遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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金星VS竜神姫

「?」

ブルー女子寮から少し離れた所で私はふと、何か嫌な予感がした。その感覚は以前先生がラーと闘っている時に感じたものと同じだった。

周りの気配を感じるために意識を集中しようとした私だったが、それは幼馴染みの怒声に遮られた。

 

 

「まさか、まさかあなたが覗きなんて! 見損ないましたよ大地!!」

 

 

すごい声量ね麗華。耳が痛いわ。少し離れてる私でこれなのだから、近くで言われた大地の坊やには少し同情するわ!

「の、覗いたわけじゃねえ! ただその、男として無視できない事があってだな――」

「それが覗きですか!」

「だから違うって!」

「あらあら――」

修羅場ってるわね。まあ、自分の好きな人が覗きという犯罪をしてたんですもの。麗華が怒るのも無理ないわ。

私も先生がそんなことしたら――うん。軽く殴るわね。オネスト二枚付与してから。

「大体お前なんでそんな半裸みたいな格好でここにいるんだよ!」

大地の坊や。遂に逆ギレしたわね。でも気になるのも分かるわ。バスタオルを身体に巻いただけというのは少し坊やには刺激が強すぎるもの。

「な! 私だってこんな格好で来たくありませんでしたよ! それに、私だけじゃなくて雪乃だって同じ格好でしょう!」

「あん!? 雪乃普通に服着てるぞ!」

「そんなことな――って! 雪乃いつ制服を着たんですか!?」

「出てくる時に着たわ。先生以外の男に肌をさらすなんて耐えられないから」

「私は!? 思いっきり見られてるんですけど!」

「大地の坊やだから問題ないでしょう」

「そ、それはその――ちゃんとしたそういう関係になってからですね……」

「ん? どういう意味だ?」

「鈍感坊やは黙っていなさい」

ちなみに大地と一緒にいた丸藤の坊やは明日香達に引き渡しておいた。明日香の取り巻きちゃん達は先生に引き渡すつもりのようであったけど、明日香は何か別に考えがあるようであったので、任せた。

私のトラップで捕縛した同級生が退学になるのは流石に後味が悪いからちょうど良かった。

「さて、それじゃあ私はこれで帰るわよ」

二人の邪魔をするのは野暮というものだし。

「え!? ちょっと待て雪乃! お前が俺にくれたラブレターの件はどうなってるんだ!?」

「ラ、ラブレター!? 雪乃から大地に!?」

「?」

この坊やは何を言ってるのかしら? なんで私が大地の坊やにラブレターなんかを渡さなければいけないのかしら?

「雪乃! どういう事ですか!? 説明を求めます!!」

「説明も何も――」

先生的に言うなら、まるで意味が分からんぞ状態だ。

ラブレターなんて私が先生以外に書くわけなんてあるわけな――

 

 

 

 

「お取り込み中で悪いけど、失礼していいかしら?」

 

 

 

 

「!」

その声は突然聞こえた。

いつからいたのだろうか? 私達の背後には長身の女性がいた。

容姿が整った大人びた印象を受ける少女だ。私達と同い歳か、あるいは1つ上か。

(いや、そんなことはどうでもいい)

問題なのは、この私がまったく気配に気がつかなかったということだ。

「はじめまして。私はレジー・マッケンジー。少し用があって来たわ」

「何者かしら? デュエルアカデミアの制服を着ていない所を見ると、ここの生徒じゃないわね?」

「そう言うあなたは確か、藤原 雪乃ね? あいつ(・・・)から聞いてるわ。とても珍しい半人間(・・・)ってね」

「……」

 こいつ。私が、精霊と人間のハーフである事を知っている。

 私は更に警戒を強めた。

 精霊としての面の私が女からは得体の知れない気配を感知したからだ。

 

 

(悠長なことを言える相手じゃないわね)

 

 

 特に女がつけているイヤリングから、不吉な何かが感じ取れる。

 下手に話を長引かせるのは、危険だと雪乃は判断した。

「単刀直入に聞くわ。私の前に現れた目的は何?」

「別にあなたの前に出てきたわけじゃないわ。用があるのはそこのカップルよ」

 麗華と大地に向けられた女の視線。私はそれを遮るように前に一歩出た。

「どうせろくなことじゃないのでしょう? ならその用事をするのは私を退けてからにしてもらおうかしら」 

 私は決闘盤を精霊の力で出し、腕に装着する。

「勿論。決闘でね」

 

