遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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GXデュエルアカデミア編第5話『デミスランドへようこそ!』
休暇


休日の遊園地というのは、人が多いものである。家族連れ。カップル。その他諸々。多種多様な人間達がこの娯楽施設に訪れる。

だがその中でも俺達は郡を抜いて目立っていた。

「パパ! ジェットコースターだよ! ジェットコースター!!」

「……」

その理由は、俺の隣にいる奴等のせいだ。

「いっぱい乗り物あるねー! まずなにから乗ろうかな!?」

テンションを上げて騒いでいるひなたはいい。始めての遊園地。子供であるひなたに騒ぐなというのは酷な話だ。

 

 

だが――

 

 

「いっぱいありますねー! まず何から乗りましょうか!?」

ひなたと同じかそれ以上に興奮した面持ちでパンフレットを見るバニラよお前はどうかと思うぞ?

記憶は失ってもやっぱりバカはバカらしい。

「あら、先生。溜め息なんかついてどうしたのかしら?」

「うるさい。溜め息の原因その2」

俺の隣でにやにやしている雪乃を睨み付けるが、雪乃はどこふく風で腕を絡めてきやがる。

「せっかくの休日で遊園地なのだから、もう少し楽しんだらどう?」

そうなのだ。自分でも信じられないが、俺達は今、休日を利用して遊園地に来ていた。

「周りに誰もいなくて、静かな状況ならいくらでも楽しんでやるよ」

現在俺達は周りの注目の的となっていた。特に野郎共から。

それもそのはず、ひなただけではなく、バニラもいつものあの露出度の高い格好ではなく、きちんとした今時の女子が着そうな小洒落た服を着ている。

「うははーい! なんかテンション上がってきましたよ黒崎さん!」

しかも動く度に服の下からでも揺れる胸で注目を集めまくっている。おーい。バカ娘ー。見られてるぞー。今、お前のサービスシーンが周りの男共にズームインされてるぞー。

「うふふ。そこまで楽しんでくれるなら、ここのオーナーと話をつけたかいがあったわ」

そしてもう一人の肉まんーーじゃなかった。巨乳の雪乃はもっと注目を集めていた。今回は以前にやっていた認識阻害の結界とやらをやっていないらしく、周りの奴等の視線を釘付けにしていた。

まあ、仕方あるまい。現在休止中とはいえ、大人気アイドルが近くにいるのだ。男でなくても、思わず目が行ってしまうだろう。

だから周りの奴等に罪はない。

問題なのはーー

「お前ら、ちょっと他人の振りして離れてくれないか?」

「ひどすぎます!?」

「あら、つれないわね」

バニラはショックを受けたようだが、雪乃は離れる所か、先程よりも強く密着してきやがった。

「おい。これ完全に胸当たってるぞ。離れろ」

「あら、当ててるのよ」

あ、駄目だ。こいつ、なにやっても離れないな。ひどく楽しそうに俺に密着してくる雪乃に、俺は自分が逃げられないことを悟った。

そうなってくると、周りの会話がひどく気になってくる。

――大丈夫だよね? 俺不審者扱いされてないよね?

教え子を侍らせる変態教師に見られてないよね?

「……おい。あのユキノンの隣にいる男って、あれだろ?」

「ああ、あれだぜ」

おいぃ! 思いっきりなんか言われてるぞ! あれってなに? THE・HENTAIとかじゃないよな?

「今話題の決闘者『ジョーカー』だろ?」

え? なにその廚2度MAXな名前は? 俺、影でそんな名前で呼ばれてたのか?

