獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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11月23日一部編集

20150105 誤字修正


獣と変態

「ふふ、臭いや足音を消した努力の痕跡、それは認めるわ。でも匂いってものは限りなく消しても完全には消しきれない。それをアタシの手術で嗅覚を強化したものが追えば」

 

「スタイリッシュ様、臭いはこちらに続いています」

 

異常なまでに鼻が肥大化し、最早くちばしと言ってもいい大きさの鼻を持つおさげの髪型をし、のっぺりとした表情の読み取れない仮面をしている者が言った。

 

「ありがとう”鼻”。初めての実戦投入だけど予想以上の性能よ」

 

「前方に糸、結界の様です。私と同じ動きで避けてください」

 

そう言ったのは、眼が異常なまでに大きくなり常人の二倍ほどあろうかというもので、ベレー帽に革のジャケット、短パンを着た全身筋骨隆々の大男。

 

「さすがね”目”」

 

「前方から微かに人の声が聞こえます」

 

そう言ったのは耳が異常なまでに肥大化し、頭よりも大きく上まっているほどで、唯一一目で性別が分かる女の子だ。

 

「いい感じよ”耳”」

 

スタイリッシュは、五感の内一つだけを極端に強化した強化兵の性能にとても満足気味だった。

 

「それにしても、まさかムソウ様の方からご使命があるとわね。んもう、頑張るしかないじゃない」

 

スタイリッシュは、ムソウからの直々の命令に歓喜していた。

収容所から罪人を融通してもらうこともあったのでスタイリッシュからしたら、全くの初対面と言う訳では無かったが、ムソウからしたら一科学者程度の認識しかなかったので、それ程気にも留めていなかった。

良くて精々優秀な科学者である、程度の認識だが、イェーガーズ発足を気に裏取りから経歴までを含め詳しく調べさせたら、なかなかどうして使い勝手のよさそうな科学者ではないか。

特に独自の技術で強化した兵は使い捨て出来る便利な駒ではないか。

ならば、使い潰した所で、こちらとしてはどうということはない、と言う考えに至り、今回の任務にスタイリッシュの私兵を含め起用することにしたのだ。

スタイリッシュ自体を失うのは惜しいので、後詰にアインザッツグルッペンと言う、凶悪な虐殺部隊を控えさせているのだ。

 

「うふ、招集をかけたコマが揃い次第、スタイリッシュに侵攻開始よ」

 

顔は男らしいキメ顔なのに口調がオカマなので全てが台無しな、スタイリッシュだった。

 

「スタイリッシュ様、到着しました」

 

「あら、早かったわね、トローマ」

 

「カクサンやトビー、強化兵も間もなく到着します」

 

「そう、ならトローマ、貴方は先行して敵地へ侵入なさい。なるべく損壊なく殺しなさい」

 

「任せてくださいスタイリッシュ様!!」

 

ジャケットを開けさせ、ジーンズを着こなし、つばが広く薔薇のような造花のアクセントが付いている帽子をかぶっている天然パーマな男、トローマは相手に気取られない様に姿勢を低くし駆け出した。

 

「スタイリッシュ、首尾はどうだ?」

 

「あら、ムソウ様じゃないですか!!どうしてここに?アインザッツグルッペンの指揮を執っているのではなかったのですか?」

 

「問題ない、むしろここで見ていた方が状況を把握しやすいからな。それに強化兵が使い物になるのか実際この目で見て見ないとな?前回の任務ではその性能を見せてもらっていないしな」

 

ムソウはそう言うと、腕を組み岩山の切り立った崖を切り抜いてその中に作られている砦を見ながら言った。

まだ、ムソウ自身はここがナイトレイドのアジトと断定できている訳では無かったが、砦の最上部に刻まれている紋章はナイトレイドの物で間違いない。

ナイトレイドを語った偽物でない限り、ここがナイトレイドのアジトだ。

ムソウはそう確信していた。

 

「任せてください、ムソウ様!!私の強化兵はとてもいい子達ばかりですから」

 

スタイリッシュは自身の体を抱きしめるようにしながらキメ顔で行った。

 

