黒乃LP4000
バニラLP4000
レイン恵LP4000
「先行は私がもらいます」
「なんだと?」
「基本的に先行が有利ですから。なにか問題がありますか?」
「いや。問題はない」
ない。だがそれが問題なのだ。
あのバニラが。バカとバカとバカを三体融合して誕生するようなアルティメットバカなバカ娘が。
有利な先行を要求してくるとは。
やばい。違和感がありすぎて、なんか気持ち悪いぞ。
『ふだんのおねえちゃんなら、先に殴れるから、後攻が最高に有利じゃないですか!――って、いうのに』
『あ、ありえないよ‥…』
ウェン子とひなたですら、驚きのあまり戦慄している。
「ドローフェイズ。カードをドローします」
驚く俺達をまったく意に介さず、バニラはターンを開始する。
本当の人形のように。なんの感情もなく。
「メインフェイズ1。ベリー・マジシャンガールを召喚します」
ベリー・マジシャン・ガールATK/400 DFF/400
「召喚時の効果を発動し、デッキからマジシャン・ガールモンスターを手札に加える事が出来る。この効果で私自身、ブラック・マジシャン・ガールを手札に加える」
ベリー・マジシャン・ガール……召喚時のサーチ効果と、相手に攻撃か効果の対象にされた時、自身の表示形式を変更することでデッキから、自分以外のマジシャン・ガールを特殊召喚するリクルート効果を持つ厄介な奴だ。
しかし、この序盤で他のマジシャン・ガールではなく、自分をサーチするという事は――
『ますたー。くるね』
(ああ)
間違いなくこの後のバニラの展開は――
「そして手札から融合を発動し、手札のボマー・ドラゴンと、私自身を融合します」
やはりそう来るか。
「竜騎士ブラック・マジシャン・ガールを融合召喚」
「来たか」
竜騎士。相手ターンでも手札を一枚捨てれば、フィールドの表側表示のカードを破壊する事の出来るカード。
(厄介だ)
その一言に尽きる。普段なら、手札消費が激しく、複数回の効果発動をするとどうしても展開が疎かになるのだが、二体一で、手札が多いこの決闘ではそこを心配しなくてもいい。
優先して除去をしなければ、完全に決闘のペースを持っていかれる。
「カードを一枚伏せてターンを終了します」
「俺のターンか。ドロー」
『ますたー、どうする?』
(そうだな……)
このターンでドラゴンバカ娘を処理することは確定だ。
だが‥…
(少し試したいことがある。頼めるかウェン子)
『ん。たのまれた』
即答とはな。やはりうちのマスコットは頼もしい。
さて、ならまずは――
「手札からシャドールフュージョンを発動する」
こいつで様子見だ。
「シャドールフュージョンの効果――バニラ。お前の場にエクストラデッキから特殊召喚された竜騎士がいる為、デッキから融合素材を墓地に送らせてもらう」
「……チェーンはなにもありません。どうぞ」
「デッキから風属性モンスターSRベイゴマックスとシャドール・ビーストを融合素材として墓地に送り、融合を行う」
さあ、頼むぞウェン子。
「闇より暗き深淵より現れ――全てを守護する防風となれ!」
「融合召喚。現れろ――エルシャドール・ウェンディゴ」
『わたし、さんじょう』
守備表示でウェン子を特殊召喚する。
「シャドール・ビーストの効果。カード効果で墓地に送られた時、デッキからカードを一枚ドローする」
問題はここからだ。
「エルシャドール・ウェンディゴ。1ターンに一度、自分のモンスター1体に特殊召喚されたモンスターとの戦闘破壊耐性を与えるモンスター。問題ありません。十分に対処可能です」
だろうな。ウェン子に耐性があるのは、あくまで限定的な戦闘破壊のみ。効果破壊にはまったくの無力だ。加えて、相手の場には、カード破壊効果を持つ竜騎士がいる。
つまり、この場でウェン子は相手から見れば、どのタイミングでも処理する事が出来るただの弱小モンスターなのだ。
「ですが、今破壊する必要はありません。そのようなモンスター相手に、貴重なハンドアドバンデージを消費するのは、無駄です」
「確かにな」