確かに決闘中よくジョーカー言ってるけど、それが原因で、変な異名をつけられるとは予想しなーー

 

 

「確か名前の由来は、千の顔芸を持つ決闘者ーーっていうことだったよな」

「そうそう! それそれ!!」

 

 

「なんだとてめぇら!?」

「「ひぃっ!!」」

 

 

おいぃぃぃ!! 名前の由来はまさかの顔芸(そっち)かい!! 千の顔芸? なにそれ? とりあえず噂の元になった奴は俺に殺されても文句は言えねえぞ。

「先生。みんな怯えてるわよ人殺しの顔はやめた方がいいわ」

「やかましい。どこの誰かも知らん奴に変な異名つけられたんだぞ? 大人しくしろなんて無理だろ!?」

「あら、それなら問題ないわ」

「あ?」

それってどういう――

 

 

「だって先生にジョーカーって名前をつけたのは私ですもの」

 

 

元凶いたぁぁ! まさかの隣にいるよく知ってる奴が犯人だった!!

「これでなんの心配もないわね」

「おおありだよくそバカ! なんの恨みがあって俺に訳の分からん名前をつけやがった!?」

「面白いからよ」

「よし分かった戦争だ」

俺を怒らせたことを後悔させてや――

 

 

「ますたー。おちゃ」

 

 

と、臨戦体制入った俺にすっとコップが差し出された。

あまりにベストなタイミングと、自然な動作に俺は毒気が抜かれてしまう。

そしてそんなことが出来るのは一人しかいない。

「すいぶんほきゅうはだいじ。からだにもこころにも」

我が家のマスコットのエルシャドール・ウェンディゴこと、ウェン子。

彼女も今日は実体化し、いつもの服ではなく、ひなたとお揃いの服を着ていた。

「いただこうか」

ウェン子とお茶に罪はない。ちょうど喉が渇いてた所だしな。

どれ一口ーーむ、これはーー

「ジャスミンティーか?」

「せいかい」

芳醇な香りと、爽やかな口当たりは俺の中にあった怒りを鎮めるだけでなく気分をリラックスさせてくれる。

「おちついた?」

「ーーああ」

「ならよかった」

コップを受け取りながら、優しく微笑むウェン子に、思わず俺も笑顔にーー

「待ちなさい」

なろうとしていた俺の頬をがっしりと、雪乃が押さえ込んできた。

「なんだ? 痛いぞ雪乃」

「どうして先生は、いつも私達にはツンツンするのに、ウェン子にだけはデレるのかしら?」

人のことをツンデレみたいに言いやがって。それに、俺は別にウェン子にデレてない。

というかそもそもーー

「なんでお前、そんなに怒ってるんだ?」

「嫉妬よ」

……はっきり言いやがったな。逆に清々しいぞ。

「とりあえず私にもデレなさい先生」

すげえ珍しい脅迫を頂いた気がするのは俺だけでしょうか?

「むー。パパ、雪乃ママ! 速く行こうよ!」

「そうですよはやく行きましょう黒崎さん! 雪乃さん!」

「お前まで腕組むなバカ」

俺の腕に豊満な胸を押し付けながら、グイグイと引っ張ってくるバニラ。少しは恥じらいといものを持っていないのかと心配になる。

(――まじでなにやってんだろうな俺)

周りにいるメンツと、向けられる好奇の視線に、わりと真剣に頭を抱えそうだ。

これも全て雪乃のバカのバカみたいな提案のせいだ。

 

 

「これはなんともなりません」

 

バニラの容態を見ると、そう結論付けたのは雪乃の家のメイドルインであった。

レッド寮の部屋で雪乃と合流し、気絶していたデイビットの件やバニラの件があるため、雪乃にルインを呼んでもらうと、一時間弱でルインは俺達の部屋にやって来た。

今回の一件を話すと、ルインは呆れたように苦笑した。

「本当に黒崎様はトラブルに巻き込まれるのがお好きですね」

「好きで巻き込まれてるわけじゃない」

気がついたら面倒事が向こうからやってくるだけだ。

俺としてはもう少し平和にGXの世界を満喫したいのだがな。

ひなた以外の神はとことん俺のことが嫌いらしい。

「それより、どうだ? うちのバカをあんたの力で戻せそうか?」

「そうですね――」

ルインは部屋の隅で大人しくこちらを見つめていたバニラをちらりと見ると、静かに首を横に振った。

「ぶっちゃけ無理です」

「本当にぶっちゃけやがったな―― 一応あんたが最後の希望だったんだが?」

「そうは言われても、これなんともなりません。私の精霊の力は傷などは治せますが、バニラ様の記憶喪失をなくすことは無理なんです」

「どういうことだ?」

「そうですね――分かりやすく例えるなら、ホイミはHPなどは回復しても、MPは回復しないってことです」

「全然分かりやすくないぞコラ」

てか、相変わらずドラ●エ脳だなこの破滅の女神様は。

「バニラ様の記憶喪失は身体的な損傷からではなく、精神的なものだと言っているんです」

最初からそう言ってもらえませんかね?