「けひっ、やりましたスタイリッシュ様。このトローマが一人仕留めましたぜぇ!引き続き任務を続行します!――とのことですスタイリッシュ様」

 

片膝を着き、何かを聞くことを集中しているスタイリッシュは”耳”と呼んでいる女の子が言った。

 

「上出来よ、さすが桂馬の役割、敵地へ飛び込んだわね」

 

スタイリッシュがそう言っている間にも、背後の森の中には続々と気配が集まりだしていた。

スタイリッシュも自身の強化兵だからか、その存在に気づいており、機が熟したと感じ取っていた。

 

「さあ、チーム・スタイリッシュ、熱く激しく攻撃開始よ!!」

 

スタイリッシュが熱烈に言い放つと、森の中から大勢の気配が文字通り飛び出しナイトレイドのアジトへと攻め始めた、スタイリッシュの傍に居た”目”、”鼻”、”耳”に加え、”目”以上に筋骨隆々で、腕の太さなど大木並みに太く、顔はとても濃い男や、見た目はインテリ系で、眼鏡をかけたメカメカしい体を男たちは、それぞれジョジョ立みたいなポージングをしていた。

 

「いい!?なるべく死体は損壊しないで持って帰るのよ!生け捕りなんか出来た人は一晩愛してあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

所変わってナイトレイドアジトでは――

 

「クソッいきなり大量の敵!?しかもこんな近くに!!」

 

ラバックは自身の張り巡らせた糸の帝具、千変万化”クロステール”の糸の結界を通り抜け、かなり接近されていたことに焦っていた。

早くみんなに伝えないと、そう思い急ぎみんなの元へと向かっていた時だった。

天井が壊れながら人影が落ちて来た。

 

「……中まで入りこんでいるのか」

 

「敵……コロス!」

 

それだけを言うと落ちて来た敵は低い姿勢のまま襲い掛かって来た。

ラバックはそれを右に避けながら、糸を操り敵の首に巻きつけ締め上げた。

ゴキッと、骨の外れる音が響いた。

 

「まずいな、早くみんなと合流しないと」

 

敵が思っていた以上に内部まで侵入していたことが更にラバックを焦らせる結果となった。

だが、それでパニックになるほどラバックも馬鹿ではない。

まず敵の数が把握できていない今は、まず仲間と合流してから反撃に出る。

ボスであるナジェンダがいない以上、それが適切な判断だ。

そう思った時だった、確かに首の骨が外れたはずののっぺりとした仮面をしている敵は、外れた首のまま背後にいるラバックを見つめて来たのだ。

そして、一閃、鉤爪の着いた右手で横薙ぎにされそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「糸にはこんな使い方もあるってこと!」

 

ラバックはとっさに糸で急所や関節を巻きつけることで、衝撃を和らげまた攻撃から身を護った。

 

「そして、束ねればこんなことも!!」

 

右に左に上に下にと縦横無尽に糸を操り一つの形に束ねあげ、一本の槍を作り上げそれを襲い掛かってくる敵に投げつけ、その槍は敵を貫いた。

 

「グッ、ナントイウ応用力ダ……」

 

それだけを言うと、敵は今度こそ息絶え倒れた。

 

「俺は貸本屋、糸の使い方なんて店にある漫画にいっぱい書いてあるのさ」

 

カッコ良く決めたラバックは、背後にまた敵が現れたのに気が付いた。

 

「!また着やがった……の………か……だ、団体さんはちょっと、ご遠慮願いたいわけ、で」

 

頬を書きながら言ったラバックは、ぞろぞろと増えて来た敵を背に全力で走りだした。

今までで一番速く走れていると自負できる速さでラバックは駆けだした。

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!けっこう速ぇ!!」

 

全力で駆けぬけている時だった。

 

「私の後ろへ!」

 

「アカメちゃん!!」

 

生者に無類の強さを誇る帝具、一斬必殺”村雨”とナイトレイドでも一位、二位を争う強者であるアカメの登場にラバックは安心しつつも、フリルの着いた可愛らしいパジャマに着替えていたことに不謹慎ながら驚いていた。

アカメは右手で鞘を持ち左手で一閃、襲い掛かってくる大量の敵をたったの一撃で両断した。

 

