遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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主従決闘 竜姫神VS終焉の王

「力がくる!! みなぎってきますぞぉ!!」

 

 

「デミス……」

 狂気に支配されたデミスの叫び。

 

 ルインと一緒に私を幼い頃から支えてくれた彼の狂った姿を見るのは、正直辛い。

 だが目をそらすわけにはいかない。今私は闘っているのだ。相手から目を逸らすことは、敗北に繋がる。

 

 

「オレイカルコスの結界の効果で、私のフィールドのモンスターは永続的に攻撃力が500ポイント上昇します! 従って、ガーゼットの攻撃力は5500!!」

「永続的に攻撃力を500ポイント上げるフィールド魔法ーー」

 厄介すぎるカードね。

「さあ、覚悟はよろしいですか雪乃様? これで終わりです!」

 振り返り、額に紋章を浮かび上がらせたデミスが片手を上げる。

「ガーゼット! 雪乃様にダイレクトアタック! グレートインパクト!!」

 私に迫るガーゼットの拳。攻撃力5500の拳を受ければ、後攻1ターンキルが達成されてしまう。

 

 

「生憎はやすぎる男は好きじゃないわ」

 

 

 もっとも、そんなことさせるはずがないが。

 

 

「手札からEm ダメージジャグラーの効果を発動」

「!?」

 迫り来る拳に壁になる形で道化師のような魔法使いが現れる。

「このカードを墓地に送ることで、戦闘ダメージを0にする」

「なんと!?」

 ガーゼットの拳は道化師に阻まれ、私には届かない。

「危ないわね。激しいのは嫌いじゃないけど、もう少しのんびりいかないかしら? 先生ならもっと焦らしてくれるわよ?」

 日頃先生から散々な焦らしプレイを教え込まれている私としては、長期戦の方が好みなのよね。

「――おかしいですな。このデミス。雪乃様のデッキに、そんなカードが入っていた記憶はありません。そしてあなた様が自分からいれそうなカードには思えないのですが?」

 私のこと、よく知ってるわ。

「それはそうでしょうね。だってこのカード私が入れたカードじゃないですからね」

「では、なぜそのカードが?」

「先生にお勧めされたカードだからよ」

「黒崎 黒乃に!?」

 どうしてそこで驚くのかしら?

「とってもいいカードよね。」

 なにより手札から発動できる光属性モンスターというところがいい。流石は先生。私の好みをよく知ってるわ。

「あの男のカードを使うとは、どうやら心の底からあの男に惑わされているようですな!」

「……」

 流石それは聞き捨てならないわね。

「どうしてあなたはそこまで先生のことを目の敵にするのかしら? そんなに私が誰かを好きになることが気にくわないの?」

「いいえ。このデミス、雪乃様が心の底から、その者の事を想っているのならば、何も言う気はありません」

「なら文句を言われる筋合いはないわね」

 私は心の底から先生のことが好きなのだから。

 

 

「ですが、あの男はダメです」

 

 

 はっきりとデミスは言い切った。

「あの男は危険すぎます。このデミス。これまで色々な人間を見てきましたが、あの男のような者を見たことがありません」

「先生は色々な意味でレアな人だからね」

 

 

「ええ。その通りです。あそこまで運命に呪われたレアすぎる人間は私は見たことがありません」

 

 

 私の冗談にデミスは笑うことなく、そう答えた。

「あの男はいずれ必ず死を迎えます」

 終わりを司る終焉の王のその言葉は正しく未来の予言であった。

「しかし、あの男の目を見る限り、それをあの男は是としているように見えます」

 

 

……え?

