ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第七話 コミュニケートとイヤリング 初めての贈り物

 時は少し遡るー

 少女であるルイズがその可憐な容姿からは考えられないほどに不釣り合いな金属の塊を駆って訓練に励むようになる契機となった話。何故彼女が魔法に代わるような新しい力を身に着けようと思ったのか、

 

 

 

 ギーシュとの決闘の翌日、ルイズは自身の右腕に巻かれた包帯を外しながら窓外にいる自身の使い魔に話しかける。寮塔の三階に位置している彼女の部屋は本来であれば何者も覗きこむことは出来ない。しかし、10メイルを越える体躯を有しているメガトロンには関係の無い話であった。

 

 

 

「ドクターの治療ってば凄いわね!!もう後も残ってないわ」

 

 

 昨日までルイズの身体の至る所には酷い打ち身や打撲痕が散見されていたが、ドクターの治療を受け今日にはすっかり完治していた。今となってはどこを怪我していたのかを改めて探すことのほうが難しいくらいだった。

 ルイズは腕を振って自身の健常性をメガトロンにアピールするが当のメガトロンが真面目に聞いているかどうかは分からなかった。

 

 

 

「あともう少しで芋虫にしてやれたのだがな。下らない邪魔が入ってしまった。」

「邪魔?!邪魔って何よ!伝統のある決闘を続けようとしたことの何が邪魔だっていうの?!それに芋虫ってどーいうことよ。私がとめなければギーシュは芋虫になっていたっていうの?!」

「ああ、そうなるな。おしいことをした」

「馬鹿!ばかばかばかッ!!やり過ぎだって、何度も言っているじゃない。加減しなさい、加減を。」

 

 

 

 とルイズは癇癪を起しながらも必死にメガトロンに自らの主張を訴えるがこの懇願がどこまで通用するのかは分からない。いざというときはルイズ自らがより強く手綱を握らなければならないのは変わらなかった。

 ルイズはメガトロンに向かい合う。そして言った。

 話している内容は先ほどから一定の間をあけて繰り返しループしている。

 ルイズが主張する。メガトロンが否定する。この繰り返しだった。

 

 

 

「私はあなたの主として、あなたを監督する義務があるのよ」

「だから出来うる限りでいいの、私の目の届くところにいて欲しい」

「ほう、俺様の行動を制限するということか」

「そうよ。でも完全に枷をつけるわけではないわ。勝手に出かけることを控えたりあなたがどこにいるのかを私が把握していないという状況を減らしてほしいのよ。」

 

 

 それはルイズにとって大幅に譲歩した交渉内容だった。自らの使い魔を完全にコントロール下に置くことが出来ないのはルイズ自身がよく知っている。だがそれでもルイズがメガトロンという使い魔の主なのである事は変わらない。ある程度の影響力を僅かでも発揮しておきたいと願うのは主という立場の役目だろうか。もしくは、メガトロンの影響力の強さを考慮した上での提案なのかもしれなかった。

 

 

 

「それを許容することはできないな」

 

 

 メガトロンはにべもなく否定した。

 程度の違いこそあれメガトロンにとってそれはつまり首輪を嵌められた犬となって尻尾を振れということだからだ。メガトロンの存在が何者かによって制限されるということはありえない。起こりうる筈がないようなことを記憶が失われているとはいえメガトロン本人が受け入れることもまた出来ないのだった。

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 両者は言葉を発することなく向かい合っていたが議論は平行線だった。

 ルイズとメガトロンとの関係性は未だ不透明だった。建前上は主とその使い魔という関係性だったが。そのような単純な関係性でないことはルイズが一番知っている。

 張りぼてのご主人様と優秀な使い魔。

 この滑稽な関係をルイズは石に噛り付いてでも駄々を捏ねてでも維持しなければならないのだった。ほんの少しでも有利な形で。メガトロンという圧倒的な力を持った使い魔を監督し御するためには。

 

 

 

「はァ、ねえドクター。どうすればメガトロンを説得することが出来るのかしら。全部じゃなくてもいい、一部だけでもいいから何とかしてこの条件を呑ませたいのよ」

「交渉の手練手管に長けたメガトロン様を正面から相手取り説得することは困難でしょう。ほぼ不可能だと思われますが」

 