「ヒュウー、さすがだぜ!」

 

「敵ながら見事な腕前」

 

「また新手!」

 

白く足元まであるコートを着ている細身の男と背後にいる巨体の持ち主二人が悠然とこちらへと向かって来ている。

アカメはその三人を見て強い、素直にそう感じた。

特に細身の眼鏡をかけた男が、後ろの二人よりも強いと感じ取っていた。

 

「我が名はトビー、アカメ殿に一騎打ちを所望する!!」

 

トビーはそう言うと、両腕に仕掛けられている刃を出現させながら駆け出し、これで攻撃すると思わせながら壁、天井を蹴り上げその勢いで跳び蹴り状態で足の裏に仕込まれている刃で首を斬り落としにかかった。

だが、百戦錬磨のアカメは一瞬で見切り、紙一重で避けると隙だらけに為ったトビーの背後を横一線切り裂いた。

ガキィン!!と切り裂いたはずなのに人が切れる音ではなく、金属と金属を叩きつけた様な甲高い音が鳴り響いた。

この手応え、さっきまでの奴らと違い全身が機械なのか。

全身機械となると、村雨の利点である傷口から呪毒を流し込むことが出来ない。

 

「アカメちゃん!!」

 

そのことをラバックも気づきすぐさま援護しに行こうとしたが、トビーとともにやって来た二人がその行く手を妨げた。

 

 

 

 

また別の場所では、インクルシオを身に纏ったタツミが壁を壊しながら外へと出た。

 

「うぉぉおおおおおらぁあああああああああ!!」

 

血反吐を吐くような大声を出しながら、スタイリッシュの強化兵の顔面、鳩尾、こめかみを撃ち貫き一撃でダウンさせた。

 

「出てきた、出てきたぁ!やあ鎧のにいちゃん。お前の相手は俺らしいぜ」

 

インクルシオを纏ったタツミが出て来るのを待っていたカクサンはその背中に合った巨大なハンマーを背負っていた。

 

「来ないのかい?鎧のにいちゃんよ!!」

 

カクサンは挑発気味にタツミに言うと、タツミは簡単にその挑発に乗り、村を出てから今まで愛用して来た剣で斬りつけた。

 

「無ん!!」

 

挑発に乗って来て斬りかかって来たタツミに対しカクサンは、カウンターではなく両腕を組み、頭を収め、中腰になると一気に前進に力を込めた。

ミシィッと服が破ける音がするほど膨張し、血管が浮かび上がるまでに固めた筋肉をタツミは縦に一閃、腕を切り落とすつもりで振り下ろした。

しかし、バキィっと人を切り裂く音ではなく、鋼の砕ける音が鳴り響くと共に今まで愛用していた剣をタツミは折る結果となり、動揺し一瞬隙を見せてしまった。

 

「肉を切らせて、骨を砕く!!」

 

カクサンは背中に背負っていた巨大なハンマーを勢いよく振りかぶると空中で身動きの取れないタツミがジャストミートする位置に落ちて来ると振り切ろうとしたタイミングで、ジェット推進力でハンマーは勢いを増した。

スタイリッシュがただのハンマーを渡すわけもなく、この巨大なハンマーは振り切る瞬間ジェット推進機で音速に近しい速度に増すようになっていたのだ。

巨大なハンマーに見合うだけの筋力と勢い、更にジェット推進機で増したスピードで吹き飛ばされたタツミはアジトにぶつかったが、その勢いを殺しきることが出来ず壁を壊し、崩壊した壁の瓦礫に埋もれてしまった。

 

「カハッ!!」

 

インクルシオの鉄壁の防御力で降って来る瓦礫で怪我をすることはなかったが、ハンマーの衝撃までは無力化できず、肺の中の空気を全て出してしまったタツミは、息の出来ない魚のように空気を求めるようにもがいた。

 

 

 

 

 

 

「予想通り、村雨とインクルシオに対して優勢です」

 

「計算通りね!でもカクサンにもっといい武器を渡せたらよかったのだけどね」

 

「ただ、歩兵がずいぶん倒されてます。雑音が多すぎて正確な情報は分かりませんが、深刻な被害かと」

 

