作者「すいませんVジャンプを五冊下さい」
店員「え!? 五冊ですか?」
作者「はい。五冊です」
店員「分かりました」
作者「……」
店員「……」
店員「あの、同じ内容の本ですが、よろしいですか?」
作者(分かっとるわい!!)
『カード目当てにVジャンプや漫画を複数買いし、店員さんにドン引きされる』
だって当然だろう? 決闘者なら。
冥府に至る道
幼い時よりお仕えしていた。
少女の成長をずっと見守っていた。
彼女の苦楽を全て見てきたつもりであった。
だがそこまでだ。
自分は傍観者でしかなかった。
ああ、だから、どうか。もし願いが叶うならば、今度は傍観者などではなく――
「モウヤンのカレー、いっきまーす」
え?
「がぼごぼがぼごぼー!!」
そこには地獄絵図が広がっていた。
「む。まだ起きない。もうワンパック追加で」
「了解です。ウェン子お姉ちゃん!」
気絶した終焉の王の口に、タッパー詰めしたモウヤンのカレーを起きるまで延々と流し込む我がマスコットと、我が娘。
うん。地獄絵図だ。本当にむごい光景だ。
だがこれは必要なことである。だからどんなにひどい光景であっても、俺は止めようとはしない。ただ、眺めさせてもらう。
「がぼごー!」
デミスがこちらに助けを求めているように見えたが、気のせいだ。
だからこの面白――いや、むごい光景を目に焼き付けることしか出来ない。
「ウェン子。まだ起きないぞ。ちょっと効果が薄いんじゃないか?」
「りょうかい。こんなこともあろうかと、『体力増強剤スーパーZ』をもってきてる」
「流石だな。五本ほどぶち込んでやれ」
「ん」
「ぶちこんじゃえ~★」
「やめんかコラーーーー!!!!!」
おや、限界になって起きたか。それはひどく残念――いや、嬉しいことだな。
「貴様ぁぁ!! どういうつもりだ黒崎 黒乃!」
「どういうつもりだとはなんだ? 負傷したお前の身体を回復してやってただけだろう?」
なんせかなりの重症だったからな。流石のルインでも治癒は不可能。ならば、ウェン子の万能アイテムに頼るしかあるまい。
「口に流し込むタイプの奴しかなかったのだから、無理矢理流し込むのは仕方のないことだったんだよ」
「む。そ、そうなのか?」
「ああ」
「嘘よデミス。先生。楽しそうに眺めていたから」
と、少し離れた所で様子を見ていた雪乃が余計な事を言いながら、こちらに歩み寄って来た。
「!」
雪乃の声に、デミスの巨体がびくりと反応する。
「ゆ、雪乃様――」
ひどく気まずそうな顔を浮かべているな。まあ、無理もない。正気ではなかったとはいえ、あんな醜態を晒したのだからな。
「デミス。何か言うべき事があるはずでしょう?」
「……はい。今回は、雪乃様に対し、度重なる非礼を――」
「なに言ってるの?」
雪乃は呆れきったとばかりにため息を吐くと、
「そうじゃないでしょう? あなたは家族の前に『帰ってきた』のよ? なら、まず言うべき事があるでしょう?」
「は? え――しかし……」
「デミス!」
「は、はい!」
デミスは直立不動で立ち上がると、
「た、ただいま戻りました」
家族なら何の特別でもない、当たり前の礼を雪乃に言った。
「ええ」
満足そうに頷くと、雪乃はデミスに顔が見えないように踵を返した。
「お帰りなさい」
ただ一言そう言うと、地面に崩れ落ちる。
「雪乃様!?」
……ああ、そうか。やはりこうなったか。
「どうされたのですか! 一体何が――」
「焦るな。見苦しい」
考えればすぐに分かる事だろうが。
「お前を助ける為に体力を消費し過ぎたんだろう」
念の為に抱き起し、脈や呼吸を確認するが、特に問題はない。
「命に別状はない」
だが相当な疲労があったのは間違いないな。
(だというのに、デミスが起きるまではそばにいる! なんて、馬鹿な意地を張っていたのかこいつは)
まったく呆れ果てるな。分かっていたが、こいつも筋金入りの馬鹿だ。
デミスに気付かれないように、雪乃の頬を伝っている涙をそっと拭いながら、俺は苦笑した。
「だから気に病む必要もない。こいつあんたのことを恨んでなんかないんだから」
「しかし私は!!」
「いいから忘れろ」
じゃないとこいつが浮かばれない。
「そしてこの馬鹿が目を覚ました時は、いつもと変わらない顔で笑ってやれ」
それがきっとこいつは一番喜ぶ。
「
質問ではない確認をデミスに行う。終焉の王は、はっとした顔になる。
「ああ。そうだ」
こちらに。いや、雪乃の近くに来ると、少女の顔を見て、デミスは深く頷いた。
「その通りだ」
終焉の王なんていう肩書からは絶対に想像できない優しい顔だ。
これなら。きっと大丈夫だろう。
