フィールドで二体のモンスターの攻撃がぶつかり合う。
『BAOOOOOOOOO!!!』
『むだむだむだむだむだ!!』
ドラゴネクロの破壊の息吹を、ウェン子は真っ向から蹴りの連打で、迎え撃つ。
拮抗は一瞬。すぐにウェン子がドラゴネクロの攻撃を押し抜け、奴の頭上に飛び出す。
そしていつの間にか、我がマスコット様の手にはいつも乗り物兼、収納BOXの
おい。ちょっと待てお前。まさか――
『ぺんどるふぃんろーらーだぁ!!』
……やっぱり圧殺するきなのねあなた。
『BAO!?』
一瞬遅れて、ドラゴネクロがウェン子の狙いに気が付く。
『もうおそい! だっしゅつふかのうだ!』
なんとか上からの奇襲に対処しようとするドラゴネクロだが、うん。ウェン子の言う通り、あれはもう手遅れだ。
『むだむだむだむだむだぁ!!』
押し潰すために、更にロードロー……ペンドルフィンローラーに、打撃の連打を加えるウェン子。それにしてもあんな最高にハイなテンションのウェン子、はじめて見るな。
『BA、OOOOOOOOOO!!!!!???』
そして、ドラゴネクロ。お前には同情する。相手が悪すぎた。
『うりぃぃぃ! ぶっつぶれろよぉ!!』
『OOOOOO!!??』
哀れ。最高にハイなテンションの幼女の猛撃により、冥界の龍は撃滅された。
流石ウェン子さん。俺達に出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる。憧れるな。
――だが、
「この瞬間、ドラゴネクロの効果発動」
レイン恵LP3000→400
「ドラゴネクロと戦闘を行った相手モンスターは攻撃力を0とし、そのモンスターの元々の攻撃力を持ったダーク・ソウル・トークンを私の場に特殊召喚する」
これだ。ドラゴネクロが厄介なのは、例え自らが破壊されたとしても墓地で効果が発動することだ。
故に例え攻撃力が上回った相手でも、バトルした相手をほぼ確実に戦闘破壊出来る。
「エルシャドール・ウェンディゴの攻撃力を0にし、あなたのモンスターの魂の闇を私のフィールドに特殊召喚する。ダークソウルドレイン」
『ん!』
破壊されたドラゴ・ネクロの腕がウェン子の胸を貫く。
しかし――
「?」
何故かレイン恵は、想定外の事があったかのように、目を見開いた。
そこで俺も気がついた。一向にドラゴネクロの腕がウェン子の胸から出てこないのだ。
まるで、探しているものが見つからないようであった。
『かえす』
しばらく奇妙な沈黙を見せたが、
貫かれたウェン子自らの手で腕が引き抜かれ、レイン恵のフィールドに放り投げられる。
腕は形を変え、トークンとしてフィールドに現れる。
(なんだ、あれは?)
そのトークンは奇妙な形をしていた。
黒いもやがかかった――実態が見えない不明瞭な質量なような――言葉では表現しにくい『不完全さ』がそのトークンにはあった。
「随分とユニークな形をしているな」
「……」
レイン恵はしばらくダークソウルトークンを凝視していたが、やがて何かに気が付いたかのように、ウェン子に視線を移した。
「あなた……まさか――」
「とおりすがりのしゃどーる。おぼえておいて」
「……よくも、そんな戯れ言を」
レイン恵は、静かに瞼を閉じた。
「あなたには、あなたの使命があったはず。なのに、どうしてそんな事をしているの?」
「もっとだいじなものがみつかったから」
「!」
目を開いたレイン恵が見せたのは、明らかな『怒り』であった。
「理解した。この世界に起きているイレギュラーは全てあなたの仕業だった……」
「それもかんちがい」
なにやら俺は完全に蚊帳の外にいるようだが――
「ウェン子。お前、あいつと知り合いなのか?」
「まぶだち」
まじかよ。初耳だぞ。
「なら、説得とかは……無理か」
出来たら、最初にそうやってるよな。
「ん。あのこ、あれでとてもがんこだから」
だろうな。話とか聞かなさそうだし。
「黒崎 黒乃。あなたを消す理由が増えた」
なんかさっきよりもこちらに向けられる殺気が増している気がするのは……気のせいだと思いたい。
「メインフェイズ2。マジックカード至高の木の実を発動。相手のライフが自分よりも多いので、私はライフを2000回復する」
レイン恵LP400→LP2400
ドラゴネクロの特攻分のライフを回復したか。アフターケアも万全とは、用意がいい。
「更に手札から竜の鏡を発動」
「竜の鏡?」
ということは、おいおいまさか――
「フィールドのアンデット族モンスター、ダークソウルトークンと、アンデット・ワールドの効果でアンデット族となっている墓地のベリー・マジシャン・ガールを除外し――」
