ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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プロローグ 最果ての光景
幕間1 壊れた王様


 

 

 その日、ハルケギニアは地獄と化した。

 

 

「ハハッ。ハハハハハハハハッ。いいぞ、その調子だ!!!! 一切の遠慮を排し、目に映る全てを焼き払うのだ!! 」

 

 

 哄笑する無能王。煌びやかな衣装に身を包んだ美丈夫がその光景を生み出した元凶だった。ガリア王ジョゼフ。心の壊れた王様の目前には終わりの光景が広がっていた。焼き払われる都市。破壊される人々。荒れ果てた国土。そして、居並ぶ竜騎士軍団が整然と佇立している。意思を奪われ生命としての身体を取り上げられた亡霊達が闊歩するその光景は地獄と呼ぶほかなかった。

 

 

「「「「■■■■■■■■」」」」

 

 

 咽喉から洩れる機械的な悲鳴。蛋白質の肉体を無理やりにトランスフォーミング化した結果。彼ら竜騎士たちは亡者となった。作り変えられた肉体。生きながらの地獄を味わう彼ら竜騎士はその痛みに耐えかねて悲哀の叫びをあげている。助けて欲しい。救ってほしい。それが叶わないのであれば安らかな死を。

 しかし、その悲鳴が届くことはない。その願いがかなうことはないのだった。守るべき民を殺し、愛する肉親をその手にかけなければならない苦しみはどれほどのものがあるのだろうか。

 

 

「待っていろシャルルよ。今この余が確かめてやる。この世界を滅ぼし尽くしたその時。この世界とシャルル。どちらが余にとって重要だったのかが、明らかになるだろう。」

 

 

 だが、ジョゼフがその力を手にしている限り、この悪夢は終わらない。右手に掲げられた武骨な石。異常なほどの魔力を宿したその石がジョゼフの狂気を現実のものとしていたからだ。立ち昇る禍々しい魔力。元々がハルケギニアのものではないその異物は、イレギュラーなもの。かつてハルケギニアに君臨した破壊大帝同様、異世界より召喚されたオーパーツだった。

 

 

「余は必ず見つけてみせる。この世界。その全てを洗い浚い引っくり返してでもだ。余の心を震わせてくれる何かは必ずどこかに隠されている。その何かを見つけるまで、全てを破壊し尽くし、全てを白日の下へ引きずりだして見せよう。」

 

 

 ジョゼフは過去を思い起こしながら、その石を見た。その石が全ての始まりだった。無能王が抱える狂気。ダムの中に着々と溜められたエネルギーが解放される契機が訪れる。鬱々とした毎日を過ごす王にとって、その出会いはどこまでも劇的だった。

 そして、無能王と評されるジョゼフにとってどこまでも似つかわしい平凡なもの。ありきたりで凡俗に堕するつまらないものだった。

 

 

 ▲

 

 

 

 メイジとして使い魔を召喚せぬままでいられるものではない。貴族社会の頂点たる大国ガリアのガリア王とてその例外ではなかった。小言を諫言する部下から押し切られる形でジョゼフは使い魔召喚の儀式を執り行った。いつまでも使い魔がいないままでは王としての沽券に関わるという主張ももっともだが、ジョゼフにはどうでもよかった。使い魔など必要ない。王弟シャルルを失い、何も感じることが無くなったジョゼフにとって、全ての事象はどうでもよいことだった。ただただ何もかもが面倒で何もかもがどうでもよかった。

 そのジョゼフにとっても目の前に召喚されたものを見て目を見開かずにはいられなかった。

 

 

「…………何だこれは。」

 

 

 思わず洩れる疑義の声。召喚人の中央に鎮座するもの。何のことはない。それは、ただの石ころだった。片手で掴めるほどの小ぶりな岩石。衆目が見守る中も、その何の変哲もない石ころは動かぬ現実として存在し続けた。

 ガリア王とは選ばれた人間である。その選ばれた一握りの人間となったジョゼフは、ただの石ころを使い魔として召喚したのだった。そのあまりにもお粗末な光景を見て周囲に控えていた部下からも嘆息と嘲笑の声が漏れた。無能王と呼ばれ、影に陽向に嘲られるジョゼフである。だが、まさかここまで惨めな使い魔を召喚することになるとは誰もが想像もしなかっただろう。使い魔ですらない石ころを召喚するなど寡聞にして聞いたことがない。どんな低層の家柄を持つ貴族であっても、ここまで酷い使い魔召喚を執り行うなどありえないからだ。

