ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第五話 ヴェストリの決闘とルイズの意思

 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、風と火の塔の間にある中庭のことである。

 

 その広場は、これから行われる決闘を見物しようとする生徒たちで溢れかえっていた。

 青銅のギーシュとゼロのルイズの決闘はあっという間に広まり、殆どの学生たちの知るところとなっている。

 

 

「諸君!決闘だ!」

 

 

 その広場の中心には申し込まれた決闘を受ける男子生徒がいた。

 名はギーシュ・ド・グラモン。トリステイン軍を統括するグラモン元帥の一人息子だった。

 ギーシュは薔薇の造花を掲げ高らかに宣言をする。するとそれに応えるようにして見物人から歓声が巻き起こった。 広場の空気は完全にギーシュを後押ししている。

 

 

「ギーシュが決闘するぞ!相手はゼロのルイズだ!」

 

 

 ギーシュは腕を振って、歓声にこたえている。

 一方、決闘を受けたルイズは杖を握りしめ目の前の男子生徒を睨みつけていた。

 

「あの子ったらあいかわらずなんだから。まったく、お転婆な御主人様を持つと貴方も苦労するわね?」

「■■■■ッ」

 

 かたや人だかりの最前列では、ルイズの使い魔であるラヴィッジがギーシュを巨大な赤い単眼でねめつけている。その周囲は巨大な獣の迫力に気圧されて誰も近づこうとはしない。ルイズと馴染みであるキュルケとタバサ、という二人のトライアングル・メイジのみがいるだけだった。

 

 

 事の発端、それはシエスタという名の学院に従事しているメイドがギーシュの落とした香水を拾ったことだった。

 

 

 その香水を切っ掛けにしてひと悶着あり結果彼の二股がバレたわけだが、その結果ギーシュのプライドは大いに傷つけられた。そしてギーシュはその原因を彼女に擦り付け叱責した。完全な八つ当たりである。 二股が露見した原因が彼にあることは周囲も分かっているはずだが、誰もそれを注意することはない。それは貴族と平民という分厚い階級の壁が存在するトリステインでは当たり前の光景だった。如何に国家を背負う貴族であるといっても彼らはまだ幼くそして、無邪気に残酷だった。時々、野次や歓声を飛ばすことはしても目の前の罪無き少女を救おうとする気は無いらしい。

 平民と貴族との壁、階級制という根深い闇が見え隠れする光景だった。

 

 

 少女の顔は、既に気の毒なほど真っ青になり今にもその場に倒れそうなほどだった。

 ルイズの顔に怒りがこみ上げ始める。何故ならば、この光景は彼女の目指す貴族の姿とは似ても似つかないものだったからだ。その光景を見過ごせるほどルイズの心根は腐っていなかった。

 

 

「ギーシュやめなさい!」

 ルイズはそういって毅然と彼を諌める。ギーシュを含めその場にいた何人かが声の出どころへ視線を向けたが、その諫言の出所がルイズであることを知ると呆れたように肩を竦めた。またゼロが何かを言っている、位にしか思わなかったのだろう。道徳的にはルイズに理があったが、発言権の乏しいルイズが何を言おうがその言葉を素直に聞き入れようとする者はいなかった。変わらない態度を維持するギーシュたちにルイズは更なる言葉を畳み掛けた。

 

 

「もうそれぐらいにしたら? 元はといえばあなたが二股するのがいけないんじゃない。」

「その通りだギーシュ! お前が悪い!」

 

 ルイズの尻馬に乗った誰かがそう言うと周囲がどっと笑い出した。嘲笑によって更にプライドを傷つけられたギーシュの顔がさっと紅潮する。貴族にとって面子とは何をおいても重視されるものである。伝統を重視するトリステインにおいてその傾向は殊更強かった。面子を傷つけられる状態に追い込まれた以上ギーシュもやり返さない訳にはいかなかったのだろう。面子を傷つけられてもただ黙っているということは自らが背負う家をこれ以上なく貶すことと同義だからである。

 

 

「ふん。確かにゼロのルイズは平民と仲良くしているのがお似合いだろうな。君の見方をしてくれるのは平民だけだからな。」

「なんですって?」

 