「冥界の門をこじ開け、再び降臨せよ。嘆きの体現者よ」
フィールドに現れた肉塊の門が開き、再び奴が来る。
「幽合召喚。冥界龍ドラゴネクロ」
『BAOOOOOOOOO!!』
退場から僅か数分で再登場とは。過労死するぞ冥界龍様が。
「ターンエンド」
「俺のターン。ドロー」
(……妙だな)
少々解せない。
このタイミングで竜の鏡の発動。加えて先程のターンの動き……
ひょっとするとレイン恵は――
(試してみるか)
ちょうどタイミングよくいいカードも引けた。
「サイクロンを発動。悪いが、この趣味の悪いフィールド魔法は破壊させてもらう」
アンデット・ワールドを破壊する。本音を言うと、バニラの最終突撃命令も十分に厄介なのだが、今はまだ置いておいても問題ない。
「そして手札からマジックカード カップオブエースを発動する」
コイントスをし、成功すれば、2枚ドロー。失敗すれば、相手に2枚ドローさせるギャンブルカードだ。
「……よくそんなカードをデッキに入れられる」
「好きなんでね」
こういうぞくぞくしたギャンブルが。
フィールドに現れたソリッドビジョンのコインが、宙を舞う。それを掌で受け止めた俺は、思わず笑みを浮かべてしまった。
「表だ。デッキからカードを二枚ドローさせてもらう」
引いたカードは……
(……)
『ますたー?』
やるしかないのか。
「手札からスピード・リバースを発動。このカードは墓地のSRモンスターを特殊召喚できる。よって俺の墓地に存在するSRベイゴマックスを特殊召喚」
フィールドに出すのは、スーパー出張カードSRベイゴマックスさんだ。例えシンクロ、エクシーズが出来ないこの世界でも、このカードは使える。
「特殊召喚時に効果発動。デッキからSRモンスターを手札に加える。よってSRタケトンボーグを手札に」
そして手札に加えるのは、出張の相方、タケトンボーグさん。存分に働いてもらうとしよう。
「そしてフィールドに風属性モンスターがいるので、タケトンボーグは手札から特殊召喚出来る。そしてタケトンボーグの効果、このモンスターリリースし、デッキからSRチューナーを特殊召喚する」
「……」
――分かってはいたが、チューナーという単語にも、レイン恵は大した反応はない。
「SR三つ目のダイスを特殊召喚」
……これで生贄は三体。ようやく準備が整った。
「エルシャドール・ウェンデゴと、SRベイゴマックス、SR三つ目のダイス三体を生贄に――」
アドバンテージなど知ったことか!
「現れろ。ラーの翼神竜!!」
いや、ヲ―の翼神竜!!
『呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!!』
現れるのは、三幻神最強(最弱)! の太陽神(愛娘)!! ラー(ヲー)の翼神竜!!!
幼女状態でフィールドに召喚!!
「…‥正気?」
そういうリアルな反応を待っていた。ありがとうございますレイン恵さん。
「本来なら、ここで墓地に送られたエルシャドール・ウェンディゴの効果で、墓地のシャドールフュージョンを手札に加える事が出来るが、ラーの翼神竜の効果でこのモンスターの召喚時には、カードの効果を発動出来ない」
やばい。ちょっと泣きそう。
『えへへ~ごめんねウェン子おねえちゃん』
『かわいいからゆるす』
それでいいのかウェン子よ。
「……本当に、なんで呼んだの? 私のLPは、2400ある。いくらラーのライフロス効果であなたのLPを神の攻撃力に還元しても、倒しきれない」
ああ。分かっているとも。分かりたくないが、そんな事は俺が一番よく分かっている。
だがな、レイン恵よ、
「誰が召喚時効果を使用すると言った?」
「え? まさか――」
レイン恵の顔に動揺が走る。そう、そのまさかだ。
「ラーの翼神竜は攻撃力0で召喚する」
ラーのライフちゅっちゅ効果は強制効果ではない。任意効果。
神モードにはせずに、幼女モードのままで召喚することも可能なのだ。
……ほとんど自殺行為だけどな!!
「ラーの効果発動! LPを1000払い、フィールドのモンスター 一体を破壊する!」
この幼女状態に唯一利点をあげるとすれば、ゴッドフェニックスがライフの続く限り、撃ち放題というぐらいだ。
なので、生贄三体と、LP1000を犠牲にしても、除去したいモンスターがいる時は、こうした方がいい。
神獣王? 誰それ? 知らないカードですね。
『ぷらいすれす。あどばんてーじではかえないものがある』
買える物はマスターカードで!!
