ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第二十八話 ヴァリエールとツェルプストー

 

 トリステイン魔法学院寮塔、その自室にてルイズは引き籠っている。欠かさずに出席していた授業すら無断欠席する有様だ。成績優秀で模範生であるルイズにとって考え辛い事態だった。一体ルイズは何を思って引き籠っているのだろうか、何故引き籠ってしまったのだろうか。

 

 

 王宮殿に赴き、優先して行わなければならないアンリエッタ姫殿下への報告。ルイズはそれすらもオールドオスマンに代理させていた。ルイズの申し出を快く受け入れたオールドオスマン。代理人であるオスマンによってアンリエッタ姫殿下への報告は済まされた。手紙奪還の任務が成功した、という報告が済ませられたこの時点でルイズ達がアルビオンより帰還して既に一週間が過ぎていた。この一週間の間もルイズは自室に籠り続けている。

 

 ルイズたちがアルビオンよりトリステイン魔法学院へ帰還してすぐ、ドクターの手によってキュルケとタバサの治療が行われた。その治療の甲斐あってキュルケやタバサは意識を取り戻し、三日後には傷一つ残さず健常へと復帰することが出来た。キュルケとタバサが意識を取り戻した際にはさしものルイズも引き籠っていた部屋を後にしていた。任務へと巻き込んでしまった謝罪と多大な貢献を惜しみなく労うルイズ。そうしてキュルケとタバサに対して惜しみのない感謝を表明し終わると、再びルイズは自室へ引き籠ってしまった。

 

 

 人通りの少ない時間帯を狙って食事や入浴を済ませているようで、ここ数日の間、学院生の中でルイズの姿を見かけた人は殆どいない。人目を避けるようにして生活をしているルイズ。

 そのようなコソコソとした様子をキュルケがただ黙って見過ごすわけがなかった。

 最初は静観に徹していたキュルケだったがとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのかもしれない。ルイズたちがアルビオンより帰還して十日目。つまりルイズが引き籠って一週間以上が過ぎた今日。キュルケはルイズの部屋へ押し入ることにした。夕食と入浴を済ませたキュルケは自室ではなくそのままルイズの部屋へ直行。自分の頬を叩き気合を入れる。そして鍵のかけられたドアをアンロックの魔法で解除した。何の遠慮会釈もなくずかずかと室内へと歩を進め、ベッドの上で読書をしていたルイズを認めた。

 

 

 寝巻としている薄布のネグリジェを一枚身に着けているだけだったが、傷心している様子もなくルイズは元気そうだった。引き籠っていたとは思えない程溌剌としているその姿を見て一先ずは安心するキュルケ。

 書籍へ注がれていた視線がキュルケへと移動する。ジトリとしたルイズの視線をさらりと受け流してしてキュルケは微笑む。感情の機微を細やかに扱えるキュルケらしい所作だった。

 

 

 

「ドアを開けるときはノックをしなさいよ。レディとしての慎みを見当たらないわね。」

「ハロー、ルイズ。もうハローっていう時間じゃあ無いけれど、御邪魔するわね。」

 

 

 

 ルイズの皮肉を無視してキュルケはベッドに腰掛けた。そして何故か服を脱ぎ始める。するすると身に着けていた衣服を脱ぎ捨て、扇情的なデザインの下着のみを身に纏った状態になった。16歳とは思えないほどの見事なプロポーションが露わになる。美しい褐色の肌が部屋に燈っている灯火を写して橙色に煌めいていた。

 布面積の少ないエロティックな下着だけを着ているキュルケ。その濫りがましい姿を見て鼻の下を伸ばさない男子はいない。だがこの部屋に男子はいないし、ルイズは溜息を吐くだけだった。

 

 

「キュルケあんたアホなの?レディとしての慎みを見当たらないって忠告が全然活かされてないじゃない」

「お風呂上りだから身体が火照ってしょうがないのよ。誰が見てるって訳じゃあないんだから別に構わないでしょう?少しの間だけだから我慢して頂戴。それともルイズ。あなたが私の相手を務めて私の身体の火照りを鎮めてくれるっていうのであれば事の次第は変わるわよ?」

 

 

