小説家になろうで書いている「腐った世界の攻略法」というオリジナル作品が、モーニングスター大賞の一次選考審査を通ったので、そちらに力を入れていました。
二次では見事に落選。自分の力不足を痛感しました。
続きを期待してくれている読者の皆様の為にも、修行の為にも、週一更新を復活させようと思いますので、これからもよろしくお願いします。
度が過ぎた気まずさは、体調すら悪くする。
そのことを私、バニラは身を持って体感していました。
「……」
「あ、あははー」
ちゃぶ台のを挟んだ位置に、ちょこんと正座するのは、ついこの前まで私達の命を狙っていた謎の決闘者 レイン恵さんです。
今はマスターと協力関係にありますので、殺す殺さないの話はないのですが――
「……」
一言も喋ろうともしません。ただじっとこちらを見ているだけです。
(気まずい!)
最高に居心地が悪いです。これから解放されるには、こっちから話題を提供して会話をしていくしかありませんよね。
「あ、あのーレインさん」
「なに?」
あ、しまった。なにも話題を考えてなかった。
「えと、なんでもないです」
「そう」
「はい」
会話終了。
(気ーまーずーい!!!!)
やばい。ちょっと泣きたいぐらいだ。出来ればここから逃げ出したい。だがそれは許されない。
(恨みますよマスター!!)
何故ならこれはマスターに与えられた大切な任務だからだ。
「お前、今日はレインと一緒にいてやれ」
朝。デュエルアカデミアに行く直前になってマスターはそう言ってきた。
「は、はあ。それは別に構いませんがーー私でいいんですか?」
どうして私なのだろう? ウェンディゴちゃんとかの方がもっと適正な気がする。
「ウェン子とひなたには別の事を頼んであるから無理だ」
「ああ、なるほど」
なんとなく読めてきました。私が選ばれた理由が。
「お前、暇だろう? たまには働け」
「あんまりな言い方です!」
確かに普段は、マスターのそばについてボーッとしているのが私の日課だ。
だが、この私だって日々成長している。ちゃんと働いているのだ!
「私、最近はお米をとげるようになりました!!」
後、お風呂掃除も!
「……」
ふ。流石のマスターも何も言えなくなったようですね。さあ、認めてもらいましょう。自分のエースがどんなに有能なのかを!!
「五時に起床。俺と雪乃の弁当ならびに、レッド寮学生達の朝食を準備」
? 突然なにを?
「俺達が学校に行った後は、洗濯や掃除。ひなたの勉強も見る」
……あれ? このスケジュールは――
「昼前になったら、スーパーのタイムセールに行くために、この島から人形の乗り物で移動」
……うん。誰か分かりました。分からないわけがありません。
「夜になったら、学生達と俺達の夕食を作り、深夜になったら悪の秘密結社とやらと戦うために、どこかに出かける」
……
「少しでもうちの家計を潤す為に、レッド寮の食堂のアルバイト。家事も手を抜かず、一日の平均睡眠時間は約二時間。さあ、ここで質問だ」
「……はい」
「お前、働いてるか?」
はは、そんなの考えるまでもなく、
「ただ飯ぐらいのニート精霊ですいませんでした!」
速攻魔法 ジャンピング土下座を発動するに決まっている。
ごめんなさいウェンディゴちゃん! 私、知らなかったとは言え、とんでもないくずでした! 昨日も何を食べたいかって聞かれて、海老フライ! って即答したゴミくずです!!
「ばにらおねえちゃん。きょうのおひるはなにがいい?」
ああ。グッドタイミングでウェンディゴちゃんが。
私を頭を思いっきり地面に擦り付けながら叫ぶ。
「毎日、美味しいご飯をありがとうございます!!!」
「? どういたしまして」
なんのことだか分からないという風にウェンディゴちゃんは困惑しているようだが、私は決して頭は上げない。
「レイン恵のこと、頼めるな」
「お任せあれ!!」
このバニラ。少しでも皆のお役にたって見せます!!!
と、言った風な事があり、今、私とレインさんは向き合っているのですが、
(ああ、もう二時間が経ってしまいました)
時計をちらりと見ると、もうお昼時。いかん。これはいかんですよ。仲良くなるどころか、気まずくて顔を合わせられないぐらいです。
な、なんとか突破口を――
「あのー」
「なに?」
「ええと、もうお昼ですけど、何か食べたいものありますか?」
「なんでもいい」
「そ、そうですか」
「あなたは?」
「なんでもいいですね。あは」
というか、何も食べる気になれません。
ああ、また会話が終わってしまいました。誰か、助けて下さい!
