「バトルだ! マシンナーズ・フォートレスでセットモンスターに攻撃!」
「セットしていたのはメタモルポット。リバース効果で、互いは手札を全て捨て、その後カードを5枚ドローする。更に捨てたカードの中にはE・HEROシャドーミストがいたため、その効果でデッキからE・HEROエアーマンを手札に加える」
なんとか手札を補充することは出来た。だがメタモルのドロー効果は諸刃の剣でもある。
「それはMeにとってもグッドな効果だ。Youの効果でカード5枚ドロー。? なんだこの手札は?」
「やりましたねマスター! 相手の人手札が事故ったみたいですよ」
(違う)
「へ?」
あいつのあのフリはその逆だ。
「これじゃあMeの勝ちじゃないか!SATURNで攻撃し、ダメージステップ時に手札から速攻魔法リミッター解除を発動! これにより、Meの全ての機械属モンスターの攻撃力は倍となる!」
「倍!? ってことは、SATURNの攻撃力はSATURNの倍の5600になるんですか!?」
「!? バニラ。お前かけざん出来たのか!?」
「最近出来るようになったんですよー。ってそんなわけないじゃないですか! それぐらい出来ます! どんだけ私のことバカだと思ってるんですか!」
いいノリツッコミだ。調子が戻ってきたみたいだな。ウェン子のことでらしくなく、シリアスだったからな。バニラはバカやってる方がちょうどいい。
こっちもやりやすい。
「これで終わりだ!」
「終わりだと?」
バカを言うな。こんなことではまだ終われない。終われるはずがない。
「トラップ発動。ガード・ブロック。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」
「ち。そう簡単には勝たせてくれないか」
「残念ながらこのターンでお前の勝利はなさそうだな」
「……ならばMeはカードを2枚伏せてターンエンド。この瞬間リミッター解除の効果によりフィールドの効果を受けた機械属モンスターを全て破壊する。だがSATURNの装備カードとなっているマシンナーズ・ギアフレームは装備モンスターが破壊される場合、身代わりにすることが出来る。この効果により、SATURNはフィールドに残る」
「俺のターン。ドロー」
ちらりと、この闇の外を見る。ようやく海に出ようとしていた。後もう少しだ。もう少し耐える必要がある。
「俺は手札からE・HEROエアーマンを召喚。その効果でデッキからE・HEROプリズマーを手札に加える。そしてカードを2枚伏せてターンエンド」
「Meのターンドロー。強欲な壺を発動。2枚ドローし、手札からクオンティティーを攻撃表示で召喚」
「クオンティティー?」
確かあいつは、漫画のGXでデイビットが万丈目に使ったモンスター。
「攻撃力500のモンスターを攻撃表示? もしかして今度こそ相手のプレイングミスですか?」
んなわけねえだろバカ。
「バニラ。衝撃にそなえておけ」
「ふえ? どういう意味ですか?」
「連続攻撃が来るぞ」
「そしてリバースカードオープン機械複製術! このカードの効果によりMeの場の攻撃力500以下のモンスターの同名モンスターをデッキから特殊召喚する。したがってデッキから2体のクオンティティーを特殊召喚! 共に攻撃表示!」
「厄介なことをしてくれる」
フィールドの機械人形が複製され、3体に増える。少々まずい展開だな。
「で、でもいくらモンスターを並べても攻撃力が低いから大したことないです!」
気楽でいられるお前が羨ましいよバカ娘。
「魔法カードスナイパーモードを発動。この効果により、Meの場のレベル3以下の機械属モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃が可能となる」
「直接攻撃!?」
ライフルを装備した機械人形達は一斉に俺に照準を合わせる。機械ゆえに表情などはないが、俺を殺す気満々なのはよく分かった。
「更にMeはSATURNの真の能力を発動! ライフを1000ポイント払い、手札を1枚捨てることで、このターンSATURNの攻撃力は1000ポイントアップする。モードチェンジしろSATURN!」
機械の巨人が変形する。より強くより凶悪な武装に変化する。
「これがSATURN FINAL!! 受けるがいい。我が下僕達の攻撃を! 行くぞまずはクオンティティー1で直接攻撃!」
クオンティティー1体のライフルが火を吹く。
光の速さを持つその弾丸は俺の胸を貫く。
