雪乃が宿泊しているというホテルは、圧巻の一言に尽きた。
入り口からエントランス。そしてエレベーターまで、高級オーラが出まくっていて、無駄に気品すらありやがった。
「着いたわ。ここが私が借りている部屋よ」
「……なあ、俺が空腹で頭がおかしくなって幻覚を見ているんだと思いたいんだが、ここって最上階の15階のスイートルームだよな?」
「間違えてないわ」
「ちなみに、いくらかかるんだ?」
「……はした金よ」
「嘘だ!!」
さらりと言ってのけた雪乃に反射的に叫んでしまう。だって見ろよ。窓から見える景色は絶景だし、さっきチラリと見えた寝室のベットなんかキングサイズのくそ高そうなやつだったぞ!? 初めて見たわ!!
「さて、先生。それじゃあ到着したけどまずは何にする? お風呂? ごはん? それともわたーーー」
「飯」
どこに迷う要素があるというのだ。俺は今、猛烈に腹が減っている。
「つれないわね。そんな飢えた野獣のような目をして私を見ているのに……」
「腹が減ってるからだ」
別に雪乃のことを飢えた目で見ているわけではない。今のこいつに俺が向けるとすれば警戒の目だけだ。
「というわけで、さっさと肉まん寄越せ」
「それはできないわ。だってこれは私のディナーだもの」
「は?」
おい待て。お前、まさかその袋に入っているその肉まん全部食う気か? 軽く五人前はあるぞ。
「今日はちょっと少ないわ。コンビニのバイト君に『肉まん全部寄越しなさい』って言って、これを出したら、今はこれぐらいしかないって言われたのよ」
そう言い、ポケットからブラックカードを出す雪乃。ていうか、お前、どこのハリー●ッターだよ。肉まんの何がお前をそこまで焚き付けるんだ。
言いたいことは山ほどあったが、とりあえず今は空腹を何とかするのが何よりも優先される。
「で、俺の飯は?」
「ルームサービスを呼びましょう」
「あ?」
まさかここのくそ高そうなホテルのルームサービスを呼ぶ気か?
やったーラッキーだぜ!
とか言えるか!! バカ野郎!!
相手は怪しさMaxの藤原 雪乃だぞ!? 後で何言われるか分かったもんじゃない!
「頼む」
だがここはあえて雪乃の罠に足を踏み入れてやる。奴がどんな罠を張ろうとも食い破ってやるさ。
『マスター。それ、ただ空腹に負けただけじゃないですか?』
黙れバカ娘。
高級ホテルが持ってきた料理は、やはり一流だった。とても旨く、そして上品。元の世界にいたら一生お目にかかれなかっただろう。
満腹になり、俺はひどく満足した……
と、本来ならなっていただろう。
「あら、どうしたのかしら先生。そんなげっそりした顔で私を見て? もしかして賢者になったのかしら?」
「とりあえずお前が、下ネタ大好きなのはよく分かったよ」
俺がげっそりしているのは、目の前でバクバクと肉まんの山を平然と平らげる雪乃の姿を見せられたからだ。馬鹿みたいな量を完食させられるのを目の前で見せられてみろ。誰だってげっそりするわ。
「ーーーさて、それじゃあお前が何故俺をこんな所に連れてきたか……その理由を聞こうか?」
「せっかちね先生。一応私、これでもアイドルやってるのよ? もっと私との時間を大切にしようとは思わない」
「そいつは初耳だ……で? それがなんだ? さっさと本題の話に入りたいんだが?」
「本当につれない人ね」
「まあいいわ」と、むしろ浮かべている笑みを深くした雪乃はパチンと指を一つ鳴らした。
「あなた達と話をしたかった私の理由は『これ』よ……」
すると、彼女の手に先程まで存在すらしなかった
曇り1つない漆黒の決闘盤だ。遊戯王ではいくつもの決闘盤が存在し、色々なデザインやら、カラーリングの物が存在する。当然、厨2の代表的なカラーリングである黒を基調とした
『マ、マスター……あれは、ダメです』
バニラが震えた声で俺に警告する。
言われなくても分かっている。
俺の全てが
警戒する俺と、俺の側にいるバニラを見ると、雪乃は本当に愉快そうに訪ねてきた。
「あなた達、世界を救ってみる気はない?」