 

 

「…………石。……そうか。神は余をこのように評価していたのか。……ははは。あながち間違いではないな。何物にも心震わせぬ余と、そこらに散らばる石ころ。両者は同じだということだろうか。まったく、神はこの世界をよく見ている。その慧眼には感服せざるを得ないということか。」

 

 

 控えていた臣下は呆れながらその場をさった。がらんとした室内。石とジョゼフのみがあるその場にはジョゼフの空疎な声のみが響いている。ジョゼフの低い求心力はこの時致命的な痛手を被った。元々無能王としての悪名を欲しい儘にしていたジョゼフ。人臣からの距離はこれからより離れていくことになるのだろう。

 だが、ジョゼフにはそれすらもどうでもよかった。壊れた心には人々からの中傷など届かない。部下からの嘲りなど些末を通り越して聞こえてすらいなかった。

 

 

「――――――ッ!」

 

 

 そして、召喚された石に契約の口づけを交わした時、ジョゼフは信じざるをえなかった。神の存在を。信心などというものを一切持っていないジョゼフであってもその時ばかりは、神の存在を信じた。

 神は常にこの世界を見ているのだ。そして、当人が背負うべき運命を賜るのだということを。

 

 

「そうか。――――そういうことだったのか。神よ。よく分った。賜された思し召しの通り、余は余に課せられた使命を果たそう。――――この世界に余の心を震わせるものがあるのかを確かめよう。我が弟シャルルとこの世界。どちらが余にとって大切なものなのかということを確かめようではないか。」

 

 

 

 ▲

 

 

 

 口づけをしたその時、流れ込んでくる異常なエネルギー。その溢れるパワーを感じてジョゼフには分かった。その石はただの石などではなかったのだということが。見かけはただの石ころだが、その内奥におぞましいエネルギーを蓄えている。心の壊れた王様を死に写すかのように、その石はどこまでもみすぼらしくどこまでも醜悪だった。

 かつてハルケギニアに君臨した破壊大帝同様、その異物は地球よりもたらされたものだった。トランスフォーマーが求めるエネルゴンの塊。かつて失われた異物がそこにはあった。

 

 それは、失われたオールスパークの欠片だった。

 

 充満するエネルゴンの塊。そして、虚無を受け継いだジョゼフ。二つの出会いはハルケギニアに地獄をもたらした。混ざり合うエネルゴンと虚無のエネルギー。二つの強力なエネルギーは混ざり合うことで変質し、互いが互いに影響しあうことで最悪の効力を持つようになっていた。

 

 その結果が、不死の軍団。生きながらにして亡者となった竜騎士軍団の誕生だった。歪なトランスフォーミングは地獄の兵卒を生み出した。死ぬことも怖がることもない兵隊。機械と肉が組み合わされた新しい身体は一騎当千のパワーを持っていた。

 ジョゼフは進んだ。生きながらにして亡者となった地獄の兵卒を従えて、ハルケギニアを滅ぼす滅びの合奏を奏で続けた。

 

 

「ガリアを滅ぼし、ロマリアも余の手中とすることが出来た。だがまだだ。まだ終わらない。まだ余の心を震わせるものは見つかっていないのだから。後には忌々しいトリステインやゲルマニアが残るのみ…………。一思いに…………全てを灰燼へと帰してやろう。そう…………思っていたのだがな。」

 

 

 しかし、ジョゼフは知らなかった。かつて、ハルケギニアに君臨した破壊大帝がいたことを。ハルケギニア中に間諜を送り、情報を得ていた狂王。知略に長ける無能王でも徹底的に行われたメガトロンの隠ぺい工作を破れなかった。故に、ジョゼフは今、追い詰められている。

 何故ならば、ハルケギニアにはピンクブロンドの美しい少女がいるからだ。メガトロンの遺志を継ぐ、ゼロの少女。虚無の力を受け継ぐ伝説がジョゼフの前に立ちはだかったのだ。

 

 

「正直に言えば、…………とても驚いている。ルイズフランソワーズ。まさか、そなたの様な幼い少女によって余の命脈が断たれる。このような結末を迎えることになるとわ…………。」

