遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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GXデュエルアカデミア編第2話『暗躍する影』
ひなた


 場所は変わり、校長室。俺は学園の校長である鮫島校長と初対面していた。

 

 

「さて、正直な所、君に対する対応について私はひどく戸惑っている」

 

 

 まじでぶっちゃっけやがったなこのサイバー流師範は。

「本来なら、このデュエルアカデミアに子供を連れてくることは考えられないことですが、そこの所の説明はペガサス会長から聞きました」

「パパ。あのおじさんはなに言ってるの?」

「大人の事情って奴だ。少しだけ大人しくしてくれ」

「はーい」

 流石に何も着ないのはまずいので、デュエルアカデミアの制服に袖を通したヲーが俺の服の裾を引く。

 しかし、一番小さいサイズでも服がでかすぎるな。完全にブカブカで手が服の袖で隠れてしまっている。

「しかし、他でもないペガサス会長からの頼みであり、無下に扱うわけにはいきません」

「ということは、俺とこいつが一緒に暮らすことを、許可してもらえるということでよろしいですか?」

「仕方ありません。許可せざる終えません。オーナーである海馬社長に念のため確認してみると、『好きにさせろ。結果を出す奴と判断したから雇ったまでだ。プライベートで何をしようと俺の知ったことではない』と言われてしまいましたからね」

「そうですか」

 今回ばかりは社長の常識にとらわれない俺様思考に感謝だな。しかし、就職早々職場の上司(オーナー以外)には悪い印象を与えてしまったようだな。鮫島校長が俺に向ける視線にはあまりにいい感情が浮かんでいない。

 まあ、ここまで好き勝手動けば仕方ないか。俺はそう割りきり、一礼した。

「それでは俺はこれで行かせてもらいます。まだ運んである荷物を開けてすらないので」

「言っておくが、黒崎君。君の部屋は――」

「オシリスレッドですよね。分かっていますよ」

「……」

 本来なら教員専用の部屋があるはずだが、俺に用意された部屋はオシリスレッドの一室だった。

「明日から本格的によろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼むよ」

「はい」

「……それと」

「なんでしょうか?」

「私の個人的な質問だが、君は決闘する時、何かをリスペクトしているのかね?」

 おやおや、なるほど。本当の(・・・)嫌悪の正体は、そっちだったか。

「それは、アカデミア校長鮫島としての個人的な質問ですかね? それともサイバー流師範鮫島としての個人的な質問ですか?」

「君の想像に任せる」

 愚問というやつか。その顔を見れば丸分かりだな。師範さん。

 しかし面白い質問をするな。

「リスペクトですか。してますよ」

「何をだ?」

 

 

「全てです」

 

 

「……」

「相手や相手の扱うモンスター。コンボ。戦術。そして自分のそれも、俺はリスペクトしてます」

「嘘だ! 君の決闘を見せてもらったが、君は相手を完膚なきまでに叩き潰すことしか考えていなかった!!」

「その通りですね」

 否定のしようがない。俺の決闘はいつだって相手を全力でたたきつぶす事を重視している。

「それはリスペクトなどではない! 真のリスペクトとは、相手を尊重し、相手の全力を引き出してからこその――」

「何を勘違いしている鮫島校長?」

「!」

 熱くなっていた鮫島師範が押し黙る。鏡がないためにはっきりとは分からないが、今の俺の顔は鮫島が押し黙るほどに凶悪なものになっているようだ。

「あなたのリスペクトと俺のリスペクトは違う。あなたは相手をリスペクトすることに重きを置いているからこそ、相手の全力を引き出すという結論に至ったのでしょう」

 

 

 だが俺は全てをリスペクトしている。訪れるであろう確定していない勝利や敗北ですらも。

 

 

 だからこそ……

 

 

「俺は全てを壊す。リスペクトがないからじゃない。リスペクトしているからこそ、完膚なきまでに叩き潰すんですよ」

 

 

「……そうか」

 鮫島は俯くと、小さく呟いた。

「君とは相容れないようだな。黒崎君」

「そうですか? 俺はサイバー流のこと、かなり好きですがね」

 その精神も。そしてそのモンスター達も。

 元の世界でサイバーのストラクチャーデッキ三箱買いしたぐらいのファンだ。

「……君にサイバー流を語って欲しくない」

「これは手厳しい」

 そして同時に少し寂しいな。生でサイバー流の師範に会えたのに、ここまで嫌われるとは。

 まあ、いいさ。評価が底辺なら後は上るだけでいいのだから。

「それでは失礼します鮫島校長」

「ああ……」

 

