遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

62 / 80
闇照らす太陽

「行くぞ! 今度こそこれで終わりだ! Meはジャイアントキラーの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、効果発動! 相手の場の特殊召喚されたモンスターを破壊する! 当然貴様のウェンディゴを選択する」

「ウェン子!」

ジャイアントキラーの胸部が開き、その中のローラーを露にする。更に、指から無数の糸が飛び出すと、ウェン子をがんじがらめに捕らえる。

『んくぅ!』

苦悶の声をあげるウェン子。

「死ねクソガキぃ!」

糸が巻き戻され、ウェン子がキラーの胸部に引っ張られる。

このままではグロテスクな光景を晒すことになるが、俺のマスコットをそんな姿には絶対にさせない。

「トラップ発動。ブレイクスルースキル。このカードの効果でお前のジャイアントキラーの効果を無効にする」

ウェン子を捕らえていた糸が切れる。これでこのターンのウェン子の破壊はない。

「ならば手札から装備魔法デステニー・ストリングスを発動! このカードをヘブンズストリングスに装備!」

「!」

またミスターファンサービスのカードか! しかもあれは原作でシャークのモンスターをタコ殴りにした凶悪コンボじゃねえか!

「デッキの上からカードを1枚墓地に送り、それがモンスターカードだった場合、そのレベル分相手のモンスターに連続攻撃が出来る! そしてその攻撃されるモンスターは戦闘では破壊されない!!」

「まずいです! マスター!!」

「分かっている」

俺の場には攻撃力2800のウェン子がいる。ヘブンズストリングスの攻撃力は3000。その差200ポイントのダメージが1回の攻撃で襲いかかる。

これを通してしまえば、大ダメージは免れない。

「Meが墓地に送るのはーーくく、レベル7のマシンナーズ・フォートレス! よってそのクソガキを7回連続で攻撃する!!」

異質なる人形が剣をその手に持ち、ウェン子に襲いかかる。

「マスター! なんとかならないんですか!」

「……」

正直に言うと、防ぐ手はある。先程のターンに伏せた2枚の内もう1枚のカードを使えば、ウェン子を守ることは出来る。

(だがーー)

それでは奴のライフを一撃で0には出来ない。このカードの威力を最大限までに高めるのには、あのカードが必要不可欠なのだ。

 

 

「俺は――」

 

 

リバースカードを――

 

 

『ますたー』

 

 

「!」

呼ばれ、俯いていた顔をあげる。見るとウェン子が俺を見つめていた。

剣を持った人形が自らに襲いかかろうとしているのに、その顔はひどく穏やかだった。

(ウェン子)

その視線に込められた想いを受け取った俺は、宣言した。

「この瞬間! エルシャドール・ウェンディゴのモンスター効果発動! 1ターンに1度、自分のモンスター1体を指定する。そしてそのモンスターはこのターン特殊召喚された相手モンスターとの戦闘では破壊されない! 俺はエルシャドール・ウェンディゴ自身を選択する!」

「バカが! それに何の意味がある!? どのみちそのモンスターはデスティニー・ストリングスの効果で戦闘では破壊されないんだぞ!?」

「分かっているさ。これはこの決闘において、なんの意味はない」

「ならなぜ!?」

「ちょっとした願掛けだ」

少しでもウェン子の痛みが軽減すればいいという俺の願いだ。がらでもないから、絶対に口には出さないがな。

 

もっとも、

 

 

『ふふ』

 

 

察しのいいうちのマスコットは言わなくても気付いてしまいそうだがな。

 

 

「どこまでもMeをこけにする男だな貴様は! ならば、そのクソガキと共に死ね!!」

 

 

『うぃんどうぉーる!』

迫りくる剣から退く様子を見せず、風の障壁を展開したウェン子は真っ向から迎え撃つ。

「1撃目!」

黒乃LP2500→2300

剣が風の障壁に阻まれるが、それは一瞬のこと。すぐさま障壁を切り裂くと、人形の凶刃はウェン子を襲った。

「2撃!」

黒乃LP2300→2100

返す剣で斬られるが、ウェン子は表情を変えない。

「3撃!」

黒乃LP2100→1900

再びの斬撃。だがウェン子は表情を変えない。

「よ、4撃!」

黒乃LP1900→1700

斬撃。だがウェン子は表情を変えない。

「5撃ぃ! なぜだ!?」

黒乃LP1700→1500

だがウェン子は表情を変えない。

「どうして、効かない! 当たってるはずだ! 食らってるはずなんだ! なぜなんだ!? Meは貴様の苦しんでいる姿が見たいのに、どうして苦しまない!?」

6撃、7撃目は同時に連続で来た。

 

