ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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<if> ありえたかもしれない物語 <ギャグ>

 

 これは、あったかもしれない未来のお話。本来はありえないifの物語。メガトロンが地球への侵攻を諦め、なんやかんやあってルイズと和解し、なんやかんやあってハルケギニアで暮らしていくことになったストーリー。ルイズとメガトロン。二人の異なる種族が同じ道を共に生きるありえたかもしれない確立世界の出来事。

 

 

「ルイズ!! 今日も貴様は美しいな! 相変わらずの美しさだ! 銀河に遍く存在するどの生命体だろうとも、貴様の可憐さには遠く及ばないだろう!!」

「そうねーいつもありがとうーメガトロン。 あー死にたい。」

 

 

 まだ眠い目を擦りながらルイズは目を覚ます。魔法学院を震わせるメガトロンの号砲。その過剰な礼賛はここ最近の新しい日常となっていた。その光景は生活の中に、かなり馴染んでいるのだろう。周囲の学院生達も、あぁまたかと驚くことすらしない。メガトロンの快哉を叫ぶ慟哭は毎日のように繰り返されていた。

 

 

「俺様は何と幸福な使い魔なのだろうか! 貴様のような美しく可憐で聡明なマスターを得ることが出来て最高だ! あの陰気くさいマスターに比べれば何百倍もましだな! この俺様が言うんだ間違いない。」

「そんなこといっちゃ駄目じゃない! いくらフォールンが陰気くさくてもそれをいっちゃあ元も子もないわよ!」

「あいつは墜落船の中に引き籠っているくせに、あーでもないこーでもないといっつもぐちぐちぐちぐち五月蠅かったのだ。軍団の運営方針でも散々に揉めてな。この俺様がなんとかあいつを持ち上げて宥めすかしていたから丸く収まっていたが、そうでなければ今頃は一体どうなっていた事か分からんぞ全く。」

「貴方もいろいろ苦労してたのね。……中間管理職の悲哀ってやつかしら。」

「そうだそうだ! 上司と部下に挟まれて俺様はいつも大変だったのだ。それになこれはオフレコなのだが、プライムの力を俺様にくれてやるとフォールンは言ったんだ。俺様はその言葉を信じてどんな板挟みに会おうが何とか我慢していた。更なるパワーアップとオプティマスを倒すためにはその力がどうしても必要だったからな。だが、プライムの力などというものはなかったのだ。」

「ないの!?」

「ああ、ない。いや…………あるにはあるが、その力は他者に受け渡せるような代物ではなかったのだ。まったく。そんな使い物にならないパワーの為に俺様は今まで耐えていたのかと思うと涙が出るぞ。態々我慢せずに、イライラしたらさっさとフォールンをぶちのめしてしまえばよかったのだ。さぞすっきりしただろうにな。」

「自分でフォールンをブッ飛ばせたんだからもうそれで満足して頂戴よ。」

「そうだな。後だな。これもオフレコなのだが、ぶっちゃけサイバトロン星の復活は無理なのだ。」

「無理なの!!?」

「ああ無理だ。もうサイバトロン星はほとんど滅びているからな。滅びに瀕したサイバトロンを救おうと思えば途方もないほどのエネルゴンが必要になるのだ。それこそ銀河に遍く恒星を全てエネルゴンへと変換でもしなければ間に合わないほどにな。俺様も内心では故郷復活が難しいと分かってはいたのだ。だがなーサイバトロンの呼び声が聞こえるのだー。故郷を取り戻せーとな。だから誰に理解されることなくとも俺様は頑張っていたのだ。オプティマスは駄目だと言ったが、サイバトロンを復活させるためにな。」

 

 

 あの破壊大帝が何故こんなことになってしまったのかといえば、あのスパイもどきのメイドさんと、ドリルヘアーのモンモランシ―のせいだった。シエスタが旅商人から購入したお茶をメガトロンに振る舞う所まではいい。問題はその後だ。なんやかんやあってモンモランシ―が禁忌品である媚薬を調合し、なんやかんやあってその媚薬がシエスタのお茶に混入し、なんやかんやあってそのお茶をメガトロンが呑んでしまったのだった。媚薬は、服用者が服用後に初めて見た相手にその効果を発揮する。

 媚薬中毒となってしまったメガトロン。その意中の相手がルイズだったことは不幸中の幸いだろうか。普段の態度からは考えられない程ぶっちゃけてしまっている使い魔。酔っぱらったようなメガトロンを相手にルイズは本当の意味で腹を割った会話をしていた。

