遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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GXデュエルアカデミア編第6話『主従決闘』
竜姫神と終焉の王


私は今、エンド・オブ・ザ・ワールド近くの職員専用休憩所にいた。ひなたは先生の所に向かい、ルインは私の側で心配そうに私を見ている。

「最悪だわ」

迂闊だった。そうとしか言えない。

ジェットコースターに乗ってる最中だから。

相手がよく知っている執事(デミス)だったから。

そのような理由で私は完全に油断していた。

あの時、ジェットコースターに乗っている私達を襲ったデミスはバニラを拐い、どこかに逃げてしまった。

そして私はデミスの様子がおかしいことに薄々気がついていた。だがどうしようもなかった。

攻撃しようにも、相手は私の執事。幼い頃から私を見守ってきてくれた家族の一人だ。それを攻撃することは私には出来なかった。

(だけどもし、私があの時デミスを止めていたら?)

考えても仕方ないことだと分かっていながら、どうしても考えてしまう。

「雪乃様。あまり考えすぎないで下さい。バニラ様を拐われた責任は全て私にあります」

「いいえ。私にも責任はあるわ」

そう。私は先生に頼まれていたのだ。バニラ達のことを。

それなのに私はーー

「ルイン」

「はい。雪乃様?」

私はルインに近寄る。

「先に謝っておくわ。ごめんなさい」

「え?」

本当に悪いと思う。だがしないわけにはいかない。

 

 

私はルインのお腹に拳を叩き込んだ。

 

 

「か、は!?」

精霊であっても意識を刈り取ることの出来るレベルの力を入れて。

「ごめんなさい。ルイン。でもこうしないと、あなた邪魔をするでしょう?」

それでは困るのだ。自分の失敗は自分でしか挽回が出来ない。

「なに、を?」

「バニラは私一人で助けるわ。先生の手を借りずにね」

バカなことをしようとしている。その自覚はある。だがそれでもやらなければならない。

 

 

「私が決着をつけてくる」

 

 

意識を失ったルインを部屋の端に置くと、私は先生の電話で聞いたデミスがいる可能性が高いアクセラレーションというアトラクションに向かうのであった。

 

 

 

 

「パパ!」

エンド・オブ・ザ・ワールドの前まで戻ってくると、ちょうどひなたと合流した。

ひなたは俺に抱きついてくると、えんえんと泣き始めてしまった。

「パパ! パパ! バニラママが! バニラママが!!」

「落ち着け」

パニックになるのは分かるが、今は時間がない。加えて今ひなたは中学生ぐらいの少女の姿だ。周りの注意を集めるわ集めるわ。

「ひなた」

なんとか早急に泣き止ませてーー

 

 

「ひなたこれたべなさい」

 

 

と、隣にいたウェン子が棒付きのキャンディーをひなたの口に突っ込んだ。

「むぐ!? む……もぐもぐ」

 いきなり突っ込んだのだから、喉に詰まったりしないか少し心配だったが、ひなたは少し落ち着いた様子で、飴をなめはじめた。

「あまいものは、りらっくすこうかがある」

「そうなのか? 初めて聞いたぞ」

 てか、ウェン子よ。飴はどこからだした? 少し前の変身ベルトといい、お前は四次元ポケットでも持っているのか?

「落ち着いたか?」

「もぐ……うん。ごめんなさい」

「いや、いい。それより雪乃達の所に案内してくれ」

「うん! こっちだよ!!」

  俺の手を引くひなたに先導され、俺達はデミスドーザー近くのプレハブハウスに案内された。

 

だがそこにはーー

 

 

「おいおい」

 

 

(どうなってんだこれは?)