だがーー

 

 

『おそい』

黒乃LP1500→1300

最後の斬撃を受けたウェン子は、怯む所か逆にヘブンズストリングスの剣を素手でつかんで見せた。

「ば、バカな!? なぜ攻撃力が低いモンスターに、Meのモンスターの剣が掴まれる!?」

『こたえはかんたん。あなたがよわいから』

「Meが弱い!? ふざけるな。Meの攻撃は確実にお前たちのライフを削ったぞ」

『ちがう』

「なに?」

剣を掴み止めながら、ウェン子は視線をデイビットではなく、ヘブンズストリングスに向けた。

『あなたじゃなくて、この子。わたしにこうげきしたのはこのこであってあなたじゃない』

「何が言いたいんだ!? まるで意味がわからんぞ!」

『どうしてこのこたちのことを、たいせつにしてあげないの?』

「大切にだと!」

デイビットが目を血走らせ、ウェン子を睨み付ける。

「モンスターは勝利を掴むための道具だ! 道具を大切にするなど、ナンセンス以外のなにものでもない!」

『それはちがう』

「なに!?」

グッとウェン子が手に掴んだ刃に力を込める。

『わたしはもんすたーのなかでもとくによわい』

「突然何をーー」

ウェン子の力に剣が軋みをあげる。

『こうかはびみょうだし。すてーたすもひんじゃく。しょうじきわたしをいれるぐらいなら、ほかのもんすたーをえくすとらでっきにいれたほうがいいとすら、じぶんでもおもう』

「だから何をーー」

『でも』

ウェン子が振り返り、俺を見る。その視線はどこまでも真っ直ぐだった。

『そんなわたしでもますたーはたいせつにあつかってくれている。もうほかのえるしゃどーるをいれることだってできるのに、ますたーはわたしをえらんでくれる』

だからと、ウェン子はデイビットを睨み付ける。

『わたしはますたーのまえなら、ますたーのまえだけなら、さいじゃくからさいきょうになる』

剣にヒビがはいる。それはすぐに剣全体に広がり、

 

 

『なってみせる』

 

 

瞬きのうちに、ヘブンズストリングスの剣は砕け散った。

「あ、あり得ない……」

攻撃力3000のヘブンズストリングスの剣が砕かれたのが、信じられないのだろう。デイビットは目を見開き、ウェン子を凝視する。

『あなたにはそれがない。もんすたーとのしんらいかんけいが、たりない。それじゃあ、どうやってもますたーにはかてない』

「なんなんだーー貴様は一体、何者なんだ!?」

デイビットの叫びを待っていましたかと言わんばかりに、ウェン子は笑う。それはいつも通りの不適な笑みだったが、

 

 

『とおりすがりのしゃどーる――ますたーだけのね』

 

 

最後だけは見た目相応の子供らしい無邪気な笑みだった。

 

 

「っっ! Meはヘブンズ・ストリングスの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使い、フィールドのこのモンスター以外の全てのモンスターにストレングスカウンターを1つ置く!」

 ウェン子とジャイアント・キラーが糸で身動きを封じられる。

「そして次の相手のエンドフェイズ時に、カウンターが乗ったモンスターを全て破壊し、破壊したモンスター1体につき、500ポイントのダメージを相手に与える。黒崎 黒乃! 貴様のLPは残り1300。次のターンで、敗北を迎えるか、致命的なダメージを受けることになる」

「くくく……」

ストレングスカウンター。さながら時限爆弾のようなものだな。

 面白い。こうでなくてはな。

「なら、次のターンでお前を倒すだけだ」

「出来ると思っているのか? Meの場には強力モンスターが2体に、スピリット・バリア。そして――」

 デイビットが見せつけるようにフィールドに1枚のリバースカードをセットした。

「Meが今伏せたのは、2枚目の奈落の落とし穴。これでどんな強力モンスターを召喚しようが、出た瞬間に、ジ・エンドだ」

 ブラフ……ではないな。リバースカードを素で教えくれるとは、過剰なサービスだな。使ってるカードが、ギミックパペットだけにファンサービスってか? まあ、どうでもいいことだが。

「いいだろう」

 なら俺もやってやるとしよう。

 

 

ファンサービスをな。

 

 

「喜べデイビット。今、俺の手札にこの状況を引っくり返すカードはない」

「ようやく諦めたのか?」

「まさか」

 俺は自分でも分かるほどに凶悪な笑みを浮かべながらデッキの上に手をかける。

「このドローだ。このドローで、全てが決まる。この決闘の勝敗も、俺達の運命もだ」

「なら、神頼みでもするんだな! 勝つのはMeだ」

「その必要はないな」

 

