遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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冥界暴竜

「先行は譲ってやろう」

「分かった。先行は私。ドロー」

(ふむ――)

デミスは自らの手札を確認し、内心でほくそ笑んだ。

(いい手札だ。これならば、この決闘。早々に決着をつけることが出来そうだ)

自分のデッキの中でも初手に欲しいカードが全て来ている。これならば、たとえ相手がどんな戦術をとって来ても、負けることはあり得ない。

(さあ動け)

例えどんな強力モンスターを呼ぼうとも、例えどんな堅牢な防御を準備しようとも、次のターンで全てを無に返してやる。デミスは笑みを隠しながら、少女の出方を見た。

「私は手札からクリバンデットを召喚」

しかし少女が召喚したのは、そんなデミスを脱力させるようなマスコットのような可愛らしいモンスターであった。

「ターンエンド。そしてこのエンドフェイズにクリバンデットの効果を発動」

 少女はデッキからカードを五枚引き、デミスが見えるように、手の中で広げた。

「召喚に成功したターンのエンドフェイズ時に、自身をリリースすることでデッキの上5枚をめくり、その中から魔法かトラップカードを手札に加え、残りは墓地に送る。私はトラップカードタイラントウイングを手札に加えてターンを終了する」

「……何の伏せカードもなく、壁となるモンスターも出さないか」

 妨害カードがないのはデミスにとっても好都合なことだ。

 しかし、少女の表情に動揺はない。手札事故が起きたとは考えにくい。

(……ああ、なるほど。そういう事か)

 確かに次のターン。相手にこちらの攻撃を防ぐ手段はない。だがそれはあくまでフィールドの話だ。

(奴は先程のクリバンデットの効果で墓地にタスケルトンを墓地に送っていた)

 確かあのモンスターはモンスターが戦闘を行う際に、墓地から除外することでそのモンスターの攻撃を無効にする効果だったはずだ。

 それで攻撃を1度防ぎ、こちらの攻勢を削ぐつもりなのだろう。

「私のターン。ドロー!」

(だが甘いぞ! その程度では私の勢いは止まらない事を教えてやろう)

 デミスは手札から自身のデッキのキーカードを決闘盤に差し込んだ。

「手札から儀式魔法 高等儀式術を発動!! 手札の儀式モンスターを相手に見せ、そのモンスターとレベルが同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地に送る! 貴様に見せる儀式モンスターは当然、私自身終焉の王デミスだ!!」

 フィールドに幾何学模様の魔法陣が現れ、そこに生贄となるモンスターが用意される。

「私のレベルは8! よってデッキからレベル4通常モンスター甲虫装甲騎士2体を墓地に送り――私自身を儀式召喚する!!」

「……来るの」

 

 

「貴様に絶望を見せてやろう! 儀式召喚!! 現れろ! 終焉の王デミス!!」

 

 

 魔法陣が収束し、そこに終焉の王が出現する。

 だが全てを破壊する力を内包した王の姿を見ても少女に動揺はなかった。

「それで終わり?」

「まさか。更に私はたった今墓地に送った甲虫装甲騎士2体を除外し、手札からデビルドーザーを特殊召喚!!」

 1体のインセクトが地面から飛び出す。

「まだだ。私は手札から3体目の甲虫装甲騎士を召喚する!」

後攻1ターン目でありながらの手札を大幅に消費するデミスだが、彼のフィールドにはその消費に相応しいフィールドが形成されていた。

「モンスターの大量展開――」

「これならば、例え攻撃を1度防がれたとしても関係ない!」

準備を整えたデミスは満を持して、バトルフェイズに移行する。

「行くぞ! まずは甲虫装甲騎士で攻撃!」

(さあ、この攻撃はどうかわす?)

たとえ、タスケルトンで無効にしても、まだこちらには攻撃可能な大型モンスターが2体残る。

無効にせずとも、甲虫装甲騎士の攻撃力1900がライフから削られ、残りのモンスターどちらかの攻撃が通れば、決闘に勝利する。

「どちらに転んでも私の勝ちは揺るがない!」

「そう」

剣を持ったインセクトが斬りかかって来ているというのに、少女は避ける素振りすら見せなかった。

ただ無感動に自分に向かってくる剣を見ると、どこまでも無感情に告げる。

「手札の速効のかかしを捨て、その効果を発動」

「手札だと!?」

墓地のタスケルトンにばかり意識を向けていたデミスは、目を見開いた。

「相手モンスターの攻撃を無効にしーー」

今正に少女を切り裂こうとしたインセクトの剣に、小さなかかしが壁となって立ち塞がった。

だが壁と言っても、所詮はかかし。インセクトの剣を受け、簡単に砕け散る。

「このターンのバトルフェイズを終了させる」

しかし砕け散った際に発生した破片はデミスのモンスター達に降り注ぎ、その攻撃を封じた。

「ぐぅ!」

完全に意表をつかれたデミスは悔しげに、人形の少女を睨み付けた。

「ターンエンド?」

「……カードを1枚伏せてターンエンドだ」

(決められなかったか……だが、まあいい)