 そのままでいい、と身の危険を関じてルイズは渋々承諾した。その様子を見てキュルケは何故か満足げだ。ルイズが若干引いているにも拘らずグングンとその距離を詰めてくる。天蓋付きベッドの端でキュルケは得物を追い詰める。とうとう壁際まで追い詰められ逃げ場をなくしたルイズの姿はまるで蛇に狙いを定められた蛙のようだった。

 

 ネグリジェ姿のルイズと下着姿のキュルケ。外側から見れば可憐な少女達がじゃれついて遊んでいるように見えるが二人は真剣だった。特にルイズは危機的状況を打開しようと必死で頭を巡らせている。じりじりと女豹のポーズで近づいてくるキュルケ。その瞳は詰に取り掛っている棋士のように熱を帯びていた。

 

 

「ねぇルイズ。知ってる?トリステインとゲルマニアの同盟が無事結ばれたそうよ。アンリエッタ王女様とアルブレヒト三世の婚姻も発表されたし、これで一先ずは落ち着くことが出来るんじゃないかしら?」

「私も流石にそれ位は知ってるわよ。一か月後の婚姻に合わせて両国間に緊密な軍事同盟を締結するんでしょう?新政府を樹立したアルビオンからも不可侵条約が打診されたわ。トリステインはアルビオンからの特使を迎え入れたから多分この条約は締結されると思う。これで均衡が保たれればいいんだけれどね。一応は平和になったともいえるのかしら。あとキュルケ近いから!もっと離れて!?」

「あら、ずっと引き籠ってたから何も知らないと思ってたわ。ミスタから教えてもらったの?それとも違うだれかから?まぁ誰から聞いていても事情を知っているのであれば話が早くていいわ。アルビオン革命派もゲルマニアと同盟を結んだトリステインをおいそれと攻め入る訳にはいかないだろうし。レコンキスタの件も残っているから一件落着とはいかないけれど。開戦を食い止めることが出来たことだけは誇ってもいいんじゃないかしら。」

「だから近い!!励ましてくれるのは嬉しいけど。もっと離れてても出来るでしょ?!」

 

 

 

 キュルケの進行は止まらない。対抗してルイズは必死で自分の身体とキュルケとの間にクッションを差し込んでいるがキュルケは気にしていないようだ。燃えるような赤い髪がピンクブロンドの長髪と触れ合い、絡まる。ルイズは必死で抵抗するがその抵抗は実る気配を見せていない。ルイズの華奢な矮躯に圧し掛かるようにしてキュルケは迫った。細い手首をがっしりと掴み、絶対にここから逃がさないという決意表明を見せるキュルケ。ベッド上の攻防は佳境を迎えている。

 

 

「離れてもいいけれどその代わりしっかりと話してもらうわよ?どうして?ルイズ。あなたはどうして部屋に籠っていたの?やっぱりあの子のことを気にかけているから?」

「あの子ってラヴィッジのこと?勿論、それも理由の一つになるわ。でも私自身まだ整理がついていない部分が沢山あるから少しだけ一人で過ごしていたのよ。」

 

 

 ルイズの部屋。その隅にはラヴィッジが蜷局を巻いて寝そべっている。一見すると普段と変わらない様にも見えるが深い傷痕のように迸っていた紅の単眼は何も映していなかった。ピクリとも動かないラヴィッジ。

 

 ワルドの激烈な攻撃を受け続けその身体は破壊されてしまったのだろうか、それは否である。

 

 金属生命体であるラヴィッジは半永久的な生命を持つ。その生命は通常の有機生命体を遥かに超越していた。生物としての格がとても高度なのである。一度身体を破壊されれば動くことは出来ないし、回避することのできない死を受容することになる。だが、その身体を修復してエネルゴンを全身に循環させることが出来れば金属生命体は何度でも復活することが可能だ。一度の死で全てが終了する有機生命体のように柔ではない。ラヴィッジは仮初の死亡状態のままルイズの部屋の置物となっているが、完全に死亡してしまった訳ではなかった。

 

 

 

「ドクターが言うには、身体はもう修復し終わっているけど、えねるごん?っていうものを動かすための触媒がないからまだ完全に治療することが出来ないそうよ。でも死んでしまった訳じゃなくてダメージから身体を守るための一時的な仮死状態だから心配しなくてもいいって。」