 

 

気絶したルインが床に倒れていた。

 

 

 

 

アクセラレーションは、デミスドーザーの地下にある施設であった。

デミスドーザーの広大な土地の地下全てがアクセラレーションだと聞いた時、流石に私も呆れたが、実際に目にしてみると、その真逆の感想しか思い浮かばなかった。

「すごい――」

地下全てに建築されたアクセラレーションは、さながら地下都市のようなものだった。

(なるほど。デミスが休暇をとって、こちらの仕事に集中するはずね)

これは精霊の力を用いなければ到底実現不可能なことだ。いや、精霊の力であったとしても、ここまでの施設を作るには、気が遠くなりそうな時間と労力が必要だったであろう。

しばし、目の前の光景に意識を奪われていた私だったが、覚えのある気配を感じ、警戒心を取り戻した。

 

 

「お待ちしておりました雪乃様」

 

 

すぐ近くにデミスはいた。

「嘘ね。本当に待っていたのは先生の方でしょう?」

「確かにそうですが、あなたをお待ちしていたという言葉に偽りはありません」

 

何故ならと、デミスは見たこともないような黒い笑みを浮かべた。

 

 

「私自身の手であなたの目を覚まさせることが出来るのですから」

 

 

その表情と、デミスの背後にうっすらと見える闇を見た私は理解した。

「どうやら言葉で言っても、無駄なようね」

気は進まないけど、力ずくでやらせてもらうとしよう。

「決闘よデミス。私の手であなたの目を覚まさせてあげるわ」

「いいでしょう。ですが、ただ決闘をするのではつまらない。ここは少し趣向を凝らした決闘を雪乃様に提案したいのですが、よろしいですかな?」

「……好きにすればいいわ」

どのみち私に拒否権はない。どんなに不利な条件でも飲むしかないのだ。

「それで? どんな趣向で私を楽しませて貰えるのかしら?」

「こちらへどうぞ。既に準備は出来ております」

警戒しながらデミスの後を追いかける私はふと、気がついた。

(そろそろ先生に気付かれた頃ね)

時間的に気絶しているルインを見付けて、私が一人で行動している事に怒っている所だろう。

(多分怖い顔をしながら私のことをーー)

 

 

 

「あのバカエロ娘が!」

アクセラレーションの施設があるという場所に向かうために走る俺だったが、心中に渦巻くのは先走った行動をとった雪乃に対する怒りだった。

「申し訳ありません黒崎様!」

「るいんおねえちゃんのせいじゃない」

「その通りだ! 全部あのエロ娘が悪い!」

電話越しの声を聞く限り、かなり思い詰めていることは分かっていたが、まさかこんなバカをやらかすとは思っていなかった。

(まずいな)

あの雪乃が下手にやられるとは思っていないが、今回は相手が相手だ。

(仕方がない)

時間がなさすぎる。今は一刻も早く、雪乃と合流しなければならない。

だから、手段などは選んでいられない。

「ルイン! 確認だがそのアクセラレーションって奴は地下にあるのは本当か?」

「はい! このデミスドーザーの地下全てが、アクセラレーションですが、それがなにか?」

「そうか。ならもうひとつ確認だ。少しばかし、お前の旦那の遊園地に穴が空くが、全部終わった後にフォローしてくれるか?」

「え? あ、はい。それは大丈夫ですが、一体どういう意味でしょうか?」

 

だったら話は早い。周りには誰もいない今が好機だ。

 

 

「デュエルスタンバイ」

腕にシュヴァルツを出し、デッキからカードを2枚ドローする。

よし。今一番欲しいカード達だ。

 

 

「ウェン子。力を貸せ」

「ん」

「シュヴァルツを出して一体何をさせる気ですか?」

ウェン子は俺が何をする気なのかが分かったようだが、ルインは分からないみたいだな。まあ無理もない。俺自身、バカなことをやろうとしていることは承知しているからな。

「ちょっと穴堀をさせてもらう」

「へ?」

「ウェン子を攻撃表示で召喚。準備はいいかウェン子?」

「いつでもいい」

そうか。なら、やるとしよう。

「トラップ発動 反転世界」

シュヴァルツの力でカードの力を実体化させる。これにより、ウェン子の攻撃力と守備力は逆転し、攻撃力2800のモンスターとなる。

「じゃあ、頼んだぞ」

「りょうかい」

ウェン子が頷くと、周囲にあった風がウェン子に集まっていく。

「おいルイン。離れるぞ。ここだと確実に怪我することになる」

「あ、あの黒崎様。まさかとは思いますが、穴堀って――」

巻き添えをくわないように距離をとった俺は、隣にいたルインに笑顔で答えてやった。

「少しばかりでかい穴が遊園地に空くが、勘弁してくれよ」

「ふぁいなるあたっくらいど・せかんど」

瞬間、ウェン子が飛ぶ。

軽く建物5階分くらいの高さまでの大ジャンプをしまウェン子は空中で身に纏った風ごと高速回転しながら、降下。

その落下スピードを加えた渾身の蹴りを地面に叩き付けた。

 

