ここまで更新を遅らせて申し訳ないです。
それは幼い日の記憶。
私は孤独だった。
事故で両親を無くし、半分とはいえ、精霊という得体の知れない存在になってしまったことは幼い私の心を壊すのには十分すぎた。
口を開くことはなくなり、喋ることは愚か、物を食べることすら放棄していた。
只の人間ならそれだけで衰弱していっただろうが、半分精霊の私は弱ることも出来ず、毎日をただ茫然と過ごしていた。
そんな私を救ってくれたのが、デミスとルインだった。
「マアトの効果発動!」
輝きがフィールドを支配する。私はデッキの上に手を置いた。
「マアトは1ターンに1度、カード名を3つ宣言して発動できる! 自分のデッキの上からカードを3枚めくり、宣言したカードは手札に加える。それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。このカードの攻撃力・守備力は、この効果で手札に加えたカードの数×1000ポイントになる!!」
「バカな! 分かっているのですか雪乃様!? マアトは攻撃表示! 1枚でも宣言カード以外のカードがあれば、終わりなのですよ!?」
「分かってるわよ」
そんなことは私が一番よく分かっている。だが今のデミスを救うには奇跡ぐらい起こさなければならない。
「宣言するカード名は――」
瞬間。私の意識は拡大した。
世界は動きを止め、全てが停止した世界と化した。
(なに、これ?)
奇妙な感覚であった。だが不思議とその感覚を私は懐かしいと感じていた。
(分かる)
はっきりと、全てが。
見えるはずのないデッキトップ3枚のカードすらも、今の私には見ることが出来た。
(つっ!?)
さらに深く見ようとするが、私の頭に激痛が走った。
そして世界が動き出す。
「かはぁ!」
時間にしては十秒も満たない時間であっただろうか? たったそれだけで頭がグラグラする。吐き気もだ。
「大丈夫ですか雪乃様!?」
闇に堕ちたというのに、私の身を案じるデミスに思わず苦笑する。そして今私がするべきことを再確認させられ
る。
「勝負よデミス。マアトの効果!」
先程見た光景。あれが真実なら今私が宣言するべきカードはーー
「
「な!? カードを上から当てるつもりですか!?」
自分でもバカみたいなことをしてると思ってるわよデミス。
「
でもねデミス。
「そして
私は、私の可能性を信じる。
「出来るわけがない」
ビーピングカードを使用せずにデッキトップ3枚を当てるなど。いくら半精霊の身だとしても――いや、精霊だったとしても不可能なことだ。
だとういうのに――
(どうしてそうやって笑っていられるのですか?)
雪乃は笑っていた。この瞬間が楽しくて仕方ないと言うように、不敵な笑みを浮かべてデッキの上に手を置いていた。
心の底から楽しそうに。
(雪乃様)
それは今までデミスがどれだけ力を尽くしても引き出せなかった表情だった。
(あなたは――)
「1枚目ドロー!」
カードがめくられる。ドローしたカードを確認すると雪乃は加速した。
「ドローカードはサイコロン! 宣言したカードのため、手札に加える!」
マアトATK/0→ATK/1000
同時にマアトの輝きが増す。その光景は閃光のように眩しく、そして美しいものだった。
「!」
「2枚目ドロー!」
再び加速。デミスはもう雪乃の背を追いかけることしか出来ない。
「ドローカードは契約の履行! よって手札に加える!」
マアトATK/1000→ATK/2000
閃光。もはや目も開けていられないほどだ。
「3枚目ドロー! ドローカードは竜姫神サフィラ! よって手札に加える!!」
最後の加速。もうデミスには決して届かない程の距離ができてしまった。
マアトATK/2000→ATK/3000
輝きもそうだ。元は闇の世界の住人であるデミスにとってこの輝きは眩しすぎる。
「行くわよ!!」
距離を開けた雪乃が反転。デミスに向かって正面から突っ込んでくる。
「契約の履行を発動! LPを800払い、再び蘇りなさい竜姫サフィラ!!」
雪乃LP1800→LP1000
「サフィラ! ですが、今更そのモンスターを出したところで何になると言うのですか!?」
いくら攻撃モンスターを増やしても、二体ではこのターンデミスのライフを削りきる事は不可能。それをわからない雪乃ではないはずなのだが……
「バトルフェイズ!! マァトで終焉の王デミスに攻撃」
攻撃力3000となった大天使の攻撃が放たれる。
「ぬぅぅ!!」
デミスLP4000→3900
「更に竜姫神サフィラでダイレクトアタック!」
「!」
デミスLP3900→LP1400
「無駄だと言うのが――」
「分かりたくもないわね。速攻魔法サイコロンを発動!サイコロを振り、出た目で効果が決定する!」
フィールドにサイコロが現れる。
「宣言してあげるわ。出るのは、5よ」
「ここまで、奇跡のような運を発揮しているというのに、まだ奇跡が起きるとでも思っているのですか!? 無駄な足掻きなのですよ雪乃様!!」
「いいえ。間違ってるわデミス」
そう。致命的に間違っている。
奇跡が起きるとは思っていない。
起こすのだ。
「竜姫神の名は伊達じゃない!!」
疾走するコースに落とされるサイコロ。投げられた賽の目は――
やはり、5!!
