ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第四話 ドクタースカルぺル

「ちょっと失敗したみたいね」

 

 

 そう言ってボロボロの姿のルイズは散らかった教室の片づけを行っていた。

 

 

 火・水・土・風、魔法の四大系統、ブリミルが用いていたという失われし伝説の系統である虚無、

 魔法と生活との関係性、トリステインが歩んできたこれまでの大まかな歴史、などを詳らかにしながら授業は問題なく進められていた、

 

 

 しかし、シュヴルーズが錬金の実演を行い、それをルイズにもやらせたところから問題は発生した。

 ルイズの錬金の魔法によって教卓の上に置かれていた石が爆発をおこし、教室を半壊させたのだ。

 教室の黒板まで吹き飛ばされるシュブルーズ、爆発に驚いた使い魔達が騒ぎだし、加えてあらかじめ机の下に避難していた生徒たちにも甚大な被害が及んだ、

 

 

 

「何やってんだ!ゼロのルイズ!」

「ちょっとじゃないだろ、いつだって成功する確率は、ほとんどゼロじゃないかよ!」

 

 

 

 そんな怒号がラヴィッジがいるにも関わらず教室の内に響き渡った。

 

 

 失敗魔法による爆発で半壊した教室の片付けを命じられたルイズは黙々と掃除を行った。

 ラヴィッジも片づけを彼女と一緒に手伝っていたが重い沈黙が場を支配した。

 しばらくするとルイズが唐突に口を開いた

 

 

「わかったでしょ?私がゼロのルイズって呼ばれてる理由…」

「そうよ、私は魔法を一度も成功させたことが無い成功できたためしがない、だからゼロのルイズ、

 笑っちゃうわよね、魔法も満足に使えない癖にあなたを従えているなんて」

 

 

 ルイズも本当に不思議に思っていた。

 劣等生である自分が何故メガトロンのような強大な使い魔を召喚することが出来たのか、メイジにとってサーヴァントは自身を映す鏡である。自身の持つ特徴や性質がサーヴァントには色濃く反映されている。逆説的に召喚したサーヴァントを観察し自身の能力を鍛える指針とすることも普通に行われていた。

 

 そして優秀なメイジには優秀なサーヴァントが召喚されるものであるが、果たして召喚者である自分はメガトロンやラヴィッジを監督できるだけのものを持っているのか、ルイズは考えぽつりとつぶやいた。

 

 

 

「こんな主じゃ、直ぐにメガトロンも私に愛想をつかしちゃうかもね」

 

 

 半ば自暴自棄気味に呟くルイズ、未熟な自分に果たして召喚した使い魔を御しきれるかどうか、あの強力な使い魔を考える中、この時点で彼女はすでに強い不安に駆られていた。

 そして深い懊悩の中で彼女の声に応えるものがいた。

 

 

「ルイズ様、顔をお見せください。傷がついています。」

「!!!」

 

 

 ルイズは始めラヴィッジが喋ったのかと思っていたが、喋ったのは目の前にいる己の顔程の大きさをした虫のようなものであった。それは細く長い六本足を器用に使って身体を支えている、顔には円柱上のパーツが二つあり片面の部分が赤く光っているためそれが感覚器官として目の役割を果たしているのだと理解できる。

 

 

「あなたは誰?見たところラヴィッジと同じように金属でできているみたいだけど、」

「申し遅れました、俺はドクター。ドクタースカルペル。メガトロン様に仕えている医師でございます。」

 

 

 ルイズが問うたところ目の前にいる虫のような物体はメガトロンやラヴィッジの身体を保守・点検するメカニック医師であるという。普段はラヴィッジの胸部格納庫に収まっていて、仕事の際にでてくるらしい。他にもラヴィッジは似たような存在を複数保管しているというのだから驚きだ。

 

 

 

「それで、私の傷を見てくれるの?」

「ええ、メガトロン様にもルイズ様が傷を負った際には治療にあたるようにと、言い含められていますから。」

 

 

 

 とスカルペルは述べると右肩に跳びついて爆発の際に生じたルイズの右ほほの軽い切り傷を治療し始めた。

 何かよく分らない光線を傷口に照射しているドクターにルイズは尋ねた。

 

 

 

 