 

 

「死を求める人の目。あの男はそういう目をしていました」

 

 

 そんなこと――

 

 

「ですから私は認めるわけにはいかないのです。未来を求めない男などに、雪乃様を任せるわけにはいきまーー」

 

 

 

「黙りなさい!!」

 

 

 

 気がつけば、叫んでいた。

 否定したかった。そんなはずはないと。あの人が死を望んでいるはずなどないと。

 だが私はそれが出来なかった。

「無駄話をするひまがあったら、はやく私にターンを回しなさい」

「ふむ。これは失礼。カードを一枚伏せてターンエンドです」

 ずっと先生の事を見ていたから分かる。分かってしまった……

「私のターン!!」

 

 先生が何を求めているのかを。

 

 

「私は永続魔法聖邪の侵喰を発動! さらに墓地のEmダメージジャグラーの効果を発動! 墓地のダメージジャグラーをゲームから除外し、デッキからダメージジャグラー以外のEmモンスターを手札に加える。私はこの効果で、デッキからEmトリッククラウンを手札に加える。そして聖邪の侵喰の効果でゲームから除外されたダメージジャグラー以外の属性のモンスターを墓地に送る。ダメージジャグラーの属性は光! よって私は闇属性モンスターの堕天使スペルビアを墓地に送る」

「堕天使スペルビア――ということは、仕掛けてくる気ですな雪乃様」

 ええ。その通りよデミス。

「手札から死者蘇生を発動!」

 ここから仕掛けさせてもらうわ。

「墓地から堕天使スペルビアを特殊召喚し、その効果をーーきゃあっ!?」

 私は思わず悲鳴をあげてしまった。フィールドに現れた闇を纏った異形の天使の下から現れたからだ。

 

 じめじめした所を好む1匹を見たら、10匹はいると1匹がいることを覚悟しなければならない黒いヤツの大群が。

 

 

「お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません。雪乃様の死者蘇生の発動に、私は手札から増殖するGの効果を発動させていただきました」

「――最悪ね」

 ビジュアルもその効果も。これでそのターン。私がモンスターを特殊召喚する度にデミスにカードを1枚ドローされてしまう。

「スペルビアが特殊召喚されたので、デッキからカードを1枚ドローさせていただきます」

「スペルビアの効果! 墓地からの特殊召喚に成功した時、このモンスター以外の天使族モンスターを特殊召喚する! 蘇りなさいマスター・ヒュペリオン!」

「では、再び私はカードを1枚ドローさせていただきます」

 これでデミスの手札は私のターン開始時よりも1枚多い3枚。だけど構わないわ。このターンで決めて見せる。

「さらに手札から名推理を発動!相手プレイヤーはモンスターのレベルを宣言する。通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキからカードを私はめくるわ。出たモンスターが宣言されたレベルと同じ場合、めくったカードを全て墓地へ送る。違う場合、出たモンスターを特殊召喚し、それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。さあ、デミス。私のデッキトップのモンスターを当ててみなさいな」

「……私はレベル8を宣言しましょう」

レベル8。無難な数値ね。確かに私のデッキに入っている上級天使モンスターのレベルはほとんどが8。一番ベストな宣言であると言える。

(だけど――)

 私のことを少し嘗めすぎてるわねデミス。

「めくるわ」

 デッキのトップを確認し、私は思わずほくそ笑んでしまった。

 

 

 なぜならデッキトップにいたのがこの場で一番来てほしい最高のモンスターだったからだ。

 

 

「残念だったわね。デッキトップのモンスターはアテナ。レベル7モンスターよ」

「――アテナですと?」

 

 

 天より一体の天使が舞い降りた。

 長い槍を持つその天使の名はアテナ。天使族最強モンスターの一角である強力なモンスターだ。

「そしてマスター・ヒュペリオンの効果発動! 墓地に存在する光属性天使族モンスターを1体除外することで、相手のフィールドのカード1枚を破壊できる! この効果であなたのガーゼットには退場してもらうわ!」

 神を越えた攻撃力を持っていても、マスター・ヒュペリオンの効果の前には無力。ガーゼットはなすすべもなく、破壊された。

「分かっているとは思うけど、アテナが場にいる限り、天使属モンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚されると600ポイントのダメージをあなたに与えるわ」

本来ならもうひとつのアテナの効果で、墓地の天使属モンスターを特殊召喚し、相手にダメージを与える所だが、増殖するGの効果が使われている今、相手に手札を与えるのは得策ではない。

「バトルフェイズに入るわ」

 だがその必要はないだろう。私のフィールドは完成した。後は全てのモンスターで攻撃するのみ。

「バトル! マスター・ヒュペリオンでデミスにダイレクトアタック! オーバーサンシャイン!!」

 先を走るデミスに、マスター・ヒュペリオンの光弾が放たれる。

 ヒュペリオンの攻撃力は2700。これが通ればこの決闘もらったも同ーー

 