 

 

 

 部屋を出ると、ペガサスが待っていた。

「……ミスター鮫島にはあまり気に入られなかったようですね」

「なんだ? 盗み聞きでもしてたのか?」

「いいえ。あなたのことを話した時のミスター鮫島のバットな顔でそう判断したまでデース」

「あんたにまで嫌な顔を露骨に出すとは、よっぽど俺のことが気に入らないんだろうな。鮫島校長は」

 アカデミア校長という側面ではなく、サイバー流師範という側面からの嫌悪な気もするがな。 

 アニメでも見た目通り、リスペクトデュエルに対しては頑固な面を見せていたからな。

「もし、万が一ユーがクビになれば、我I2社に来ませんか? 高待遇で迎えいれマース」

「おいおい会長。就職一日目に物騒なこと言わないでくれ」

「ふふ、確かにそうですね。失礼しました」

 だが、ペガサスの言う通りすぐにでもクビになりそうな勢いではあるな。

 しかし……

「随分静かだなお前」

 静かにしろとは言ったものの、本当に一言も喋らないヲーを不思議に思い、視線を下ろすと、ヲーはなぜか困惑した顔をしていた。

「ねえ、パパ。あのおじさんに、何か変なのが背中にいたけど、あれなに?」

「なんだと?」

 変なのだと? 俺はそんなもの見えなかったぞ? 確認の為にペガサスの方を見るが、ペガサスも首を横に振る。

「なんかやな感じしたの。よく分からないけど」

「……そうか」

 神だからこそ、俺たちには見えない何かが見えたのかもしれないな。

「その変なのを引き剥がすことはできるか?」

「ううん。無理。なんだかまだぼんやりとしかいないから」

 なら、今対処することは不可能か。やれやれ。トラブルの元になりそうなものは早めに処理したかったが、仕方ないな。

 しかし、校長に変なのがとりついてる……か。

 そんなイベントなんてGXの世界には存在しなかったはずだ。俺の知っているGXの世界のストーリーとほんの少し違和感が出始めてるな。

(考えても仕方ないか)

 とりあえず事態が見えるまでは、可能な限り大人しくすることにしよう。

「さて、それではそろそろ私は帰りマース。ミスター黒乃。何かあればすぐにご連絡下サーイ」

「ああ。遠慮なく頼らせてもらう」

 ペガサスはそう言うと、俺たちの前から去っていた。

 

 

「さて……」

 この後どうしたものか。このまま住処となるレッド寮に行くのもいいが、せっかく校舎にいるのだ。明日からの仕事の為にも少し見て回った方がいいか。

「行くぞ。この校舎を軽く見て回るぞ」

「わーい! 探検だ!!」

 俺の手をしっかりと握りながら、ヲーが嬉しそうに飛び跳ねる。

 やれやれ、本当にこの神様は子供だな。

 

 

 

 

 アニメでは見たが、やはり実物は違うものだ。

 年季や、人の気配を感じさせる。広いデュエルアカデミアを回ってまず感じたのはリアリティだった。

「えへへ。パパ」

 歩きながら、ヲーは何が楽しいのか俺の指に自身の小さい指を絡めながら、笑顔だった。釣られて笑顔になりながら、ゆっくりとヲーの歩幅に合わせて歩く。

(久しぶりに、のんびりとしてるな俺)

 異世界に来て、ここまで穏やかな気持ちになったのは初めてかもしれない。やはり子供というのはいるだけで周りを和ませるな。

 出来ればもう少しこのままのんびりとしたいと思ったその時だった。

 

 

 

「待って下さいよ兄貴ー!」

「匂うぞー! デュエルの匂いだ!! って、あれ?」

 

 

 

「げ」

 この世界の騒動の中心である主人公。遊城 十代と二度目の会合をしてしまったのは。

 

 

 

 

