民族や帝国打倒の暁に不可侵条約を結ぶことで利害の一致を計った南と北の異民族に攻め入ってもらう。これで帝国は内外を敵で包囲されてしまった状態になる。だがそれでもまだ持ちこたえられるだろう。そこでトドメとして革命軍が南側で武装蜂起開始、帝都へ向けて進軍し、帝国を打倒する」
帝国の外側を取り囲んでいる異民族全てが同時に攻めて来たのならば帝国軍の戦力を大幅に割かなければなくなり、さらに武装蜂起の鎮圧に革命軍の蜂起へ地方軍に帝都に常駐している帝国軍を向けさせなければなくなり、帝都に残るのは帝都警備隊と宮殿を守護する近衛だけになる。
脅威となるエスデス軍や武装親衛隊は異民族の方へ向かうと予測されており、帝都で脅威となるのは近衛だけということになる。
「なるほど、三段構えってヤツか」
「帝国は革命軍をナめているのさ。反乱分子と言う膿を一点に集めているからありがたいとすら思っている。拠点は帝国の辺境だ。そこから帝都にたどり着くにはいくつもの関や城を突破しないといけないが、私達は既に何人もの城の太守に内応を取り付けてある。中央でまじめにやってた連中が左遷されたケースも多いからな、話は通しやすかった」
むろん話を通す際、難航する場合もあった。
地方に左遷されたからと言って大臣の手の者がいない訳では無い。
そう言った輩は、大抵常に賄賂を受け取り、酒と女を楽しんでいるものだ。
だが、大臣の手の物である事には変わりなく、大臣の名を笠に着て太守を脅す場合も暫し見受けられた。
そう言った奴を狩ることで、話を通しやすくすることもあった。
最も難航したのは、保安本部の者が出入りする所であった。
下手に狩ろうものならば、すぐさま保安本部が動きだすのが目に見えており、話を通すどころでは無くなり、逆に自身の首を絞める結果となってしまうのは誰の目から見ても明らかだ。
だが、情勢が不安定なためかムソウの配下である保安本部の者は引き揚げ代わるように帝都の文官が左遷されてきた。
討つべき相手である大臣に感謝する日が来るとはその日まで誰も思わなかったと言う。
「だが、それでも帝国の切り札であるブドーとその近衛隊が迎撃して来るだろう。しかし宮殿の警護力は激減するわけだ」
「その時こそ大臣暗殺の好機……私達は宮殿に突入し大臣を葬る!!帝都を中から切り崩すんだ」
アカメの今までにない気概を感じタツミは自身が未だどこか甘かったと恥じた。
徹底的なまでに準備をし、多くの犠牲を払ってでも帝国を変えようと思う志を持つもの達が集まっているのだ。
私情一つが志半ばで倒れた者達を侮辱する行為であるとタツミは改めて理解した。
「ま、ああいうずるがしこい奴は最後に逃げちまいそうだからな」
「そんなことさせない、元凶なんだ。キッチリ死んでもらわないとな」
ラバックが笑いながら冗談じみた風に言ったことに、レオーネは子供が見たら怯える様な雰囲気を纏いながら手の骨を鳴らした。
「西の異民族には協力の見返りに領土を返還すると言うことで話は着いている。南と北はさっき言った通りだ」
「返還?」
「もともと、帝国の西に在る一部の地域は異民族のモノだったのよ。それを奪還するのが悲願みたい」
マインは腕を抱きしめる様にしながら悲しげな表情を浮かべた。
それを見かねたシェーレがマインの後ろに回るとそっと抱きしめた。
「シェーレ?」
「大丈夫ですマイン、きっと革命は成功します」
「帝国が崩壊し悪法がなくなれば民の怒りも収まる、迅速に帝都陥落まで事を運べば流れる血も少なくて済むだろう。納得いったかタツミ?」
「ああ、途中で突っかかってゴメン」
「計画が出来ているなら後は実行するのみだが……それが出来ない問題が今回の仕事につながってくる訳だな」
一瞬ナジェンダは、呆けた表情をした次の瞬間――
「その通りだスサノオ!!流石私の帝具だ!!」
自身の帝具であるスサノオを喜びながら褒め、それを見ていたラバックはスサノオに敵愾心を露わにしていた。