 ギーシュは怯むことなく薄い笑みをこぼしながらそういい捨てた。ルイズに対する続けざまの侮辱発言。彼は全く懲りていないのか、それともそれだけ自らの家を強く誇りに思っているのか。畳み掛けられたルイズの諫言にもギーシュが耳を貸すことはなかった。決して悪びれることのないその姿を見てルイズは一層の怒りを募らせる。ルイズにも相手の面子を毀損してしまったという落ち度はあったが、それでも言葉上の上でも態度でも一切の譲歩を許容しないギーシュのその意固地さには腹の虫がおさまらなかった。

 

 

「魔法が使えないゼロは平民と仲良くするのがお似合いだと言ったんだよ。そうだろう諸君!」

「その通りだ!」

「魔法も使えないゼロは黙ってろ!」

 

 

 ルイズを罵る言葉に反応してラヴィッジは周囲にいた生徒たちを唸り声をあげて威嚇する。体高が一メートルを軽く上回る猛獣の威圧感は生半ではない。しかもおどろおどろしい鋼鉄製の躯体で構成されている。年端も届かない少年たちが平静を保つことは無理があるのだろう。恐ろしい音に恐怖した幾人かの生徒は脱兎のごとくその場を逃げ出した。しかし、

 

 

「つ……使い魔に擁護されるとはやっぱりゼロはゼロだな。」

 

 ラヴィッジに怯えながらもギーシュは黙らない。腐っても軍人の家系ということだろうか、その胆力や度胸は生まれついてのものなのだろう。軟派な見た目とは裏腹にやはり彼も軍人の血を引いていた。

 更なる侮辱の言葉を浴びせられ、ルイズは堪えることが出来なかった。これ以上の侮辱の言葉を聞くことも、これ以上の不毛な掛け合いを繰り返すことにもである。自らの誇りを守るために互いが互いを罵り合う現状をルイズは受け入れることは出来なかった。

 

 

「ギーシュ・ド・グラモン! 私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはあなたに貴族として決闘を申し込むわ!」

「もちろん、使い魔抜きの一対一よ!!」

 その一言で周囲の声がピタリと止まり、それまでの喧騒がまるで嘘のように静まった。

 

 ▲

 

 

 ところ変わってここは、ヴェストリの広場である。周囲のやじ馬たちの盛り上がりはいよいよピークに達していた。

 貴族にとっての誇りとはその魂・生命と同義であるほどに大切なものであり、その誇りをかけた一騎打ちともなれば思い入れも一入である。注目が集まらないわけがない。その勝敗は当事者だけのものではなく自身が帰属する家にまで降りかかる。

 故にそうやすやすと決闘を仕掛ける貴族はいない。リスクが高く、勝っても負けても何かしらの遺恨を残すであろう荒事に好んで首を突っ込む愚か者はいないからである。本来の貴族では滅多に見られない、まっすぐな心根を持つルイズのような変わり者を除いては。

 

 

「とりあえず、逃げずに来たことはほめてやろうじゃないか。」

 ギーシュが余裕の態度でそう言ったのを見て、ルイズは答える。

 

 

「誰が、逃げるものですか。」

「と……所であれは本当に介入してこないんだろうね。」

 

 

 ギーシュはラヴィッジを戦々恐々と言った感じで指さすと彼女に問う。彼にとってだけでなく周囲の人間全員にとっても恐怖の対象だった。金属でできた巨大な獣。どれほど腕が立ったとしても好んで相手にはしたくないだろう

 

 

「ええ、私が命令したんだもの。あなたの相手はこの私よ!だれにも邪魔はさせない。」

 

 とルイズが言うのを聞いてギーシュは安堵したように息を吐く。相手がルイズ一人だけであれば心配することは何もないということだろう。邪魔をするものが居ないのであれば問題は存在しない。好不調といった時の運がどれだけルイズに味方しようがギーシュが膝をつくことは起こりえなかった。ほっとした安心と共に右手に握る造花の花にも力がこもった。決闘をする上で、真面な魔法が使えないということはそれだけ不利な状況なのだった。

 もし眼光に力があるのなら彼はラヴィッジに睨み殺されているかもしれない。ラヴィッジはルイズの身を案じるかのようにして鳴いたが、下された命令を破ることは決してなかった。

 その姿を見てルイズは、

 

 

「大丈夫よ、ラヴィッジ。あなたの主を信頼しなさい。」

 