 

「そう来ると思ったわ」

 

 

 そう言う女の腕にもいつの間にか決闘盤が装着されていた。どうやら初めからやるつもりだったようね。

「麗華! 大地!」

「は、はい!」

「お、おう!」

 名前を呼ばれた二人は仲良くびくりと飛び跳ねる。その様子に苦笑しつつ、私は女子寮のある方角を指さした。

「二人とも逃げなさい。ここは私がなんとかするわ」

「逃げる? どうしてだ?」

「そうです。雪乃。一体何を言って――」

まともな人間である二人に危機が訪れていることを察しろというのは無理な話だ。だが今はわざわざ説明するなどという悠長な事をやる暇はない。

だから私は――

 

 

 

「いいから黙って帰りなさい」

 

 

 

精霊としての面を表に出し、二人に命令(・・)をした。

「おい! 何したんだよ雪乃!」

「か、身体が勝手に動きます!?」

これで二人の身体は自らの意に反して勝手に私達から離れる。

「「雪乃!」」

そんなに叫ばなくても聞こえてるわ。まったく、本当に似た者カップルなのだから。

「随分強引ね。友人なんでしょう? もう少し話し合いをしたらどうかしら?」

離れていく2人を目で追いながら、女は呆れたように肩をすくめた。

「悪いけど、そんな暇はないわ。それに、あなただって待たされたくないでしょう?」

「それもそうね」

女は微笑むと、イヤリングを指で弾く。

「今から始めるのは闇の決闘。負けた方はその魂を永遠に捕らわれることになる。直接命に関わるわよ」

「そう」

「――顔色一つ変えないのね?」

「ええ」

今更な話だ。半精霊の身として、私は何度もその手の修羅場をくぐってきた。

命がかかった決闘? それがなんだ。

 

 

 

いつも(・・・)のことだ。

 

 

 

 

「教えてあげるわ。竜神姫の名は伊達ではなにことをね」

「随分な自信。叩き潰してあげるわ」

私と女――レジーは決闘盤を展開すると、互いに距離を取り、叫んだ。

 

 

「「決闘!」」

 

 

レジーLP4000

雪乃LP4000

 

 

「先行は私が貰う! ドロー!」

あらあら、先行を取られちゃったわね。手札的に出来れば、先行が欲しかったのだけど。

「ふふ。早速きたわ。私は手札から永続魔法神の居城ヴァルハラを発動する」

「!」

神の居城ヴァルハラ。ということは、レジーのデッキは――

「顔色を変えたということは、どうやらこのカードのことは知ってるようね。このカードは1ターンに1度手札から天使属モンスターを特殊召喚出来る。レベルは問わずにね。あなたに私の切り札を見せてあげるわ」

「お早いご登場ね」

先生のようにもう少し焦らしてくれる方が私としては好みなのだけど。

「現れなさい。美しき金星! The splendid VENUS!!」

 

 

 神の居城より、1体の天使が舞い降りる。金星の名を持つその天使は私を見下ろしながら、悠然と地に足をつける。

「このモンスターがフィールドに存在する限り、天使族以外のモンスターの攻撃力守備力は500ポイントダウンするわ」

「なるほど。さしずめ全てを屈服させる大天使というわけね」

 見た目通り性格が悪い効果ね。もし先生に出会う前の私なら、そのダウン効果を『たかが』500ポイントのダウンと笑っていただろうが、今の私は『厄介な』500ポイントと眉を潜める。

「そしてこのモンスターの攻撃力は2800。並みのモンスターでは歯が立たないわよ」

 つまりあのモンスターを純粋な戦闘で破壊したければ、攻撃力3300以上のモンスターを準備しなければいけないということだ。

「私はカードを一枚伏せてターンエンドよ」

「私のターンね。ドロー」

 こういう時に便利なのは光属性戦闘強化効果を持つオネストなのだが、今私の手札にはそれがない。

 

 

(仕方ないわね)

 

 

