今日は何の日かご存知でしょうか?
そう! クロスオーバーズソウルの発売日です!!
バレンタインデー?知らない子ですね
「アンビリーバボー! こんなことが起こるとは、正直驚きが隠せまセーン」
ペガサスは俺と俺の膝の上にいる幼女を見ながらそう言った。
決闘が終わった俺たちは、ペガサスのヘリコプターでデュエルアカデミアに向かっている。
引き返すことも提案されたが、俺はどうしても確認したいことがあった。
「ミスター黒崎。ユーは一体どんな方法でラーを複製し、そして人間として実体化させたのデスカ?」
「俺がやったんじゃねえよ。あんたなら分かるだろう?」
「確かに。神の複製をすることは簡単なことではありまセーン。私達は本来研究用として三幻神全てを複製するつもりでしたが、複製の最中、神の怒りによるアクシデントが続出。結局ラーのみが複製することが出来たのデース」
おいおい。わかってたけど、やっぱりとんでもない代物じゃないか。神のカードって奴は。
よし! ということで早速この幼女を捨て……
「えへへ。パパ、好きー!!」
「……」
れるかバカ野郎!! こんな幼女捨てたら、罪悪感で死にたくなるわ!!
(くそがぁ……なんでよりにもよって幼女なんだよ!!)
俺の胸に頬ずりしてくる幼女に、内心で大きく舌打ちする。
もし、このヲーがもっと成熟した奴だったら、こんな面倒ごとの塊。俺は躊躇いもなく海にダストシュートしていたのに。
それにしても、なんでこいつ実体化してるんだよ。さっき精霊体になれって言ったら、
「せいれい?」
と、可愛らしく首を傾げやがった。どうやらこいつ。自分が精霊であることも分からないらしい。
ちなみに、ついでにその時色々な質問をしたのだが……
「名前は?」
「わかんない!」
おい。それまずいだろう。
「親は?」
「パパ!」
おい。俺を指差すな。
「好きなものは?」
「パパ!!」
おい。だから俺を指差すな。
「ゴギガ」
「ガガギゴ!!」
おい。なんでそれだけ答えられる。
結論……
「だめだこいつ。もうなんていうか。どこまでもだめだ」
完全なお手上げ状態。わかってるのはこいつがおそらくヲーの精霊であることと、なぜか俺のことを慕っていること。
……おい。これでどうしろと言うんだ? 無茶ゲーにも程があるぞ。
「この幼女。何とかならないか、ペガサス会長?」
「本来なら私の経営する孤児院で面倒を見マース……と言うのですが―――」
チラリとペガサスがヲーを見ると、幼女は俺にしがみつき、激しく首を横に振る。
「パパと離れるのは 絶対にや!!」
「……こう言ってしまいますから――――さらに無理やり連れて行くにしても相手が相手ですから……」
「やめたほうがいいな」
例えヲーでも神は神。下手に機嫌を損ねて、神の怒りに触れるのはリスクが高すぎる。
……となると、もう必然的に俺が選ぶ選択肢は1つしかない。
「こいつの面倒。俺が見るしかないか……」
「イエス。それがベストな判断だと思いマース」
おいおい。就職初日の仕事場に出勤する前に、一児の父親になったぞ。
もう笑うことも出来んわ。第三者から見たら、笑えるかもしれないがな。もし今俺を笑う奴がいたらきっと怪我する。
「とりあえず、何をするにしてもまず――――」
テーテーテー♫テテテ♫テーテーテー
言いかけた俺の声を遮るように、どこかの通りすがりの仮面なライダーで聞いたような説教BGMが聞こえた。
「なんだこの音?」
俺は音がした方―――ペガサスがいるとは別の方向を見る。
『もしもし。とおりすがりのしゃどーるです』
そこには精霊状態のウェン子がいた。しかもなぜかスマートフォンで通話してやがる。そんなものいつ手に入れた? それに通りすがりのシャドールってなんだ? お前は何時から世界の破壊者になった?
くそ! ツッコミ所が多すぎてまるでついていけない!!
