遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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GXデュエルアカデミア編第3話『深夜の決闘』
襲い来る土星


事の始まりは、クロノス・デ・メディチの復讐だった。

明日香を名乗る偽ラブレターを遊城 十代に送り、女子寮まで誘き寄せ、何も知らなずに、集合場所である女子風呂の裏まで来た十代の写真を取り、彼を退学させてやろうという姑息な策だった。

だが偽ラブレターを作成している時、クロノスはふと気がついた。

本当にこれだけで遊城 十代を誘導することが出来るのだろうかと。

ただでさえ、色恋沙汰に興味がなさそうなあの決闘バカが、会って間もない同級生のラブレターを貰って、果たして本当に女子寮まで来るのか?

餌としては少し弱いのではないだろうかと。

その時クロノスは思い出した。

 

 

アイドルの藤原 雪乃の存在を。

 

いくら遊城 十代でもアイドルからのラブレターを貰えば女子寮に行くだろうと。

 

 

こうして2つの偽ラブレターを作成したクロノスだったが、問題が発生した。

 

 

「あれ、なにしてんだクロノス先生?」

「ぎ、ぎくぅ!!」

明日香の名の偽ラブレターを置き、雪乃の名の偽ラブレターを置こうとした時、レッドの生徒 岩越 大地に見つかってしまった。

「それに、その手に持ってる手紙っぽいのはなんだ?」

「あ、あの、これはデスねー。そう! 拾ったノーネ!」

「どこで?」

「そ、そこなノーネ!!」

冷や汗をダラダラ流しながら、適当に指差す。

「え? そこ俺のロッカーの前だぜ?」

「びくぅ!」

余計に墓穴を掘ったクロノスは、その時考えるのをやめた。

「ならきっとこれはあなた宛の手紙なノーネ! これ渡すノーネ!」

「え、まじか?」

「ではさいならなノーネ!!」

「あ、ちょっと!」

クロノスは逃げた。後に残った大地は訳が分からずに首を傾げていると、ドタバタと慌ただしく部屋に入ってくるものがいた。

「あー授業始まってるー!! って、あれ大地君?」

同じオシリスレッドの丸藤 翔だ。入学初日から面識がある大地は「よう」と片手を上げた。

「翔。なんだよ遅刻か?」

「それを言うなら大地くんも同じっす」

「いいや。俺は遅れて来ただけだ!」

「それ同じっす……あ! もう兄貴ったらまた間違えて僕のロッカーに靴を入れてー。ってあれ? !! これってもしかして!!」

「ん? お。翔。お前も誰かから手紙か?」

「お前もってことは大地くんも?」

「おう」

 2人は同時に手紙を開ける。

 

 

「え!!」

「お!!」

 

 

 そして2人は同時に飛び跳ねた。

「翔!」

「大地くん!」

 互いに向き合い、叫びにも似た大音量で同時に言う。

 

 

 

「僕明日香さんからラブレターもらっちゃった!!」

「俺雪乃からラブレターもらっちまった!!」

 

 

 こうして二人は夜の女子寮に喜々として出向くことになる。

 

 

 