「ただいま! あ、バニラママとレインお姉ちゃんがいる!」
「ひなた!!」
ようやく現れた救世主の登場。私は思わず声を大にしてしまう。
「今日のごお昼ご飯は外で作るってウェン子お姉ちゃんが言ってたよ!」
「なら行きましょう! すぐに行きましょう!」
数分前の私は死にました! お腹ぺこぺこです!
「レインさんもいきますよね!」
「うん」
よし。言質は取りました。流石はウェン子ちゃん! グッドタイミングで最高のお助けをしてくれます。
「またせたな!」
……そう思っていた時が私にもありました。
外に出ると、そこには巨大な鉄板と、広島風と書かれたハチマキをしたウェンディゴちゃんの姿が。
「あ、あのウェンディゴちゃん?」
「さあ、げーむをはじめよう」
「えぇ!?」
お昼ご飯じゃなかったんですか!?
「げーむはこのてっぱんをつかう!」
何故に鉄板!?
「私とウェン子お姉ちゃんで作ったんだよ!」
まさかのメイドインウェンディゴ&ひなた!?
「じつはすでにねっしてある! ひょうめんおんどはひゃくどいじょう!」
「誰も聞いてないよ!」
「私の炎でやったんだよ!」
「なんという神の無駄遣い!」
ゴッドフェニックスってこんな事に使うものなんですか!?
「そしてこのこおりのかたまり! まんなかにしけんかんがうまっていて、かやくがしこまれているぞ!!」
「なんでさ!?」
どうしてそんな物騒な物を!? っていうか、それどうやって作ったんですか!
「もしこいつが、てっぱんにふれたらばくはつ。ふふ。おこのみやきのきぶんがあじわえるぜ」
「いや、味わいたくないんですけど……」
「とかいって?」
「やりません!」
「でもじつは?」
「やらないってば!」
ツッコミがまるで追いつきません。ま、まずいですよ。この流れだと確実にやばい事になります! なんとか逃げなければ……
「だいじょうぶ。うぇいんどうぉーるのおうようで、わたしたちいがいにはおともきこえないし。ひがいもおよばない」
「そういう問題じゃありません! っていうか、便利すぎでしょうウェンド・ウォール!」
! 閃きました!! この状況を打破する策を!
「レ、レインさんもやりませんよね!」
逆転の一手。レインさんの同意を得る。
完璧です。レインさんもこんな危険なゲームをやろうとはしないはずですから。
さあ、レインさん。答えて下さい。一言やらないと……
「テンション上がってきた」
「なんでぇ!?」
やばい。この流れはもう修正不可――
「なづけて「鉄板アイスホッケー」!!」
「どっかで聞いたようなデスゲームですね!?」
「ラケットのかわりにこいつをつかうよバニラママ!」
ひなたからヘラが投げ渡される。それを反射的に受け取ると、
「ゲームスタート!!」
「ちょ! いきなり!?」
無情にもゲームは開始された。
「おらぁ! へらをもたせれば、わたしのみぎにでるもんはおらんのじゃ!」
「誰ですか!?」
爆薬入りの氷の塊がウェンディゴちゃんによって打ち込まれてくる。
「ぐ!?」
何とか打ち返すが、互いの陣地を一往復するだけで、氷の大きさが目に見えて減る。
な、なんて恐ろしい。火のついた導火線を投げ合っているかのような気分です。1つのミスが即刻死に繋がります。
「だけど!!」
私だって伊達にマスターの無茶ぶりや、強制的な修羅場をこなしてきたわけではありません。このゲームの攻略方法は見切りました。
そう。その方法は――
「物理で攻める!!!」
パワーとスピードで絶えず攻めまくれば氷が溶けていずれ敵の陣地で爆発するはずです!!
「てぇい!!!」
全力で打ち返す。氷は凄まじい速度で、ウェンデゴちゃんに向かう。
「勝った!」
私の目でも目視不可能な超スピード。ウェンディゴちゃんの目にも追いきれないは――
「ふ」
? 笑って、いる?
