獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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エスデス様が可愛すぎたので書いてしまいました。
文章も短いですがご了承ください。



11月21日一部編集


黄金の獣ムソウ

人が次第に朽ちゆくように

 

国もいずれは滅びゆく

 

千年栄えた帝都すらも

 

いまや腐敗し生き地獄

 

人の形の魑魅魍魎が我が者顔で跋扈する

 

誰が言い出した事か、市井の間で囁かれるそれは、まさに真実であり現在の帝都の姿だ。

ただただ、弱者は搾取され、気まぐれで殺され、犯される。

誰もが暴力や権力、武力、財力と言った”力”に逆らえずなすがままに流される。

そしてこの帝国で最も権力を持ち、千年帝国を破滅に誘っている男こそ、暴飲暴食の権化であり三大欲求の中でも食欲を何よりも優先している超肥満体型の男であるオネスト大臣だ。

そのオネスト大臣と長い宮殿の廊下をともに歩いているのは、獅子の鬣の様な雄々しさを持つ黄金の髪、全てを呑み込むかのような王者の瞳も、やはり黄金。

人体の黄金律を表すような肉体を持つ男こそ、帝国の帝国保安部長官兼諜報部長官である黄金の獣と言われている、ムソウだ。

 

「大臣頼まれていたものだ」

 

「さすがムソウ長官、仕事が早いですな。これで陛下もお喜びになりますぞ」

 

そう言いながら、常に何かを食べている手を止め資料を受け取ると内容をパラパラと捲り見た。

そして、資料を見終わると資料を懐へと入れ食べ始めた。

 

「内容も完璧ですぞ。これで――」

 

そう言うと、大臣はより一層悪い顔をしながらニヤケたきった表情をした。

 

「では、私はこれで失礼する。今日は街を見て回る日だからな」

 

「相変わらず酔狂ですな。部下や保安部、帝都警備隊などに任せればいいですのに」

 

「これも上の仕事だ。下の仕事を理解できずして支持は得られぬからな」

 

ムソウは狩りをする獣のような顔で言い放つと、大臣から離れて行った。

ムソウの放つ言葉は、どれもがカリスマ性を感じさせるものだ。

だが、現状はまだ明確に敵対していないものの、お互いが何れは敵になると認識しているためか、それとも自身の欲望に忠実であるからかは分からぬが、大臣にムソウのカリスマ性が上手く発揮していない。

いや、発揮していないと言うのは語弊がある、性格にはそのカリスマ性を危惧していると言うべきだ。

 

(ムソウは公私を完全に割り切っている。それに政治に置いて文官でありながら武官、武官でありながら文官でもあり、帝国最強である彼女や大将軍を上回る世界最強の武力を持ち、頭も良く切れる。そして何より私と水面下で敵対しておきながらも簡単に殺せない。私の元にいる者や大将軍の庇護下にいる者達、良識派、大将軍の派閥にいる者でさえ必要とあらば裁く。そして、必要とあらば街一つを大虐殺も厭わない胆力と判断力。危険な存在ではあるが、あれが誰かの下に付くことはない以上反乱軍に加わることはない、それを断言できるだけは安心できますな。だがいつ表だって敵対するか分からない以上、どこかのタイミングで暗殺しないといけませんな)

 