ある意味お約束な展開で、緊張感が漂っていた室内の空気が少しばかり和らいだ。
が、ナジェンダが次に発した言葉が一気に室内に緊張感を戻させた。
「全ての鍵を握る安寧道が、今、内部は揺れているらしい」
安寧道は、絶大なカリスマを誇る教主の力で一気に急成長した。
その教主の補佐で信任の厚いボリックがいるが、それは大臣が送り込んだスパイである事は既にナイトレイドの面々は説明されている。
「ボリックの目的は安寧道を掌握し、武装蜂起をさせないこと、何時か教主を殺して本当の神にしてしまい自分が頂点に立つ気なんだ」
煙草に火を付けながらナジェンダは、説明する。
「内部に情報を渡して粛清する事は出来ないのか?」
タツミの意見はもっともだ。
だが、事はそう簡単に済むものではない。
「ボリック派と言われる連中が大きな権力を握っている、それに帝国のバックアップがあるからな」
肺を満たしてる煙を吐き出しながらナジェンダは残念そうに言う。
「そこで今回の任務だ。私達は安寧道の本部まで行き、ボリックを討つ!!奴は一部の信者には食物に少しずつ薬を混ぜて中毒にし忠実な人形としている外道と言うことが密偵の報告で確定している。遠慮はいらんぞ」
ナジェンダの言葉に一人の男と一体の帝具が今までにない気迫で立ち上がった。
「きっと女をとっかえひっかえして遊んでいるだろうなあ」
「食材に薬を盛るとは食材に対する侮辱でしかない…」
「「絶対に許せねぇ(せん)!!」」
怒るポイントこそ話の全体からズレている者の、通じ合うところがある二人は見つめ合い手を取り合った。
女には分からない男同士だからこそ通じ合うものが二人の間に芽生えた瞬間でもあった。
「どうせすぐラバックがスサノオに敵愾心を抱くだろうな」と誰もが思ったが、口にすることはなかった。
「最後にイェーガーズとムソウについて、イェーガーズは今全力で私達を狩ろうとしている。このまま後手後手ではいつか捕まってしまうと確信した」
「実際踏み込まれた時も私の能力じゃなきゃヤバかったしね」
財政官を暗殺した時、ナイトレイドが来ることを予め予知していたかの如く踏み込んできたイェーガーズだったが、紙一重で気づくことが出来チェルシーは助かったのだ。
チェルシーの場合、最悪保安本部としての肩書を使い、ムソウの命令で革命軍に潜入捜査をしており、信頼確保の一環でやったと言えばいくらでも助かる余地はある。
むろんそのことをこの場にいる者達全てが知らないので、そのようなことを言うつもりは毛頭ないし、ムソウの信頼を裏切るようなことをそもそもチェルシーはするつもりはない。
「ならば今回、帝都の外まであいつらをおびき寄せて、そこで仕留めようと思う」
「いよいよ全面対決ってわけね!!」
シェーレに後ろから抱きかかえられていたことで落ち着きを取り戻しいつもの強気なマインへと戻っていた。
「イェーガーズの中でもクロメとボルスは機会があれば消しておいてくれと本部から依頼が来てるしな。そしてムソウだが、あれの相手は現状するな、あれの相手をしていては犬死を増やすだけだ。本部も何度か交渉役を送った様だが、その全てがムソウに接触する前に消されている。しかし、奴が敵であるか味方であるか、それだけで大幅に革命を有利に進められる。そこでだ、チェルシーお前にムソウとの交渉役を頼みたい。お前の帝具ならば潜入も楽なはずだ」
「……それって、私に死ねって言ってるような気もするんだけど」
傍目から見たらそうだろう。
何せムソウの相手をしろとは即ち死ににいけと言っていると同義だ。
チェルシーの本来の立場ならば会うのも容易だろうが、そうならばナイトレイドや革命軍に正体がばれることになる。
そうなれば、ムソウの手を煩わせてまで偽の死体を用意してもらい保安本部復帰が遅れることになりかねない。
それだけはチェルシーは避けたいと思っている。
「確かに、内容を考えるとそう取られても仕方がない。だが、それが可能なのはチェルシーお前だけだ」