「めでおっているだけではみえないものがある」
な、なにを言って――
「うぇんこ。ひゃくのひっさつわざのいち……」
え。なんですかそれ。初耳なんですけど!!
「まきしまむ・はいぱー・たいふーん」
どこかで聞いたような技名を宣言したウェンディゴちゃんが腕を振るった瞬間。彼女の手元まで来ていた氷が消えた。
「!?」
慌てて、周囲を見渡すが、何もない。
そう思った次の瞬間――
氷が私の前に現れた。
「!」
反射的に打ち返すが、遅い。あまりにも遅すぎる。
氷は既に溶け落ち、私が叩いたのはただの試験管。
当然、試験管は衝撃に耐えきれず、割れる。
中の液体が、地面に落ちて――
爆発した。
「おねえちゃん。このわざをおぼえておいて」
爆発の中、私はウェンディゴちゃんの言葉を聞いた。
うん。とりあえずこれだけは言っておこう……
「まるで、意味が――分からんぞ……」
「む」
「どうかしたの先生?」
「……バニラの霊圧が消えた」
「?」
「いや。なんでもない」
そろそろウェン子の
……それよりもだ。
「なあ、雪乃」
「なに先生?」
「今は昼休み。俺は自分の部屋でウェン子が作った弁当を食べてる」
「ええ。私も同じ物を食べてるわ」
「それでだ……」
わざわざパイプ椅子まで用意して、俺の隣でウェン子に用意してもらった自分の分の弁当を食べている雪乃に俺は睨みつけた。
「なんで、お前が、当たり前のように俺の隣で飯食ってんだよ!」
何度も言うが今は昼休み。本来なら、飯を食ったり、学生同士で交流を深めたりするコミュニケーションの時間なのだ。
「あら。私がここにいるのが何か問題になるのかしら?」
「大いにな!」
デュエルアカデミアは職員室のような部屋がない代わりに、各教師に一つ自分の部屋が与えられる。新米教師の俺にも与えられる為、俺は基本的に授業がない時や昼休みは基本的にここにいるのだが……
「今日俺は朝から授業がなく、ここで明日の月一試験の準備をしていた……さて、雪乃。ここで質問だが、お前は何をしていた?」
「そんな先生を隣で見ていたわ」
そう。このバカはあろうことか授業を全てサボって、俺の隣にいやがったのだ。
「ふざけるなよ。馬鹿野郎」
「馬鹿で結構。何と言われようと私はここにいるわよ」
――こうなったらテコでも動かんからなこいつは。
「お前。真面目に勉強する気あるか?」
「失礼ね。先生がいる授業から真面目になるわ。開始十分前に着席する優等生になってあげるわよ」
「ほんとにやりそうだなお前」
出来るなら速やかに部屋から出ていってもらいたいものだが、さて、どうしたものか。
「心配性ね先生は」
「あのな。お前がここにいることを第三者が見れば、何をしていると思うか分かるか?」
「エロい事してると思われる?」
「……まあ、間違ってはいないんだがな」
女だからこう、もっと恥じらいをだな――
「大丈夫よ先生。今までバレてなかったんだし。これからも何とかなるわよ」
真面目に授業を受ける気は毛頭ないんですね。分かります。
「それよりも先生。前から思っていたんだけど、この部屋殺風景すぎるわ。模様替えでもしない?」
そして居座る気満々なんですね。分かります。
「そうか? 仕事をする場所だから俺はこのぐらいが丁度いいと思うが……」
「いいえ。駄目よ。折角先生と二人っきりになれる空間。もっと住み心地をよくしないと!」
「まずは家具を準備しないと。安心して先生。家具の選別はもう住んでるから」
「却下だ!」
「当然最初はベットよね。ダブルサイズのベットをすぐにでも手配するわ!」
「却下だ!!」
誰でもいい。誰かこのバカを止めてくれ。
「黒崎先生 いますーか?」
俺の願いをろくでもない神が聞き届けたのか、外から最悪の助っ人がやってきた。
「あら。クロノス先生ね」
「あら。クロノス先生ね……じゃねえよ!」
このバカ。持ちこんだティーカップに入れた紅茶を優雅に飲んでる場合ではないだろうが! こんな所クロノスに見つかったらどうなるか――
「いるみたいーネ。失礼しますーノ」
!