 

「とるねーどうぇんこきっく」

 

馬鹿でかい轟音が辺りに響いた。

アスファルトが砕け散る音。地面を削る音。それらが全て轟音となり、俺の鼓膜を震わせた。

(うるさいのが、欠点だよな)

だがーー

「ほらルイン。地下に続く道(・・・・・・)が出来たぞ」

近道ができた。これならかなり早く雪乃の所に行けるだろう。

「……黒崎様」

「なんだ?」

見るとルインは、呆気にとられた顔で俺を見ていた。

「失礼を承知で言いますが、よろしいですか?」

「ああ」

大体なに言われるか分かってるからな。

 

 

「あなたはバカですか?」

 

 

 

 

「まあな」

 

 

よく言われる。

 

 

 

 

私とデミスは地下アトラクションアクセラレーションの三番(・・)レーンにいた。

共にバイク(・・・)に乗って。

「では、始めるとしましょうか雪乃様。覚悟はよろしいですか?」

バイクに跨がったデミスはそう言うと、こちらの覚悟を試すかのように、私を振り返った。

それに対する私の返答は決まっていた。

「愚問よ。はやく始めましょう」

私は自分が乗ったバイクのアクセルをふかしながら、そう言うと、デミスは口元に笑みを浮かべる。

「最初のコーナーをとった方が先行です」

「ええ。分かったわ」

「ではーー」

デミスは懐からコインを取り出すと、それを私に見せた。

「このコインが地につくのがスタートの合図です」

「さっさとはじめなさい」

「はい」

デミスがコインを指で弾く。

宙をコインが舞う。

私はその軌跡を目で追いながら、数分前の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

「これに乗って、雪乃様には決闘をしていただきます」

「これは――」

デミスが指差したものに、流石の私も絶句するしかなかった。

「バイク――よね? これに乗って決闘をするっていうの?」

正直に言わせてもらうと、ちょっと正気を疑うわ。どうしてバイクに乗って決闘をする必要があるのかしら?

「ええ。そうです。それがこのアクセラレーションのアトラクションなのです」

まさかの素で返されたわ。ちょっとリアクションに困るわね。

「今ならば決闘を取り止めることも出来ますがいかがされますかな?」

「やるわ」

やるしかない。ここで決闘を拒否する選択肢は私にはない。

 

 

 

 

コインが落ちる。私とデミスはスタートした。

だが遅い。わずだが、私のスタートが遅れた。

(これならもう少しお父様の教えを真面目に聞いていればよかったわね)

以前将来の役に立つからと言って、基本的な乗り物の乗り方をお父様から教えてもらっていたが、何の役にもたたないと決めつけ、話し半分で聞いていたのが災いした。

(教育ってどこで役に立つか分からないものね)

今度からはアカデミアの授業を真面目に受けようかと思いかけたその時だった。

 

 

前を走っていたデミスが減速したのは。

 

「な!?」

驚く間もなく、最初のコーナーに入り、私は先行の権利を獲得した。

「怪訝そうな顔をされて、いかがされましたかな雪乃様? あなたの先行ですよ?」

加減された? いや違う。これはデミスの戦略だ。

「どうしても後攻をとりたいようね?」

「ええ。先に攻撃できるのは後攻ですから」

そうね。あなたのデッキはそういう(・・・・)デッキだったわね。

「私のターン。ドロー!」

だけどあなたの思惑通りにいくと思ったら大間違いよデミス。

「私は手札からマンジュ・ゴットを攻撃表示で召喚」

バイクで疾走する私の隣に万の手を持つ天使が現れる。

「効果により私自身である竜姫神サフィラを手札に加える」

悪いけどデミス。最初から全力でいくわ。

「更に手札から儀式魔法 祝梼の聖歌を発動! フィールドのレベル4モンスターマンジュ・ゴッドと、手札のレベル2神秘の代行者アースを生け贄に、手札から竜姫神サフィラを儀式召喚する」