「そう、よかったわねルイズ。大切な使い魔を失うことにならなくて。」

「うん、本当に良かった。ラヴィッジが居なくなってしまうなんて絶対に無理。私には耐えられないから。ドクターの言葉を聞いて本当に安心したの。あぁ良かったって。」

 

 

 心底安心しているルイズを見てキュルケは自身の推測が外れていたことを知った。重傷を負い動くことすら出来ない使い魔への心配。その心配が引き籠った理由の全てではないということは、その他の理由は何処にあるのだろうか。ルイズへ襲い掛かっているその魔手を一時休止してキュルケは考える。

 

 夜這いの進行が治まったことを確認してルイズはキュルケの身体の下から這い出ようともがいていた。しかし、がっしりと掴まれている両腕はルイズの力では動かせなかった。巨大な乳房を伊達に普段からぶら提げている訳ではない。重力に従って乳房が揺れる日常生活の賜物か、矮躯のルイズを抑え込めるだけの腕力をキュルケは持っていた。

 

 そしてキュルケは片腕でルイズの両手を押さえつけ、残った腕を背中に回しブラジャーを外し始めた。惜しげもなく晒されたキュルケの裸。目の前に露わになっている巨大な乳房を見て流石のルイズも赤面した。さっぱり意味が分からないと狼狽し、赤くなった顔そのままにルイズは叫んだ。

 

 

「キュルケ!あんたアホなの?!馬鹿なの?!何がしたいのよ?!」

「ぴーちくぱーちく煩いわねぇ。耳元で叫ばないでちょうだい。ただ身動きが出来ないように抑え込まれているだけでしょう?ブラジャーは外したけどまだパンツは履いているし何をギャーギャー騒いでいるのよ?まだ安心してていいのよ?」

「これが安心できる状況ッ?!それにまだって何よ?まだってッ?!馬鹿ッ!アホッ!早く腕を放しなさいよォッ?!!」

「放しても良いけれど次は全部話して貰うわよ。何で引き籠っていたのか、黙って聞いているから最後まで聞かせてちょうだい。」

「分かったから。話すからちゃんと手を放しなさいよッ?!!」

 

 

 パンツだけを身に着けたキュルケに身動きできないように抑え込まれて説明を迫られる。最高に意味の分からない状況がルイズを取り囲んでいる。しかし、ルイズが言葉を差し挟む余地がないほどに、キュルケの瞳は真剣そのものだ。キュルケの真剣さにほだされて、そしてこのまま状況を放っておけばパンツすら脱ぎ捨てて迫ってくるかもしれないという恐怖も手伝って、ルイズは全てを話すことにした。

 

 

「えっと。どこからどこまでを話せばいいのかな。もうキュルケとタバサには全部話してるでしょう?アルビオンで何があったのかその顛末を。」

「ワルドが来て、ウェールズ皇太子殿下を殺されて、キュルケとタバサがワルドと戦って。この後からよね?キュルケは気を失っていたから何があったのか知りようがない。だからもう一度話すわ。あの後に何が起こったのか。」

 

 

 そしてルイズは語った。

 態々思い起こす必要もなく語ることが出来る。脳裏を過ぎる一連の顛末。ルイズの更なる成長の契機となった重要な事件。

 ルイズたちはアルビオンで何を経験したのか、引き籠っている間中ルイズはそのことについて葛藤を巡らせつづけていたのだから。

 

 

「キュルケとタバサがワルドに倒されちゃったあと、私がワルドに殺されかける寸前にラヴィッジが来てくれたの。ウェールズ皇太子殿下とお話がしたいから私の部屋で待機していてほしいってお願いしてたから間に合わないと思っていたけど。異変を察知して駆けつけてくれたみたい。」

「やっぱりラヴィッジは強かった。スクウェアメイジのワルドでもラヴィッジには対抗できていなかったから。あともう少しでラヴィッジはワルドを引き裂いていたと思う。」

 

「でも出来なかった、ラヴィッジが撃ち洩らしたワルドの偏在に私が捕まってしまったから。」

 

「あれだけワルドを圧倒していたのに、私に杖を突きつけていたワルドの命令にラヴィッジは素直に従っていた。ラヴィッジは私の身を案じてくれていたのかな、こんな出来損ないの御主人様なんか見捨ててよかったのに。偏在達の猛攻をただ黙って食らって、ラヴィッジはどんどん傷ついていった。」