 手札の半分を使ったというのに、デミスにはまだ余裕があった。

(私の伏せたカードは、ドレインシールド。例え、相手が強力モンスターを出してきたとしても、これで相手の攻撃を防ぎ、次の私のターンで、私自身の効果を使えば、再び相手の場をガラ空きに出来る)

 その時こそが、決着の時だ。

「私のターン。ドロー」

 少女は機械的にカードを引き、確認すると手札から1枚のカードを決闘盤に差し込んだ。

「フィールド魔法アンデット・ワールドを発動」

「!」

 フィールドが変わる。おぞましい闇の世界へと。

「これが私のフィールド」

「……悪趣味なフィールドだ」

 生きとし生ける者が全て亡者となるこのフィールドは正しく冥界と呼ぶに相応しい。

「手札から冥界騎士トリスタンを召喚」

 闇の中から軍馬に跨った亡者の騎士が現れる。

「召喚時効果発動。墓地から守備力0のアンデット族モンスターを手札に加える。私はアンデットワールドの効果で機械族からアンデット族となった速攻のかかしを手札に加える」

 亡者の騎士の呼び声に、地面からスクラップと化したカカシが再構築される。だが、そのカカシは元のフォルムではなく、所々に肉塊が見える亡者の世界に相応しいモンスターとなっていた。

「……厄介な」

 直接攻撃時に手札から墓地に送ることで相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを強制終了させるあのカードを握られていると、こちらの攻撃が思うように通らなくなる。

(次のターンでも仕留められそうにないな)

「その心配はない」

「! 貴様、まさか――」

「魔法発動」

 まるでこちらの思考を読んだかのような少女にデミスは動揺を見せるが、少女はやはり意に介さず、1枚の魔法を発動した。

「竜の鏡。このカードは自分のフィールドか墓地のモンスターを除外し、ドラゴン族の融合モンスターを融合デッキから融合召喚する」

「ドラゴン族専用の融合魔法か!」

 大型モンスターが来ることを確信したデミスは身構える。

「――私が除外するのはフィールドの冥界騎士トリスタンと、墓地のタスケルトン……この2体のアンデット族モンスターを冥府の王への供物とする」

「アンデット族モンスターの2体融合だと!?」

 フィールドと墓地の2体のモンスターが結合し、肉塊の門が出来上がる。

 

 

 

 

「満たされぬ魂交わる時、冥府の門は開かれる……幽合召喚」

 

 

 

 

 肉塊の門が開く。その中から現れたのは――

『BAOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 闇その物であるドラゴンであった。

 

 

 

 

「全ての嘆きを体現せよ。冥界竜ドラゴネクロ」

 

 

 

 

 門が完全に開かれ、闇の竜はフィールドに解き放たれた。

 

 

冥界竜ドラゴネクロ ATK/3000 DFF/0

 

 

『OOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

「ぐっ! こいつは……」

 目の前の相手を闇に堕とせることに、竜は歓喜する。そしてその歓喜をデミスは敏感に感じ取った。

(攻撃力3000の化物! だが問題はない。私のフィールドにはドレインシールドがある。これで奴の攻撃凌ぎ、次の私のターンに、私の効果を使用すれば、それで終わ――)

「怖い?」

「!」

デミスの思考を、少女の一言が完全に遮る。

「ふざけるな! 私は終焉の王と呼ばれた者だぞ! そんな私が恐怖を感じるなどーー」

「なら、その震えはなに?」

「……なんだと?」

デミスは震えていた。そのことを指摘されて始めて気がついたデミスは自分でも信じられなかった。

「バカな。この私が、恐怖しているというのか?」

 ドラゴネクロと目が合うだけで、震えが止まらなくなる。

 それは本能的なものであった。闇属性の精霊であるデミスは、冥界の王であるドラゴネクロの力を本能的に理解してしまったのだ。

「私は更に手札から魔法カードを発動する」

「! まだ何かするつもりなのか!?」

「あなたに、ドラゴネクロの進化した姿を見せる」

「その、化物の進化した姿だと?」

ただでさえ、絶対的な存在だというのに、まだこれ以上進化しようというのか?

