遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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黒乃VS十代 初授業決闘

「さて、準備はいいか十代?」

「へへ。いつでもいいぜ」

 実技用の決闘場で俺と十代は向かい合っていた。互いの腕には既に決闘盤が装着されている。

 もうこうなれば、何も説明する必要はないだろう。

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 主人公との初激突だが、授業の一環としてのため、周りの観客席には生徒達が座っている。

「先攻は俺が貰うが、いいか?」

「ああ、いいぜ! 黒乃先生! 俺の全力をあんたにぶつけてやるぜ!」

「ふ……」

 まっすぐすぎる十代に思わず苦笑してしまう。だが悪いがこの決闘。お前にターンが回ってくることはない。

 

 

「悪いが最初からクライマックスで行かせて貰う」

 

 

 

 俺はカードをドローしながら、この決闘を始めるに至るまでの経緯を思い返していた。

 

 

 

 

「黒崎先生。次の授業はあなたに担当してもらいますノーネ」

 

 

 

 

 クロノスは一時限の授業を終えると、教室の一番後ろでパイプ椅子に座っていた俺に対してそう言ってきた。

 先程の授業の後半で十代に腹を立てていた怒りを引きずっているのか、ひどく不機嫌そうであった。

「いいんですか? 俺がやるとあなたの授業進行に遅れが出るのでは?」

「今日の授業は直接生徒たちの授業に影響を与える所ではないので、問題ないですーノ。それより私はちょっと野暮用がありますので、失礼させてもらいますノーネ」

「野暮用?」

 ああ、あれ(・・)か。

(初期クロノス嫌がらせシリーズその一偽ラブレターの作成と設置)そう言えば、今時間的にはGXの第三話辺りだったな。

 悪趣味な嫌がらせだと思うが、ここで止めると物語に取り返しのつかない影響を与えてしまうので、俺にはスルーするしか出来ない。

「分かりました。後は任せて下さい」

「頼んだノーネ」

 それだけ言うと、クロノスは教室を出て行ってしまった。

『マスター。どうするんですか? 突然授業しろって言われても、準備なんてしてないですよね?』

(いや、大丈夫だ)

『ふえ?』

 実を言うと、一回分の授業をする為の教材(・・)は既に作成しておいた。

 後はその対戦相手(・・・・)を誰にするかなのだが……

「あの。黒崎先生!」

「ん?」

 見ると、メガネ……じゃなかった。丸藤 翔が俺の前にいた。

「どうした?」

「その、さっきはありがとうございました。先生のお陰で、クロノス先生の質問に答えられました」

 ああ、そう言えばさっき。クロノスにフィールド魔法について質問され、緊張しまくっていた翔を見かねて助け舟を出したな。

 と言っても、翔が出した答えはクロノスを満足させられず、結局原作通りバカにされ、十代が言い返すという結果に終わったが……

「気にするな。大したことじゃない」

「それでもありがとうっす。助けてもらえただけで嬉しかったです」

「ああ……」

 クロノスにキツく当たられているせいか必要以上に感謝してるな。まあ、悪い気がしないがいいが。

「あら先生。はやくも生徒に慕われているわね」

 ……と、そこでめんどくさい奴が近付いてきやがった。

「人誑しのテクニックは本物ね」

「お前に言われたくないぞ雪乃。てかお前。もう少し授業真面目に受けてやれよ」

 居眠りはしなかったが、終始このバカエロ娘は教壇のクロノスではなく、教室の隅の俺を見ていやがった。俺とばっちりでクロノスに睨まれていたからな? ついでにレッド以外の男子生徒からも殺意が篭った目で時たまチラ見されてたからな?

「だって退屈なんですもの」

「まあ、気持ちはわからんでもないがな……」

 基礎的なカード知識など、半分精霊の雪乃にとってはまさに釈迦に説法。退屈になるのも分かる。

「だがそれなら、なんで俺を見る? 退屈しのぎなら他に方法があるだろう?」

「何故先生を見るかって?」

 雪乃は髪をかきあげると――

 

 

 

「そこに先生がいるからよ」

 

 

 

 すごくいい顔でそう言った。

「どこの登山家だよ――」

「先生という山を登る――やばいわ。全身に快感が走――」

「やめろ。それ以上はいけない」

 そろそろ周りの視線に無視できないレベルの殺意が宿りはじめてるからな? 俺、そろそろ社会的に限界だからな?