ブルーの女子寮の浴場は広い。デュエルアカデミアの女子生徒が全員入れるぐらいの大きさを目的に作られているのだから当然と言えば当然だがーー

「こうして雪乃とお風呂に入るのはいつ以来でしょうか?」

隣で湯船に浸かる麗華に私は微笑んだ。

「さあね。思い出せないぐらい昔ね」

「お互い色々ありましたからね。特にこの数年間は」

「そうかしらね?」

「ありましたよ。お互い身体も成長して背も伸びたんじゃないですか」

「うふふ。そうね。私も身体的には色々成長したわ」

「……そこで胸を強調するのは、私に対する挑戦ですか?」

麗華が恨めしそうにこちらを見てくるので、私は苦笑した。

「挑戦するほどの胸なんてないでしょう? そこだけは全然成長してないし」

「な! 失礼です! これでもちゃんと成長してますよ!」

「本当かしら?」

「ーー少しだけ」

少しって便利な言葉よね。雀の涙ほどの成長でも少しって言えるから。

「なにかすごく失礼なこと考えてませんか?」

「気のせいよ」

胸のことになると鋭いわね麗華。

「あ!雪乃さんじゃないですか!」

「あらー本当ですわーブルー女子寮にいるなんて珍しいですわねー」

「あなた達はーー」

誰かの取り巻きの二人よね。確か名前はーー

「じゅんことももえかしら?」

「は、はい!」

「名前を覚えていただいているなんて感激ですわー」

「あなた達がいるってことはーーあなたもいるわよね明日香」

「久し振りね雪乃」

あらあら、目が怖いわ。そんなんだとやる気満々だって相手に教えているようなものね。

「久し振りーーっていうのも少しおかしいのではない? 私達は同じ学校の学生なんだし」

「そうだけど、あなたずっと黒崎先生にべったりじゃない」

麗華にも似たようなこと言われたわね。

「まあ、私達は婚約者だし。べったりにもなるわ」

「あ、その話って本当だったんですか!?」

「てっきり根も葉もない噂だと思っていましたわー」

あら、それは聞き捨てならないわね。

「どうしてそう思ったのかしら?」

「だって黒崎先生と、アイドルの雪乃さんでは釣り合いが取れませんものー」

「そうそう。顔も普通だし、なんていうか、目も死んだ魚のようにやる気なさそうだしーー」

「2人とも駄目です! 雪乃の前で黒崎先生の悪口は!」

 

 

 

 

「どういう意味かしら?」

 

 

 

 

あらあら今度はもっと聞き捨てならないわね。どういう意味か説明してもらいたいわ。

はっきりとね。

「は、はわわわ!」

「雪乃! 落ち着いて下さい!」

「落ち着いてるわ」

私は冷静にイライラしてるだけよ。

「なら、その人を平気で殺しそうな目はやめて下さい!」

そんな目をしているのかしら? よく見ると、麗華以外の3人が怯えてるわね。

ちょうどいい機会だから言っておきましょうか。

「私に対する侮辱はいいわ。でも私の先生に対する侮辱はーー」

私はにこりと微笑む。

 

 

 

 

「容赦しないわ」

 

 

 

 

顔面蒼白になった3人は何度も頷く。分かってくれたみたいね。嬉しいわ。

さて、かなり長い時間入浴して身体も温まったし、そろそろ出ましょうか。

 

 

 

 

「「ぎゃあああああああああ!!!!」」

 

 

 

 

と、その時外から二つの悲鳴が同時にあがった。

「な、なに!?」

「男の声だったわよ!」

「まさか覗きですか!?」

あらあら。どうやら私の仕掛けた覗き対策トラップ(・・・・・・・・)に命知らずの坊やがかかったみたいね。

「いいタイミングね」

今ちょうどイライラしていた所だ。憂さ晴らしをさせてもらおうかしら。

「いくわよ麗華」

「ええ!? この格好でですか?」

「今行かないと犯人を逃がすわ」

本当は犯人は逃げる処か身動き一つ取れないでしょうけどね。

「うう。わ、分かりました!行けばいいんでしょう!」

うふふ。さあ、お楽しみのはじまりよ。

 

 

 

「……遅かったか」

女子寮の裏手の上空でウェン子の人形に乗った俺は溜め息を吐いた。

視線は女子寮裏手で拘束されているバカ二人(・・)に向けていた。

「なんでお前までいるかなー」

雪乃の幼なじみである暗黒騎士ガイア使いの大地。そいつが翔と一緒に拘束されていた。

『マスター助けるんじゃないんですか?』

ここに来る途中に合流したバニラの問いに俺は首を横に振った。

「助けたいのは山々なんだがーー無理だろあれ」

翔達には見えていないだろうが、あいつらは今実体化したトラップの鎖に繋がれていた。

「永続トラップ。闇の呪縛とデモンズチェーンかーー」

エグい二重トラップだ。仕掛けた奴の性格の悪さが分かる。

「しかけたのは、ゆきのおねえちゃん」

デスヨネー。

「トラップを実体化させるなんて芸当が出来るのはあいつぐらいだからな」

それにしても容赦がないトラップだな。いや、まだ拷問車輪を置いてないだけ優しいか?