 

生憎、(そいつ)は娘だ。

 

 

「俺のターン」

『おわりにしよう。ますたー』

ああ。このターンで終わりにする。

 

 

だから――

 

 

「来いひなた」

 

呟くように俺達の娘の名を口にしながらカードを引く。

 

 

『んー? パパ呼んだー?』

 

 

その想いは邪気のない太陽のような俺達の愛娘に届いた。

「見せてやるよデイビット」

「?」

 

 

神を――いや、

 

 

 

ヲー(・・)を」

 

 

 

「ヲー? なんのことを言っている?」

さあ、いくぞ。今こそ全ての切り札を切る時だ。

「俺は手札から魔法カードシャドールフュージョンを発動。このカードはシャドールモンスター専用の融合カードだ」

「また融合か! だがここで融合をしてなんになる!? 大幅な手札消費をしてまたそのクソガキでも呼んで壁にする気か? だが、ヘブンズストリングスを破壊しない限り、このターンで貴様は終わりだ!」

「確かに、お前が自分のエースを信頼し、そのまま闘っていれば、これはただの融合だっただろう」

だが、もうこのカードはただの融合マジックではない。

 

 

「いくつもの可能性を切り開く切り札(ジョーカー)となった」

 

 

瞬間俺の決闘盤からデッキが飛び出した。自分の意思を持ち、俺のデッキは俺の周りに浮かび上がった。

「な、なにが起きている!?」

「シャドールフュージョンの効果だ。相手の場に、エクストラデッキから特殊召喚したモンスターがいる場合、融合素材をデッキから直接墓地に送ることが出来る」

「デッキ融合だと!?」

これがシャドールが環境トップに君臨した由縁。墓地肥やしと融合モンスターの融合召喚を同時に果たしてしまう強力な切り札。

(もっともーー)

 

 

俺が呼ぶのはたった1体だけだかな。

 

 

「俺はデッキから風属性モンスターデブリ・ドラゴンと、シャドールモンスターシャドール・ファルコンを墓地に送りーー」

 

 

再び舞い降りろ。俺の最強マスコット。

 

 

「エルシャドール・ウェンディゴを融合召喚」

 

フィールドに2体目のウェン子が現れる。流石に精霊付きなのは先に出した方だから、後に出したウェン子は完全に無表情だがな。

『あたっくらいど いりゅーじょん』

うん。言うと思ったよウェン子さん。

「今更そのガキを出してなんになる!? ただの延命措置にすぎないとーー」

「慌てるな。融合素材にしたシャドール・ファルコンの効果。このカードがカード効果で墓地に送られた時、このカードを裏側守備表示でフィールドに特殊召喚する。更に手札から魔法発動」

後1枚。これで最後だ。

「至高の木の実。このカードは自分のLPが相手よりも低い場合、自分のLPを2000回復する」

黒乃LP1300→LP3300

「だから何がした――」

これで準備は整った。

 

「俺は3体のモンスターを生け贄に――」

 

さあ初陣だぞ。俺の娘よ。

 

 

 

 

「飛翔せよ! ラーの翼神竜!!」

 

 

 

 

俺達の周りを取り囲む闇が一気に燃え上がる。

黄金の炎で闇を浄化したのは、三幻神最強のモンスターであり、太陽を司る神。

 

 

ラーの翼神竜であった。

 

 

 

 

あり得ない。デイビットがこの決闘中にそう感じたのはこれで何度目になるのであろうか?

つい先程までデイビットはその回数を覚えていた。受けた屈辱は倍返しにしないと気がすまない彼としては当然のことだ。

だが今は違う。

デイビットは忘れていた。頭の中が真っ白になるほどの衝撃と驚愕が彼を襲ったからだ。

「ば、ばかな!! そんなはずはない! なぜお前が決闘王しか持たないはずの神のカードを持っている!?」

決闘王 武藤 遊戯に宿った名もなきファラオの魂につき従う三幻神の中でも最強の名を持つ絶対的な存在である太陽の神がデイビットの前に現れた。

「なぜ神が、貴様に従うのだ?」

「少々訳ありでな。いつの間にか娘になってたんだよ」

「ふざけるな!」

叫びは悲鳴になっていた。神が娘になった? そんなばかなことがあるはずがない。きっと黒崎 黒乃は自分を挑発するために、適当なことを言っているのだ。デイビットはそう自らに思い込ませた。

「別にふざけてはいないさ。なあ、ひなた?」

『パパ。あの人誰?』

声が聞こえた。舌ったらずな幼い少女の声だ。

(げ、幻聴か?)