「つれないわね。でも本当に次の授業はどうする気なの先生?」

「まあ、何とかするさ」

俺は座っていたパイプ椅子を畳みながら、にやりと笑う。

「折角だ。少々変わった授業をするとするか」

 

 

 

授業の開始を伝えるチャイムが鳴る。

俺は「さて」と、周りにいる生徒達を見た。

「この授業は俺が担当する。自己紹介は前にしたが、一応初めての授業だから挨拶をしておくか。黒崎 黒乃だ。よろしく頼む」

形だけの自己紹介をするが、生徒達は一言も喋らなかった。いやまあ、色々得体の知れない俺のことを警戒するのは分かるが、もう少しリアクションが欲しいものだな。先生悲しいぞ。

まあ、無理もないか。

「さて、今日の授業は本来座学だったが、予定を変更し、実技決闘にした。これからお前達には基本的に自由に決闘してもらうのだがーー」

「よっしゃ! 決闘だ!!」

話の途中だが、自由に決闘という単語を聞いた主人公様ーー遊城 十代が早くも暴走しかねてるな。

「最後まで聞け十代。いや、クラゲ」

「クラゲ!? なんで!?」

だってお前の頭完全にクラゲじゃん。

「今回の自由決闘ではお前達にコンボを意識して決闘をしてもらいたい」

「コンボ――ですか?」

発言したラーイエローの生徒は、えーと。誰だったけ。

 

 

……

 

 

ああ、三沢だ!! やべえ。はやくも忘れかけてた。流石は空気男。既に影が薄い。

「そうだ。今回の決闘は勝ち負けは意識するな。自分のコンボにだけ意識を向けろ」

勝ち負けは意識するなで、生徒達――特にオベリスクブルーの奴等に動揺が走った。まあ、仕方ないか。クロノスや教本を見たが、どれも勝つことを意識したものだったからな。俺の言ったことはアカデミアの教師としては有り得ないことだろう。

「ふざけないで下さい!」

案の定、ブルー生徒の1人……万丈目が俺に異議を訴えて来た。

「決闘とは勝たなければ意味がありません! 敗者には何の価値もない。常に栄光を掴むのは、勝者だけです!!」

 やれやれ。がっちがっちに固まった思考をしているな。まあ、口に出すだけ好評価か。ほとんどの生徒が言葉には出さないだけで、万丈目と同じ意見だというのが顔に出ている。

(こりゃあ、骨が折れそうだ……)

 まあ、分かっていたからこそ、今日の授業はここでやる事にしたのだがな……

 

 

「いいだろう。ならば、面白いものを見せてやる」

 

 

 さて、少々荒療治と行くか。

 俺は並んだ生徒の中から、1人の名を呼んだ。 

「十代」

「お? なんだ先生?」

 本当はあまり気が進まないのだが、完全にノータッチとはいえ、間接的に俺はこいつと決闘する約束をしてしまっている。

 

 

 俺は約束は破らない主義だからな。

 

 

「俺と決闘しろ」

 

 

 こうして俺は主人公に授業の一環として決闘を申し込んだ。

 

 

 

 

 遊城 十代はこの上なくワクワクしていた。

 相手は今話題になっている決闘者で黒崎 黒乃。プロ並みの決闘の腕を持つアイドル藤原 雪乃を倒したというのだから、試合が八百長でなければ、その実力はかなりのものだと、テレビのニュースでもやっていたほどだ。

 その相手と授業の一環とはいえ、決闘が出来るのだ。

 決闘好きの十代にとってこれほどワクワクすることはない。

 

 

「先行は俺が貰うが、いいか?」

「ああ、いいぜ! 黒乃先生! 俺の全力をあんたにぶつけてやるぜ!」

「ふ……」

 そこでなぜか黒乃は苦笑いを浮かべた。そしてドローしたカードを確認しながら、十代にはっきりと宣言したのだ。

 

 

「悪いが最初からクライマックスで行かせて貰う」

 

 

 

さて、始まるわね。十代の坊やと先生の決闘が。

「雪乃。どっちが勝つと思いますか?」

「愚問ね」

私の隣の観客席に座る幼馴染みの麗華に私は笑った。この決闘の勝敗なんて考えるまでもないことだ。

「十代が勝つな!」

「大地。一応理由を聞いてもいいですか?」

「俺に勝ったからだ」

「まったくもって理由になってません!」

「麗華は頭が固いな」

「大地が柔らかすぎるんです!」

本当に仲いいわねこの二人。いつも思うのだけど、どうして付き合っていないのかしら? これ以上ないお似合いなカップルだと思うのだけど。

まあそれは置いておいて、大地の坊やの意見は正しいわね。

 

 

「十代の坊やが勝つというのは同意するわ。この決闘。負けるのは先生よ」

 