「瀕死になったラヴィッジを見て私は本当に悔しかった。」

「ウェールズ皇太子を殺されてもキュルケやタバサが倒されてもラヴィッジが傷つけられても、何もできない自分がただただ悔しかった。私を捉えていた偏在もラヴィッジへの加虐に参加して、私は一人になった。礼拝堂の中で一人になって嫌が応にも思い知らされたわ。私は所詮メガトロンのおまけで、おまけですらなくて、助力も出来ない、ただ足を引っ張るだけ、誰も私を見ていないし私は何なんだろう私は何をやっているんだろうって。不甲斐無くて申し訳なくて苦しくて堪らなかった。」

 

「だから私は覚悟した。」

 

「ワルドへの増悪も手伝って、私はその覚悟を固めることが出来た。」

「相手を害する、という明確な覚悟。その責任と自覚を持って銃を構えて、その引き金を引き続けたの。」

「覚悟をしていたから、人を殺したんだという事実を慌てずに喚かずにしっかりと受け止めることが出来たわ。」

 

 

 自身の中にある葛藤をルイズがキュルケに話したのはこれで二度目のことだった。キュルケの様な気にかけてくれる良い友人の存在はルイズの確実な支えとなっている。ルイズの中に溜まっていた夥しい葛藤。たった一人で背負い続けるには重すぎるものだった。覚悟をしていても、理解していても、実際に体験するまでは分からないこともあるのだろう、その瞳は哀しげな色を浮かべている。

 キュルケに抑えられていた右腕をすっと引き抜き、差し出すようにして掌を掲げている。

 哀しげな瞳はそのままにルイズは言った。

 

 

「ワルドの額を打ち抜いたとき、その引き金の触感がまだ掌に残ってる。」

「日常生活の中でも何かのふとした拍子にその触感が甦って苦しいから、少しだけ日常生活から距離をとっていたのよ。」

「――――ッッ!!」

 

 

 意外なことにこの場で驚いていたのはルイズだった。眼を見開き何が起こっているのか分からないと困惑している。

 額を打ち抜いたときの感覚が甦って苦しい。その厳然とした事実をキュルケが知った時、キュルケの腕は自然と動いていた。掲げられているルイズの掌を自身の乳房に押し付ける。ルイズの右手によって形の良いキュルケの乳房が形を崩した。適度な弾力と肌のきめ細やかさを両立させた乳房の感触が掌を通じてルイズへと伝わった。まるで引き金の冷たい感触を覆い隠すようにしてその柔らかな質感が掌中に広がっている。

 

 

「どう?少しはましになったかしら?」

 

 

 キュルケは大真面目に、自身の乳房で憔悴しているルイズを慰めようとしていた。引き金を引いた感覚を乳房を触った感覚で中和し誤魔化せるのではないか。目茶苦茶だがキュルケらしい奇天烈な試みにルイズは苦笑せざるを得なかった。

 暖かな気持ちが心に広がり、自身の中に燻っていた葛藤の澱が薄れていくのを感じる。

 友人の裏心のない真っ直ぐな気遣いの気持ちがルイズには眩しく感じられた。

 

 

「キュルケ。あんたやっぱアホで馬鹿ね。」

「でもありがとう。あんたがいてくれて凄く救われてる。」

「態々服を脱いで裸を私に見せるのも、もう傷一つ残ってなくて元気だってことを私に直接確認させるためでしょう?キュルケらしく私が気負わないように配慮してくれてるのは分かったわ。でも、急に服を脱ぎ始めるのは驚くから止めてよね。」

 

 

 ルイズが友人たちを大切に思っているように、友人たちもまた同様に、ルイズを大切に思っているのだった。築かれた強固な信頼関係はルイズの心に安心を齎してくれる。

 ルイズは一人で戦ってはいない。だからこそ重い枷を背負っていてもルイズは倒れることなく戦い続けることが出来るのだった。

 

 

「あら、隠していたつもりだったけれど分っちゃうのね。だって気にしなくてもいいって幾ら言っても貴女は気に病んじゃうでしょう?こっちは報酬ももらって自分の意思で依頼を受けたんだから少しくらいの修羅場は承知の上よ。タバサも気にかけていたわよ。もう大丈夫だから。心配しなくてもいいって。」