「効果確定! フィールドの2枚の魔法またはトラップカードを破壊する。私の契約の履行とあなたのオレイカルコスの結界を破壊!」
輝きと共に闇のフィールド魔法と、姿を消す竜姫神。
(ぐぅ!?)
少女から託された闇のカードが消えたせいか、デミスは衝撃を受けたかのように、強い眩暈を感じた。
混迷する意識。その混濁とした闇からデミスを救ったのは、いつの間にか隣を並走していた雪乃であった。
「だってそうでしょう?」
慈愛に満ちた顔だ。幼い頃から彼女を知っているデミスだからこそ、彼は驚いた。いつの間に、少女はこのような顔をするようになったのかと。
いつの間に、自分の隣に並び立つほど、大きくなったのかと。
「大切な家族を助けたいって想いは、決して無駄なんかじゃないのだから」
「届かない!」
1100のライフを残し、デミスは生き残ってしまった。彼のフィールドに壁となるモンスターがいない今、攻撃をすればこの勝負に終止符をうてるというのに、雪乃にはもう攻撃できるモンスターがいない。
「いや……違うな」
「え?」
呟きにつられて、ルインは隣にいる黒崎 黒乃を見る。
「届いたさ。あのバカの想いは」
どこか誇らしそうに、雪乃を見ながら、彼女の教師はふっと微笑んだ。
彼の言葉を証明するように、フィールドに最期の輝きが満ちた。
「トラップ発動!」
そう。これが最後だ。私が望み、掴んだ可能性。その未来!
それを今、ここに結実させる!!
「緊急儀式術!」
「!?」
緊急儀式術――自分フィールドに儀式モンスターが存在しない場合、自分の手札、墓地の儀式魔法カードを除外し、その効果をコピーするカード。
雪乃のフィールドにはレベル10のモンスターマァト。そしてその効果で最後に手札に加えた――
「フィールドのマァトを生贄に――手札の竜姫神サフィラを特殊召喚する!!」
(分かっていました)
闇のフィールドから解放されたデミスの意識は正常なものへと戻ろうとしていた。表情も今までの狂喜におかされたものではなく、雪乃やルインのよく知る終焉の王のものへと変わっていた。
(分かっていましたとも雪乃様)
本当は全て分かっていた。雪乃が変わってしまったのではないと。
(あなたは
かつての彼女にはなかった輝きを確かにデミスは感じた。
そしてその輝きを手に入れることの出来るきっかけが誰なのかが分からないほど、デミスはバカではない。
(だが――)
認めたくなかたった。長い年月仕えていながら、結局傍観者でいた自分が間違っていたと否定されそうで。
(どっちが子供なのか)
情けなくて笑えてくる。
(これは、本当に――)
認めるしかあるまい。
だから、
「来なさい! 雪乃様!!」
この一撃は甘んじて受ける。
終焉の王でも、藤原 雪乃の従者としてでもない。
ただの一人の決闘者として。
「竜神姫サフィラで攻撃!!」
光が来る。決闘の敗北を決定する一撃が。
しかしそれを受ける終焉の王は、
「お見事」
ただ満足そうであった。
デミスLP1100→0
「うぇんこと」
「ひなたの」
「「クライマックスチェック!!」」
「さあ、やってまいりました。クライマックスチェックの時間だよ!」
「いちねんぶりのとうこう。みんなをだいひょうして、あやまります。ごめんなさい。はい、ひなたも」
「ごめんなさーい。ねえ、ウェンコお姉ちゃん。これ、いつまで続けるの?」
「みているひとが、ちゃばんなげえよ! っておもうぐらい」
「なるほど。しつこいぐらいがちょうどいいんだね!」
「はい。しゅうりょう」
「画面のスクロールお疲れさまです! ここからは、ちゃんとクライマックスカードを紹介するね!」
「こんかいのくらいまっくすかーどはこれ」
マアト
効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻 ?/守 ?
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族・光属性モンスター1体と、
天使族・光属性モンスター1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
1ターンに1度、カード名を3つ宣言して発動できる。
自分のデッキの上からカードを3枚めくり、宣言したカードは手札に加える。
それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。
このカードの攻撃力・守備力は、この効果で手札に加えたカードの数×1000ポイントになる
「雪乃ママの新たな切り札!」
「びーぴんぐかーどなしだと、ぎゃんぶるかーどになるろまんかーど」
「でも最大成功で、三枚もドローできる! しかも攻撃力もアップするよ!」
「ほしいかーどをせんげんするもよし。エースをせんげんしてきずなをたしかめるのもよし。とてもたのしいかーどです」
「じゃあ、ウェンコお姉ちゃんは、何を宣言するの?」
「もりんふぇん一択」
「え。それ、揃えてどうするの?」
「ふふ」
「なんかお姉ちゃんが黒い!? えと、今回はここまででーす」
「またみてねー」