 

「「え?」」

大地の坊やと麗華は同時に驚きの声をあげた。やっぱり息ピッタリねこの二人。

「さっきの愚問っていうのは、黒崎先生が勝つっていう意味ではなかったんですか?」

どうやら何か誤解を受けていたようね。

「負けるのは確実に先生よ。多分先生はこの決闘。勝つ気はないわ」

「それって、十代相手に手加減するってことか?」

「まさか」

あの人が手加減なんてするはずがない。どんな相手でも常に全力で闘うーーあの人はそういう人だ。

 

 

「先生はただ全力で負けにいくだけよ」

 

 

多分私の勘が正しければ、先生が今使っているデッキはあの(・・)デッキのはずだ。

 

 

 

 

「見ていなさい。面白いものが見れるわ」

 

 

 

 

(なんだこの手札は?)

顔には出さないが、俺は内心でほくそ笑んでいた。

まさかここまでカードが上手く揃うとは思っていなかったからだ。

 

 

(そしてーー)

 

 

俺はドローしたカードを確認する。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

 

 

「……」

そして初手の5枚ドローで既にもう1枚のバカ娘を俺は引いてる。

(おいおいーー)

 

 

 

 

これじゃあMeの負けじゃないか!

 

 

 

 

「俺は手札からヒーローアライブを発動する」

ヒーローアライブーー俺のいた世界ではチート魔法に分類されていたヒーローのサポートカードだ。エクシーズが出てからはこのカードを軸にしたアライブヒーローというデッキが現れ、ヒーローモンスター達は再び遊戯王プレイヤーの注目を集めた。

「俺の場に表側表示でモンスターが存在しない時に、ライフを半分支払うことで、デッキからE・HEROを1体特殊召喚することが出来る。俺はこの効果でデッキからE・HEROバブルマンを特殊召喚する」

「お! 先生もバブルマン使うのか!」

十代がやけに嬉しそうにバブルマンを見る。お前のような強欲なバブルマンではなく、OCG効果の泡男だがな。

「でもいきなりLPが半分になるのはいくら先生でもキツいんじゃないのか?」

「その心配は無用だ」

「え?」

 何故なら――

「このターンで、十代。お前は俺に勝利する(・・・・)!!」

「へ!?」

 さあ、よからぬコンボを始めようじゃねえか!

「俺は手札から速攻魔法バブルイリュージョンを発動!」

「バブルイリュージョン!?」

 HERO使いの十代に対してこのカードの説明は不要だが、生憎と観客の生徒達には効果説明は必要だな。

「このカードは場にバブルマンがいる時にのみ発動出来る。このターン俺は手札からトラップカードを1枚発動する事が出来る」

 どっかの処刑人なマキュラさんの劣化効果と言われればそれまでなのだが、それでもこのカードは面白い。

「いきなりトラップを使うのか! いいぜ! どんなカードを使うんだ先生!」

 まだ元気だな十代。だがお前の元気もここまでだ。

 

 

「俺がバブルイリュージョンの効果で発動するのは、魂のリレーだ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 雪乃を除くこの場にいる全ての生徒が俺の発動したトラップに目を見開く。

 くく、いいリアクションだ。それでこそやりがいがあるというものだ。

「俺はこの効果で、手札からブラック・マジシャン・ガールを攻撃表示で特殊召喚する」

 フィールドに現れるバカ娘。だが、その表情はいつもより暗い。

『あのーマスター。またやる気ですか?』

 このデッキの調整に何度も突き合わせたバニラはこの後の展開が読めたのだろう。ひどく憂鬱そうに俺を見る。ああ、当然ではないか。俺はいつだって全力だ。

 

 

 

 

 だから負けるのも全力だ。

 

 

 

 

「そして俺はこのブラック・マジシャン・ガールを生贄に、二体目のブラック・マジシャン・ガールを攻撃表示で召喚する!!」

 

 

 するとどうなるか?

 

 

 答えはバカ娘でもわかるよな?

 

 

 

「この瞬間。魂のリレーのデメリット効果。魂のリレーで特殊召喚したモンスターがフィールドから離れたことにより――――」

 俺は両手を大きく広げ、宣言する。

 

 

 

 

「俺はこの決闘に敗北する」

 

 

 

 

 黒乃LOSE

 

 

 

 

 

「さて――――」

 

 

 唖然とした顔で俺を見る十代に、やはりこれだけは言っておきたい。

 

 

「ガッチャ。楽しい決闘だったぞ十代」 

 

 

 

 

 ――――こうして俺は主人公に敗北した。

 

 

 

 


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