「先生! 黒乃先生じゃないか!!」

 うわあ、やべえよ。まじでやばい。出来れば会いたくないと思ってたのに、まさかいきなり会うはめになるとはな。

 ああ。この後の展開が容易に想像できる。

「ちょうどよかったぜ先生! 雪乃との約束通り、俺と決闘してくれ!」

 言うと思ったよ。決闘バカ。

「雪乃との約束? なんのことだ?」

「俺が大地との決闘に勝ったから、先生とまず決闘する権利を得たんだ!!」

「待て。説明になってない。少し話を整理させろ」

 話をまとめると、俺との決闘する権利をかけて雪乃の幼馴染みのあのガイアデッキの奴と決闘して十代が勝利したらしい。あのバカ雪乃。俺に相談せずに勝手に決めやがって。

「ちょうどいいぜ! デュエルフィールドがあるから、そこで決闘しようぜ先生!」

「俺はまだ一言も決闘すると言ってないーーって、やめろ。引っ張るな」

「むー。パパは私の!」

 と、俺と手を繋いでいたヲーが頬を膨らませながら、十代を睨む。

「うわ、わりい。わりい。って、あれ? このちっこいのは何だ?」

 気が付くのが遅いが、逆に十代らしいとも言える。本当にこの主人公様は序盤は決闘のことしか頭にないからな。

「兄貴。さっきその子先生のことをパパって呼んでたっすよ」

「こいつは――」

 まずいな。いざ質問されると、どう答えていいのか悩むぞ。

「あ、分かったぞ!」

 ヲーを見、少し考えると、十代はなにか思い付いたのか、ぽんと手を叩いた。

 まさかこいつが神って気がつかれたか? 十代が精霊を見えるようになるのはもう少し後のはずだが、鮫島校長にすらよく分からないイレギュラーがあったのだ。主人公である十代でも何らかのイレギュラーがあり、ヲーのことを見抜くという可能性も0ではない。

 少し緊張する俺に気が付かず、十代はにやりと笑うと、

 

 

 

 

「さては先生。そいつは雪乃との子供だな!」

 

 

 

 

 ……ああ、うん。そうだったな。こいつバカだったわ。

 うちのバカ娘といい勝負の天然野郎だった。

「あのな。普通に考えたら分かるだろ? こいつが雪乃の子供なわけーー」

「うふふ。正解よ。十代の坊や」

「……」

 おい雪乃(お前)。なんでここにいる?

「あ、雪乃。お前どこいたんだよ。決闘の決着見届ける前にどっかに消えちゃうしさー。大地の奴なんかお前のこと探してどっか行ったぞ」

「あらあらごめんなさい。ちょっと野暮用があってね」

「まあ、用事なら仕方ないな」

 納得するなよバカ十代。

「申し訳ないけど、十代の坊や。この子と先生は連れていくわ。今日は先生はとても疲れてるの。決闘は明日以降にしてもらうわ」

「ええー。まじかよー」

「悪いわね。それじゃあ、ごきげんよう」

 俺の手を引き、さっさと歩き出してしまう雪乃。

「おい。いつからこいつの母親になってんだよ」

 十代達から別れ、人気がないのを見計らって俺は雪乃を軽く睨んだ。

「バニラからちゃんとした事情は聞いたわ。なら、先生がこの子の面倒を見ることにしたってこともね。なら、私が母親になるのに何か問題あるかしら?」

「問題しかねえよ」

「それにしても、一つ気になったのだけど」

 聞けよ。

「先生もしかしてこの子の名前をまだ決めてないの?」

 雪乃の耳元で文句を更に言ってやろうと思っていたが、雪乃の言葉に出かけていた言葉が引っ込んだ。

「図星みたいね。ひどいパパだわ」

「うるさい。もう考えてある」

 ただ言い出すタイミングがなかっただけだ。

「あら、ならなんて名前なの?」

 急かしてくるな。そんなに聞きたいのか? ぶっちゃっけそんな期待されてもかなり困る。割とすぐ思い付いた名前だからひねった名前でも何でもない。

 

 

 

 

「ひなた」

 

 

 

 

 一応太陽神が関係してるから、太陽関連の奴で思い付いた名前がこれだけだった。

『いいなまえだとおもう』

「うわ!」

 さっきまでいなかったはずのウェン子がいつのまにか俺の背後にいた。なんだうちの奴等はナチュラルにメタルギアなスキルを持っているのか?

『わたし、りきっどうぇんこ』

 リキッドぉぉぉぉぉ!! なんでそのチョイスなんだ!? 普通ソリッドだろ!?