「がふっ!」
あのクオンティティー。いい腕をしてるな。一撃で肺を狙い撃ちしやがった。ダメージを現実のものにする闇の決闘のせいか。俺は吐血した。
「くく! くははははは!! たまらいね! この感覚! 相手を本当の意味で屈服させているのだと感じる事ができる!!」
「悪趣味な奴だ」
盛大な顔芸を披露しながら、狂ったように笑うデイビットに俺は舌打ちする。
(いつものこととはいえ、少々きついな)
無論幻覚だ。本当に肺を撃ち抜かれたのなら、この程度ではすまないだろう。見ると、吐血したはずの血も既に消えていた。
「マスター!」
「くく、いい様だな黒崎 黒乃! さあ、2体目のクオンティティーの狙撃だ!」
「させません!」
バニラが咄嗟に方向を変えようとするのが分かった。クオンティティーからの狙撃から俺を守るためだろう。
だがそれでは駄目だ。やっとここまで来たんだ。ここで方向を変えれば、せっかく離した距離が無駄になる。
だから俺は――
「くく! くははははは!!」
高揚感がデイビットを満たしていた。
自らもリスクを背負いながら、相手を傷つけ、勝利を掴みとる。闇の決闘の虜となっているデイビットは嬉々として攻撃を続ける。
「くく、いい様だな黒崎 黒乃! さあ、2体目のクオンティティーの狙撃だ!」
次は何処を狙ってやろうかと、デイビットが思ったその時であった。
黒崎 黒乃が下僕のモンスターが従える竜の背から飛び降りたのは。
「なんだと!?」
完全に予想外。射線上から突然移動したせいで、クオンティティーの第2の狙撃は黒崎 黒乃の肩を掠めるだけで終わった。
(闇の決闘の痛みに気でもふれたのか?)
だとしたら愚かすぎる行動だ。少しでも苦しみから逃れるためにした行動が、逆に自らの苦しみを増すことになるのだから。
「それでは身動きがとれまい! 今のYouはただの的だ!」
「マスター!!」
最後のクオンティティーがライフルを構える。狙いは頭。この一撃で即死クラスの痛みを与え、再起不能にする。
「クオンティティー! 殺れ!!」
「だめぇ! マスター!!」
黒崎 黒乃の下僕のモンスターが主を助けようと、急速に下降する。
だが遅い。遥かに遅すぎる。
弾丸が放たれる。
その弾は決して遮られることなく――
黒崎 黒乃の額を貫いた。
「マスター!!!!!」
「ふ! ふは! ふひははははは!!」
殺った。あれではいくら現実のダメージではないとはいえ、もう決闘を続行することは不可能だ。
闇の決闘に勝利したことに、デイビットは喜びに震えた。自らの命を賭けるギリギリの決闘に勝ったときのこの快感こそデイビットの求めたものであった。
これだから闇の決闘は止められない。
(だが、まだ足りない)
せっかく思うがままに暴れられる世界に来たのだ。もっと闇の決闘を誰かとやり――
「――なに勘違いしてやがる?」
瞬間。感じていた高揚感は跡形もなく消え去った。
顔面を蒼白にしながら、デイビットは視線を下ろす。
ありえない。確かに仕留めたはずだ。頭を撃ち抜いたのだ。いくらLPが残っていても、まともな人間がそのダメージに耐えられるはずがな――
「俺はまだ生きているぞ?」
目が合った。
怯むどころか、先程よりも強い眼光でこちらを睨み付けている。
そんなはずはない。額を貫かれたダメージを受け、平然としていられる人間がいるはずがない。
だが黒崎 黒乃の視線は、まっすぐに、はっきりとデイビットを捉えていた。
「ありえ、ない」
その視線にデイビットは恐怖した。これまで何度も闇の決闘を行い、修羅場をくぐり抜けてきたデイビットが心の底から恐れを感じた。
あの黒崎 黒乃という男に。
「SATURN!!」
瞬間。デイビットの中での冷静さは消え去った。早く終わりたい。早急にあの気味が悪い存在を消し去りたい。その一心で自らの最強モンスターに攻撃を命令した。
幸いにも相手のLPは残り2500。攻撃力3800のSATURNが攻撃すれば、致命的なダメージを与え――
「リバースカードオープン。速攻魔法エルシャドールフュージョンを発動。このカードの効果によりシャドール融合モンスターを融合召喚する」
「!?相手ターンで融合召喚だと!?」
だがと、デイビットは自らが伏せていたもう一枚の伏せカードを見る。
(Meの伏せているのはトラップカード奈落の落とし穴。あり得ないことだが、SATURNを越えるモンスターを召喚されたとしても、問題ない! Meに死角などありはしない!)