「悲しい犠牲ね」

 

顎に手を置いてスタイリッシュは心底悲しそうな表情をしているが、その内心は全く違った。

ふふ、なーんてね。

兵隊なんざいくらでも変えがきくっての元々コイツらは罪人。

罪の減刑と引き換えにアタシと契約をしたつもりの間抜け達。

本当は死ぬまで、実験体なんだけどね。

 

「ふむ、スタイリッシュよ、このままでは全滅の様だな。数の利でせめて質で押し返されているようだが」

 

「ま、待ってくださいムソウ様。まだアタシは切り札があります!!」

 

スタイリッシュは、ムソウが心底失望したと言いたげな表情に慌てて訂正を入れた。

 

「まあ、いい。今回はあくまで性能テストだ。一般兵以上の働きが出来ているのだ、今後に期待しておこう」

 

「そ、それじゃあ」

 

「ああ、約束通り収容所に入れている罪人を好きな数、持っていくがいい」

 

「ありがとうございます。ムソウ様!!」

 

スタイリッシュはその言葉を聞くと、語尾にハートマークが付き、目線からハートを飛び出してきそうな程とてもうれしそうな表情をした。

元々一定以上の性能を示せたなら収容所の中の罪人を好きな数、持って行って良いと言う話だったのだ。

スタイリッシュの人体実験は、人の損耗量が半端ではない。

そのため、帝国の持つ大監獄からの供給だけでは、全くと言っていいほど実験体の数が足りていない。

そんなスタイリッシュにとって、ムソウからの提案はまさに渡りに船だったわけだ。

だからそこ、スタイリッシュはいつも以上に力が入れてる。

ムソウとしても収容所の罪人が収容所の中で行われていることに対して、余りが多く出ており、収容所内が飽和気味である現在互いに損の無い話である。

 

 

 

 

痛みをこらえながら瓦礫を払い、出てきたタツミに対し強化兵たちは容赦なく攻め立てた。

 

(エクスタス)

 

そう聞こえた瞬間、強大な光が辺りを埋め尽くした。

 

「何だこれは!!」

 

片手で目を押さえながらカクサンは吼えた。

 

「大丈夫ですか?タツミ」

 

「シェーレ!!」

 

「何、苦戦してんのよ!だらしないわね!!」

 

「マイン!!」

 

巨大な鋏の帝具、万物両断”エクスタス”を構えるシェーレに巨大な銃の帝具、浪漫砲台”パンプキン”を肩から提げているマインがタツミの前に立っていた。

 

「ちっ、雑魚は足止めも出来なかったのか。合流されてしまったじゃないか」

 

カクサンは、頭を掻きながらぼやいた。

 

「さっさと片付けるわよ、シェーレ」

 

「分かっています、マイン」

 

タツミは二人の息ピッタリの背中を見て、俺もすぐにみんなの足を引っ張らない様に為らなければ、とさらに決意を固めた。

 

「さっさと片付けるぅ!?おいおい今の状況考えてモノ言えよ!アジトを発見されて敵に突入されて、総攻撃喰らってんだよ!!」

 

「だからこそよ」

 

ピンチになればなるほどその威力が強くなるパンプキンにとっては、最悪な状況程その真価を発揮することが出来るのだ。

 

「すみません」

 

淡々とした口調をしながら、冷徹な表情でシェーレは巨大な鋏でカクサンの巨体を両断しようとした。

勢いをつけすぎておりバックジャンプでは間に合わない、左右からはあらゆるものを両断する刃、カクサンは上空にしか逃げる場所が無く、速度を殺すのではなく、利用し飛び上がった。

それをマインは、冷静に照準を合わせ、パンプキンから衝撃波を放った。

カクサンも言った通り、アジトを発見され、敵に総攻撃を喰らっていると言うピンチはパンプキンの力を最大限に発揮できる。

その状況から放たれる一撃は、天を貫かんばかりの威力を持ち、圧倒的熱量と衝撃波、上空に逃げたカクサンを文字通り跡形もなく消滅させた。

 

 

 

 

「……カクサンがやられました。歩兵もごっそりと数が減っています」

 