 

「申し訳ありませんが、トラップカードを発動させていただきます」

 

 

「!」

 まずい。あのセットカードはトラップだったのね。

 だけど、仮に聖なるバリアミラーフォースだったとしても問題ない。

(私の手札には速攻魔法禁じられた聖衣がある)

 このカードは自分のモンスター1体を指定し発動することで、そのモンスターを破壊効果から守る効果がある。

 

 

「神風のバリア エアフォース」

 

 

「エアフォース!?」

 ミラフォースじゃない!?

「このカードの効果により、雪乃様のフィールドにいる攻撃表示モンスターすべては手札に帰っていただきます」

「くっ!?」

 ヒュペリオンの光弾が不可視の壁に阻まれる。だがそれだけでは終わらない。光弾は壁に吸収され風として私のフィールドのモンスター達を吹き飛ばしてしまった。

「何かを狙っているようで申し訳ありませんが、私の効果で処理できない時のために、破壊耐性のための対策は万全でございます」

「迂闊だったわ」

 本当に迂闊だった。これで私のフィールドはがら空き。このままターンを渡せば、増殖するGの効果で手札を増やしたデミスにやられるのは目に見えている。

 幸い私の手札には現在特殊召喚が可能なマスター・ヒュペリオンがいる。

 このモンスターを守備表示で壁として出せば、1ターンで瞬殺されることはないだろう。

(だけど――)

 忘れてはならないのは、私の相手がデミス(・・・)であるということだ。

 

 

 ならば私が取るべき選択は――

 

 

「私はモンスターを1体をセットしてターンエンドよ」

 

 この一手に賭ける。

 

 勘というよりかは、経験だった。正気を失っているとはいえ相手は幼い頃から何度も決闘をしてきた身内。それ故に、私はデミスが次に出る一手を分かっていた。

「なんの伏せカードもなしですか。流石の雪乃様も万策つきましたかな?」

「さあね」

 ハンドルを切り、カーブを曲がりながら私は意識して笑みを浮かべる。

「来れば分かるんじゃないの?」

「確かにその通りです。私のターン。ドロー」

 これはデミスのドロー次第ね。このターンで私の予想を上回る展開をされたら、私は負ける。

 リスクの悪い賭けね。でもだからこそゾクゾクしてくるわ。この緊張感がたまらないわね。

「どのようなモンスターをセットされたかは分かませんが、それがいかなるモンスターだとしても無意味です雪乃様」

「ずいぶんな自信ね」

 ということは、いよいよ来る(・・)のかしら?

「私は手札から儀式魔法 高等儀式術を発動します」

 ――大当たりみたいね。

「手札の儀式モンスター1体を選択します。当然ながらこのデミスでございます」

「でしょうね」

 そうでなければ、興ざめだわ。

「覚悟はよろしいですかな雪乃様?」

 フィールドに幾何学模様の魔法陣が現れ、そこに生贄となるモンスターが用意される。

「私のレベルは8! よってデッキからレベル4通常モンスター甲虫装甲騎士2体を墓地に送り――私自身を儀式召喚する!!」

 

 

 

「あなたに絶望を見せてさしあげましょう! 儀式召喚!! 現れろ! 終焉の王デミス!!」

 

 

 魔法陣が収束し、そこに終焉の王が出現する。

「ついに来たわね」

 全てを破壊する力を内包した王。私がこの決闘で倒すことは避けられない最強のモンスター。

「参ります! 私の効果発動! LPを2000払うことで、このモンスター以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!」

「っ!」

 フィールドを、私の身体を、衝撃が揺さぶる。

 分かっていたけど、実体化するこの場でデミスの効果を受けるのは少々きついわね。

「私の効果により、展開していたフィールド魔法も破壊される――と言いたい所ですが、オレイカルコスの結界は1ターンに1度、カード効果では破壊されません。よって私の攻撃力は2400から500上がり2900となります!」