 と声をかける。

 だが真面に魔法が使えないルイズにとってそれは決闘以前の問題だった。不安がないわけではない。

 果たして戦いになるのか、大多数の人間はそう思っていた。そしてその思いは的中しているのだが、一点だけ、読みたがえていることがある。

 それはルイズが自身の誇りに抱いている思いの強さである。彼女が自らの誇りを貶されて黙っていられるわけがない。誇りに懸ける思いの強固さ、それが彼女の強みであり弱みでもあった。

 そして、二人の決闘が始まった。

 

 

 決闘は終始ギーシュの優勢で推移した。

 ギーシュが錬金した青銅の女兵士、華美な装飾が施された甲冑を身に着けた乙女は容赦なくルイズを蹂躙した。青銅でできた兵士の体当たりや脚撃は次々と彼女の体に傷をつける。

 

 

 爆発しかしない魔法を発想転換し、ルイズも錬金の魔法で幾体かの兵士を破壊したが無駄だった。魔力が続く限りギーシュは青銅の乙女を精製しその支配下に置くことが出来るからだ。一体二体を破壊されたところでどうということはない。新しく乙女を精製しなおせばそれで済むからである。周囲の観客のさらなるヒートアップも手伝ってルイズへの攻撃はやむことなく続けられた。

 

 

 ラヴィッジはルイズが痛めつけられる様を見て爪を打ち鳴らし牙を剥いてギーシュを威嚇したが、ルイズの命を破ろうとはしなかった。それがルイズの身を案じてのものなのか、それとも自身に課せられた命令の未達成を予期してのものなのかは誰にもわからなかったが。

 

 

「なかなかやるじゃないか、ルイズ。僕のワルキューレを相手にここまでやるなんてね。見直したよ。だが、ここまでだ。どうだい、そろそろ降参してみては如何かな。」

 

 ギーシュは額に浮かんだ汗を拭いながら問う。

 しかし、ルイズはにべもない。返す刀できっぱりと言い放つ。

 

 

「まだよ、私は絶対にあきらめない。」

「約束したのよ、ラヴィッジにドクターにそしてあいつにも……私は絶対に負けないって。」

 

 

 あいつやドクターとは誰なのか、ギーシュには分らない。しかし、満身創痍にもかかわらず一切退かないルイズを見て彼は覚悟を決める。右手の造花を振り、更に二体の乙女を召喚。これで合計5体のワルキューレがルイズと対峙していることになった。じりじりとルイズとの距離を詰め下される命令を待つ青銅の乙女たち。各々が槍や剣を構えて次なる攻撃に備えていた。

 

「いいだろう、ルイズ。これで終わらせる!!」

「いけっ!!ワルキューレ!!敵を気絶させろ!!」

 

 残存している全てのワルキューレがルイズの意識を断とうと武器を構え、腕を振り上げる。魔力が底をつき全身に負った傷や打撲で、満足に体を動かすことが出来ない彼女はそれでも前を見据え杖を構えていた。敗北を前にしても決して挫けることのない意志の強さと誇りの確かさ。それがルイズの強みであり弱みでもあり、破壊大帝が僅かばかりの関心を抱いてしまった理由なのだった。

 

 ▲

 

 ギーシュがこの決闘の幕引きを行うために、最後の命令を甲冑の乙女たちに下そうとしたその少し前、観客の最前列で決闘を観戦していたキュルケはため息とともにルイズの身を案じていた。

 

 

「まったく、あの娘ったら。無茶ばっかりして。タバサ、これが終わったら直ぐに治療してあげなさいな。」

 

 と言うと、キュルケはタバサと呼ばれた青髪の少女があらぬ方向の虚空を見つめているのに気が付く。

 持ち込んでいた書籍に注がれていた目線を上げ、何かの様子を探るように目を細める。

 いつの間にかルイズの使い魔であるラヴィッジも同様の方角を見つめていた。

 

 

「どうしたの?タバサ。」

 するとタバサは虚空へ指をさした。

 そして端的に一言呟く。

 

 

「来る。」

「来るって何が?」

 

 キュルケはその方向を見据える。しばらくは何も確認することが出来なかったが、そのすぐ後にはタバサの指摘した何かを見つけることが出来た。キュルケは地平線の先に小さな黒点があることを知った。それはグングンこちらに接近しており、黒点の接近に伴って見知らぬ音が辺りに響くようになる。鼓膜を劈くような風切り音。次第に大きくなる音に反応して周囲の学生たちも黒点の存在に気が付いたのか、一斉に空を指さして何事かと騒ぎ始める。

