異世界で『 』になる
デュエルに勝利した俺は、悔しがるクロノスに背を向け、試験会場を去った。
とりあえずデュエルには勝利したんだし、試験は多分合格だろう。
さて、これからどうするかと、試験会場から外に出た時に---俺は捕まった。
「すげえ強かったな黒乃先生!! なあ、俺とデュエルしようぜ!!」
テンションがMAXになった十代に。
本来なら嬉々として勝負を受ける俺だが、流石にこのデッキでまともに勝てるとは思えない。さっきのクロノス戦もはっきり言って運が良かっただけだ。あんなラッキーはそんなに何度も続かないだろう。
ましてや相手は遊城 十代。歴代遊戯王主人公の中でも最強のドロー運を持つ相手だ。運勝負では勝負にならないだろう。
だから逃げた。とりあえず全速力で。
「あ、待ってくれよ先生!」
追ってきたので、路地裏やら茂みやらに全速前進し、逃げた。
多分時間にして3時間は続いただろう。空の日が完全に沈んだ頃に、俺はようやく完全に十代を振り切った。
『マ、マスター 大丈夫ですか?』
(俺に、質問、するな……)
公園のベンチで横になった俺の息は完全に上がっていた。
くそう。十代(ガッチャマン)め。遊戯王の主人公らしく、身体能力が無駄に高い。
我ながらよく逃げ切れたと思うぜ。
『マスター……これから、どうしますか?』
(あ?)
どうするも何も、正直なにもやることなんてないだろう。ブラックマジシャンの手がかりは0だし。原作通りデュエルアカデミアに行くにはまだ時間があるみたいだし。
……いや、待て1つだけあった。
(とりあえず、デッキを何とか強化しないとまずいな)
『え? でもマスター必要ないんじゃないですか? ちゃんとクロノス先生に勝ちましたし』
(真面目に言ってあれはまぐれだ。デッキの性能では俺は完全にクロノスに負けていた)
ていうか、それを抜きにしてもブラックマジシャンの専用サポートカードは外さないと、お話にならない。現状何の意味もないカードだからな。
『じゃあ、どこかのカードショップにでも行きますか?』
(そうだな……)
この時間ならまだ店も開いてるだろう。せめて汎用性のあるカードを何枚かデッキに投入し---
と、そこまで考えた所で、俺の腹が「グー」と、空腹を訴えた。
(予定変更だ。まずは晩飯にしよう)
クロノスとの決闘に、十代との鬼ごっこ。正直腹が空きまくっている。
ファーストフードでもなんでもいいから早く胃に何か入れ---
(………)
『? マスター。突然黙ってどうしたんですか?』
(いや……)
少し嫌な予感がしたのだ。
(なあ、バニラよ)
『はい。なんですかマスター』
(流石にいくらお前が超ウルトラミラクルバカだとしても有り得ないとは思っているが……)
『どんだけマスターは私のことをバカだと思っているんですか!?』
ぎゃあぎゃあ騒ぐが、無視。俺はどうしても確認しなければならないので質問を続行した。
(お前、金持ってるよな?)
返ってきた答えは…………
『あ、あははは……』
実に分かりやすい。引きつった顔の誤魔化し笑いだった。
結論を言おう。
俺、異世界で一門無しからスタートしなければならないようだ。
ホームレスデュエリスト(笑)