 

 

「ねぇメガトロン。貴方いつもどこか何かやっているけれど、一体何をやっているの? 私の知らない所で、こそこそと隠し事をするのは止めて頂戴。貴方が何をやっているのか私にも教えてよ。」

「なんだ。別にその程度であれば構わんぞ。いくらでも教えてやれる。ただ、この狭苦しい大陸を征服するための裏工作をしているだけだ。」

「征服!? このハルケギニアを征服ってどうしてそんなことをしなければいけないのよ?!」

「あまり異なことをいうなルイズ。この破壊大帝にとって征服とは呼吸と同じだ。目の前にあるものを破壊し、支配する。それこそが俺様の存在理由なのだからな。例えそれが、こんなちっぽけな大陸だろうと同じ事よ。見逃しはしない。」

「ま……まぁいいわ。そういうことにしましょう。それで? 裏工作って具体的にどういうことをしているの?」

「具体的には拠点となる領土を獲得したぞ。手駒となる人間を高額報酬で雇い入れ、経営にあたらせている。鉱石の精錬や建築材料の資材生産などがそうだな。俺様の持つテクノロジーを経営に反映させれば、全ては上手くいくのだ。」

「はーー。本当にスケールが違うわね。私の知らない間にそんなことをやってたんだ。使い魔品評会にトリステイン・ゲルマニア側の重臣を呼びつけたのもそのためだったのね。領土を手に入れるなんて大それたことやるんだもん。相手を直接的に脅しでもしない限りは、そう簡単に事が進まないものね。」

「うむ。その通りだ。子飼いの人間どもが中々に優秀だったこともあるな。あの盗賊は見込み通りの働きをしてくれた。ありったけの金をばらまいた甲斐はある。裏工作は予想通りに進み、あっけなく領土を手に入れることが出来たぞ。」

「…………マチルダをチェルノボーグから脱獄させたのはやっぱり貴方だったのね。あーもーどこから突っ込めばいいのか分からないけれど、貴方にこき使われるマチルダには同情するわ。もう盗みに入る暇もないだろうしね。」

「待っていろルイズ。いずれこの大陸全土。遍くすべてをこの俺様の手中に入れてみせる時。その時は全てが貴様のものになるのだ。この大陸に、ルイズ帝国を打ち立ててみせよう!!!俺様の貴様に対する愛が! このハルケギニアに永久に語り継がれるようにな!!!」

「ありがとーメガトローン。別にハルケギニア欲しくないし、国土全部は大きすぎて懐に収まらないんだけどねー。あー死にたい。」

 

 

 魔法学院の中庭で、号砲をあげるメガトロン。その生き生きとした表情を見てルイズはどこまでもげんなりとしてしまう。あの誇り高いメガトロンにここまでの所業を強制させる。それは故郷復活の目的を奪う以上の屈辱に他ならないからだ。最早ルイズ一人が謝罪して済む話ではない。ルイズ一人が腹部に風穴をあけられて終わる話ではなくなってしまったのだ。媚薬の効力が切れ、メガトロンが正気を取り戻せば全てが終わることになるだろう。この屈辱的な行いは間違いなく逆鱗に触れる。激怒という言葉すら生ぬるいメガトロンの怒りがハルケギニアに吹き荒れることになる。灼熱の豪華で何もかもが焼き尽くされる未来は直ぐそこにまで迫っているのだった。

 

 

「お疲れ様ルイズ。もう遺書は書き終わったから、いつミスタが正気に戻ってもOKよ。せめて痛く無いように、安らかに逝ければいいんだけどね。」

「お疲れ様キュルケ。…………本当に申し訳ないわね。黄泉への旅に連れ立ってもらうことになるわ。まさかこんな終わり方になっちゃうなんて。想像もしてなかったんだけれどね。」

「こうなっちゃあもうしょうがないわよ。誰がどう抗おうともう終わりなんだから。取り敢えずは身辺整理を済ませてのんびり待ちましょう。いまさらジタバタしてもどうにもならないわ。せめて最後に貴方やタバサのぬくもりを感じながら死にたいわねぇ。」

「それは嫌!」

 

 

 カラカラと笑うキュルケだったが、その瞳に力はない。キュルケにも分かっているのだった。もう先がないのだということが。ここまでの屈辱を受けて、笑って許してくれるほどメガトロンは優しくない。その事実を痛いほど理解しているから、目の前にある未来を受け入れることが出来た。ただ静かに、その時を待つ。出来ることといえばそれだけである。ルイズが傍に入てくれることだけが、せめてもの救いだった。