「ワッツ!? スマートフォンが宙に浮いてマース!?」
おい、どうすんだよ。精霊が見えないペガサスが、驚いてるぞ。
『……ますたー。でんわ』
困惑する俺など気にした様子なく、すっとウェン子が俺にスマホを渡してきた。
「俺か?」
てか、相手誰だよ。
『でればわかる』
「はあ……」
仕方ないな。俺はウェン子からスマホを受け取ると、耳に当てる。
「もしもし」
『先生、私よ。雪乃よ』
………………
「人違いです」
ぴっと、俺はスマホの画面を操作し、通話を終了した。
『ますたー。さっきのゆきのおねえちゃ――』
「いやあ! 最近の間違い電話は不思議だな! 知り合いとそっくりな甘ったるい声がするんだから!!」
なんか名前も一緒だったけど、あれは完全に間違い電話だな。やれやれ。間違い電話にも困ったも――――
テーテーテー♫テテテ♫テーテーテー
「……」
再び鳴り響くお説教BGM。やべえ。普段ならテンション上がるのに、今の俺には恐怖しか感じない。
いっそ出ないでおこうかと考えたが、後が面倒なので、今度は真面目に出ることにした。
「……もしもし」
『先生。どうして無視するのかしら?』
「気のせいだろう。それよりどうしてウェン子がスマホを持ってる?」
とりあえずなかったことにし、話を逸らすにした。
『先生との連絡手段が欲しかったからよ。バニラに渡したんじゃ、連絡がつきそうにないからね。かと言って先生本人に渡しても、無視されそうだし。だけど、ウェン子に渡しておけば、先生は出るでしょう?』
こいつ、俺のことをよく分かってやがる。
「で、俺になんか用か?」
とりあえず、今はこの電話を速く終わらせることが先決だ。俺はあえて乗り気ではない声を出し、電話の速攻終了を目指す。
『なんか用か、じゃないわよ先生。今度は何に巻き込まれたの?』
「……何にも巻き込まれてない」
嘘だ。だが神とガチバトルして、その結果、金髪幼女をゲットしたなんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。
『あら、本当にそうかしら? その割にはこっちに到着するのが遅れているようだけど?』
「……少し野暮用があっただけだ。今はデュエルアカデミアに向かってる。そっちで大人しく待ってろ」
いいからさっさと俺に電話切らせてくれ。でないと、俺の膝の上にいるヲーが……
「パパ。誰とお話してるの?」
「……」
手遅れだった。ヲーの声は雪乃にも聞こえただろう。
その証拠に――――
『……』
電話越しだというのに、圧倒的な威圧感と、正体不明の迫力を感じる。
ついさっき、神と闘った時に感じなかった恐怖を俺は感じていた。
『う、うふふ。うふふふふふ!!』
あかん。電話相手が病み始めた。
「切るぞ」
それが一瞬の逃避に過ぎないことは分かっている。だがそれでも俺は逃げたかった。
ああ、我ながら情けないことだ。だがそれでも俺は――――
『別にいいわよ。もう
へ?
コンコンという音が聞こえた。
移動中のヘリコプターの中だからそんなノックのような小さい音は聞こえないはずなのに、俺の耳は確かにその音を捉えた。
恐る恐る、俺はノックが聞こえた方――――ヘリコプターの窓を見る。
そこには、背中に翼を生やした雪乃がいた。
「……」
「パパ。汗いっぱい出てるけど、どうしたの?」
あかん。あかんですよ。これはあかんです。
え、なにこれ? ホラー? どっかのスクールなデイズのように惨劇でも始まるの?
ちょ、俺そういうノリはまじ勘弁だ。
「……」
窓の外の雪乃が微笑む。
その唇が動く。流石に声は聞こえないが、それでもその唇の動きで雪乃が何を言っているのかを俺は理解した。
『あ・と・で・ね』
「ひいいいいいいいい!!!」
「ワッツ!? 突然どうしたのですかミスター黒崎!!」
ペガサスが悲鳴をあげた俺の視線を追い、窓の外を見るがそこに雪乃の姿はもうない。
一瞬でヘリコプターを振り切り、デュエルアカデミアに戻りやがった。
だめだ。あんなスピード見せつけられたら、逃げ切れる気がしねえ。
『ますたー』
「なんだウェン子」
ウェン子は俺の肩に小さな手を乗せ、はっきりと言った。
『たたかわなければ、いきのこれない』
ああ、その通りだなウェン子よ。
しかし、いい加減お前は仮面なライダーから離れろ。
「……」
その物語を少女は見ていた。
本来なら、存在するはずのない物語を。
それを引き起こす原因となっている青年を。
「……ここまで、イレギュラーが発生するのは予想外」