あのバニラがハンドアドバンテージの事を言うとはな。
確かにこの状況、考えなしに竜騎士の能力を使用するのは愚策だ。竜騎士のカード破壊効果は1ターンに一度しか使用できない制約がある以上、発動を温存するのは当然の事。
しかしだ。
「つまらん」
正しい事が正解とは限らない。一見愚策に見える事が正解である時だってある。
――このようにな。
フィールドに火柱が上がる。
炎はバニラの場にいる、竜騎士と幼い魔女を包み込み、焼き尽くす。
そして火が消えると、そこには一体のモンスターが現れていた。
「悪いが、俺はお前の場のモンスター二体を生贄に、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚させてもらった」
バニラのフィールドに現れたのは、相手のモンスターを二体生贄に捧げることで特殊召喚する事が出来る灼熱の魔神だ。
「だがそいつを場に出すデメリットとして、俺はこのターン通常召喚が出来ない」
「……」
「どうしたバニラ? 折角俺が贈り物をしてやったというのに、だんまりか?」
召喚権がなくなり、壁モンスターが出せない状態で、攻撃力3000の溶岩魔人をプレゼントしてやるのだ。感謝してもらいたいものだな。
「……」
だがバニラは笑う所か、何の反応も示さない。ただ無言でじっとこちらを見てくる。
(なるほどな)
先程、もしバニラが竜騎士の効果を使っていればウェン子を破壊し、圧倒的な優位に立てていた。
だが
むしろ――
『ますたー。なにかわかった?』
(ああ。どうやら雪乃の時とは根本的に、
それがこの後攻一ターンで分かったのは、大収穫だ。
(助かったぞウェン子。すまないな。捨て駒のような扱いをして)
バニラの反応を見る為とはいえ、先程俺はウェン子が破壊されることを前提として、動いた。
ウェン子に罵倒されたとしても仕方がない。
『かまわない。むしろ、たよってくれてうれしい』
(そう言ってもらえると助かるな)
『だげどひとつおねがいしていい?』
(なんだ?)
珍しいな。ウェン子がそんな事を言ってくるとは。
『かならず、ばにらおねえちゃんをとりもどして』
(……ああ)
無論、そのつもりだ。あのバカは正気に戻した後に、盛大に仕置きをしてやらないと気が済まない。
「カードを二枚伏せてターンエンド」
幸い、今の状況は俺の優勢だ。このまま押し切れば……
「エンドフェイズ時に永続トラップ最終突撃命令を発動します」
「なに?」
最終突撃命令。フィールドの全てのモンスターを攻撃表示にし、以降表示形式を変更させなくする永続トラップ。
(勘弁してくれ)
つまり、俺の場のウェン子が強制的に攻撃表示にさせられる。
そしてウェン子の攻撃力は――僅か200。
(……まずいな)
『まずいですね』
基本序盤は守備モンスターで、時間を稼ぐ俺にとってこのカードは痛い。かなり痛い。
しかもよりにもよって今さっき攻撃力3000の溶岩魔神さんを相手の場に派遣させてしまった。
「私のターン」
加えて、ターンがレイン恵に移行してしまう。
やばいな。予定がかなり狂わされる。
「ドロー。スタバンフェイズに移行する」
「ならばスタンバイフェイズ時に、溶岩魔人の効果。コントローラーに1000ポイントのダメージを与える」
魔神から炎が、放たれる。それの直撃を受けながら、レイン恵はその場から微動だにしなかった。
レイン恵LP4000→3000
「手札からフィールド魔法アンデット・ワールドを発動」
フィールドが変化する。死が蔓延した屍達への世界へと。
(……これで、全てのフィールドと墓地のモンスターがアンデット族へと種族チェンジか)
‥…待てよ。という事は、ウェン子にも変化が――
『なに?』
まったくない。
(お前、何ともないのか?)
一応サイキック族からアンデット族に変わっているずなのだが、何も変わってないように見える。
『ううん。ちゃんとかわってる。45どのかくどからみるとちょっとかおいろがわるくなってるのがわかる』
……うん。バニラもいないし、ここは俺がつっこませてもらおう。
(分かるか!!)