 

 

さあ、行くわよ。

 

 

「舞台の幕は上がった。神秘と奇跡のステージに、我が魂は顕現する! 儀式召喚!! 竜姫神サフィラ!!」

 

 

「流石は雪乃様です。先行1ターンで、ご自身を召喚されるとは――このデミス。感無量です」

「それはよかったわね。そしてこのエンドフェイズにサフィラの効果を発動し、デッキから2枚ドローしてその後手札を1枚捨てる。ターンエンド」

これで準備は整った。

(来なさいデミス)

手札にはモンスター効果を無効にするエフェクトヴェーラーと、バトルで光属性モンスターにバトル相手のモンスターの攻撃力を加えるオネストがある。

(更にカードの破壊効果でサフィラを処理しようとしても、墓地の祝梼の聖歌を除外すれば、破壊を防ぐことが出来る)

 簡単には突破は出来まい。

 

 

「さて、ならば私のターンですな」

 後ろを走っていたデミスが私の隣に並走する。

「しかし今更ですが、こうしてあなた様と全力で決闘するのは何年ぶりでしょうか?」

「さあ。何時だったかしら? 忘れたわ」 

 口ではそう言うが、私ははっきりと覚えていた。忘れるはずがない。私に決闘を本格的に教えてくれた相手の決闘を忘れられるはずがない。

「そうですか残念です。では私のターンドロー。では早速手札から魔法カードを発動させていただきましょう」

 デミスは1枚のカードを自らの決闘盤に、差し込んだ。

「手札抹殺」

「!」

 手札抹殺――ですって?

「顔色を変えましたな。その様子だと、手札によほどいいカードがあったようで……いやはや、申し訳ありません」

 いや、まだだ。確かにこの手札4枚は捨てなければならないのは痛手だけど、その後にドローすることができる。

「私は手札を4枚捨て、4枚ドローするわ」

(……くっ!) 

 引いたカードの中にはオネストもエフェクトヴェーラーもない。守りが一気に薄くなってしまった。

「では私は5枚捨て、5枚ドローさせて頂きます」

 手札抹殺……以前デミスと決闘した時には、あんなカードは入っていなかった。

(やはり私の時のように、あの子猫ちゃんにデッキが弄られていると考える方が妥当ね)

 一瞬の油断もできそうにない。

「そして私は手札から速攻魔法帝王の烈穿を発動します」 

「帝王の烈旋!?」

 あれは先生が使っていた相手の場のモンスターを強制的に生贄にするカード!

「この効果で、竜姫神サフィラを生贄に捧げます」

「……やってくれるわね」

 破壊ではないから、聖歌で防ぐこともできない。何の伏せカードもない今の私にこれを防ぐ手段はない。

「そして偉大魔獣ガーゼットを召喚!!」

「ガーゼット……」

 確かあのカードは――

「ガーゼットの攻撃力は、生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力を倍にした数値となります」

サフィラ()の元々攻撃力は2500。その倍ということはーー

「従って攻撃力は5000ポイントとなります!」

「ーー最悪ね」

一撃で私をイカせられる攻撃力じゃない。後攻1ターン目からいきなりここまでの高攻撃力モンスターを出してくるとは、少々厄介ね。

「さて、このまま攻撃しても私の勝ちですが、折角です。私が手にした新しい力をあなたにお見せしましょう」

新しいーー力?

「私は手札からフィールド魔法を発動!」

「!?」

刹那。私の背筋に悪寒が走る。

(なに、この嫌な感じは?)

あのレイン 恵という少女の操る竜に相対した時と同じ感覚だ。

 

 

純粋な闇。それを私ははっきりと感じていた。

 

 

「デミス! やめなさい!!」

気付くと、叫んでいた。だめだと。なにから分からないが、そのカードを発動してしまうと、取り返しのつかないことになってしまうと、私は確信していた。

 

 

だがーー

 

 

 

 

「発動せよ!! オレイカルコスの結界!!!」

 

 

 

 

私の叫びが届くことはなく、闇はフィールドに解き放たれた。

 

 

 

 


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