だというのに、なぜだ? なぜ震えが止まらない。
どうして、これではあの男は止められないと、思っている?
「場の風属性モンスターエアーマンと、手札のシャドール・ビーストを融合」
風が黒乃の元に収束していく。それは暴風でもなければ、豪風でもない。
すべてを包むような優しい風であった。
「闇より暗き深淵の影より現れ---全てを守護する防風となれ!!」
「融合召喚! 現れろ! エルシャドールウェンディゴ!!」
「なに!?」
風の中心点にいるモンスター。それは紛れもなく決闘が始まる前に倒したあのモンスターだった。
「なぜそいつがそこにいる!?」
「逆に聞くが、何故いないとおもっていたんだ?」
海豚の人形を足場にしながら、黒乃はやれやれと肩をすくめた。
「俺のマスコットがお前の鉄屑君の攻撃ごときで、やられるはずないだろう?」
「MeのSATURNを鉄屑扱いだと!?」
デイビットが憤怒の表情を浮かべる。だが、それでも尚、黒乃は薄ら笑いを浮かべながら、言葉を紡ぎ続ける。
「なら試してみるか? ウェン子――エルシャドール・ウェンディゴは攻撃表示で出す。これなら、お前の鉄屑君でも何とかなるだろう?」
「貴、様ぁ! どこまでもMeをバカにする気か!?」
怒りでこめかみが切れそうになるのを耐えながら、デイビットは何とか冷静さを取り戻そうとしていた。いくらなんでもおかしい。あれは罠だ。こちらの攻撃を誘っているにしか思えない。
ならば、ここでのベストはここでバトルフェイズを終了することだ。
「さっきのこうげきはいたかった」
と、自らで自分にそう言い聞かせているデイビットの思考を遮るように、雑魚――幼女のモンスターがぽつりと呟いた。
『とてもとてもいたかった』
「当たり前だ! Meのエースの攻撃が痛くないはずが、な――」
『ん。とてもいたかった」
そこで幼女はにやりと不敵に笑った。
『かたはらが』
ぶちりと、自分の堪忍袋の緒が切れた音をデイビットは確かに聞いた。
雑魚に侮辱されたことすら腹立たしいのに、幼い少女の見た目の相手に侮辱されたことがデイビットの中の冷静さを完全に殺した。
「SATURNっっ!! そのクソガキを完膚なきまでに叩き潰せぇぇ!!」
攻撃を下す。攻撃力3800と攻撃力200のモンスターのバトル。相手が攻撃反応型のトラップでエースを除去されたとしても、構わなかった。なぜならそれはあくまでそのトラップに負けただけだ。あの雑魚の幼女に負けた訳ではない。
「死ねぇぇ!!」
負けるはずがない。あんな雑魚に自分の最強モンスターがやられるはずが――
「どうかなそれは」
瞬間。デイビットは後悔した。負けるはずがないと思ったばかりだというのに、気がついてしまったのだ。
自分が途方もないミスをしてしまったことに。
「トラップ発動。反転世界。このカードの効果により――」
黒乃は笑う。それは凶悪な笑みであった。
闇の決闘を何度も経験したデイビットでさえ、そのような凶悪な顔は見たことがなかった。
「フィールドの効果モンスターの攻撃力と守備力を入れ替える」
「なん、だと!?」
ということは――
エルシャドール・ウェンディゴ ATK/200 DFF/2800→ATK2800 DFF200
The big SATURN ATK/3800 DFF2200→ATK2200 DFF/3800
「バ、バカな! そんな雑魚がMeのSATURNの攻撃力を上回っただと!?」
「ウェン子。返り討ちにしろ!」
『ふぁいなるあたっくらいど』
幼女の飛び蹴り。彼女の周りの風が彼女の足元に収束する。
『うぇんこきっく』
その蹴りは最早風で形成した槍でもあった。触れるもの全てを貫くその槍は土星の名を持つ巨大モンスターですらも――――
例外なく貫いた。
貫かれた鉄の巨人が海上で爆散する。
「デイビット・ラブ」
黒乃がデイビットの名を呼ぶ。その傍らに幼女のモンスターが降り立ち、抱きつく。
その頭を撫でながら、黒乃は不敵に笑った。
「ここからが、クライマックスだ」