「あらいやだ、誤算だわぁ。仕方ないわね、こうなったら」

 

スタイリッシュが何かを言おうとした時だった。

”耳”が何かの音を感じ取り、空を勢いよく見上げた。

 

「空だ、何かが近づいて来る」

 

「え?それはどういう……」

 

次の瞬間だった。

圧倒的大きさを持つ何かが背後から風を切りながら現れた。

 

「特級危険種のエアマンタ」

 

「人が乗っています。あ、あれは!!元将軍のナジェンダです!!他にも二名乗っている模様です!!」

 

「なーんてスタイリッシュ!!特級危険種を飼いならして乗り物にするなんて!!」

 

「感心してる場合じゃありませんよ」

 

スタイリッシュは子供のように楽しそうにはしゃぎ、それを”鼻”が諌めようとするがスタイリッシュは聞く耳を持たなかった。

 

「どうやら、情報通りだな」

 

反乱軍の中でも暗殺能力では一、二位の力を持つチェルシーがナイトレイドに入るのは必然であり、百人切りと言われた元軍人のブラートが死亡したのでその補充要因としてチェルシーが入るのを事前に知っていた。

だが、このタイミングでナジェンダ諸共戻って来るとは流石のムソウとしても予想だにしていなかった。

今回の計画は思案から実行までほぼラグがなかった以上、反乱軍が事前に察知したとは考えにくい。

となると、ムソウが把握していない帝具が危険を知らせたか、遠見が出来る帝具で此方の動きを把握していたことになる。

それにスタイリッシュが率いている強化兵だが、今のレベルでの強化ではこれ以上の戦果を望む事は出来ないようだ。

そのせいか、続々とナイトレイドの面子がアジトから出て来ている。

一人もかけていない様子を見ると、最初のトローマの報告も誤報と言うことになり、実際に暗殺は失敗したことになる。

 

「どうするつもりだ、スタイリッシュ。どうやら一人も殺せていないようだが?」

 

「まだ、アタシにはこれがありますから」

 

そう言って、スタイリッシュは白衣の内側より細長い試験管を二つ取り出すと、それを目の前で投げ割った。

丁度ナイトレイドのアジトが風下のため、中に入っていた液体は直ぐ気化し風に乗って行った。

効果が発揮する量が流れるまで時間が少しばかりかかったが、その効果はてきめんで、インクルシオを纏っている者以外は生身であったため、抜群の効果を示した。

 

「毒か」

 

「切り札その1、スタイリッシュに配合した超強烈な麻痺毒、それも一気に最強を散布させて貰ったわ」

 

殺し屋ともなれば毒に耐性または、抗体を持っているものだがかなりの効果を示している辺り、伊達に帝国の中でも最上位に君臨する科学者ではない訳だ。

これで終わるか、と案外あっけない終わりだったな、ムソウは内心思った。

だが、それは帝国にとっては悪い意味で、ムソウとしてはいい意味で裏切られた。

ナジェンダが連れて来ていたうちの一人が、エアマンタより飛び降りて来たのだ。

頭の左右に角、大きく開いている袖口に、バッサリと切り開いている肩の部分に、白を基調とした宮司と神主の服装を足して割ったような感じの服装を更に戦闘向けにしてある。

そして、何より目立つのは胸元にある勾玉状の鉱石だ。

もし知識と情報が合っているならば、あれは生物型の帝具、電光石火”スサノオ”。

生物型の帝具ならば、スタイリッシュ得意する毒も効果の無い相手だ。

さて、どう対応するかとスタイリッシュを見ていると、どうやらナイトレイドの生け捕りは諦めたようだ。

 

「ふふっ、特別仕様の人間爆弾よ!これで一丁上がりね」

 