「別段、驚くことではないのよ。貴方は知らなかった。だから、負けた。ただ、それだけ。」

 

 

 四肢を打ち抜かれたジョゼフ。既に身体は満身創痍だった。豪奢を極めたその礼装も自身の血に塗れている。しかし、身体に走る痛みよりも強い疑問をジョゼフは感じていた。敷かれた防御陣営は完ぺきだった。周囲を警護する竜騎士隊が倒された気配はない。そもそも、竜騎士部隊を支配し、操っている人物が自分であることが何故露見したのか。ジョゼフには分からなかった。

 痛む体に鞭を打ち、ジョゼフは前を向く。その視線の先には、鋼鉄の獣を従えた一人の美しい少女が佇んでいた。

 

 

「余は…………何を知らなかったというのだ。叶うのであれば…………教えてはくれまいか。」

「……メガトロン。破壊大帝メガトロンよ。かつてハルケギニアに君臨した破壊大帝。その遺志がここには残されている。」

 

 

 流水に揺蕩う柳葉の様に、その姿は超然としていた。ただ、静かに佇んでいる。それだけであるにも拘らず、ジョゼフは目を離せない。その、何もかもを見透かすような力強い瞳。どれだけの死地を潜り抜ければ身に着けることが出来るのだろうか。纏われる特別な雰囲気。その漲るオーラに引きつけられていたからだ。

 

 

「…………メガトロン? 」

「ジョゼフ…………貴方に手落ちは何もなかった。一歩間違えれば討たれていたものは私の方だったから。だから、貴方は何も間違っていない。貴方と私の違いはメガトロンを知っているかどうか。ただ、それだけだったわ。」

 

 

 どこか悲しげな表情を伺わせながらルイズは言った。その重い過去を感じさせる表情と鋼鉄の獣。その二つを見てジョゼフは全てを悟ることが出来た。大きく息を吐きながら空を見る。夜空を彩る美しい星々でも壊れた心には届かない。その事実が残念で仕方がなかった。

 

 

「…………なるほどな。その鋼鉄の獣を見て得心がいった。…………そちらの方が大本だったのだな。余の賜ったこの石。そのエネルギーの源となるものはその金属生命体だったのであろう? …………前もってこのパワーを知っているのであれば、…………何もおかしいことはない。…………竜騎士たちを操る大本がいることも、その操り主を打倒すれば竜騎士軍団を機能停止へと追い込めることも把握できる。世がそなたであっても、余という蛇の頭を切り落としに向かうだろうからな。…………しかし、周囲の竜騎士たちがそなたへ襲い掛からぬのはどういうことだろうか。…………余に接近を試みる全てのものを攻撃するようにと指示を下していた筈だが。」

「それは簡単よ。あの竜騎士たちは視覚も聴覚も持っていない。ドクターが言うには、有機生命体の発する特殊な波長を感じて襲い掛かっているだけだそうよ。だから、その波長を相殺するアイテムを作ってもらっただけ。急造トランスフォーマーである彼らは模造でしかないし、不完全。波長のないラヴィッジは元よりその波長さえ消してしまえば私達を捉えられないのよ。だから、ラヴィッジの穏形に乗じて、ここまで潜入することも難しくはなかったわ。」

 

 

 二重三重に渡って張り巡らされた防衛線。その防御突破を簡単だとルイズは言った。まるでこれまでに乗り越えてきた試練に比べれば何でもないというように。まだ、幼い少女であるにも拘らず、何故このような恐ろしい雰囲気を持っているのか。全てを見透かすようなその理知的な瞳。その刺すような視線を鑑みれば、元凶となる一端がジョゼフにも察せられるようだった。

 身体から多量の血液を失い、ジョゼフは指一本動かすことが出来なくなった。忍び寄る死の気配。しかし、妙に頭は冴えていた。感覚の無くなる身体とは対照的に、ジョゼフは嫌に落ち着いていた。目の前に迫る運命すらも壊れた心には届かないからなのだろうか。

 

 

「…………トリステインとゲルマニアの連合が異常なまでに…………速やかに行われたこともそなたが関わっているのだろうか。」

「貴方はとても賢いのね。無能王という字名は自身を偽るための毛皮でしかなかったということかしら。ええ、そうよ。お察しの通り、私が互いの間を取り持たせてもらったわ。貴方の竜騎士軍団に立ち向かうには一国の正規軍だけでは到底足りない。私が貴方を討つまでの時間稼ぎを両軍にお願いしてきたの。」