 

 

 変形し再びどこかへ飛び立ってしまったメガトロン。

 説得がかなわなかった残念感からルイズはため息をついた。思えばメガトロンを説得するのは土台無理だったのかもしれない。優秀な使い魔であるメガトロンと全くつりあいの取れていない出来損ないメイジである自分。交渉のテーブルにまともについてくれているだけありがたいのかもしれないが、

 

 

 そしてごく身近な相談相手から発せられた正論にルイズはがっくりと項垂れる。ルイズがメガトロンを召喚した日時からいくばくも経ていない。だがその短い期間に交わしたメガトロンとの会話から読み取れる知性の高度さを鑑みても、ドクターの言をルイズは棄却することが出来なかった。

 しかし、ルイズは諦めない。膠着した議論の風穴となる希望を含んだ言葉尻を捉えるとドクターにがっぷりと向き直った。

 

 

 

「ねえドクター、あなたは今、ほとんど不可能だと言ったわよね?ということは可能性は零ではないということよね?ん?一度言ったんだもん、嘘だとは言わせないわよ?」

「もう一度聞くわ。何でもいいの、何か有力な手段や方法はないかしら?」

「あります、というよりも現状メガトロン様を説得するためにはこれしか方法はないでしょう」

 

 

 

 追い詰められているルイズのやや脅迫的な懇願は置いておき、質問を受けたドクターはこともなげに言った。それはルイズよりも遥かに長くメガトロンとともに戦い生き抜いてきた彼だからこその達観した意見だった。

 希望を持たせるようなドクターの発言を聞いてルイズは目を輝かせながら返答を待つ。

 期待していた返答は端的で、それでいて辛辣だった。

 

「それは、こちらの主張を全面的に諦めることです。」

 

 

 

 

 ルイズは右耳に取り付けられたイヤリングを摩りながらルイズの与り知らないところ、遥か彼方を滑空しているであろうメガトロンに話しかけた。返ってきた返答は若干のノイズが混入していたが概ねクリアであり、会話に不都合することはなかった。

 

 

 

「どう?メガトロン、こっちの声が聞こえる?」

「ああ、聞こえている。」

「そう、よかった。じゃあ実験は成功ということでオーケーね。」

 

 

 

 そのイヤリングは黒い結晶体のような外観をしていた。

縦横ともに数センチメートル。薄板上の長方形型をしたそれは華美な装飾は施されていなかったが、落ち着いていて上品な雰囲気を感じることが出来る。驚くほどに軽く丈夫なそれはハルケギニアの科学力では到底なし得ないであろうほどの高機能性を有していた。

 ドクターから渡されたそのイヤリング。恐らく自分のために作ってくれたのであろうそれをルイズは大切にしようと決めた。

 

 

 自らの主張を諦めること。

ドクターの主張したそれはつまり、言い換えを行えということであった。

 

 

 こちらの主張を相手に認めさせるのではなく、相手側の主張を損なうことなくこちら側の要求を満たすこと。通常とは異なるアプローチをすることで、ルイズはメガトロンの主張と自身の主張、その両方を引き寄せることに成功した。むろんドクターの協力なしには不可能であった交渉の成立ではあるが、ルイズの粘り強い説得が功を奏したというのも大きな理由の一つであった。

 

 

 

 ルイズはメガトロンの現状を把握していたい。

 メガトロンは行動に制約をかけられたくはない。

 

 

 

 この二律背反を攻略する為にドクターが提示したのは簡易の小型双方向無線機だった。

これがあればいつでも相手のいる位置が分かるうえに離れていても互いに意思の疎通を図ることが出来る。結晶体のような黒い小型無線機は有事を問わずに役立つだろうとルイズは思った。何かがあればメガトロンを呼ぶこともできるし、こちらから赴くこともできる。使い魔を監督するルイズとしては願ったりかなったりの品物である。

 

 

これがあればメガトロンを完全に掌握できるというわけでは決してない。だがメガトロンとの緊密なコミュニケートを築きあげていくためには欠かせない代物だった。

 

 

 

 

 

 


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