だがそれが現実のものであることを、デイビットは思い知ることになる。

『へんしーん!』

ポン! と、瞬きの内に、神としての圧倒的な威厳を放っていたラーが一瞬で金髪の幼女の姿になったのだ。

「は?」

なにが起こってる? とは思わなかった。思考などは既に停止していた。

「パパーだっこー」

分かるのは、ラーの幼女が父親にねだるように、黒崎 黒乃に甘えているということだけだ。

「おい。今は決闘中だぞ。甘えるのは後だひなた。今は目の前の敵に集中だ」

そう言いながらも、黒崎 黒乃は手慣れた動作で幼女を抱き上げ、その頭を撫でた。

「うー。じゃあ終わったら、ひなたにいい子いい子してくれる?」

「ああ。約束だ」

「わーい! 私がんばっちゃうねパパ!」

まずいと、デイビットは思った。自分のフィールドは磐石だが、神のカードが相手ならそれは分からない。

(早急に退場してもらうとしよう)

幸いにも伏せてあるカードは奈落の落とし穴だ。このカードを使い、早急に神を排除しーー

(!? 何故だ! 何故トラップカードが発動しない!?)

その時、デイビットは思い出した。

 

 

神にトラップが効かないということを。

 

 

(やはり。本物の神のカードなのか?)

絶望というものをデイビットは初めて味わう。自分はエクシーズモンスターという新たな力を手にいれたが、神に比べれば、それは児戯に等しいものだ。

 

 

勝てない。

 

たった1枚のカードにより、デイビットの心は完全に折れようとしていた。

「そう絶望した顔をするなデイビット。こいつはお前が思っているような最強無敵の神様なんかじゃない」

「? どういう意味だ?」

「何簡単なことだ。今ラーの攻撃力はーー」

「いただきまーす」

カプリと、デイビットの前で幼女が黒乃の首筋に噛みつく。

「ちゅー♪ ちゅー♪」

上機嫌に、黒乃から何かを吸いとる。それがなんなのかは、すぐに青年が種明かしをした。

「俺のライフを100だけ残した残りの数値分だけアップする。つまりはーー」

「たったの――3200ポイント?」

「大正解だ。しかも俺のライフは100に減少する」

 黒乃LP100

何が面白いのか、黒乃はにやりと笑う。しかし、そう笑う彼のライフは確かに風前の灯火になっていた。

「神じゃ、ない?」

 神にしてはあまりに惰弱すぎる効果だ。3体の生贄をしてまで召喚したのに、あれでは主にデメリットしか与えていない。

 

 

「ふふ――ふはははははははははは!!!」

 

 

笑った。心から笑った。神がまがい物の神であったということと、この決闘を確実に勝利できるという二つの安心感からだ。

「随分余裕だな。神様を目の前にしたっていうのに、大したものだ」

「何が神だ! そんな貧弱なモンスターは神ではない!」

 安心すると、怒りを感じた。あんな何の役にも立たない貧弱な効果を持つゴミカードを入れている黒乃に対する怒りだ。

「神とは圧倒的な力を持つ絶対的な存在だ! 貴様のカードは神ではない! あーなるほど。だから『ヲー』か。随分面白いジョークだ!」

「ああ。俺も面白いと思うぞ。だから面白いついでに、もう1つ教えてやろう」

 黒乃は抱き上げていた幼女を下ろすと、その頭を一撫でする。

 

 

 

「こいつがお前に止めをさす切り札(ジョーカー)だ」

 

 

 

「はったりもいい加減にしろ! そんな雑魚でMeに勝てると思っているのか!?」

 そもそも、ヲー単体ではデイビットの場にいるモンスターを1体しか破壊できない。

(次のターンさえくれば、ライフ100の奴を倒すのは容易。Meの勝ちは決まったも同然だ)

 少々手こずったが、やはり自分が負けることなどありえな――

 

 

「バトルフェイズ。ラーの翼神竜でヘブンズ・ストリングスに攻撃する」

 

 

「無駄だ!」

 例えモンスターを破壊されたとしても、デイビットにダメージはない。

そもそもあんな紛い物の神を召喚する段階で間違っているのだ。ライフを100にしてまで召喚する価値もない。本物の神のように決闘に影響を与えることすら出来ないクズ。

 

 

 

「そいつを出すこと自体が、血迷ってることなんだよ黒崎 黒乃!」

 

 

 

 

 

「そいつを出すこと自体が血迷ってることなんだよ黒崎 黒乃!」

 デイビットの叫びに、半分俺は呆れていた。

「今更気がついたのか?」

 まともな神経で、こいつらのマスターなんてやってられるか。

 ストレスで胃は常にマッハだし、先の事を考えたら頭が痛い。

 ああ、あえて言ってやるよ。

 