しかし、精神的なものか――

「あれか――」

考えるまでもない。あの時見せられたヴィジョンが原因だろうな。

「……その顔ですと、なにか心当たりがあるようですね」

「ああ」

正直俺でさえ、思い出すと気分が悪くなる。バニラが心に負った傷は想像を絶するものであったのだろう。

「なんとか記憶を戻す方法はないか?」

「私もその道の専門家ではないため断言は出来ませんが、可能性があるとすれば――」

 

 

テテテ♪テ♪テッテー

 

 

言いかけたルインがピタリと止まる。なんだこのどこかのドラ●エで聞いたことのあるレベルUP音は。

「すみません電話です――もしもし、破滅の女神メイドです」

って、お前の携帯電話の着信音か!? それに、破滅の女神メイドってなんだ!? 普通に破滅の女神でよくないか?

「はい。はい。了解です。後は引き上げていいです。ご苦労様でした……雪乃様。あなた様を襲ったマックと呼ばれる人物の倒れていた場所は間違いはありませんか?」

「ええ、間違いはないわ」

俺と同じで闇の決闘を挑まれた雪乃は勝利し、その後すぐに友人である大地と、原 麗華の安否を確認に行ったそうだ。

「なにかあったのかルイン?」

ルインは神妙な顔で頷いた。

 

 

「はい。こちらの部下を雪乃様のおっしゃったポイントに向かわせた所、何もなかったそうです」

 

 

「……」

それはつまり――

「何者かがマックを回収したということか?」

「はい」

これは……まずったな。ただでさえ手懸かりが少ないというのに、手がかりになるかもしれない人間を、相手に先に回収されるとは。

「……ごめんなさい先生」

 申し訳なさそうに言う雪乃はいつもと比べて随分しおらしかった。

「私が先にマックをなんとかしていれば、こんなことには――」

「いや、お前は何も間違っていないぞ雪乃」

確かに貴重な手がかりを一つ失ったが 友人達の安全確認を優先した雪乃を誰も攻めることは出来ないだろう。現に俺も雪乃は正しい行動をしたと思う。

「それで大地達は無事だったのか?」

「……ええ。私の正体に少し戸惑ってるのか、話はしてくれなかったけど、無事だったわ」

「そうか。なら、余計に気にすることはない。お前の行動があいつらを救ったんだ。ぐだぐた悩まず胸張ってバカみたいに笑っとけ」

「私、そういうキャラじゃないわよ……」

 「でも」と、雪乃は淡く微笑んだ。

「ありがとう先生。先生にそう言われると、なんだか救われた気がしたわ」

ようやくらしくなってきたな。やれやれ、世話が焼ける生徒だ。

「あらあら」

と、ニヤニヤしながらこちらを見ているルインと目があった。

「なんだ?」

「いえ。どうやら二人の関係が以前よりも深くなっていることが分かりましたから安心したのです」

「はぁ?」

俺と雪乃の関係が深くなった? どこが? 前と何も変わらないぞ?

「そんなことより、今はバカ娘を元に戻す方法だ。何か思い付かないか?」

「可能性としては限りなく低いという条件付きなら1つだけ思い当たりますが、それでもよろしいですか?」

「構わねえよ。このバカの記憶を戻すためならなんでもしてやる」

「そうですか」

ならばと、ルインは俺達を見回すと、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「では、明日皆さんで新しくオープンされる遊園地に遊びに行って下さい」

 

 

 

 

……

 

 

はい?