「ゴッドフェニックス発動!」
『上手に焼こう♪』
ひなたが蝋燭の火を消すように、フーッと息を吹くと、それは黄金の炎となり、ドラゴネクロを蹂躙する。
黒乃LP4000→3000
『OOOOOOOOO!!!!』
「燃やし尽くせ! 命の燃料の一滴までなぁ!!」
自分でも無駄にテンションが高いと自覚はあるが、無理にでもテンションを上げないとやってられない。
「カードを二枚伏せてターンエンド」
次はバニラのターンか。さあ、来いよバカ娘。強いカードなんて捨ててかかってこい。こっちは攻撃力0の神様しかいないんだぞ?
「私のターン、ドローフェイズ。カードドロー。メインフェイズ1。手札から竜の鏡を発動」
「……」
おい。まさか――
「墓地に存在するブラック・マジシャン・ガールと、冥界龍ドラゴネクロを除外します」
お前もか、バニラ。
「融合召喚――竜騎士ブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚」
「おのれバカ娘ぇぇぇ!!!」
『ますたー。おちついて。きもちはわかるけど』
この小娘共は! ぶっ倒してもぶっ倒しても嫌がらせのように、切り札を再召喚してきやがる!
「バトルフェイズ。竜騎士でラーの攻撃」
バニラが無表情に、自らの分身に攻撃命令を下す。
ああ、うん。もう色々限界だ。
「調子こいてんじゃねえぞ。こらぁ!!!」
いい加減、てめえのその
「速攻魔法ルーレット・スパイダーを発動!!」
『スパイダー!!』
ひなたに攻撃を行おうとしていた竜騎士の顔に、蜘蛛――ルーレット・スパイダーが張り付く。
「このカードはサイコロを振り、出た目によって効果が確定するハイリスク、ローリターンのギャンブルカード……」
凡骨さんの愛用カードであり、OC化されるにあたり、弱体化を受けた実用性がほぼない超ロマンギャンブルカードだ。
「4、5、6は俺に有利な目。1,2,3はお前に有利な目だ」
特に1が出た場合は、豪華特典として俺のライフが半分になる。つまり、俺の敗北が確定するのだ。
「だがこのギャンブルを、お前は降りる事も出来る」
そう。この瞬間、竜騎士の効果をチェーン発動し、自らを破壊すれば、ルーレット・スパイダーは不発となる。
「さあ、どうするバニラ」
「受けるにきまってる。こちらにデメリットはほとんどない」
答えたのはバニラではなくレイン恵であった。
「くく……」
「……何か?」
「いや、もし俺の相手をしいているのが、『いつもの』バニラならここで確実に降りていたと思ってな」
「……それが、なに?」
「お前は一つ盛大な勘違いをしているんだよレイン恵」
「勘違い?」
「そう。うちのバニラを何らかの方法で洗脳したまではいい。だが、その後がまずかったな」
「……何が?」
分からん奴だな。
「今回の洗脳は雪乃の時とは根本的に違うというのはここまでの決闘でも十分に分かった」
何しろあのバカ娘がミス一つ犯さないなんてありえないからな。この前、あいつの頼みで決闘した時なんて、
「まずは、上から五枚を裏向きのまま並べてシールドにして――その後五枚ドロー。よし! 準備万端ですマスター!」
「もうお前、遊戯王じゃなくてデュエルマスター目指せよ」
なんて事をほざきやがったエターナルバカだからな。
「自我のない洗脳――お前がやったのはおそらくこれだ」
まるで機械のような受け答え。セオリー通りの決闘の運び。
そして何より、ウェン子がいくらボケてもツッコミ一つない。
ヒントはいくらでもあった。
「‥‥それがなに?」
否定なしか……決まりだな。
「バカのままにしておくんだったな。俺の相手をさせるのなら」
だとすれば、俺は今以上に追い詰められていただろう。
「レイン恵。お前は賢い。恐らくは、俺がこの世界で出会った中で一番に」
「……」
「だがな。だからこそ、お前に俺はやれんよ」
手を上げ、ルーレット・スパイダーを起動する。
サイコロの代わりに、スパイダーの身体に数字が浮かび上がり、一から順に点滅を始める。
「読みやすいんだよ。お前のような賢い奴等は」
元いた世界の奴等もそうだった。上級者になればなるほど、理に適った事をする。
その環境で強いデッキを選択し、アドバンテージを確保できるコンボをデッキに入れ、見え透いた対策カードを採用する。
そういった奴等の裏をかき、敗北に陥れる。
俺はそれがどうしようもなく得意だった。
「逆にバカな奴らはまずい」