『さすがますたー。いいツッコミ(センス)

「は! 自然なボケに思わずつっこんでしまった!?」

「ツッコミ役が骨身にまで染み込んでるわね」

 そこのエロ娘は黙りなさい。

「あー。それで、どうだ? お前の名前ひなたでいいか? 嫌なら他の奴にするが……」

 本人に一応確認する。後でこんな名前は嫌だと言われてもどうしようもないからな。

 ……と言っても、後思いつく名前はヲーぐらいしかないがな。

「パパ!」

 返答は抱きつきだった。小さな身体のどこにそんな力があるのかと思うほどの力で俺に抱きつき、本当に太陽のように笑った。

「ありがとう! ひなたって名前嬉しいよ!!」

「お、おう、そうか……」

 予想以上の喜びように、俺の方が軽く面食らってしまう。そんなに嬉しいものなのか?

「じゃあ、私も自己紹介しようかしら。ひなた私は雪乃よ。雪乃ママって呼んでね」

 おい雪乃。お前何言ってやがる。

「うん! 雪乃ママ!!」

『じゃあ、わたしはうぇんこおねえちゃん』

「あら、ウェン子。ママじゃなくていいの?」

『……このからだで、ままはむりがあるから……』

 ウェン子が何かを悟ったような顔で笑っている。いや、まあ、なんとなく分かるが。まだ希望を捨てなくてもいいんじゃないか? もしかしたらまだ成長するかもしれないし……

『わたし、りありすとだから』

 なんかすいませんウェン子さん。

「さっきから思っていたが、お前ナチュラルに俺の心読んでないか?」

 うちのマスコットは本当に謎が多いな。

「ウェン子お姉ちゃん! よろしくね!!」

『ん。よろしく。ひなた』

 さて、これでうちのメインメンバーとの自己紹介も終わったようだな。仕方ない。少し早いが、レッド寮に戻るとし……

 

 

『なんで皆さん自然に私をブレイクスルーするんですか!?』

 

 

 おや、いつの間にか俺たちに近づいてきた野生のバニラがいたようだ。

『なかまにしますか?』

「NOだな」

「じわじわとなぶり殺しにしてくれるわ」

「上手に焼こう!」

『ちょ! いくらなんでもひどすぎますよ!? しかもひなたちゃんまで言ってるし!』

 だってお前そういうキャラじゃん。

『ひなたちゃん! 私はバニラママですよ!!』

「バニラ!」

『何故に呼び捨て!?』

 ふ、子供は正直でいいな。

「違うぞひなた。あれはバカニラだ」

「うん! バカニラ!」

『マスター! なんかバカとバニラがフュージョンしてます! ちょっといくらなんでもあんまりです! 私が雪乃さんの拷問にどれだけ耐えたか!!』

「あら、なんのことかしらバニラ? あなたと私は何もなかった。いいわね?」

『イエス! マム!!』

 雪乃がにこりと笑うだけで、敬礼付きの直立不動になるバニラ。一体、何があったんだ?

『でも流石に何とかしてくださいよマスター。私お母さんポジに憧れてるんですよー』

「なんで俺に言う?」

『だって、ひなたちゃんマスターにすごく懐いてるじゃないですか。きっとマスターの言うことなら何でも聞きますよ?』

「あら、近親相姦もやりたい放題ね先生」

 とりあえずエロ娘は黙ろうか。

 しかし。このままではバニラが果てしなくいじけそうだな。仕方ないな。

「ひなた。あのバカのことはバニラママと呼んでやれ」

「う……どう、しても?」

『なんかすごく嫌そうです!?』

 分かるぞひなた。その気持ちが。だがここは心を鬼にしなくてはな。

「ああ、頼む。俺の娘なら頑張れるはずだ」

「パパ……」

「頑張れひなた」

「頑張ってひなた」

『ひなた、がんば』

「みんな……うん! 私やるよ!」

『あれ! なんですかこの展開! ただ名前呼ぶだけですよ!? そろそろ私の精神的なLPは0になりますよ!』

「バニラママ!! ――言った! 言えたよパパ! 雪乃ママ! ウェン子お姉ちゃん!!」

「よくやったひなた」

「えらいわひなた」

『ないすひなた』

 

 

 

 

 

『みんな私をいじめすぎですーーーーーーー!!!!』

 

 

 

 

 だってお前そういうキャラだし。

「さあ、バカはほっといてさっさと帰るぞ。流石に腹が減った」

 確か、もう少し後の話だが、この後各寮では歓迎会が開かれていて、豪華な晩餐が開かれているはずだ。もっとも、レッド寮の晩餐は他の寮とは比べ物にならない程のしょぼさだった記憶があるが、背に腹は変えられない。

 流石に何か食うものがあるだろう。

「あら先生。お腹すいてるの?」

「まあな。今ならいつもより上手く飯が食えそうだ」

「そう……ならちょうどよかったわ」

「? どういうことだ?」

「うふふ。行ってからのお楽しみよ」

 なんだなんかとんでもなく嫌な予感がするのだが?