 

 

「ちょっと! 何でもう諦めちゃうのよ! まだ何とか出来るかもしれないでしょ?」

「そうだよ皆! 諦めたらもうそこで終わっちゃうよ ま……まだ出来ることもあるかもしれないから最後まで足掻こうじゃないか。」

「あー五月蠅い五月蠅い。どうにかってんならあんたらで何とかしなさいよ。もう私知らないから。」

 

 

 事の元凶であるモンモランシ―とギーシュだった。耳元で何かわーわー言っているが、ルイズにはもうどうでもよかった。メガトロンが泥酔してしまう程なんてどれだけ強力な媚薬を調合しているんだお前は。何を考えてギーシュにそれを盛ろうとしたんだよどんな関係になりたかったんだ。寂しかったもっと構ってほしかったとか舐めているのかなど突っ込みたいことはある。だが、痴話喧嘩が原因で世界が滅ぶことになるとは、まさか夢にも思わなかっただろう。その事実を思えば二人だけを責める訳にはいかなかった。

 

 

「シエスタよ。貴様も色々と大変だろうがな。そろそろ元気を取り戻して貰わねば困るぞ。貴様は俺様のマスターの世話周りをしなければならないのだからな。そうやって落ち込んでいる様子を見ればルイズも悲しむ。」

「…………はい。…………メガトロン様や皆様のお気遣いも合ってなんとかいつも通りの日常を取り戻しつつあります。…………本当に感謝しています。」

「それは良い傾向だ。一つのたとえ話だが俺様の話をしよう。俺様は今までに30000回以上部下からの反乱を企てられたが、一度もおちこんだことなどなかったぞ。全てこの俺様の手で叩きのめしてやったわ。シエスタ。貴様も俺様の様に無能な部下共がどれだけ反乱を企てようが意に介さない程の度量を持て。そうすればどのような窮地だろうが問題にはならん。貴様はここで終わってしまう程薄弱ではない筈だ。」

「……フフッ。30000回の反乱ですか。メガトロン様らしいですね。」

「そうだ。まだましな部下はショックウェーブやサウンドウェーブくらいだな。その他の部下はいつ反旗を翻すか分からん。あまりにも裏切者が多すぎるのでな、意思のないドローン兵を作り出して軍団を決して裏切らぬドローン軍団へと作り変えようかと画策していた位なのだ。まったく。俺様の苦労も推して知るべしという所だろう。」

 

 

 グダグダとシエスタに絡んでいるメガトロン。その雰囲気はさながら場末のバーでウエイトレスに絡む酔っぱらったおじさんのようだった。誰彼構わず自身の内実をぺらぺらと話してしまっている。本来であればそれらの情報は秘匿されなければならないのだろう。ディセプティコン総司令官であるメガトロンの内実は決して洩れてはいけない機密情報である。しかし、ルイズたちはそれをかなり深い部分まで知ることになってしまった。正気を取り戻したメガトロンは間違いなく口止めをするだろう。抹殺という簡単な形式で。

 

 

「む。どうした我が愛するマスターよ。史上最高の可憐さを持つルイズフランソワーズよ。キュートなキュートなルイズちゃんよ。何故そんな暗い顔をする? 何か不満でもあるというのか。財宝が欲しければ幾らでも用意しよう。領土でも、爵位でも、愛でも好きなものを言うがいい。何でも用意してやれる。何でも奪い取ってやるぞ。この俺様に出来ないことなどない。何故ならば俺様は破壊大帝メガトロンだからな。」

 

 

 このままルイズが浮かない顔をしていれば、メガトロンは余計な気をまわすことになる。様々な策略を計画し、ルイズの為になることを先回りして叶えまくるのだ。王家に働きかけて、ヴァリエール家に様々な爵位や褒章をもたらしたり。ルイズ個人の評判を天井知らずの様に高めることがそうである。このままメガトロンを放置すればどうなるか火を見るよりも明らかだった。もしかすれば先程宣言したルイズ帝国とやらも遅かれ早かれ爆誕することになるかもしれない。

 

 

「うがーー! 分かったわ。こうなりゃ焼けよ。骨の髄までこんがりと焼いてもらおうじゃない! 毒も食らわば皿まで食らってやるわ!!」

 

 

 浮かない表情から一転。椅子を蹴立てて立ち上がったルイズは覚悟を決めた。どうせ死ぬのであれば精々足掻き切って死んでやる。やれることをやり切ってから死んでやろうと意思を固めて、ルイズは叫ぶ。矢の様な指示を出してこれから攻略すべきイベントを名指しした。

