第六話 新しい武器との出会い
トリステイン魔法学院から南へ5リーグの森の中、パンッという小気味の良い音が周囲に響く。森の中にある広場には、桃色がかったブロンドの長髪・鳶色の瞳を持った小柄な少女と一匹の巨大な獣がいた。鋼鉄製の巨大な獣は手持無沙汰に欠伸をし伸びをするように体をくねらせていた。のんびりとした空気が流れる中一人の少女だけが自身の至らなさを理由として悶絶していた。
「うぎぎぎぎッ、どうして当たらないのよぉおッ!!!!」
「ドクター!!まさか不良品を寄越したんじゃないでしょうねえ?だとしたら承知しないわよ!!白状しなさい!!」
小柄な少女、ルイズは己の両手で持っている小さな鉄の塊を振り回しながら叫んだ。その叫びに反応する者はいない。巨大な獣も、その体中に格納されているドクターと呼ばれたものもその身体から出てこようとはしなかった。
つまり不良品ではないということである。
ルイズの叫びは八つ当たりだった。誰でも好き好んでまともに相手をしようとは思わなかった。たとえそれが使い魔であったとしてでもある。
気を取り直してもう一度、塊を構えて引き金に力を込める。的に向かって高速の何かが放たれた。その塊から射出された何かは真一文字に空を切ると、一瞬で的を射貫きその先にある地面に突き刺さった。
「や………やったわ!!当たった!当たったわよ!!」
その様子を見たルイズは一人孤独に諸手を揚げて喜んでいる。快哉を叫ぶ声だけが森の中で木霊した。
「ルイズ様、もう気は済みましたか?」
「何を言っているのよドクター。練習はまだまだこれから始まったばかりよ!!」
退屈で仕方がない早く切り上げてしまいたいと言ったように、その獣の胸部格納庫から這い出てきた虫のような何かは言った。だが返ってきた溌剌とした返事を聞いてうんざりとしたように再びズルズルと格納庫へと戻るのだった。的に当たったかどうかといったようなことは彼らにとっては児戯に等しいのかもしれない。
その虫のような何かだけではなくその鋼鉄製の獣もまた蜷局を巻いて一ミリも動こうとはしなかった。もう既に飽いているのかもしれない。
だが、目の前にいる少女にとっては全てが初めてのことだった。ビギナーである彼女は一歩一歩地保を固めるために少しづつでもここから始めなければならない。
「さぁもっと練習しましょう!!」
そういってルイズは、それを構えなおす。その鉄塊は洗練された美しいフォルムをしていた。円柱状の穴が5つある部品が独特の形をしたフレームに覆われている。砲身は全長で5サントほどであろうか。小柄なルイズの手のひらにフィットした持ち手には赤くごつごつとした皮がまかれている。
誰に言われるでも強制されるでもなく彼女は一人発奮し、研鑽を積み重ねる。
それが何れ必ず必要になると、必ず自分のためになると彼女は内心確信していたからだ。