 

 

 

「俺はとっくに血迷ってるわぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 怒りと共に、俺は更に叫ぶ。

「決めてこいひなた!!」

『うん! やっちゃうね!』

再びひなたがラーの姿に変身。

そしてその翼を広げると、背に背負った天輪に、光を収束させていく。

「無駄だ! その攻撃は決してMeには届かない!」

「くくく……」

確かにただのひなたの一撃なら、決してこの攻撃は届かなかっただろう。

だが――俺にはウェン子が残してくれた切り札(ジョーカー)がある。

 だから言おう。

 

 

 

 

「どうかなそれは」

 

 

 

 

 この一撃はただの一撃ではない。

 

 

俺、いや俺達で繋いだ魂の一撃だ。

 

 

「トラップ発動!」

 

 

文字通り(・・・・)……のな。

 

 

「魂の一撃!」

「!?」

ラーの天輪が更に超速回転を始める。集まっていた光は赤く変色し、純粋な破壊の力を見るものに連想させる。

「このカードは自分のLPが4000以下の場合、自分フィールド上のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時にライフポイントを半分払い、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで、自分のライフポイントが4000より少ない数値分アップする。したがってラーの攻撃力はーー」

 

 

ラーの翼神竜ATK3200→ATK7150

 

 

「攻撃力7150!?ヘブンズ・ストリングスの攻撃力を圧倒しただとぉ!?」

 驚いたようだなデイビット。ああ、そうだよ。これがお前が馬鹿にしたヲーの……ひなたの本当の力だ。

「――たが無意味だ!!」

デイビットはほくそ笑む。まあ、そうだよな。

「スピリットバリアがある限り、Meにダメージを与えることは不可能だ!」

デイビットを守るように、奴の周りに防壁が展開される。

「Meを倒すことは出来な――」

瞬間。デイビットは目を見開いた。

彼を守る唯一の防壁であるスピリットバリアが音を立てて砕け散ったからだ。

 

 

「悪い。悪い。俺としたことが、サイクロンを発動するのを忘れていた」

 

 

「え?」

おやおや、呆然とした顔をされていらっしゃる。おいデイビット君。薄ら笑いはどうしたのかな?

「あの、マスターそれ、絶対嘘ですよね。絶望を与えるために、あえてこのタイミングを選んだんですよね?」

何を言っているバニラ。俺だって人間だ。カードを発動し忘れることだってあるさ。

 うっかりしていたぜー

「まったく失敗したなー」

「極悪非道の顔芸しながら棒読みでそう言われても、嘘にしか聞こえません!」

おや、俺はそんな顔をしていたのか。

自分では普通の顔してるつもりだったのだがな。

まあ、それは置いておいて――

「覚悟はいいかデイビット? ダメージが現実のものとして体感出来るこの決闘で文字通りの神の裁きが下るんだ。気を抜いたらあの世行きだぞ?」

「あ、う……」

 これ以上ないほどにデイビットは顔面を蒼白にしている。

闇の決闘に敗北するという恐怖と、神の一撃をその身に受けなければいけないという恐怖。

それがデイビットの心を完膚なきまでに破壊したのだろう。

 今までの余裕の態度は崩れ去り、 土下座をする勢いでデイビットは頭を下げて来た。

「や、やめてくれ。いくらなんでも神の攻撃を受ければ、Meは……」

「……マ、マスターちょっとかわいそうです。これで決闘を終わってあげてもいいんじゃ……」

「くくくく……」

「あ、絶対やめる気ないですねマスター」

 よくわかってるじゃないか、バカ娘。

 

 

「頼む!」

「断る」

「助けてくれ!」

「却下」

「命だけは!」

「論外だ」

 

 

取りつく島など与えない。

「お、鬼がいます……」

 鬼だと? 当たり前ではないか。俺はこの攻撃を止めるつもりは毛頭ない。

 なぜなら――

 

 

 

「俺はなデイビット」

 

 

 

デイビットを見ると、俺は短く告げた。

 

 

 

 

「自分のマスコットと、娘をバカにされて黙っていられるほどお人好しじゃないんだよ」

 

 

 

 

 絶望に染まった顔で俺を凝視するデイビットを最後に見ると、俺は攻撃を宣言した。

 

 

「ゴットソウルキャノン」

 

 

『いっけー!!』

 

 

 天輪に蓄積された光は放たれ、

 

 

 ヘブンズストリングスーー

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 そしてその後ろにいるデイビットをも飲み込んでいった。

 

 

 デイビットLP2800→LP0

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。