 風と水を操るトライアングルメイジであるタバサであるからこそ空気の微細な変化を感じ取って一足早くそれの存在に気が付いたのであろう。その飛来物が発生させる轟音はますます大きくなり音とともに叩きつけられる突風によって真面に立てる人は居なくなっていた。耳を押さえ蹲る人々を横に音速を超える速度で飛来したそれは轟音を辺りに撒き散らしながら広場に着陸した。

 それはラヴィッジから緊急信号を受け取って急ぎ学院に帰還したメガトロンであった。人型にトランスフォームした彼は広場に着地する。そして一応とはいえ自分の主となっているルイズに危害を加えたであろう相手を見つける、すると左腕から幾本もの細い金属製アームを出現させ一瞬でギーシュを地面に押さえつける。

 

 

「う゛あああああああああッ!!!ややめてくれぇえエッッ!!」

 

 メガトロンの形相と身動きできなく拘束された現状を見てギーシュは恐ろしさのあまり悲鳴をあげる。メガトロンはギーシュの悲鳴に構うことなく、彼を捉えているその左腕とは反対側の腕から巨大な刃を取り出した。ジャキンッという音とともに出現したそれは、ルイズの身の丈を遥かに超えるほど巨大で果たして刃と呼んでよいのか分らないほどに長大で禍々しかった。

 出現した巨大な刃を見たギーシュは気絶していた。口からはブクブクと泡を吹いている。しかし、ここまで気絶していなかったことを褒めたほうがよいかもしれない。それほどまでにギーシュにとって現状は絶望的だった。

 

 ルイズと一応は主従関係を結んだメガトロンも使い魔としての責務を何とはなしに果たそうとしたのかもしれない。彼にとって敵を破壊することは枝葉よりも些末なことでありごく自然な何気ないことでもあった。一人の人間を補足し、両断することなどメガトロンにとっては道端に落ちている小石を拾い上げる事よりも簡単なことだ。少なくとも自身の目的が達成されるまで主人の命は繋がなければならない。一呼吸をする間に終わる労力であればメガトロンも構わないと思ったのだろうか。

 そうして、ギーシュを切断し絶命させようとするメガトロン。そのままギーシュはその命を散らせるかと思われたが、メガトロンの金属製アームに取り縋る一人の少女がいた。振り下ろされる断頭台を止めようと必死でもがいている。

 

 

「や……止めて!!彼を殺さないで!!お願い!!」

 

 

 そう叫び声を上げギーシュを抑えつけるアームに何かが飛びかかる、それはギーシュの恋人であるモンモランシ-であった。二股を掛けられても彼に対する愛情は揺らいではいないのであろうか。ギーシュの延命を必死の形相で叫ぶモンモランシ-。

 しかし、道端に落ちている石ころが何を喚こうとも聞き入れることはないようにメガトロンは意に介さない。小さな有機生命体の懇願などを受け入れる理由も意思もメガトロンは持ち合わせていなかった。当初の目的を達成するためにギーシュを両断しようと 刃を振り上げる。

 その天高く掲げられたギロチンを見て、キュルケやタバサは杖を構えた。同級生が殺害される光景を黙ってみている訳にはいかないからだろう。成功するかどうかは未知数だが、それでも二人は呪文を唱えその死刑執行を止めようと魔法を放とうとした。

 その寸前、

 

「やめなさいメガトロン。まだ決闘は終わっていないわ。」

 

 

 熱砂の中の一筋の冷水を思わせるルイズの言葉。その言葉を聞いてメガトロンはギロチンの刃を停止させた。道端に落ちている小石が何を喚こうとも聞き入れることは決してない。だが、極々まれに例外も存在するのだった。

 その言葉。その反応。満身創痍の体とは思えないほどの気丈な瞳。それらを見たメガトロンは可笑しくてたまらないといった風にルイズに目を向ける。それは、メガトロンがルイズと主従関係を結ぶに至った要因の一つだった。

 

 