「黒崎先――? どうしましたーカ?」
「はい? 何がですか?」
か、間一髪雪乃と、雪乃の弁当場箱、そして雪乃が座っていたパイプ椅子折り畳み、机の下に引き込むのが間に合った。我ながら、ドン引きするぐらいの早業だ。
後ろに回り込まれたらどうしようもないが、今のクロノスからは死角になっているはずだ。
「乱暴ね先生」
俺にしか聞こえない小声で雪乃が何か言っているが、無視だ。
「それより、何かご用ですかクロノス先生?」
「ちょっと明日の試験で、頼みたいことがありますーノ」
「頼みたいこと?」
わざわざこうして言ってくるという事は、他の人間には聞かれたくない内容なのか?
「イエス。明日の実技試験、ドロップアウトボーイ遊城 十代のデュエルの相手をオシリスレッドではなく、オベリスクブルーの生徒に変更したいと考えていますーノ」
「遊城 十代の実技試験――」
いよいよ来るものが来たというわけか。
「いいのですか? 原則、実技試験は同じ寮で実力が近い者同士が決闘するとお聞きしましたが?」
既に知っていたことではあるが、表面上は驚いた顔を作っておく。
「確かに。本来なら、実技試験は同じ寮の生徒同士で決闘し、その実力を測るものですが、遊城 十代ほどの実力の持ち主なら、オベリスクブルーでなければ釣り合いがとれませんーノ」
「なるほど」
納得したように頷いておく。クロノスの本当の狙いが、別にあるとは分かっているが、ここはあくまでもただの新米教師という役に徹する。
「分かりました。確かに俺もその方がいいと思います。それで、俺は何をすればいいのでしょうか?」
「話が早くて助かりますーノ 黒崎先生には、遊城 十代が対戦するはずの相手だったレッド寮の生徒と決闘をしていただきたいのデース」
「遊城 十代の本来の相手?」
確かそれは――
「岩越 大地……ですか?」
雪乃の幼馴染であり、ガイアを操るゴリ押し決闘者。
「イエース。それでは私はこれで失礼しますーノ。明日の件、よろしくなノーネ」
「はい」
クロノスが退室する。
「なあ、雪乃」
「なに?」
「どう思う?」
「そうね……」
俺の質問の意図を理解したのか、雪乃は少し思案顔になると、
「まず私は上の服を脱いで、先生の『あれ』に奉仕を――ふきゃ!?」
とりあえず蹴っておいた。何の話しをしているんだこのエロ娘は。
「舌、噛んだわ」
「次に下らん事を言ったら、舌だけではすまんぞ」
「……」
「それはそれでいいかもっていう顔するのやめてくれませんかね?」
話が一向に前に進まん。
「出来すぎた話だとは思うわ」
机の下から出てきながら、ようやく雪乃は真剣な顔になる。
「わざわざ先生を相手に選ぶ意味がない。他のレッド寮の生徒なり、他の教師なり、代わりなんていくらでも用意できるでしょう?」
「だよな」
辻褄があっているようで合っていない今回の話。どうもきな臭い。
「仕組まれた事と見た方がいいな」
「ええ」
白崎 白乃。俺に強い憎しみを持った顔も知らない俺の敵。奴が仕組んだ事と見てほぼ間違いないだろう。
となると、クロノスは白崎の傀儡となっている……と思うべきか。
(あるいは……)
もっと別の『何か』を既に自身の駒にしているのか……
(とにかく、今は警戒することぐらいしかできないな)
まずは――
「雪乃。ここから出て行け」
「嫌よ」
そう言うと思ったが……
「俺は
「……」
雪乃がサボっていた本当の目的が何かを理解していたから、この部屋にいる事を黙認していたが、状況が変わった。今、俺の近くに雪乃を置いておくのは得策ではない。
「それより、お前には安否を確かめたい奴等がいるはずだろう? そっちを優先しろ」
「……」
雪乃は何も言わなかった。ただ一度頭を下げると、部屋から出て行った。
「やれやれ……困った奴だ」
大事な所で不器用な奴だ。あれでは将来あいつとくっつく男は苦労するだろうな。
「……
俺は一人になった部屋で、問いかけた。
「答えろよ。
一拍の間を置き、今さっき雪乃が出て行った部屋の扉が開く。
岩越 大地。
雪乃の幼馴染であり、明日の俺が対戦相手となる生徒が扉の外にいた。