大臣は自身が帝国を反乱軍などと言う不安分子を完全に排除したのち、完全に牛耳った後、ムソウが獅子身中の虫ならぬ、獅子身中の獣になることを恐れている。

それと言うのも、ムソウが持つ帝具を危惧してだ。

大臣自身も、皇帝の一族に伝わる至高の帝具を押さえているので、生半可な敵など歯牙にもかけないが、ムソウが持つ帝具は別だ。

始皇帝が財力と権力にモノを言わせ作らせた49個目の帝具にして唯一欠陥を抱えた失敗作。

誰も適合し使用することが出来なかったどころか、誰も触ることが出来なかったのだ。

いや、それ以前に直視しただけで駄目だと言う時点でどうしようもない代物だ。

事実あれは、完成と同時に制作に携わった者達全てが死滅した驚異的な代物とされているが、真実はそうではない。

あの帝具を制作させたと言うのは、始皇帝の見栄であり本当は、ただただ地面に突き刺さっていただけだ。

いつからあるのか、それは誰にもわからぬことだ。

唯分かっているのは、そこに存在するそれだけで、その槍は周りに圧倒的存在感を無差別にふりまき、見た者の魂を蒸発させる。

そのため誰も使用できない物であり、朽ちることも錆びることもなく、その黄金に陰りを見せることなく、ただただ存在し続けていた。

そのため帝具が49個あると言うこと自体誰もが忘れ去って行き、帝国にいる者達は48個しかないと思っている。

49個目の帝具など、所詮は夢物語、御伽噺と時代が進むにつれ忘れられて行った帝具であり、それが存在すると証明するのは皇帝が代々受け継いできた帝具の目録に名が乗るばかりであった。

ムソウと言う適合者が現れるその日までは。

所詮は御伽噺とされていた帝具であり、皇帝が付けた名が聖約運命ロンギヌス、その正体は聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)だ。

唯一にして正当な継承者であるムソウ(ラインハルト)のみが操ることができ、帝国に若くして仕官し、圧倒的力と才を遺憾なく発揮し敵を蹂躙し、強くなっていった。

その実力と将来性を期待され、若くして上級士官候補生となり丁度その頃、時の皇帝と謁見する機会が生まれた。

ムソウの才と力に魅入られた皇帝はムソウをいたく気に入り、時の諜報部長官が歳で辞めるのと重なったためポストに皇帝の権限で付くことになった。

贔屓による幹部入りは、どこでもあまり良い顔をされないものだが、ムソウの場合はそうはならなかった。

最初の頃こそ陰口を叩かれたものだが、公私混同を一切せず、誰にも媚びず靡かず、仕事を真面目に忠実に、そして成果を期待以上に仕上げ、必要ならば帝都の重役や官僚、富裕層、貴族、王族であっても害に成りえるのならば諜報部を使い調べ上げては、監獄送りにした。

だからこそ周りの誰もが期待し認め、恐怖し畏怖するようになった。

そうしてムソウは着実に上に上り今の地位を手に入れたのだ。

 

 

現在では、その実力が認められてか国家保安部と諜報部のトップを兼ねており、やり過ぎる者は例えそれが大臣派、大将軍であるブドーの庇護下にある者だろうと容赦なく裁く。

そこには一切の例外が存在しない。

一切私情を挟まず、ムソウの中にある天秤は微動にせず、例外なく裁く。

そんな姿を見ていつしか、皆口にするようになった『あれは、人の皮を被った黄金の獣だ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

白い軍服に黒い外套を羽織ったムソウは、帝都の街を見て回っていた。

前皇帝陛下が亡くなり、新しい皇帝になってからと言うもの街には活気がなくなり、街の者達の眼から精気が消え失せるようになった。

それと言うのも、大臣が変わり今のオネストになってからだ。

現大臣オネストは、前皇帝がなくなると世継ぎ争いで一番幼い今の皇帝を勝たせることで、絶大なる信頼を得、今の地位と権力を手に入れた。

世継ぎ争いでは、ムソウは完全に中立であったため、誰もが欲する保安部と諜報部によりもたらせられる最新の情報と権力を使うことができなかった。

だからこそ、今の宮殿内でムソウは信用、信頼されていると共に恨みや妬みも一緒に買っている。

ムソウの中の天秤が一切ブレないのもあるが、一切ブレないがために諜報部の情報さえあったのならば、そう言った者達からは特に恨みを買っている。

そんなムソウが、兵舎前を通りかかった時だった。

兵舎から少年が勢いよく投げ捨てられ、ムソウにぶつかろうとした瞬間、ムソウは右手で優しく威力を落としながら少年を受け止めたのだ。

 

「大丈夫か少年」

 

「あ、ああ、すまねえ」

 

受け止められた少年は何が何だか理解できていない様だった。

しかし少年は、一目見ただけでムソウの力量を理解した、いや理解できなかった。

あまりにも圧倒的で、今まで出会った危険種が赤子のように思える。

それ程までに人と言う尺度で測ることの不可能な力がムソウと言う人の形をした器に収まっているのだ。

 

「人を投げるにしても周りを見てから投げるべきだったな」

 