「……やはり、一番の障害はトリステインとゲルマニアだったか。…………思えば、あの女も相当の食わせ者だったな。協力を申し出ると同時に、…………その裏ではゲリラ戦での抵抗とこちら側の情報と運び出すという二枚舌。…………領地を治める太守とは思えない手腕だった。」

「その通りね。私もマチルダには随分と助けられたわ。彼女の築いた組織と連絡網があったから、ここまではやく両国の同盟を結ぶことが出来たのよ。…………メガトロンがいなくても私はメガトロンに助けられてしまうのね。…………とても悔しいけれど本当に助かったわ。」

 

 

 右手に持っていた拳銃をホルスターへと戻す。そして、ルイズは右耳のイヤリングへと自身の意識を集中させた。竜騎士軍団との戦いはまだ続けられている。トリステインとゲルマニアを滅ぼすべく侵攻を続ける竜騎士軍団大部隊。その侵攻を止めるべくトリステインゲルマニア連合軍は所定の位置で布陣されていた。

 ルイズの想定通りであればもうじき両軍の激突は避けられない筈だ。最前線の状況がどうなっているのか。現況を知るために、通信機を用いての連絡を試みる。微かな戦闘音や衝突音。戦場の音に紛れること一拍、ルイズの聞き慣れた声が耳孔に届いた。

 

 

『ルイズか? こっちは無事だ! スコルポノックと連携して竜騎士たちを撃退してる! 時間も進軍場所も想定通り、ルイズの予想はぴったり当たったぞ! こっちにはドクターが作ってくれた武器も沢山あるんだ。皆がこの調子で戦えば必ず奴らを押し切れる!!』

「分かったわサイト。こちらもすぐに終わらせてそちらへ合流する。だから、無理だけは避けて頂戴。」

『了解! 待ってるぞマスター!』

 

 

 こちら側が有利だという報告を受けて一先ず安心する。しかし、油断はできない。サイトは未だ戦士としては未熟だ。スコルポノックを配置しているとはいえ、戦い始めてから日が浅いサイトを何時までも一人にさせる訳にはいかなかった。戦場では何が起こるか分からない。ジョゼフの操る竜騎士軍団がどれほどの実力を秘めているのか、何も分かってはいないのだ。ルイズの目の前にある石。禍々しい魔力を放つこの元凶を消し去るまで、一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。

 ホルスターに納めた銃はそのままに、ルイズは杖を取り出す。ハルケギニア中を地獄へと変えた戦乱。その大戦争の元凶となった男をこの世から葬り去るために。

 

 

「本当に残念だわ。――ジョゼフ。貴方が。心の壊れてしまった王様が。破壊大帝、その混じり気のない破壊を前にして感じるだろう心の震えがあっただろうことを思わずにはいられない。メガトロンを召喚すべきは貴方だったのかもしれない。本当は貴方のような人にこそメガトロンは必要だったんだと思う。」

 

 

 ルイズの瞳に迷いはない。その魔法を唱えることにも躊躇はなかった。どれだけの人々や国家が犠牲になったのだろうか。この狂王の指先一つによってどれだけの惨たらしい悲劇が生み出されたのだろうか。その重すぎる罪を自覚させようとは思わない。ルイズが何を言おうとも、心の壊れた王様には届くべき言葉などありはしないのだから。

 だから、ルイズは呪文を唱える。必要となるものは言葉ではなく、力である。かつて君臨した破壊大帝のエネルギー。強力無比なダークマターエネルギーがルイズを更なる高みへと昇華させた。

 

 

「でも――貴方は出遭わなかった。何故なら、破壊大帝は貴方ではなく私を選んだのだから。」

 

 

 そのパワーであれば届くことが出来る。ルイズはそう確信していた。混ざり合うルイズの虚無とダークマターエネルギー。体内にて練り合わされ混合し、互いに影響しあうそのパワー。煌めくルイズのエネルギーは禍々しい魔力を放つその石すら、完全に凌駕していた。このパワーであれば届かせることが出来る。心の壊れてしまった王様。その虚無で支配された空洞を終わらせることが出来るのだった。

 

 