「仕方がないな」

『どうするんですか?』

どうするだって? そんなの決まってるだろう。

「見なかったことにして帰ろう」

『なるほど。助けずに帰るんですねーーって、ダメに決まってるじゃないですか!! このまま放っておいたら、あの2人雪乃さんに殺されちゃいますよ!?』

いやだって、正直どうしようもないぞ? 誰にも気付かれてない状況ならまだ助けられたかもしれないが、あのバカ二人さっき叫んだからな。もう雪乃は気がついてるだろう。なにより、今降りたら俺まで被害を受ける。

ならば――

「帰って寝る。今日はしんどい」

『ええ!? まさかのスルーですか! マスターやる気スイッチ入れて下さい! あ、そうだ!ウェンディゴちゃん! ウェンディゴちゃんからもマスターになにか言って!』

「さんぽもおわったし、もうかえろう」

『って、既に2人のことを忘却してます!?』

よし。そうと決まれば、さっさと帰ーー

 

 

「ますたー!!」

 

 

その瞬間。ウェン子が叫んだ。いつものウェン子からは想像もつかないような、切迫した声だった。

ドン! と背後からウェン子に突き飛ばされる。

俺の身体は空中に投げ出される。

「ウェン子!?」

どういう意味かと尋ねようと、後ろを見る。

そして俺は後悔した。

 

 

グシャリ。とウェン子の人形が突然飛来した鉄の固まりに押し潰された。

『ウェンディゴちゃん!?』

そして当然乗っていたウェン子も一緒だ。潰された人形はその後に飛来したミサイルなどで木っ端微塵になる。

助かったのはウェン子に突き飛ばされたお陰で、難を逃れた俺と、精霊状態のバニラだけであった。

「デュエルスタンバイ!」

何が起こったのかは分からない。だがだからこそ、俺は冷静にシュヴァルツディスクを出し、1枚のカードを差し込んだ。

「発動しろ! ティマイオスの眼!」

光がバニラを包み込む。

精霊体から実体化をしたバニラは竜騎士となり伝説の竜に跨がる。俺も竜の背に捕まった。

「マスター! ウェンディゴちゃんが!!」

「分かっている」

だが今はウェン子の安否を確認している暇はない。

 

 

 

 

「折角不意打ちをしたのに、大した効果を持たない雑魚モンスターしか倒せないとはねーMeもアンラッキーだな……」

 

 

 

 

「突然の超展開にはそろそろ慣れたなと思っていたが……どうやら甘い見通しだったようだ」

まだまだ突拍子のないイベントには慣れれそうにないな……

俺は空に浮かぶ()を見定めながら、そう思った。

 

 

「まさか、この世界でお前に会えると思わなかったぞ」

 

 

 この世界にはいないはずの男は俺の言葉を聞き、にやりと笑った。

 

 

「へえ。Meの事を知っているのか?」

俺と同じ実体化したモンスターの上に帽子を被った立つ長身の男。俺はそいつを知っていた。

デイヴィッド・ラブ。ここではない別の遊戯王GXの世界の登場人物。

俺と同じでこの世界には存在しないはずの男だ。

「ならば、Meのエースであるこいつの事も知っているのかな?」

デイヴィッドが指差したのは彼の足場になっているモンスター。

漫画版遊戯王GXでプラネットシリーズと呼ばれる重要カードの1枚。

 

 

THE big SATURN

 

 

 

土星の名を冠する最上級機械族モンスターだ。

「いいカードだな」

本当にいいカードだ。

 

 

「潰しがいがある」

 

 

「ほう……」

俺の笑みにデイビットも口角を釣り上げる。

「YOUとは気が合いそうだ」

「みたいだな」

さて、どうしたものか。攻撃をしてきたということは、あちらに敵意があることは明白だ。

となると、こちらかも何らかのアクションを起こさなければならないが……

「マスター! 私にあのモンスターを破壊しろって命令して下さい! ウェンディゴちゃんにひどいことをしたあのモンスターは許せません!!」

「落ち着けバカ」

「落ち着いていられません!竜騎士(今の私)ならあのモンスターを破壊出来ます!!」

「それでも落ち着け」

「どうしてですか!?」

今ここで激情に任せ、あいつを破壊してもなんにもならん。むしろ、悪手だ。

「マスターはウェンディゴちゃんがやられたのに、何とも思わないんですか!?」

「……」

珍しくバニラが俺に本物の怒りをあらわにする。だが俺はデイビットから視線を外さなかった。

「ウェンディゴちゃんはマスターのことを本当に大切に想ってたんですよ! それなのにマスターは!!」

「バニラ」

 一瞬。本当に一瞬だが、俺は冷静さという仮面を外し、バニラを見た。

 

 

 

 

 

「俺を見くびるな」

 

 

 

 

「っ!」 

 俺の視線に込められた殺意や憎しみを感じたのだろう。バニラは怯え、身を固くした。

「あれがSATURNでなければ、お前に言われるまでもなく、俺はあいつをスクラップにしている」

 自分のマスコットを傷つけられて黙っていられる程、俺はお人好しじゃない。

 怒りで我を忘れ、自分がするべきことを見失う激情家でもない。

 