 引けないのなら、無理やり持ってくるしかない。

「私は手札から神秘の代行者アースを召喚するわ」

「代行者?」

 緑色の翼を持つ小さな天使がフィールドに舞い降りる。事前に私のデッキの事を研究していたのか。レジーは驚いた顔を見せる。

「このモンスターの召喚時効果によりデッキからアース以外の代行者モンスターを手札に加えることが出来るわ。私は奇跡の代行者ジュピターを手札に加える」

「神秘が奇跡を持ってくるわけ? 随分オーバーね」 

 レジーの余裕は崩れない。おそらく私の召喚したモンスターが攻撃力1000という下級ステータスだからだろう。

 

 

 そんなモンスター何の意味もない。

 

 

 彼女の目がそう語っていた。

(その余裕。いつ崩れるか楽しみだわ)

 さて、『クライマックス』の下準備を始めるとしましょう。

「私は手札から儀式魔法祝祷の聖歌を発動するわ。この効果で私はフィールドのレベル2モンスターのアースと手札のレベル4のジュピターを生贄にし、手札から竜姫神サフィラを特殊召喚する」

 さあ、行くわよ()

 

 

 

 

「舞台の幕は上がった。神秘と奇跡のステージに、我が魂は顕現する! 儀式召喚!! 竜姫神サフィラ!!」

 

 

 

 

 フィールドに私の魂の半身たる竜が攻撃表示で現れる。 

 さて、まずは下準備1の完成といった所ね。

「だけど、せっかくの攻撃力2500もVENUSの効果で2000にダウンするわ」

 眩い光に焼かれ、サフィラのステータスがダウンする。だが、それでいい。この程度どうということはない。

 

 

 本命(・・)は別にある。

 

 

「そして手札から永続魔法 聖邪の神喰を発動するわ。1ターンに1度、墓地のモンスターが1体のみ除外された時、デッキから除外されたモンスター以外のモンスターを墓地に送る事が出来るわ」

「……そんなカードに何の意味があるのかしら?」

「すぐに見せてあげるわ」

 先生の授業を受けて、私がこのデッキに組み込んだコンボを。

 

 

「私は墓地の神秘の代行者アースを除外し、手札からレベル8天使のマスターヒュペリオンを特殊召喚!」

「!? 墓地のモンスターを除外するだけで、手札から特殊召喚出来る最上級天使モンスターですって!?」

 

 

 マスターヒュペリオンATK/2700 DFF/2100

 

 

 炎の翼を持つ代行者達の(マスター)

 太陽を司る神であるこのカードこそ、私の新しいデッキのメインアタッカーだ。

「更にこの瞬間、聖邪の神喰の効果発動! 私が除外したモンスターは光属性モンスターの神秘の代行者だから、デッキからそれ以外の属性である闇属性モンスターネクロ・ガードナーを墓地に送る」

「……ネクロ・ガードナー。上級モンスターを召喚しただけではなく、防御手段まで確保したというわけね」

「うふふ」

 少し余裕が消えてきたわね。でもまだまだ下準備の状態。ここからが本番だ。

「更にマスターヒュペリオンの効果発動。墓地の光属性天使族モンスターを除外することでフィールドのカードを1枚破壊する」

「な! まさかVENUSを破壊するつもり!?」

「いいや」

 ……以前の私ならそうしていただろうが、今の私は違う。

 状況を見極め、先生のような可能性を広げる1手を打つ。

「私は伏せカードを破壊するわ」

「!」

 VENUSが破壊されなかった事に驚くレジー。そんな彼女が伏せていたのは聖なるバリアミラーフォースであった。

もし攻撃していれば、大打撃を受ける所だった。

「困った子だわ。とんでもないカードを伏せてるんだから」

「……どうしてVENUSを破壊しなかったの?」

 勿論理由はある。ヴァルハラの効果を発動させないためや、VENUSを残していても、ネクロ・ガードナーで攻撃を防げるから。そういう模範的な理由は。

 

 

 だが一番の理由は……

 

 

「気分じゃないわ」

 

 

「……あなた」

 レジーの顔が怒りに染まる。この程度で怒るなんてプライドが高い子ね。

 

 

 とてもやりやすい(・・・・・)