「傷だらけだな。」

「ええ、少し苦戦しちゃったわ。でもここからよ、逆転して勝利してみせる。」

「グハハッ、その風体でよく言えたものだな。本当に戦いを続けられるのか?」

「当然よ、メガトロン。あなたのご主人様を見くびらないで欲しいわね、続けられるかどうかを決めるのはあなたじゃない、私よ。」

 

 

 目の前にいる少女は諦めるという言葉を知らないのだろうか。恐らく死ぬまで、いやさ死んでも少女の誇りを汚すことは叶わないのかもしれない。本当は痛くて仕方がないのだろうに、それでもルイズは決してその苦痛を表情に表すことはしなかった。メガトロンの質問にも笑顔で気丈に答え続ける。

 メガトロンは自らが気遣われていることをしって内心愉快で仕方がなかった。可笑しくて可笑しくて堪らない。メガトロンはこの少女により強く惹きつけられていた。目の前にいる生物は何なのか、この強さの源は何か、何故ここまで弱い生き物がその強さを堅持できているのか。そのひた向きな健気さは何故ここまで強固なのか。

 

 

 破壊を本性とするメガトロンは強さに対して平等である。

 

 

 強大すぎるメガトロンに対抗する勢力は滅多に見当たることはない。敵対する存在は悉く破壊されるか、メガトロンに媚びへつらい服従を約束するかの二択のみであった。そのメガトロンに対して二択の選択肢に収まらない存在が彼の眼前にはいる。記憶が失われた彼にとってもそれは非常に珍しい特筆するような経験だった。その例外がここまで小さく弱い存在であったのはもはや望外と言うしかないだろう。強大過ぎるメガトロンは異常な存在だったが、同様にルイズもまたメガトロンに見合うほど異常な存在だった。

 

 

「私が戦うと言ったんだもの、決闘は継続中よ、だから早くギーシュを離してちょうだい。」

「それは済まなかったな、従おう。」

 

 

 メガトロンはルイズの命に従って武器を収めた。

 その様子を見守っていた周囲の観客は驚愕としていた。決闘を継続すると言ったルイズの発言にもそうだが、何よりも目の前の光景。巨大な使い魔が今までゼロと侮っていたルイズの命令に従っていることが観客に強い衝撃を与えた。知性を持ち合わせた相当に高位なゴーレム。それを従えるということはこの上なくメイジの実力を保障するものだからだ。

 

 

「………、」

「あーあ、これじゃあ決着は次の機会に持ち越しね。とっても残念だわ。」

 

 

 気絶しているギーシュを見てルイズはあまり残念じゃなさそうにいった。痛む体を摩りながらメガトロンに向き直り、優しく言葉を投げかける。異常なルイズが異常な使い魔に礼をする。その二人の間に割り込めるものなど存在しない。目の前の光景はそれほど自然でこの上なく理に従ったあるべきままの姿だった。

 

 

「決闘は台無しになっちゃったけど、でも礼を言っておくわ。ありがとうメガトロン。私を心配してきてくれたんでしょう?」

「ふん、使い魔としての役目があるからだ。それだけだ。深い意味など持ち合わせていない。」

 

 

 ルイズは微笑みながらメガトロンに謝辞を述べた。その謝辞を使い魔も受け止める。メガトロンの中にもさまざまな葛藤や折り合いがあるのだろう。石ころのような存在を守るためにメガトロンが行動するなど、通常では考えられない事柄だからだ。返答後何も言わずに変形しその場を後にしたメガトロン。メガトロンがどのような心持でルイズをサポートすることにしたのか、それは主人であるルイズ自身にも分らなかった。だが、ルイズはそれでもよかった。すべてを明確にする必要などない。時には曖昧なままに委ねておいた方が上手くいくこともある。恐ろしく、そして強大な使い魔との関係性を曖昧にしたまま継続することが出来ることも、ルイズの度量の深さが無ければ成り立たない関係だったのだろう。ルイズ以外の人間がメガトロンを召喚していれば、メガトロンとの繋がりや関係に耐えられず直ぐにでもその関係性は崩壊していたはずだった。

 

 

 ルイズは駆けつけるキュルケやタバサを横目に見ながら滑空する自身の使い魔を見送った。

 

 

 こうして、ギーシュとルイズの決闘は終了した。多くの人々に十人十色の衝撃を与えたこの決闘。確かなことはこの決闘の後にルイズをゼロと罵るものは学院には一人もいなくなっていたことだった。

 

 

 

 


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