「あんた、何を……む、ムソウ様!!」

 

少年を投げ飛ばした、兵舎で事務をやっている兵士は帝国内でも三指に入る権力者を前に振るえ上がっていた。

特にムソウは表向き不正や罪を犯す者には容赦がないことで有名だ。

自身の持つ権力を使い有罪を無罪に、無罪を有罪に仕立て上げる様なことはしないことから、市民からは大きな支持を得られている。

むしろムソウのことを恐れているのは、暴力や権力を笠に着て好き勝手している者達の方であった。

それこそ、一切の情が入る余地もなく滅ぼしにかかる。

危険分子であるかもしれないと言う憶測だけで滅ぼされた街も実際には存在している。

 

「で、何があったのだ?」

 

「それが、その、そこのガキがいきなり剣の腕の評価次第で隊長クラスから仕官させてくれと……」

 

頭を掻きムソウの機嫌を窺う様に言った。

 

「何だよ!!試すぐらいいいだろ!!」

 

「少年、名はなんという?」

 

「……タツミです」

 

「では、タツミよ。今、帝都でも不況の影響で職を探す者が大勢いる。それは兵士になるのも変わらない。特に今は兵士になろうとするものが大勢いてな、抽選制になるほどだ。だからお前だけを特別扱いできぬのだ」

 

「え、そうなの?」

 

ムソウが諭すように言うと、タツミは何も知らなかったのか、呆けた顔をして一瞬何を言っているか理解できなかった様だ。

 

「分かったなら、大人しく抽選を受けるか諦めるかだな」

 

それだけを言うとムソウはまた見回りをするべく歩きはじめた。

 

「おっちゃん。あの人誰だったんだ?まるで底か見えない」

 

「お、おっちゃん!?まあいい。あの人はムソウ様。この帝国で武力、権力共に三指に入るお方だ。あの人の前では嘘をつかない方がいいぞ。あの人は何もかもを見透かす眼力と嗅覚を持っているらしいからな。それでどうするんだ?受けるならもう一度書類を書きに来い。これで受けさせなかったと知られたら俺がムソウ様に咎められるからな」

 

それだけを言い放つと、事務をしていた男は頭を掻きながら兵舎に入って行った。

タツミは今後どうしようかなと、腐敗しきり、絶望する人々、搾取した金で豪遊する人々を平等に包み込み照らす青空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

それから二日後の朝のことだった。

 

「長官、朝から済みません」

 

軍の警備隊とムソウ直轄の保安部が朝から一つの富裕層の家に集まっていた。

元から目を着けていた一家の惨殺事件。

それだけならばどちらか一方が処理し、ムソウが書類に目を通して終わるだけだった。

だが、それが今帝都を騒がせている『ナイトレイド』と呼ばれる殺し屋集団の仕業ならば話が変わる。

奴らは帝都の重役や富裕層ばかりを狙う殺し屋集団であり、殺しの依頼は常に帝都に住む民からだ。

今まで殺された者達は、恨みを買う者や殺されても仕方がないと思われる者達ばかりなので同情の余地はない。

 

「やはり呪毒か……」

 

殺された護衛の男は、一目見ただけ分かるほど全身に呪毒が浮かび上がっている。

元からこの家の一家はやり過ぎていた。

諜報部によって情報が集まり、翌日にでも強制収容所に収容する予定だった者達だ。

むしろナイトレイドの手によって殺された現状の方が、この家の者達にとって幸福だったのかもしれない。

 

「後こちらで奇妙なことが」

 

そう言って部下に連れてこられたのは離れの倉庫だった。

中は凄惨なもので、この家の家主たちに拷問にかけられ殺された、地方の民の死体だらけだった。

その中で二つほど前日まで使われていた痕があるのに死体がない、と言う可笑しなものがあった。

 

「無くなったものは仕方がない。それより早く焼却部隊を呼べ、疫病の元になっては叶わん」

 

「はっ!!」

 

部下はムソウの命令を聞くと走り去って行った。

 

「所詮は弱者が淘汰される世界、か」

 

ムソウもまた青空を見上げながら誰にも聞こえない程度に呟いた。

何を思い何を想ったのかは、誰にも想像する事は出来なかった。


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