 

 

「私はターンエンド。そしてこの瞬間にサフィラの効果発動。このモンスターを儀式召喚したターンまたはデッキか手札から光属性モンスターが墓地に送られたエンドフェイズ時に、3つある効果の内の1つを選択し、発動出来る。私は第一の効果を使用し、デッキからカードを2枚ドローし、その後1枚捨てる」

 いい調子ね。デッキが回り始めたのを感じるわ。

「さあ、あなたのターンよ」

「私のターン。ドロー。私はカードを1枚伏せる。そしてこのターンこれ以上のアクションはしないわ」

 あら、これは予想外ね。てっきり攻撃してくると思ったのだけれども。

「攻撃はしなくていいのかしら?」

「今はするべき時じゃないわ」

 なるほど。どうやら怒りを感じながらも、まだ冷静さは保っているようね。

「私のモンスターが攻撃しても、墓地にあるネクロガードナーの効果を発動し回避。更にあなたの聖邪の神喰の効果でデッキからモンスターが墓地に送られる。あなたの使っているカードを見る限り、その効果で光属性の天使族モンスターを墓地に送るつもりでしょう? そうすることで、ヒュペリオンの効果発動のコストと、サフィラの効果発動のトリガーを両方確保出来ることになる……随分えげつないコンボね」

「鬼畜な先生の教え子ですからね」

 これぐらいのことはやって見せる。

「でも、何もせずにターンエンドすれば、被害は抑えられるわ」

「確かにそうね。でも甘いわ」

「なんですって?」

 1つのルートで思った通りの展開が出来ないのなら、別ルートで前に進むだけだ。

「私は手札からハネワタの効果を発動」

「ハネワタ?」

 あら、どうやら知らないカードのようね。なら説明が必要かしら?

「このカードは手札から捨てることで、私のこのターンの効果ダメージを全て0にするわ」

「でも私は効果ダメージなんか……! 手札から捨てた!?」

 気がついたようね。

「そうよ。先程のあなたの言葉を借りるなら、これでヒュペリオンの効果発動のコストと、サフィラの効果発動のトリガーを確保したわ」

「……私はターンを終了する」

「エンドフェイズ時に再びサフィラの効果が起動。デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てるわ」

 引いたカードを見た私は思わずほくそ笑んでしまった。

 来た。このカードを待っていたのだ。

「そして私のターン。ドロー。手札からフィールド魔法天空の聖域を発動する……天使デッキ使いのあなたに説明は不要よね?」

「天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターをコントロールするプレイヤーの戦闘ダメージを0にする効果でしょう? 私にもメリットがある効果だわ」

「うふふ」

 本当の狙いはそこじゃないわ。

「見せてあげるわこのデッキのエンジンカードをね。私は手札から死の代行者ウラヌスを特殊召喚」

 フィールドに新たに舞い降りたのは漆黒の翼を持つ闇の天使であった。

「闇の、天使?」

「面白い子よ。このモンスターはフィールドに天空の聖域がある時、手札から特殊召喚することが出来る。そして1ターンに1度デッキから代行者モンスターを墓地に送ることでこのモンスターはそのモンスターと同じレベルになる」

「代行者モンスターを墓地に!? それじゃあ、まさか!?」

「そうよ。私はこの効果でレベル4の奇跡の代行者ジュピターを墓地に送る。これにより、ウラヌスのレベルは4となる」

 そしてこれにより再びヒュペリオンの効果発動のコストと、サフィラの効果発動のトリガーを確保した。

「ヒュペリオンの効果発動! 墓地のハネワタを除外する事で、あなたの伏せカードを破壊するわ」

「くっ! 伏せていたのは威嚇する咆哮チェーン。これを発動し、このターンあなたの攻撃を封じるわ!」

「あらあら、残念ね。私はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてサフィラの効果により、デッキからカードを2枚ドロー。その後1枚捨てる」

「……やりたい放題ね」

「あら、言ったはずよ?」

 苦々しい顔でこちらを見るレジーに私は先生のように、凶悪な笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

「竜神姫の名は伊達じゃないわ」

 

 

 

 

 さあ、そろそろクライマックスを始めようかしら?

 

 


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