 

 

「あー。ルインさんや、気のせいか? 今遊園地に行けって聞こえたような?」

「いえ、気のせいではありません。確かに言いましたよ」

「……すまんが、それとバカ娘の記憶が戻ることになんの関係があるんだ?」

俺がバカだからかな? どうやっても関係ない話に聞こえるのだが?

「黒崎様。バニラ様は、何か精神的なダメージを受けたせいで、記憶を失ってしまったのですよね?」

「ああ」

それは間違いないはずだ。

「ならば話は簡単です。その精神的なダメージを越える楽しい思い出を作ってその痛みを上書きしてしまえばよいのです」

「……」

これ、つっこんでいいよな? もう真面目に話聞く必要なんてないよな?

「全然関係ねえよ!!」って怒鳴っても許されるよな?

 

「全然関係ね――」

「流石ルインね。いい方法だわ」

 

 

……へ?

 

 

「確かに単純なバニラなら、楽しいことをしたらすぐに思い出すわ」

え、雪乃。お前本気で言ってんのか? 流石のバニラでもそんなことで記憶は――

「ばにらおねえちゃんなら、ありえる」

って、ウェン子! お前もか!? お前らの中でバニラのイメージってどんなに単純な奴なんだよ!?

「ひなた知ってるよ! 遊園地にはジェットコースターっていうのがあるんだよね! 私ずっとこの島にいて退屈だったから、行きたい! 後、そこに行ったらバニラママの記憶も戻る気がする!」

ひなたにいたっては完全にバニラのことはついでじゃねえか!? 後、休みの日に構ってやれなくてすまなかった! 俺は駄目な父親です!

ていうか、なんだこの空気。俺以外の奴等完全に行く気満々じゃねえか!

「さて、どうされますか黒崎様?」

「先生!」

「ますたー」

「パパ!」

三人の期待の眼差し。それをはねのけられる程、俺は強くなかった――

 

 

 

 

 

こうして俺達は今、遊園地にいる。

 

 

 

「しかし、凄い人の数だな」

今日オープンされたから仕方ないが、どこを見ても人がいる。

「おい。これ、さっさと並ばないと、乗り物乗れないんじゃないか?」

「その心配はないわ。どうやら案内役が来たようだし」

「あ?」

来たってなにが――

 

 

「雪乃様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「!?」

耳を覆いたくなるような大声が聞こえたかと思うと、身長が2メートルあるかないかの大男が雪乃に向かって突進してきた。

「あら」

その突進をワンステップで雪乃はかわすと、わざとらしく俺の方に倒れこんできた。

「ごめんなさい先生。足を滑らせたわ」

「それが言い訳なら、30点って所だな」

「あら手厳しい」

「それよりいいのか?」

お前に突進してきた奴、思いっきり地面に顔面ダイブして――

「貴っ様ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うおっ!?」

と思ったら、鬼の形相で俺につっかかって来た。

「貴様が、貴様が黒崎 黒乃という奴か! ゾーク様が認めても私は決して認めな――」

「うるさいですよデミス」

「ひでぶ!?」

と、男が再び地面に沈む。ルインの奴ってあんなキャラだったっけ?

「どうも昨日ぶりですね黒崎様」

「……なんでお前がいるんだルイン?」

大男を張った押した知り合いのメイドは首を傾げた。

「妻が夫の仕事の手伝いをするのは変ですか?」

「夫?」

え、誰それ?

 

おい待て。まさか――

 

 

「先生。そのまさかよ。そこで倒れてるのがルインの夫よ」

 

 

「ダァニィ!?」

ルインの奴結婚してたのか!? しかも、こんな大男と――

って、あれ? さっきルインこいつのことをすごーく聞き覚えのある名前で呼んでたような気がする。

「おのれ黒崎黒乃ぉぉ!! 雪乃様を手に入れるために、我が妻さえ味方にするとは! だが私は終焉の王と呼ばれた男! この程度で倒されると思うなぁぁ!!」

「紹介します。私の夫で藤原家の執事でありながらこの遊園地『デミスドーザー』のオーナー デミスです」

おいぃぃぃ!! なんかまたとんでもない奴が出てきたぞ!? なんで終焉の王が執事やってんだ!? つかなんで終焉の王で執事な奴が遊園地のオーナー!? しかもなんで遊園地の名前が昔流行ったデッキ名なんだよ!! ツッコミ所が多すぎんだろ!!