「そうなんだ。うん、分かった。ごめんなさい、心配をかけて。」

 

 

 ルイズが思っていた以上に、ルイズは理解されていた。

 自分を理解し、心を配ってくれる友人の存在。そのキュルケが注いでくれる裏心のない優しさに触れて、思わずルイズは甘えたくなってしまった。友人だからと言って全てを打ち明ける必要はないが、それでもルイズはまだ幼い少女である。優しくて理解してくれる友人に時には依りかかってしまいたくなることもあるのだろう。

 その気持ちの揺らめきが影響したのか、ルイズは残っているもう一つの葛藤を打ち明けることにした。

 

 

「でもね、まだ全部じゃない。もう一つだけ、引き籠っていた理由があるの。」

「銃を使ってワルドを撃ち殺したとき。少しだけ。本当に少しだけ、私は思ったの。」

 

「ああ、力は何て素晴らしいんだろうって。」

 

「強力な力は何もかもの障害を吹き飛ばす。あのスクウェアメイジであるワルドを労力無く殺すことが出来た。なんの力も持っていなかった私が、ゼロと蔑まれていた私が、こんなに簡単に手練れのメイジを葬ることが出来るなんて、爽快だった。痛快だった。強力な力を惜しみなく振るうことがこんなにも素晴らしいこのなのかって。」

 

「ほんの少しでも、そう思ってしまったことが、私には許せなかった。」

 

「その気持ちは本当に僅かなものだった。けれど、どれだけ小さい気持ちだろうと積み重なれば山となって何時の日か、私を支配してしまうかもしれない。その恐怖があったから私は引き籠ったの。ほんの僅かでも強力な力に酔いしれるような感情を、その萌芽を抱くことがないように一人になって自分を戒めていたの。」

「メガトロンという強力な使い魔を従える私は、ほんの少しでもそんな気持ちを持っちゃいけないから。」

「それがメガトロンへ捧げなければならない最低限の敬意だと思うし、私が必ず満たさなければならない義務だと思うから。」

 

 

 敬意と義務について語るルイズの姿を見てキュルケは再認識していた。何故、目の前にいる少女があの鋼鉄の使い魔たちを召喚することが出来たのか、その根本がここにある。強大な力に酔いしれることなく、自身を保ち続けることが出来るその芯の強さ。使い魔への敬意と自身の持つ誇りを忘れることのないその直向きさ。

 同年代の少女とは思えない程に成熟したそのルイズの姿は凛々しくも美しかった。上っ面の美しさだけではない実を伴った確固とした心意気。そのルイズを見てキュルケはしみじみと呟いた。

 

 

「あなたはとても立派になったわね。一人前のメイジとして、ううん、それ以上よ。あなた程の立派な気概を持ったメイジは滅多に居ないと思うわ。」

「ほんの少し目を離しただけであなたは見違えるように成長しているのね。まるでどんどんと遠くへ行っちゃうようでちょっと寂しく思っちゃうけれど。」

「あなたの友人としてあなたの為に出来ることは何でもしてあげたいと私は思ってる。でも、弱い私に出来ること何て必要のない、余計なお節介なのかもしれないわね。どんどんと成長していく貴女を見て本当にそう思う。」

 

 

 それはキュルケの本心から下したルイズへの評価だった。

 強靭無比な鋼鉄の使い魔。その使い魔を従えなければならないという重圧だけでも相当のものだろう。普通の少女であればこの時点で何もかもを投出していてもおかしくはない。

 

 だがルイズは違った。

 貴族としての誇りと義務を自覚し、鋼鉄の使い魔たちを導いていくことを選択したのだった。

 強大な力をコントロールし監督するという茨の道。歩く先に数えきれないほどの苦難が待ち構えている。その厳しい未来を理解しているにも関わらず、誰に強制されずとも自らの意思でその道を選択する。並の人間では到底持ち得ないだろう高潔な気風を身に着けているルイズだからこその選択だった。

 

 そのルイズと自分は果たして友人で居られることが出来るのだろうか友人で居ても良いのだろうか、とキュルケが不安に思うのも当然のことだろう。明達なルイズに自分の助けなど要らないのではないかという疑問がキュルケの心には浮かんでいる。