 

「逃げるぞ」

 

 

 だからここは退く。ここで動けば、下にある女子寮に多大な被害を及ぼすからだ。

 例え、奴に対する怒りの炎で心が満ちていても俺は氷のように冷静でなければならない。

「分かり……ました」

 俺の怒りを見たからだろう。バニラは唇を噛みながらも俺に従う。

「ん? まさかMeから逃げるつもりか?」

「そのまさかだ」

「行きます!」

 デイビットに背を向け、ティマイオスの竜は空を翔ける。

「逃げられると思っているのか? このMeから!」

 俺たちを逃すまいと、デイビットは追いかけてくる。

(……これでいい)

 このまま、アカデミアから引き離し、誰にも被害を与えない海上に出れば、そこで奴にクライマックスをくれてや――

 

 

「ならば、このまま闇の決闘(・・・・)を始めさせて貰おう!!」

「なんだと!?」

 

 

 俺が振り返ると、デイビットのイヤリングから闇が溢れる。

 雪乃の時とは違う質の闇は一瞬で辺りを覆った。

「マスター! これは!?」

「そのまま行け!」

 ひなたと魂で融合している為か、闇に覆われているのに、俺には外の景色(・・・・)がうっすらと見えた。

 移動はしている。ならば当初の予定通り、こいつをアカデミアから引き離す。

 

 

 

「行くぞ! エキサイティングな決闘にしようじゃないか!!」

「……やるしかないか」

 

 

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 

 

 デイビットLP4000

 黒乃LP4000

 

 

 

 

 

「Meの先行! ドロー!!」

 先行を取られたか。時間稼ぎの罠を張るために、出来れば先にターンが欲しかった。

「Meは手札からマシンナーズ・ギアフレームを攻撃表示で召喚する!」

「マシンナーズだと!?」

 空中に現れた二足歩行のロボットに、俺は目を見開いた。

(俺の知っているデイビットのデッキとは違う)

 やはりこいつもイレギュラー。

「その効果でデッキからマシンナーズモンスター。マシンナーズ・フォートレスを手札に加える」

 ……過労死ロボットをサーチしたか。

「そしてマシンナーズ・フォートレスは手札の機械族モンスターをレベル合計が8になるように墓地に送る事で、手札または墓地から特殊召喚出来る!」

 レベル合計8……まさか奴の手札には既に――

 

 

「Meは手札からレベル8モンスターの機械族モンスターTHE big SATURNを墓地に送り、フォートレスを特殊召喚する!」

「フォートレス……」

 攻撃力2500という打点の高さでありながら、墓地からも特殊召喚出来る効果。更に戦闘破壊された時、相手フィールドのカード1枚を破壊する効果。相手の効果モンスターの効果対象になった時、相手の手札を確認して1枚捨てさせるという道連れ効果を持っている厄介なモンスターだ。

「更に手札から死者蘇生を発動!」

 ! まさか1ターン目から出す気か? 

「蘇生するのは当然 THE big SATURN!!」

 フィールドに現れる鋼鉄の巨人。ウェン子を粉砕したモンスター。

「更にMeはユニオンモンスターであるギアフレームをSATURNに装備する!」

 巨人に新たなパーツが装着されていく。遊戯王やっているはずなんだが、ロボットアニメを見ている気分だな。

 ……という冗談はさておき、少々面倒な事になってきたな。

「カードを1枚伏せてMeはターンエンドだ」

 デイビットは俺を見ると挑発的に笑った。

 

 

「さあ、Youのターンだ。Meを楽しませてくれよ」

「俺のターン。ドロー」

 

 

(……どうする?)

 ドローした黒・魔・導・爆・裂・破を見ながら、俺は悩んだ。

 こいつを使えば、相手のモンスターを全滅させることは出来ずとも、大打撃を与える事は出来る。だがデイビットはこの決闘を闇の決闘と言った。

 となると、この魔法が実体化し、眼下のアカデミに被害を与える事だってありえる。

(やりにくいな……)

 完全にアカデミアから離れた後でないと、このカードを使うのは危険すぎる。

「……俺はモンスターを1体セットし、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

「おいおい。随分地味なターンだな」

「どうとでも言え」

 ……まだ動くべき時ではない。

 

 

 

 

 この決闘。俺は安全地帯まで移動するまでは奴の攻撃を全て耐え切る必要がある。

(やれやれだ)

かなり厳しい闘いになりそうだ。

 

 

 

 

 

 


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