「あなたと、最高に相性がいいカードということね」

 本当に厄介なフィールド魔法ね。自分のモンスターの攻撃力の全体強化と、破壊耐性まであるなんて。

(あのカードを攻略しない限り、私に勝機はないわね)

 だがまずはこのターンを生き残らなければならない。全てはそれからだ。

「これであなたのフィールドはがら空きです。今度こそ、お覚悟を決めていただけますかな?」

「残念ながらまだ無理ね」

 私を丸裸にするにはテクが足りないわ。

「私は墓地のEm トリッククラウンの効果を発動するわ」

「! また墓地ですと!?」

「私がセットしていたEmトリッククラウンは墓地に送られた時、1000ポイントのダメージを受けることで墓地からEmモンスターを攻撃力0にして効果を無効にして特殊召喚できる! よって、この効果でトリッククラウン自身を守備表示でフィールドに特殊召喚するわ! 帰ってきなさいトリッククラウン!」

 雪乃LP4000→LP3000

 破壊されたトリッククラウンが再びフィールドに現れる。

「ですが、所詮防げるのは一体のみ! 私は高等儀式術で墓地に送った甲虫装甲騎士2体を除外し、手札からデビル・ドーザーを特殊召喚します! 現れよ!我が僕デビル・ドーザー!!」

 

 

デビル・ドーザー ATK/2800 DFF2600

 

 

「来たわね」

 デミスドーザーデッキの恐ろしい所だ。フィールドを更地にした後に、高攻撃力の大型モンスターを特殊召喚し、相手のライフを0にする。単純だが、それ故に強力な効果だ。

 しかも今デミスのフィールドには自身のモンスター全ての攻撃力を500ポイント上昇させるオレイカルコスの結界がある。

 

 

 したがって、デビル・ドーザーの攻撃力はーー

 

 

「3300!」

「そうです雪乃様。今度こそ終わりなのですよ」

 私のライフは3000。デビル・ドーザーの3300の攻撃力を受ければ、私のライフは尽きる。

「行きますよ! まずは私でその雑魚モンスターを粉砕!」

 デミスの攻撃が私のクラウンを消滅させる。

「これであなたに壁モンスターはいません! この攻撃で決闘の幕を下ろさせていただきます!」

「っ!」

デビル・ドーザーが大口を開け、私に襲いかかる。

 

 

 

 

「デビル・ドーザーでダイレクトアタック!!」

 

 

 

 

 

鳴り響く轟音。発生する土煙。

「終わりましたな」

 バイクを停め、雪乃がいた場所を振り返りながらデミスは無感動に口を開いた。

「私の勝ちです。雪乃様。これであなた様も元のあなたに戻ることでしょう」

 主を傷つけたというのに、デミスにはなんの動揺もなかった。彼の胸中にあるのは、ただ自らの成すべきことを成したという達成感のみであった。

 

 

 

「ガキの成長を妨げる奴は、保護者としてどうかと思うぞ?」

 

 

 

「!」

 だからこそ、その達成感に冷水をかけるようなタイミングで聞こえてきた声に、デミスは目を剥いた。

 そして折れるような勢いで、首を振り、声がした方向ーーこのアクセラレーションを観戦することのできる観客席に腕を組んでこちらを見下ろす男。

 

 

「黒崎 黒乃ぉぁぉぉぉ!!」

 

 

 

「やれやれ」

 思わず耳をおおいたくなるような大声に、俺は苦笑した。そんなに大声を出さなくても聞こえるというのにあの終焉の王様は何をそんなに興奮しているのかね?

「ほんの一時間から二時間も経たない内にずいぶんなキャラチェンしてるな? 過保護執事キャラからヤンデレ執事キャラか? 新しいな。絶対に流行らないと断言出来るけどな」

「降りてこい黒崎 黒乃!! 貴様を決闘で八つ裂きにしてやる」

「おい、会話しろよ」

 そして俺の隣にいるお前の奥さんであるルインの顔を見てやれよ。お前の豹変ぶりに今にも泣きそうな顔してるぞ?