「貴方が破壊大帝に出会うという未来を作り出すことは叶わない。もうメガトロンはいないのだから。だから、せめて、最後はこの魔法で引導を渡してあげる。あの破壊大帝が認めた虚無の光。破壊の光で貴方の虚無を埋めてあげるわ。」

 

 

 ――――私は戦わなければならない。私は私の戦いを最後まで戦い抜かなければならない

 

 

 一つの覚悟と共に、ルイズは呪文を紡いだ。今は無きメガトロンが瞠目したパワー。虚無の破壊がその場に吹き荒れる。その光は拡散し、ルイズが狙いを定めた目標を過たず飲み込んだ。周囲に控えていた竜騎士や禍々しいオーラを放つ石。そしてジョゼフ自身をもである。弛みない修練の結果、ルイズは自身の虚無をある程度までコントロールすることに成功していた。

 光によって包み込まれた石は、崩壊を始めた。より強い虚無に侵され、その組成を乱されたからなのだろう。石の発するエネルギーによって操られていた竜騎士たちもいずれ行動を停止するだろう。生ける亡者となった竜騎士隊たちが元の肉体を取り戻すことが出来るか否かは、偉大なるブリミルのみが知っていた。

 

 

「――――そうか。そういうことか。――――シャルルよ。何ということでもなかったのだな。余の求めるものは常に、余の目の前にあったようだ。ただ、余が認めなかっただけ。――目の前にある罪から目を逸らし続けていただけのことだった。」

 

 

 その光は美しかった。これまでジョゼフが目にしたどの美術品でも、雄大な大自然でも届かない美しさ。何よりも煌めき、何よりも儚い。破壊と創造。荒廃と創生。両極に位置する二つの概念を内包したその光。その眩い煌めきは確かに届いた。心の壊れた王様へ。心の空白を埋めるために、暴走を続けた狂王は確かに感じていた。自身にある虚無が震えていることを。浸透する煌めきを。満たされている自分を感じていた。あれだけ感じていた飢餓感は一体何処へ行ってしまったのか。それは誰にも分からない。ジョゼフに出来ることは目の前にある光と賜された運命を受け入れることだけだった。

 

 

 

 ――――あぁ、美しい。

 

 

 

 咽喉から洩れるようにして紡がれた今際の言葉。心の壊れた王様は自身を苛んだがらんどうの心を克服することが出来たのだろうか。ルイズには分からない。終わりはどこまでも虚しく、無常を感じさせるものだった。

 

 ジョゼフを討つことで戦乱は終結を迎える。破壊を振りまく竜騎士部隊も行動を停止する筈だ。だが、失ったものは余りにも多すぎた。ルイズの前に広がる茫漠とした荒野。荒れ果てた国土や破壊された都市が何処までも広がっている。これだけの損失を取り戻すことに一体どれだけの月日と費用がかかるのだろうか。ルイズには見当もつかなかった。

 

 

「――――さて、皆の所へ戻らなきゃ。あんまりグズグズしているとまた皆を心配させちゃうしね。ラヴィッジ。帰り道もお願いするわ。もう此処を守る竜騎士たちも居ない。正面から悠々と行きましょう。」

「■■■」

 

 

 ゴロゴロと鳴き声をあげる鋼鉄の獣をあやしながらルイズは前を見た。視線の先に広がる空は何所までも透き通っていて、どこまでも無常を感じさせた。

 戦争が終ろうとも、失われたものが返ってくるわけでは決してない。これからは失ったものを取り戻す戦いがルイズを待っているのだった。都市を築き、人々を在るべき方向へと導く。破壊ではなく創造。壊すことではなく、新しく生まれるものを育み、守らなければならない。どれだけ莫大な労力が必要になるのか、どれだけの月日が必要になるのか。ルイズには分からない。

 しかし、ルイズは迷わない。メガトロンの歩んだ軌跡。そして、これから歩むことになる茨の道をルイズは知っているからだ。受け継がれた灯火は未だ赤々とした光を放っていた。

 

 

「私は戦う。私は私なのだから。」

 

 

 照らし出された未来へ向けてルイズは進む。伝説を紡ぐゼロの少女。ピンクブロンドの美しい少女は壊れた王様との戦いを乗り越えて更なる未来へとその歩を進めた。

 照らし出された未来へ向けてルイズの戦いは終わらない。何時か来るメガトロンとの邂逅へ向けてルイズが止まる訳にはいかないのだった。

 

 

 

 


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