スタイリッシュの出したスイッチを押すと、強化兵たちは海老反りになりながら膨れ上がり連鎖的に爆発した。

爆発に巻き込まれたスサノオは、左腕は吹き飛び、所々の肉が抉り取られ焼かれていた。

次の瞬間、大気中に在る何かが破損部位に収束し始めると瞬時に修復していた。

やはり、帝具人間かと、ムソウは実物を実際に見たことがなかった為、確証を持てなかったが、実際に再生している所を目にしたことで、知識と情報が正確であったと確証した。

ムソウは確信しながら、後方に待機しているアインザッツグルッペンを呼び寄せるために胸ポケットに入れていた笛を取り出すとそれを勢いよく吹いた。

ピィィィイイイイイっと甲高い音が鳴り響き、それはエアマンタに乗っているナジェンダを含む、ナイトレイドの面々にも聞こえるほどだった。

音が鳴り響くと、後詰に待機していたアインザッツグルッペンはすぐさまムソウの元へと集まりだした。

帝国軍とはまた違う独特の軍服を身に纏い、濃密なまでの死を感じさせ、処刑場よりも濃い死臭を漂わせるアインザッツグルッペンは、その姿だけでも不吉さを感じさせる。

 

 

 

ナジェンダは笛の音が聞こえたと瞬間、そちらの方を双眼鏡で覗き、舌打ちした。

ナジェンダも元が付くとはいえ、帝国で将軍になった実力者だ。

帝国で要職についている者達でさえ、名を知ってはいるが決して口にしない禁忌に近い部隊、アインザッツグルッペン。

その存在を直接見た者は少なく、ナジェンダもムソウの背後に整列しているその部隊がアインザッツグルッペンである事は知らない、だが部隊が発する不吉な気配から整列している部隊がアインザッツグルッペンだろうと感が教えていた。

そして、何よりもまずいのはムソウの存在だ。

やっている職務は、文官職だがその武力はブドーやエスデスを優に超している。

そんなムソウが直接指揮を執っているアインザッツグルッペンの恐ろしさは、帝国最強の攻撃力を誇るエスデス軍や、帝都を守護している近衛部隊に並び称されるほどだ。

幸いであるとするならば、ムソウ直属の武装親衛隊が来ていないことだ。

武装親衛隊がもし展開していたのならば、既に全滅している。

それだけが、唯一の救いであるが、それでも現状が、崖っぷちに立たされていることには間違いなく、『不味い、このままだと全滅だ』と不安を駆りたてないため口にはしなかったが、内心思った。

ナジェンダは背中に冷や汗を掻きながら、どう対処すべきか考えていた時だった。

襲い掛かってくるとばかり思っていたアインザッツグルッペンが、急遽引き返したのだ。

運が良かった、今回はまさにその一言に尽きる。

しかし、ムソウ程の人物が目の前の敵を見逃すとは考えにくい。

 

「帝都で何があった……」

 

 

 

 

 

時間はほんの僅かばかり遡る――

ムソウが直接アインザッツグルッペンの指揮を執りナイトレイドを殲滅しようとした時だった。

緊急事態を伝えるべく早馬がやって来たのだ。

 

「このまま失礼します。スタイリッシュ殿の研究施設が何者かの襲撃に合い、研究所内に捕縛されていた、罪人や危険種が逃亡、帝都が大混乱です!!」

 

「なんですって!!」

 

スタイリッシュは、自身の研究施設が強襲された事よりも、せっかくの実験材料が逃げたことに対してショックを受けていた。

 

「報告ご苦労。直ぐ退却する」

 

目の前に獲物が弱った状態で居る。

これで狩らなければいつ狩るのか、ということになるが、事が事だけにムソウは今回は見逃す事にした。

それに、ナイトレイドと言う敵がいた方が、大臣の動きを鈍らせる事も出来る。

そう言った思惑もあり、ムソウは帝都へと引き返すために号令する。

 

「全軍!!急ぎ帝都へと戻るぞ!!」

 

ムソウは全部隊員に伝わるように声を張り上げながら告げた。

今回は相手の戦力も十分把握できたので、ムソウとしては最低限の目的を達することができた。

そのため、次があればその時いつでもムソウは、ナイトレイドを狩ることが出来る。

ムソウはナイトレイドのいる方を一瞥すると、馬に乗り急ぎ帝都へと戻った。




何とかナイトレイドの面々は生き残ることが出来ました。
運が良かった、今回はそれに尽きますね。
最初からムソウが動いていたらと思うと、ゾッとしますね。

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