 

 

「キュルケ! あんたお家のことで色々揉めてるんでしょ? 正当な嫡子じゃないとか後継ぎがどうだとか。だから今ゲルマニアにまで行って解決してあげるわ。感謝しなさい。後タバサ! あんた本当はガリアの正当な後継者なんでしょ。いろいろ身分を偽っていたようだけれどメガトロンから全部教えてもらったから。あんたの問題も全部解決してあげる。ジョゼフをブッ飛ばして、記憶を失ったお母さんもドクターの薬で元に戻してあげるわよ! だからあんたはこれからガリアの女王様! 正当な即位式はお金をばらまいてド派手にやるわよ。楽しみにしておきなさい! 後それからそれから、エンシェントなんとかドラゴンだの、地下水とかいうインテリジェントソードだの元素の兄弟だの東の果てにいるエルフだのも、ぜーんぶぜーんぶぶったおしてやるわ!!! 私とメガトロンのコンビは最強なんだから!!!! なんだってやってやるわよ!!!」

「そうだ!!! その意義だぞマスター!! やはりルイズはこうでなくてわな。さぁいくぞ!! 時間が惜しい。俺様とマスターとの覇道はこれから始まるのだ!!!」

 

 

 吹っ切れたルイズとメガトロン。ハルケギニア最恐のコンビはこれから数多の艱難辛苦を打ち破ることになるだろう。コックピットへとルイズが乗り込むとエイリアンタンクはすぐさま離陸した。ガリアへ無能王を討伐しに行くのか。はたまたゲルマニアにてキュルケのお家問題を武力行使という実弾で解決させるのか。エイリアンタンクが向かう先はルイズしか知らない。

 だが、空を切るメガトロンの疾走は何処までもまっすぐで迷いがなかった。ハルケギニアの蒼い空を切り裂く銀影の鉄塊。破壊大帝メガトロンは信頼する可憐なマスターと共に新しい覇道へと進み始めた。

 

 

「ドクター。聞いてもいい?」

「あん? なんだよチビ。気安く俺に話しかけるんじゃねぇ。幾らメガトロン様があーなっちまったからって俺までお前らにペコペコするつもりはねぇんだからな。」

「それは別に構わない。私たちに頭を下げる必要もない。……でも一つだけ聞かせて。あの鋼体に摂取された媚薬はどれくらいの期間で分解される?」

「どれくらいの期間だ? あーそれは摂取した量にも左右されるが、代謝が完了するまでまぁその内だろ。メガトロン様は毒物だの劇薬だのの類には滅法強い耐性を持っているが、媚薬みてぇなもんにはあんまり強い耐性を持ってなかったみてぇだからな。詳しくは分からん。だからその内だ。」

「その内…………とは?」

「ざっと60年ぐらいじゃねぇか? 厳密な期間は知らねぇけどよ。」

「………………長杉。」

 

 

 その発言を聞いて絶句するタバサ。何でもない事のように言うドクターだったが、60年という数字は彼女ら人間達にとって途轍もない長い時間である。明日か明後日には、メガトロンが正気を取り戻すだろうとタバサは予想していた。しかし、その不安は杞憂に終わったようだった。これから60年あの凄まじい愛の告白を聞かせられるのかと、辟易するタバサだった。しかし、呆れると同時に、二人が歩む未来に強い希望を見た。その希望はどんな強い闇でも打ち砕くだろう。取りあえず退屈することだけはないと、タバサは頷いた。

 

 

「さぁ行くぞルイズ!!! 俺様たちの伝説はこれから始まるのだ! 」

 

 

 ルイズやキュルケ。タバサは知らなかった。彼らトランスフォーマーは何万年という凄まじいスパンで生活する種族だということを。60年という数字はメガトロンやドクターにとっては僅かな期間であり、大した問題にはならないのだった。

 

 

「えぇ分かったわメガトロン。一緒に証明しましょう。私たちは私たちだということを。私たちの戦いはこれから始まるんだから!!!」

 

 

 

 ハルケギニアに吹く薫風。降り注ぐたおやかな日差しが二人の行く先を照らしている。進む先は何処までもまっすぐに。迷いなく突き進む修羅のトランスフォーマーと可憐な少女。最強のコンビであるルイズとメガトロン。運命に引き合わされた二人の戦いはこれから始まるのだった。

 それは後に伝説と呼ばれた物語。最恐の二人が紡ぐ征服譚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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