「……はぁ~分かりました。やりますよ」
頭を掻きながらチェルシーは任務を受けることにした。
最悪、失敗したと言うことにして偽の死体を使っても良い。
予定が少し変わるだけだ。
背中を壁に預けながらチェルシーは今後のことを考える様に天井を見上げた
side END
ムソウはいつも通り執務室で書類の決裁を――してはいなかった。
帝都から南西、西と南の異民族そして帝国の領土の三つが面している常に張り詰めた空気が満たしている土地へと来ていた。
土地柄常に警戒をしており、その関係上武装親衛隊の師団が3師団配備されている。
そのため最もムソウの息のかかった土地と言っても良く、だからこそ大臣に知られてはいけない様な危険な兵器や実験を行うことが出来る場所だ。
そんな場所に来た理由は一つだけ、完成したと報告があったP1500モンスターを実際に見るためだ。
史実では、巨大すぎる性質上どうしても避けられなかった重量を超級危険種を素材とすることでクリアしたP1500モンスター。
しかし、実際に目にしてみると圧倒的質量感を醸し出し、常に整備を怠っていない印と言わんばかりに機械油のにおいが発している。
全長42メートル、全幅18メートル全高7メートル総重量は、1500トンを大幅に減らし750トンと半分の重量へとなってなお、それ以上の重量を感じさせるP1500モンスターにムソウは満足げな表情を向けていた。
「これはいつでも稼働可能か?」
ムソウは、P1500モンスターから目を離さず、一歩下がった位置にいる親衛隊作戦本部局集団A,Amt VIII 兵器局局長へ問い、局長は間を置かず、
「可能です」
その返事にムソウは更に満足した表情をした。
「他の兵器はどうだ」
「P1000、ラーテの建造も順調です。他の車輌兵器は整備を万全にしており、いつでも命令一つで動かせます」
「まだ時ではない。しかし準備は怠るな」
「はっ!!」
機械が金属を削り出す甲高い音に、溶接するために発生する強い光とP1500モンスターを中心にあちらこちらでラーテを建造するため多くの人が工廠で汗水たらしながら働いていた。
そこから一区画先になると、圧倒的数量の戦車が並んでおり、ヤークトティーガ―、ティーガーI、ティーガーIIと言った連合国を苦しめた第二次世界大戦時の有名な戦車だ。
そして第二次世界大戦時に存在した機械的欠点を見逃す程甘いムソウではなく、欠点などは優先的課題とし改善策を講じさせ、あらゆる方法を使い既に改善されている。
その先区画を抜けると、大きな鋼鉄の扉が道を塞いでいた。
鋼鉄の扉が、重低音を鳴らしながらゆっくりと開き眩しい光が差し込んで来る。
ムソウは躊躇することなく歩み進め、目が段々と為れていき、光が差し込んでくる先には規則正しく整列されている武装親衛隊の姿があった。
三つの師団と言うこともあり人数が膨大であり見渡す限り人人人である。
しかし武装親衛隊全体から見たら極一部の人数でしかない。
これ程の相手をしなければならない相手はどれだけ不憫であるか、ムソウの一歩後ろを着いて歩いて来た兵器局局長は思った。
そして、それだけの者を統べる者に近しい位置に居れる自分がどれだけ幸福であるかということを再度認識し、これからどこへと向かっていくのかとても期待した眼差しを向けていた。
「決断の時は近い」
ムソウがどちらの勢力に着くのか、その決断次第で全てが変わってくる、それは革命軍、帝国軍、ナイトレイド、イェーガーズその全てが知っていることだ。
「戻るぞ、帝都へ」
人が次第に朽ちゆくように国も何れは滅びゆく――――――――
新国家の誕生を目指すために光を捨てた者達と、国を護るために国の闇を知って行く者達――
思想、理念、目的、全てをたがえた彼らは避けられぬ運命によって、衝突の日を迎える。
必殺の武具をその身に纏い決戦に挑む!!
この時は、誰もが知らなかった――
黄金の獣が刻々と己の爪牙を研ぎ澄ましていることに――