『ますたー。そんなことより、でゅえるにしゅうちゅう』
(ああ)
その通りですねウェン子さん。
「そして手札からゾンビ・マスターを召喚」
ゾンビ・マスターATK/1800 DFF/0
(……このターンで決める気か)
奴のフィールドのモンスターで総攻撃を仕掛ければ、俺の4000のライフはこのターンで一気に0にすることが出来る。
……奴のエースモンスターを拝まずに、俺はこの決闘に敗北する事になるな。
「バトルフェイズ。ゾンビ・マスターでエルシャドール・ウェンディゴに攻撃」
亡者を従える呪術師がこちらに向かってくる。
戦闘破壊は確定している。ウェン子の効果を仮に発動したとしても、ゾンビ・マスターは特殊召喚ではなく、通常召喚されたモンスターだ。よって破壊から逃れる事は出来ない。
(強気なプレイングだ)
こちらには二枚の伏せカードがあるというのに、躊躇いも恐れもなく、向かってくる。
その姿は嫌いではないが、
少々無謀だな。
「リバースカードオープン。反転世界」
「!」
初めて顔色を変えたなレイン恵。
そう。このトラップはお前のデッキには相性がいい。
「反転世界の効果――フィールドの全てのモンスターの攻撃力守備力が逆転する」
だがお前は運がいいぞレイン恵。
「更にトラップにチェーンし、もう1枚のリバースカードをオープン」
今日は特別にもう1枚サービスしてやる。
「仁王立ち!」
そして見せてやろう。ウェン子の可能性を。
「チェーンの逆処理により、まず仁王立ちの効果が適応。フィールドの表側表示モンスター1体を対象とし、そのモンスターの守備力を倍にする。効果対象はエルシャドール・ウェンデゴ」
エルシャドール・ウェンデゴDFF/2800→DFF/5600
「そして反転世界の効果」
好守逆転。
「よって、俺のウェン子の攻撃力は5600となり、お前のゾンビ・モンスターの攻撃力は0となる」
既に、ウェン子は俺のそばから姿を消している。
今、ウェン子がいるのは――ゾンビ・マスターの背後!
『これが、ざ・わーるどだ』
いや、それはちょっと違うと思うぞ。というか、いつも思うんだけど、お前本当に種族サイキックであってるんだよな?
『しねいゾンビ・マスター!』
背後から繰り出されたウェン子の拳が、今正に背後からゾンビ・マスターを貫かんとしたその瞬間――
ゾンビ・マスターの姿が掻き消えた。
『! 同じタイプのスタ●ド!?』
いや、それは絶対ない。
原因は間違いなく――
「速攻魔法。瞬間融合を発動させてもらった」
レイン恵の発動したあのカードのせいだな。
「この効果で、アンデット族モンスターとなっている溶岩魔神とゾンビ・マスターを融合する」
「なるほど。サクリファイス・エスケープか」
ターンの始めに真っ先にアンデット・ワールドを発動し、フィールドのモンスターをアンデットにしていたのは
(やってくれる)
念の為に逃走経路まで確保していたというわけだ。簡単にはいかないとは思っていたが、ここまで鮮やかに躱されると、見事と言うしかない。
「満たされぬ魂交わる時、冥府の門は開かれる――」
そして早くもエースのご登場とは。実に楽しませてくれる。
「幽合召喚――全ての嘆きを体現せよ。冥界龍ドラゴ・ネクロ」
フィールドに現れるは、このフィールドにお似合いの禍々しいモンスターだった。
「やるな。そうでなければ、面白くない」
「……」
瞬間融合で召喚したモンスターは、召喚ターンのエンドフェイズに破壊される。つまり、この後のレイン恵の展開は――
「バトル」
やはり、そう来るか。
「ドラゴネクロで攻撃」
いいだろう。受けて立つ。
「ダークソウルバースト」
『うぇんこきっく・ざ・わーるど!』
冥界の龍と、俺のマスコット。お互いのモンスターがフィールドで真正面から激突した。