 

 不安げな目の前のキュルケを見てルイズは反撃に転じることにした。

 気が緩んだキュルケの隙をついてルイズ側から逆に押し倒す。マウントポジションを取り、馬乗りになったルイズは片手ではなく両腕で以てキュルケの乳房も鷲掴みにした。これまでいいようにやられてきた鬱憤をお返しするように、巨大な双丘をこれでもかというほど揉みほぐし捏ね繰り回す。

 様変わりをしたルイズの様子を見てキュルケは驚くが、ルイズが次に発した言葉を聞いて安心を取り戻した。

 

 

「なーに不貞腐れてるのよキュルケ。アンタらしくないわね。人をおちょくった風にして何時もみたいに飄々と振る舞ってればいいじゃない。後、自分に出来ることがないなんて悲観的な言葉、キュルケから聞きたくないわ。アンタはアホで馬鹿でエロいけど、それでも私の大切な友達よ。その大切な友達が心を砕いて私を気付かってくれる、嬉しくない訳がないわ。それに何も変わりなく私は私よ、何処か遠くへ行っちゃったりなんてしないから安心していいわ。」

「だから、いつものように笑顔でいなさいよ。アンタが元気じゃないとこっちも調子が出ないんだから。」

 

 

 そうしてルイズははにかんだ。

 その笑顔は幼い少女らしさを残した悪戯っぽいものだった。キュルケらしさを踏襲して、ルイズも大切な友人であるキュルケを安心させたかったのかもしれない。ルイズの配慮を受けてキュルケも共に笑った。

 

 ルイズは矢張りルイズだった。

 凛々しく美しい姿も、幼い少女らしい姿も共に変わらずにルイズだった。どれだけ立派に成長してもルイズは変わらずにルイズである。そのことを知ったキュルケは安堵する。ルイズとの掛替えのない親密な関係をこれからもずっと持ち続けることが出来る。ルイズが何処か遠くへ居なくなってしまうのではないか、というキュルケの不安は綺麗に解消された。

 

 しかし、不安が解消されたことまではいい。

 

 だが不安の去ったそのキュルケの胸の内、ムクムクと不安に変わるようにして今度は欲望が湧き上がってきた。ルイズの姿を見てキュルケに本能的な欲望が去来する。キュルケの心配をするルイズの姿は健気でいじらしくて可愛かった。そのような可憐なルイズを性に奔放なキュルケが黙って見逃がせる訳もまたなかった。

 

 その身を案じて熟んだ瞳で見つめてくるルイズの可憐さは堪らなくキュルケを狂わせる。

 自身を鎮めていた枷が限界を迎えていることをキュルケは自覚する。

 乳房を揉んでいるルイズの腕をがっしりと掴みなおして、そしてキュルケは言った。

 

 

「悪いわね、ルイズ。もう我慢が効かないみたい。」

「は?」

 

 

 肉食獣のように妖しく煌めいたキュルケの瞳を見て今更にルイズは身の危険を感じたが時は既に遅かった。

 散々乳房を揉まれまくっていたキュルケの微熱に火が燈る。目の前にいる得物を捕食しようとキュルケは侵攻を再開した。火照った体はその火照りを鎮めるために相手を求めている。キュルケの目の前にはお誂え向きの相手がいた。火照った体がその火照りを目の前にいるルイズへ向けるのはごく自然のことだと言えるだろう。別に不自然なところはどこにも見当たらなかった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「こら!痛くしないから暴れないの!。」

 

 本格的に燃え盛り始めた鮮烈な炎を止める手だてなどなかった。

ラヴィッジは一時的な行動不能に陥っているし、メガトロンも学院を離れている。二人の逢瀬を邪魔できる存在は今何処にもいない。石造りの強固な壁は木霊する嬌声を完全にシャットアウトした。室内は密室に保たれており異変を察知したその他の学院生が入ってくることも終ぞなかった。ハルケギニアの双月だけがその成り行きを見守っていた。ルイズとキュルケが対戦したベッド上の攻防がどの様なものだったのか、知る者はいない。

 

 

 ヴァリエールとツェルプストー。互いが互いの理解者であり、大切な友人同士である両者は今日、肉体的にも少しだけ仲良くなった。

 

 

 

 


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