 

 

 

 

「魔法発動。クリティウスの牙」

 

 

 

 

 少女のフィールドに、漆黒の竜が舞い降りる。その竜をデミスは知っていた。

「ば、ばかな! 何故、貴様が伝説の竜を従えているのだ!?」

 それは伝説の竜と呼ばれた精霊の中でもトップクラスの力を持ったドラゴンであった。

「これはあなたが知っている伝説の竜とは違う。でもその力はオリジナルと変わらない」

「貴様は、一体――」

「クリティウスの牙の効果発動」

冥界の王を従えながら、伝説の竜も扱う少女は、やはり何も答えずに機械的に決闘を続ける。

「このカードの効果でのみ特殊召喚される融合モンスターカードによって決められた融合素材となるトラップカードを手札またはフィールドから墓地に送り、そのカードを融合素材とする融合モンスターを特殊召喚する」

「トラップカードを融合素材にするだと!?」

「私が融合素材にするのはクリバンデットで加えた手札のタイラント・ウイング」

 

 

 伝説の竜が1枚のトラップカードと混じり、溶け合っていく。

 

 

 

 

「破壊の翼を持ちし竜よ。出でて、その英知を我に捧げよ」

 

 

 

 

「融合召喚。タイラント・バースト・ドラゴン」

 

 

 

「グルアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 タイラント・バースト・ドラゴンATK/2900 DFF/2500

 

 

 

 

 光輝く翼を持つ竜。それが伝説の竜がトラップと融合し、進化した姿であった。

 

 

「攻撃力2900!」

「それだけじゃない。このモンスターは相手モンスター全てに1度ずつ攻撃が出来る」

「なに!?」

 終焉の王を上回る攻撃力でありながら、連続攻撃能力を持つ竜に、デミスは驚きを隠せない。

 だが、彼が本当に驚くのはここからだった。

「私はタイラント・バースト・ドラゴンの第二の効果を発動する」

「この上まだ効果があるというのか!?」

 タイラント・バースト・ドラゴンが雄叫びを上げると、翼を広げ、飛び立つ。

『BAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 そしてそれはドラゴネクロも同じであった。冥界の王もその翼を広げ、空に飛び立つ。

「何をする気だ!?」

「タイラント・バースト・ドラゴンは装備カード扱いとして自分フィールドのモンスター1体に装備することができる」

「融合モンスターが、融合モンスターの装備カードになるだと!?」

 

 

 空――否、天にて冥界の竜と伝説の竜が1つに融合する。

 

 

「全ての嘆きの体現者たる冥王よ。今こそ破壊の力と交わり、全ての怒りを体現せよ」

 

 

 天より恐怖そのものが降りてくる。

 

 

「融合合体――――冥界暴竜タイラント・ネクロ降誕」

 

 

『BARUUUUUUUUAAAAAAA!!!!!!』

「ぐう……」

 より力強く、鋭利な姿となった冥王の雄叫びに、デミスは自然と膝をついていた。

「なんという禍々しさだ……」

「タイラント・バースト・ドラゴンを装備したモンスターの攻撃力は400ポイント上昇する。従って、攻撃力は3400となる」

「く……」

 だがいくら強化しようが、所詮は1体のモンスター。攻撃回数は限られている。

「バトル。タイラント・ネクロで終焉の王デミスに攻撃――暴虐のダーク・ソウル・バースト」

「っ! トラップ発動! ドレインシールド!! 貴様のモンスターの攻撃を無効にする!」 

冥王の攻撃が、不可視の盾によって遮られる。

「そして貴様の攻撃モンスターの攻撃力分、私のライフは回復する!」

デミスLP4000→LP7400

「残念だったな! 次のターン貴様のモンスターは地獄送りだ」

「残念なのはあなた」

「なに?」

「タイラント・ネクロ」

 

 

「BARUUUUUUUUAAAAAAA!!」

 

 

 冥王が翼を広げ吠えると、アンデットワールドと化したフィールドの至るところから魂が現れ、冥王の翼に吸い寄せられていく。

「な、なにが起きている!?」

「驚くことはない。あなたを倒すために、この世界にある魂を自らの糧にしているだけ」

「魂を自らの糧にしているだと?」

「それがドラゴネクロの能力の1つ」

そんな精霊。聞いたことがない。確かに、モンスターの精霊達はそれぞれ特別な力を持っている。だが、ここまでおぞましく、禍々しい精霊を見るのはデミスも初めてであった。

「タイラント・ネクロで再び、デミスに攻撃する」

「な、ふざけるな! お前のモンスターは、既に攻撃を終えたはずだ!」

「タイラント・バースト・ドラゴンを装備したモンスターは1度のバトルで3回の攻撃が出来る。よってタイラント・ネクロは後2回の攻撃が可能」

「なん、だと?」

 自分のLPは残り7400ある。だがこれでは……

「再び終焉の王デミスに攻撃。そしてこの瞬間。速攻魔法決戦融合バトルフュージョンを発動。これにより、あなたのモンスターの攻撃力をこのバトル終了時までタイラント・ネクロに加える」