「雪乃を頼む」
「ああ」
俺はデミスに雪乃を託すと、立ち上がった。
そして、ゆっくりと口を開く。
「もう十分だろう。そろそろ出て来い」
独り言ではない。何故なら、今も奴は間違いなくこちらを見ているのだから。
「レイン恵」
名を呼ぶと、俺達から離れた場所に位置する場所の空間が
「決着をつけるぞ」
茶番はもうたくさんだ。これ以上面倒事を増やされるのは御免だしな。
「私もそのつもり」
現れるのは、銀髪の少女。今回の一件の元凶となる俺の敵。
そして――
「……」
連れ去られたうちの|エース≪バカ≫だ。
「バニ――」
名を呼ぼうとし、やめた。
バニラの様子が、明らかに異常だったからだ。
「お前、うちのバカに何をした?」
バニラの目は意志の力を感じさせない虚ろなものとなっていた。
「調整をしただけ」
調整――なるほど。前に雪乃にやったことと似たようなことか。
「デミスの奴を寄越したのは、そいつの調整の時間稼ぎのためか?」
「そう」
悪びれもしないか。そこまでいくと、逆に清々しいな。
「で? 今度は、そのバカの相手をすればいいのか?」
それはそれで面白そうだと、思わず緩みそうになる頬を引き締めながら、レインとバニラを見比べる。
「別に構わんぞ俺は」
相手が誰だろうと関係ない。目の前に立ち塞がるなら、叩き潰すだけだ。
「いいえ。あなたには、私とこの子二人の相手をしてもらう」
「……ほう」
そいつは中々面白そうだ。
異論はない。むしろ歓迎だ。
「ふざけるなよ小娘!!」
だというのに、意外な所から反対の意見が来たな。
「それでは、ただ黒崎 黒乃が不利なだけではないか!」
何故か憤慨するデミス。まあ、言ってる事は正しい。
二体一の決闘なんて、圧倒的に一の方が不利だからな。
スタート時に手札の枚数は相手の方が倍。
決闘の勝敗を分けるLP。デッキの枚数も相手が倍。
ああ。まったくもってナンセンスだ。ここまでの不利を分かっていて、それでもやろうとするのは、ラスボスか、余程の馬鹿ぐらいだろう。
「余計な事をするなデミス」
だが、
「
「しかし!」
「もう一度言うぞデミス」
視線を一瞬デミスに移す。
「邪魔をするな。これは俺の闘いだ」
無謀だと、デミスは思った。
まさか、自分の不利さえ分かっていないのではないか。自分の仲間を奪われ、冷静な判断力がつかなくなってしまっているのではないか。
「いいえ。それは違いますよデミス」
デミスの思考を遮ったのは、彼にとって仕事でもプライベートでもパートナーであるルインだった。
「どういうことだ。何が違うのだ」
「あの人は筋金入りの決闘者ということです。ここにいては邪魔になります。距離をとりますよ」
「しかし!」
ここであの男を残し万が一の事があれば、雪乃様が――
「いいから従いなさい。あの人は大丈夫です。私達がここにいることを疎ましく思う方ですから。それに、私達が今為すべき事はなんですか?」
「それは……」
主を、雪乃様を守る事だ。
「行きますよ。決闘が始まります」
「……分かった」
納得はしていない。だが、自分のやるべきことは理解している。
デミスは一度だけ振り替えると、黒崎達から離れるのであった。
「やっと行ったか」
デミス達が離れた事を確認した俺は、レインに向き直った。
「それで? この決闘に俺は何をかければいい?」
「命」
さらりと言いやがったな。
「あなたの存在は危険すぎる。この世界に無視できない脅威が現れた以上、不安要素は消す」
「脅威……か」
間違いなく、存在するはずのないナンバーズを持つ奴らの事を差している。
(しかし)
ここまでの強硬手段を取ってくるとは、見た目からは分からないが、この銀髪娘。相当に焦ってるのかもしれないな。
「いいだろう。ならば俺が勝てば、レイン恵。お前の全てをもらうぞ」
「分かった」
賭けは成立か。それにしても、俺が言えた事ではないが、自分の全てを躊躇いもなく賭けてくるとは、中々に異常な奴だ。
(まあ、その方がやりやすくていいがな)
問題なのは、うちのバカ娘の方か。
「……」
完全にだんまり状態。いつものやかましいあいつとは完全に正反対だ。
「ますたー。どうやっておねえちゃんをもとにもどすの?」
「ん?」
そんなの決まってるだろうウェン子よ。
「半殺しにして吊し上げる」
慈悲はない。
「りょうかい。ちょっときついのをぶちこむ」
「上手に焼こう!」
行動方針は決まった。
なら――ケリをつけるとしよう。
「デュエルスタンバイ」
シュヴァルツディスクを呼び出す。
「この決闘で、あなたを完全に消去する」
「やって見ろ」
出来るものならな。
「「「