「殺してやる。なぶり殺しにして、生きたことを後悔させてやる」

しかも分かりやすい程にこちらに敵意を剥き出しにしてやがる。あんな台詞今時ジャンプの雑魚敵でも言わないんじゃねえのか……

「さあ先生時間が勿体ないわ。さっさと行きましょう。ここのオーナーはデミスだから、私達は乗り物に乗るのにわざわざ並ぶ必要なんてないわ」

「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!!」

雪乃さんや、俺、そのオーナーさんにめっちゃ殺気飛ばされてるんですけど。今にも襲いかかって来そうなんですけど?

「ご案内します雪乃様」

「お願いルイン」

「楽しみですー!」

「わーい! ジェットコースター!!」

「わくわくすっぞ」

当然の如く全員スルーして先に進む。

おいちょっと待て。俺とこの殺意100%の終焉の王を2人っきりにするんじゃ――

 

 

瞬間。俺の視線の端に見覚えのある銀髪の女が見えた。

 

 

「!」

視線で追うが、そこには誰もいない。

「先生ー! 置いていくわよー!」

「ああ、今行く」

気のせいか? 確かに、今すぐそこに『あいつ』が――

「まさかな」

俺は小さく頭を振ると、雪乃達の後を追うことにした。

だがこの時、俺は一つ大事なことを見落としていた。

そう。あんなに俺に敵意を剥き出しにしていたデミスがいなくなっていることを……

 

 

 

 

人気のない遊園地の裏側。

従業員でさえあまり人が寄り付かない場所に、一人の少女がいた。

「いるのは分かっている。隠れてないで、出てきて……」

「ほう――」

少女が振り替えると、物陰から一人の大男が現れた。

「気配は消していたのだがな。この私の存在に気がつくとは貴様、ただ者ではないな」

「――なんの用? あなたに尾行される覚えはない」

「なぜだと? 簡単だ。私も貴様に覚えがないからだ」

男は自分の額を軽く叩く。

「私は今日来る客の全てを記憶している。その中に貴様はいなかった」

「記憶違いじゃないの?」

「ふ、残念ながらそれはありえないな。貴様のような銀色の髪をもつ女なら記憶に留まるはずだからな」

「……」

少女はツインテールに纏めている自らの髪をちらりと見ると、視線を大男に戻した。

「私がここに招かれていない客だとしたら、どうするの?」

「どうもしない――と、本来なら言っていただろうな」

「だが」と大男の全身が光を放つ。

「私の直感が言っている。貴様を無視していると、雪乃様に何らかの危害を加えるとな」

光が消えるとそこにいるのはもう大男ではなかった。

「悪いが、雪乃様の障害になるものは、この私――デミスが排除させてもらう」

そこにいるのは、モンスターの精霊の中でも上位に入る終焉の王と呼ばれた最上級の悪魔であった。

「この場から立ち去れ。でなければ、少々痛い目にあってもらう」

「……」

それを前にしたというのに、少女の表情に変化はなかった。

人形。

まさに少女にはその言葉が相応しい。およそ人としての感情が欠如した少女は作り物めいた美しくさと、不気味さが同居していた。

なんの感情も写さないガラスのような瞳で終焉の王を見据えると、小さく呟いた。

「仕方がない」

少女が片腕を上げると、その腕にはいつのまにか、決闘盤が装着されていた。

「ほう。この私に決闘を挑むとはいい度胸だ」

終焉の王もまた、自らの片腕に精霊の力で決闘盤を出す。

「終焉の王デミス参る!」

「勝敗を――」

 

 

誰の目が届かないその場所で、終焉の王と人形の決闘は始まった。


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