青年の存在により、ある程度の正史の物語への干渉は覚悟していた。だが少女は自分の見通しが甘かったことを悟る。
神との接触。
正史に至っていない段階で、世界において重要なイレギュラーを引き起こしたのだ。もし正史に彼が関われば、最悪正史の物語を破壊しかねない。
「監視を続けていい相手じゃない……」
観測対象として継続的な監視――――それが少女の主である『
「なんとしてでも彼を
黒崎 黒乃の抹殺。
その為の策を少女は考え、実行に移す。
青年が向かうデュエルアカデミア。その正史の役者達に動いてもらうとしよう。
だが、もしそれでも彼を――――黒崎 黒乃を抹殺出来ないのならば……
「私の手で消すしかない」
呟き、少女――――レイン恵は再び、イレギュラーの物語に視線を戻した。だがそれは監視だけではなく、青年の抹殺をする為の好機を伺うための調査でもあった……
ついに到着した。
物語の舞台。デュエルアカデミアにへと。
遊戯王のファンとしてこれ程テンションの上がることはない。
「さて、先生。説明してもらおうかしら?」
ヘリコプターの到着した所に、雪乃が仁王立ちで待ち構えていなかったらな。
ちなみにペガサスとそのお供は、鬼気迫る雰囲気の雪乃を見た瞬間に、
「それでは私達は先にミスター鮫島の所に行きマース。色々事情説明がありますしね」
と言い、逃げやがった。ちぃ! 流石は会長という役職についているだけはある。危機回避能力はAランクだな。
「先生?」
「説明か――」
どうする? 嘘で誤魔化せる状況ではない。かと言って、本当のことを言うのも気が引ける。
仕方ないな。
「その説明はバニラが担当する」
『私ですか!?』
とりあえずバカ娘を生け贄にしよう。
『マスター! なんで私が説明することになるんですか!?』
「ちょうどいいわ。私もバニラの口から説明を聞きたかったのよ」
『雪乃さんのOKサインが出ましたぁ!?』
うむ。予想通りだな。俺はバニラを前にだし、被害にあわないように隅に移動する。
『あ、あのー雪乃さん? 』
「さて、説明して貰おうかしら?」
『ひぃ! 人殺しの目をされてます!?』
やばいな。死んだんじゃないのかバニラの奴。
『だいじょうぶ。すでにばにらおねえちゃんには、うぃんどうぉーるをてんかいしてる』
(よくやったウェン子)
流石に仕事がはやい。うちのマスコットさんが優秀すぎて頼もしい。
さて、うちのエースさんは――
「ねえ、どうして先生にくっついてる本当に小さい子猫ちゃんがあなたと同じ金髪なのかしら? まるであなたの娘みたいじゃない」
『あわわわわわ。そ、そ、そう言えばそうでした!』
「その言い方。あなたの娘と認めるのね?」
『ひ、ひえ! そ、そういうわけでは――』
「なら、どういうことかしら? はっきり言って欲しいわ」
『は、はひぃ! 言います! はっきり言いますぅぅ!』
ダメだな。完全に雪乃にのまれてる。
『とめなくていいの? ますたー』
「問題ないだろ。普通に考えるなら俺にこんな子供がいるのはおかしな話だ」
だからちゃんと説明すれば雪乃も納得し――
『で、てきちゃってたんです!! 気がついたらいつのまにか!!!』
……おい。バカ娘。それは流石に――――
「…………」
『あれ? 雪乃さん突然黙っちゃってどうしたんですか? それに瞳孔が開ききっていて、めっちゃ怖いんですけど……』
「バニラ」
『はい! なんでしょうかマスター! あの! 出来ればこの状況を切り抜けるアドバイスが欲しいです』
ああ、任せろ。ちゃんとアドバイスしてやるさ。
「安らかに眠れ」
『生存するのが諦められてます!?』
『か~な~し~み~の~む~こ~う~へ~と~♪』
『そしてウェン子ちゃんが、何やら物騒な歌詞を口ずさんでます!?』
「バニラ……」
『はいぃぃぃ!! なんでしょうか雪乃さん!?』
にっこりと雪乃はバニラに微笑む。さて、俺たちは今のうちにもう少し遠くに離れるか。
「行くぞ」
「? パパ?どうしてあの人たち置いてくの?」
何故かって? 答えは簡単さ。
今から子供には見せられない一方的な虐殺が始まるからな。
「とりあえず死になさい泥棒猫」
『とりあえず死亡!? って、やめ、いや、いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
精霊の力を全面に発揮し、バニラへの報復を始めた雪乃を背中にし、俺はため息をつきながら、今更なことを思い出した。
そう言えば俺、今日朝飯も昼飯も食ってないな……と。