 

 

『BARUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

 

 冥界暴竜タイラント・ネクロ ATK/3400→ATK/5900

 

 

「攻撃力5900だと!?」

「暴虐のダーク・ソウル・バースト」

 どこまでも機械的に、無慈悲に少女は告げた。

 絶望に染まる意識に追い討ちをかけるように、冥王の攻撃が、終焉の王に炸裂する。

 

 

 デミスLP7400→3500

 

 

「この瞬間モンスター効果発動」

「効、果――?」

「タイラント……ドラゴネクロがバトルを行う時、相手モンスターは戦闘では破壊されない。そしてダメージステップ終了時に、相手モンスターの攻撃力を0にし、そのモンスターと同じレベルで元々の攻撃力を持つダークソウルトークンを1体特殊召喚する」

「っ!?」

まずいと思った時には既に手遅れであった。

「フォーリンダウン」

 冥王の腕に胸を貫かれ、そこからモンスターの核たるが抜き取られる。

「ぐわああああああああああ!!!!」

 抜き取られた魂は一瞬で闇に染まると、デミスと同じ姿のモンスターとなった。

『くくく……』

 

 

 ダークソウルトークン ATK/2500 DFF/0

 

 

 

「あなたの魂はもらった。次はそのデビル・ドーザー(下僕)の魂をもらう」

 冥王は既に三度目の攻撃準備を終えている。

(私……は――)

 この攻撃を防ぐ手段がないデミスは既に敗北が確定している。

 薄れゆく意識を必死に繋ぎ留めながら、デミスは自らの妻のことと、己の主のことを最期に想うのであった。

(ルイン、雪乃様……)

 

 

「暴虐のゴースト・バースト」

 

 

 意識が深く沈んでいく。どこまでも深い闇に。

 

 

(逃げ、ろ……)

 

 

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 こうして、終焉の王は深き闇の深淵に堕ちていった……

 

 

 

 

 




「うぇんこと」
「ひなたの」


「「クライマックスーチェック!!」」


「突然始まりました。クライマックスチェック! 司会はひなたと、ウェン子お姉ちゃんでーす!」
「どうもとおりすがりのしゃどーるです」
「ねえお姉ちゃん。このコーナーなに?」
「このこーなーはでゅえるのかいの、くらいまっくすをかざったかーどをしょうかいするこーなーです」
「思いつきによるコーナーなので、いつの間にか消滅することもあるけど、そこは気にせず、ブレイクスルーしてね☆」
「あと、あくのひみつけっしゃとたたかってるつごうじょう、わたしがでずにかわりがくることがありますので、ごりょうしょうください」
「じゃあ早速、今回のクライマックスカードをチェックするねー!」
「きょうのクライマックスカードはーー」


冥界暴竜タイラント・ネクロ


「ウェン子お姉ちゃんこれなに? オリカかな?」
「これは、ドラゴネクロにタイラント・バースト・ドラゴンをそうびしたもんすたー。かめんならいだーてきにいうなら、きょうかふぉーむ」
「かっこいい! それで何が変わったの?」
「こうげきかいすうがあがって、さっしょうりつがあがった」
「連続3回攻撃なんだよね?」
「しかもせんとうもんすたーは、はかいされず、こちらはとーくんを生み出しまくる。あいてはさんどばっくのりんちじょうたい」
「こ、こわいね」
「タイラント・バースト・ドラゴンのゆうごうそざいのタイラント・ウイングをドラゴネクロにそうびしてもにたようなことができる」
「相手モンスター絶対闇堕ちさせるマンだね」
「むしろブレイヴスピリーー」
「? ブレイヴってなに?」
「なんでもない。ともかく、かなりこうげきてきなもんすたーができあがるのでおすすめ」
「むー。いいなー。私も新しいフォームとか欲しいなー」
「・・・・・・」
「? なにウェン子お姉ちゃん?」
「なんでもない。ともかくきょうはここまで」
「うん! 以上ウェン子とひなたのクライマックスチェックでしたー!」
「またみてねー」

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