こちら予想もしないような奇策を素でやってくるのだ。これ以上に恐ろしいものはない。
「分かるか? お前は既に、俺への必勝法を自分から消してるんだよ」
「……戯言に過ぎない」
吐き捨てるようにレイン恵は言った。
「あなたの勝てる確率はほとんどゼロ。誰が見ても明らか。現に今も、分の悪いギャンブルカードに頼ってる」
「いいね。分の悪い賭けは大好きだ」
「負けた結果、あなたの命が失われても?」
「最高だ」
「狂ってる」
「それが俺だ」
負けないがな。
「ストップだ」
ルーレット・スパイダーの数字の点滅が止まる。
出た目は――
「5だな」
「……嘘」
困惑するレイン恵。いいね、その顔が見たかった。これだから分の悪い賭けはやめられない。
「5の効果――攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力のダメージを、プレイヤーに与える」
目隠しをされ、標的が見えない竜騎士の攻撃は、バニラ自身に降り注ぐ。
バニラLP4000→1400
「俺の勝ちだな。レイン恵」
「……まだ、竜騎士の効果がある」
バニラの手札が一枚捨てられ、竜騎士の効果が発動する。
魔力が充填された竜騎士の剣はひなたに向けられ――
「実に分かりやすい」
突如として現れた鎖によって拘束された。
「……トラップ」
「正解。竜騎士の効果にチェーンし、トラップカードデモンズ・チェーンの効果を発動させてもらった」
鎖の効果で、竜騎士の効果は無効。攻撃も不可能となった。
「言ったろ? 読みやすいってな」
笑いかけてやると、レイン恵は俺を睨みつけてきた。
「……理解した」
「ん?」
「全てあなたの思う通りに行動させられた。一見意味のない神の召喚も、分の悪いギャンブルカードも、全てこちらの油断させるため――」
「ほう。
もう少し必要だと思ったんだが、嬉しい誤算だったな。
「お前、もしかして結構チョロイのか?」
「……そう言って、こちらの怒りを誘っても無駄」
「そいつは残念」
さて、
「さあ、決闘を続けようか」
「凄い」
ルインは思わずそう呟いていた。
「流石は雪乃様に認められた方です」
二人を相手に互角――いや、それ以上に渡り合っている。
「……ん」
「雪乃様!?」
気を失っていた雪乃様が目を覚ます。
「ルイン。デミス……状況はどうなってるの?」
「いけません雪乃様! まだお休みになっていなくては――」
何とか立ち上がろうとする雪乃様を制しようとするが、雪乃様は頭を振った。
「私の事よりも先生たちよ。決闘――始まってるんでしょう?」
「……はい」
デミスの手を借りながら、雪乃様は立ち上がる。
そして離れた位置で展開されている決闘を見、目を見開いた。
「どういう――こと?」
驚かれていられる。無理はない。二体一などという圧倒的な変則決闘を黒崎様が行っておられるのだから。
「どう、して――」
「雪乃様――」
ちゃんとした説明が必要だ。でなければ今のぼろぼろな身体でも、黒崎様の加勢に行くと言いかねない。
「これは――」
雪乃様の納得いく説明をなんとか――
「どうしてバニラが先生に拘束プレイをしてもらっているのよ!?」
……はい?
「しかも縄でなくて鎖!? もしかして。前からしてもらっていたのかしら!?」
「いやいやいや、何故にそうなるのですか!?」
「なんと、そういう意味だったのですか!? このデミス。雪乃様の彗眼に感服いたしました!」
「そんなわけないでしょう!?」
あなたは何を感服しているのですか!?
「なんて羨ま――けしからんことをしてるのかしら? これは、私が行って止める必要があるわね――じゅるり」
「雪乃様、涎! 涎が出てますよ! 交ざる気ですよね!? けしからんことをしてもらうつもりですよね!?」
急に元気になった雪乃様を慌てて抑える。
「何を言ってるのルイン! そんなわけないじゃない!! 所で拘束プレイって服脱いだ方がいいのかしら!?」
「欲望に正直すぎます!」
離すわけにはいかない。今行けば、収拾がつかなくなる事態になるのは明白だ。
「デミスあなたからも何か言って――」
「雪乃様! 拘束プレイ……その昔、我々が行った時は――」
「デーミースっっ!!!!」
何を言おうとしてるのですかあなたは!!??
「先生今行くわ!!」
「〇〇〇を✖✖✖し、更に――」
「だー!!!! もう二人共いい加減にして下さーい!!!!!」
お願いですからバニラ様。はやく戻ってきて下さい。私ではツッコミが追い付きません!!!