「どうした!? 私に恐怖しているのか黒崎 黒乃!」

「悪いがお前のナンパを受ける気はない」

 安い挑発だ。いつもならあえて乗ってやるが、生憎今回は乗ってやる気はない。

 

 

 何故ならデミスには既に先客がいるからな。

 

 

 

「あら、私が相手したあげてるのに、先生に目移りするのはマナー違反ではないの?」

 

 

 

「!」

 

 デビル・ドーザーの攻撃で発生した土煙から飛び出す。

 そいつは、様になった操作でバイクを操りながらデミスの前に出ると、ブレーキをかけ、道にタイヤの跡をつけながら急停止した。

「やれやれ」

 流石は俺の生徒の中でNO1問題児だ。バイクの操作もお手の物とはな。呆れて何も言えん。

「バ、バカな。雪乃様のライフでは私の攻撃を受けて無事でいられることは不可能なはず」

「確かにその通りね。でもそれはあくまで受けたら(・・・・)の話でしょう?」

「なんですと?」

 雪乃は決闘盤の墓地から1枚のカードを取り出した。

「デビル・ドーザーの攻撃宣言時に、私は墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動していたわ。これがあなたのモンスターの大口から私を助けてくれたのよ」

「ネ、ネクロ・ガードナー!? そんなモンスターをいつのまにーーっ!!」

 デミスの顔が蒼白になる。どうやら心当たりがあるようだな。

「そうよ。あなたが手札抹殺を発動した時に、私は手札からこのモンスターを墓地に送っていたのよ。おかげで助かったわデミス★」

 ウインク混じりに言うと、雪乃はデミスから視線を外し、俺を見た。

「随分来るのが速かったわね先生。また無茶をしたんじゃないの?」

「どっかの問題児が盛大なバカをやらかそうとしたらしいからな。少々急いで来たんだだ」

「あら、それって私の事を心配してくれたってことかしら?」

「アホ言え」

 俺は観客席にどさりと腰を下ろすと、笑みを浮かべた。

「俺はお前のバカを笑いに来ただけだ。助ける所か、お前の決闘に乱入する気もない」

「黒崎様!?」

 足を組みながらそう言うと、ルインは驚いたように俺を見た。

「何を仰っているのですか!? 穴を掘って急いで来たというのに、何もしないとは一体どういうつもりなのですか!?」

「気が変わった」

「気がっ!?」

 言葉に詰まるルインに俺は笑みを深めた。前から思っていたが、バニラには及ばすともかなりイジリやすい所あるよなこいつ。

「お前も座れルイン。ここまで全力疾走だったからな。少しは足を休めた方がいいぞ」

「こんな非常時に座れるわけがありません!!」

「ルイン――」

 やれやれ。分かってないようだな。

 

 

 

「座れと俺は言ったぞ?」

 

 

 

 これは提案ではない。命令(・・)だ。

「あそこのデミスにも言えることだが、お前らは少し過保護すぎる。雪乃のことを大切に思うことは結構だが、行きすぎるとただの束縛だ」

「それが今、なにと関係があるのですか!?」

「分からないのなら黙って見てろ。心配はない。最悪の場合、俺が雪乃の尻拭いをしてやる」

「――」

 唇を噛みしめ、ルインはゆっくりと観客席に腰を下ろした。

「黒崎様はもう少し雪乃様の事を大切に想っていられると思っておりました」

「何を期待をしてるんだお前は? 俺にとって雪乃は生徒。それ以上でもそれ以下でもない」

 俺の成すべきことは、あいつのHEROになることではない。あいつの教師でいることだ。

 

 

「おい雪乃」

「何かしら先生?」

 

 

 

 

 生徒(あいつ)成長(バカ)を見届けること。それが教師()の仕事だ。

 

 

 

 

 だからな雪乃――

 

 

「見てる俺を萎えさせるような決闘はするなよ竜姫神(・・・)?」

 

 

「……ふふ」

 

 

 俺の言葉を、その本当の意味を理解したのだろう。雪乃は妖艶に微笑むと、

 

 

「見ていなさいな先生。見てるだけで絶頂できるぐらいの決闘を披露してあげるわ」

 

 

「ふ……」

 

 

 そいつは楽しみだ。なら俺は文字通り高見の見物としよう。

 

 

 

 雪乃の決闘を――否。

 

 

 

 あいつの成長(バカ)を……

 

 


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