「ドクター、メガトロンは今どこで何をしているの?」

「メガトロン様は今現在南西400リーグの上空で大陸を測量しています。」

「な……何をしているのよあいつは」

「まずは周囲の地形、生物の分布、気候などの情報を集めなければならないと申しておりました。」

「メガトロン様及び私たちはこの大陸のことを何も知りません、故に早急な測量に出かけたのでしょう。ご安心くださいもう少々でお戻りになると思います。」

「そうね。あいつだったら」

 

 

 

 ルイズは昨日の出来事を思い出す。軽々と大穴をつくるあの力、人型からヴィークルモードに変形して高速で空を滑空することもできるあのゴーレムの優秀さを彼女は思い知ることになる。

 エイリアンタンクにしがみついていた彼女は余りの速さから学院につくまでに己の意識を手放していた。その後学院では、空を飛ぶルイズの巨大な使い魔に関する話題で騒然となったのは当然の帰結と言える。

 

 

 

 

「ルイズ様、治療が終わりました。」

「えっ!もう終わったの?すごいわ、ドクター。あなたは、優秀な医師ね」

 

 

 

 とルイズは頬を触って頬の傷が消えたことを確認するとドクターを褒める。

 彼は満更でもないように自らの手腕を誇っていた。魔法が普及しているハルケギニア大陸では怪我人や病人の治療と言えば水属性のメイジによる治療が一般的である。その中で魔力を使わずに怪我を治療することが出来るドクターのような存在は貴重なのであろう。ルイズは己の使い魔の優秀さを痛感した、それとと同時に彼らに負けないように自分も更に努力を重ねようと決意を新たにした。

 

 

 

 しかし、その決意は自発的な生優しいものだけでなかった。強大な使い魔に引っ張られるようにした強制性のある悲壮な思いも多分に含まれていたのかもしれない。

 自分がやらなければならない

 ルイズ以外にそれができる人もその立場にいる人もいなかったからである、

 

 

 

 

 ・ラヴィッジ:追跡、潜入のエキスパート strength rank 4

 ・スカルペル:膨大な解剖学の知識を有する、医師 strength rank 1

 

 

 

 

 メガトロンは大国ガリアに連なる火山山脈上空を亜音速で滑空しながら考えに耽る 、

 何かがおかしかった、呼び出されてから自分に何かが起こっていることは明白だった、

 今までのメガトロンの言動には不可解な点が多すぎるからである、

 なぜ一応とはいえ使い魔などという関係を受諾しているのか、

 通常のメガトロンであればルイズを即座に叩き潰していたはずだ。宛ら人間が小さな子虫を踏みつぶすかのように。

 

 

 しかし、メガトロンはそれをしなかった。何故か?何度か考えてみたが答えは判然としない。

 加えて、今のメガトロンには記憶が大幅に失われている。幾度も復元を試みたが全て失敗に終わった。残留していた記憶を繋ぎあわせてみたが自分を除いた殆どすべての記憶が失われている、という事実が改めて浮き彫りになったことを再確認して終わってしまった。

 

 

 

 メガトロンは自身の記憶に関する思考を打ち切ると元々の目的へと己の思考を傾注する。

 膨大な記憶を失ったメガトロンの目下の懸案事項は自身の境遇と現状を確立することだった。今自分の置かれている状況は何か、ここはどこなのか、周囲の環境と状況を正確に把握することでこれから何をするべきか、行動の指針を模索する際の有力な要素の一つとすることが出来る。

 

 

 

 何をするにしてもまずはそれからだった。

 継続してメガトロンは真下に広がる雄大な山脈の詳細な地形データを記録し続ける。

 だが、急速に極超音速まで加速すると自身のレーダーが探知した大きな熱源反応へ向けて降下を始めた。

 

 

「………。」

 

 

 自らの力をふるう際にメガトロンが際立って何かを思うことはない。何かを破壊することは彼にとってはごく自然なことであり自らの本性その物だからだ。

 山脈の火口付近には、ターゲットにされたことに気づかずに眠りこけている生物が幸せそうな寝息をたてている、メガトロンにターゲットにされたそれには、全く以て残念だとしか言いようがない。死と破壊を司る破壊大帝に対抗できる生物などルイズが召喚したこの世界にも宇宙にもどこにも存在していないのだから。

 

 

 

 


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