 いや、多分気のせいだよな。うん。気のせいに決まってる。

 ……気のせいということにしてくれ。

 

 

 

 

「どうも、半日ぶりですね黒乃様」

「……」

 レッド寮に着き、真っ先に会ったのはレッド寮の生徒でなければ、寮長の大徳寺でもなく、見知った顔のド●クエバカ精霊だった。

「ルインが仲間になりたそうな顔でこちらを見ているわ。どうするのかしら先生?」

「とりあえず、なんでお前の所のメイドがレッド寮にいるのかを聞こうか雪乃」

普通に実体化した姿でいるし。

「ちょっとした下準備よ。先生と私の共同生活のためのね」

「はい?」

 ちょっと待て。なんのことを言っている?

「雪乃様。黒崎様にまだ知らせてないのですか?」

「ええ。後で言う方が面白いと思ったからね」

「おい、お前なんのことを言ってるんだ?」

「では私から説明しましょう」

「……頼む」

「簡単に言えば、今の雪乃様はド●クエで言うところの、フローラです」

「まるで意味がわからんぞ」 

 いい加減お前はそのドラク●脳をやめろ。簡単どころか、余計に難しくなってるんだよ。

「もっと簡単に言うなら、●ラクエの――――」

「シンプルに言え」

「つれない方ですね」

 少し不機嫌そうになるルイン。なあ、俺そろそろキレてもいいよな?

 

 

 

 

「シンプルに言うなら、雪乃様と黒乃様は婚約者としてこのレッド寮に一緒に住んで頂くことになりました」

 

 

 

 

「……はい?」

 いや待て待て。色々おかしくないか? 

「デュエルアカデミアが許すはずないだろう」

 俺、一応教師で、雪乃は学生だぞ?

「ああ、それならお父様が平和的(・・・)な話し合いをしたから大丈夫よ」

 あの闇の支配者が平和的な話し合い? すまん。どう考えても相手を跪かせて高笑いするゾークの姿しか思い浮かばないのだが?

「なんで俺が雪乃の婚約者になってんだ?」

「え?」

 え、なにその「今更それを言うの?」みたいな反応は。

「今更それを言うの?」

 本当に言いやがったよこのクソアマ。

「先生と私はもう、何度も熱い口づけを交わしあった仲じゃない」

 もしかして以前のあの不意打ちのことを言ってるのか?

「一方的にされただけだからな? しかもあの一回だけだろう。何が何度もだ」

「何度もよ」

「だから何度もじゃなくて……」

昨日も(・・・)したわよ。先生はおねんねしてたけどね」

「……」

 オイマテ。マサカオマエ――

「うふふ。とてもおいしかったわよ。ごちそうさま先生」

「おいバニラぁぁぁ!! 俺が寝た後、何があったかを俺に教えろぉぉぉ!!」

『すみません! 私も寝てました!!』

 だめだこのバカ! 肝心な時に使えねえ!!

「ウェン子は!?」

『よるはわたし、きほんてきにあくのひみつけっしゃとたたかってるから……』

 なにやってんのお前!? そう言えば最近、夜は見かけないなと思ったら、そんなことしてたのか!?

「安心していいわよ先生。今は唇以外頂いていないわ」

「安心出来るか!」

 唇だけでも大問題だよ!!

「もう少し待ってね先生。私が先生に相応しい女になったら、先生の全部を頂くわ」

「やめろ」

 まさか婚約者とかいうのは、その間俺を逃がさない為の策か? この女、どこまで俺を逃がさないつもりなんだ!?

「私はね先生。自分が惚れた男は絶対に逃がさない主義なのよ」

 だから諦めてね? と雪乃は蠱惑的な微笑みを俺に向ける。

 

 

 ああ、うん。とりあえず、今俺が出来ることは1つだな。

 

 

「腹減ったからなんか食い物くれ」

 

 

 全てを一瞬だけ忘れるためにヤケ食いをする……それだけだ


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