遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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神様なんてろくな奴いない

ラーとの融合を果たした俺は、ウェン子の人形の上ではなく、何もない空間にいた。

ここがラーの中ということをなんとなく予想が出来たのは、俺がこの遊戯王の世界の常識に慣れてきたことと、

 

 

「よう。来たぞ太陽神様」

 

 

目の前にバニラの姿を真似た人間体のラーがいたからだ。

『あなたはバカですか?』

「おいおい。いきなりきついな」

ラーはどこか怒っているようであった。だがその怒りは決闘中の憎しみがこもったものではなく、なんというか、もっと優しいものだった。

「こちとら、必死に考えた末の行動なんだぞ? 誉めてくれとは言わんが、もう少しプラスの評価をしてもらいたいな」

『無理です。私は今そんな余裕がないほどに戸惑っているんです』

神を戸惑わせるとは、ある意味貴重な体験かもしれないな。

『どうしてあなたは初めて会った私のために、こんな危険な真似をしたのですか? あなたにはなんのメリットもないはずです』

「あるさ。自己満足だ」

『自己ーー満足?』

「ああ」

別に相手がラーだから助けたわけではない。

「俺は失敗は繰り返さない主義なんだよ。もう二度と俺は目の前で勝手に死のうとしているバカを勝手にさせない」

それが俺のあいつに対するせめてもの罪滅ぼしになる。

そう思っている。

 

 

(いや。そう思い込もうとしているだけか)

 

 

内心で自嘲すると、俺はラーに向き直った。

「それでどうなんだ? 俺はお前を救うことができたのか?」

『はい。私の死はあなたの命をわけてもらうことで、免れました』

「そうか」

 

 

 

 

『しかし。かわりにあなたの寿命が大幅に減りました』

 

 

 

 

なら良かったと一息つこうとした俺だったが、

ラーの一言に流石に押し黙った。

「あー。まじか?」

『冗談でこんなことは言いません』

まずいな。そこまでは予想していなかった。アニメとかで顔芸とかが、何食わぬ顔でラーと融合していたから、人体に悪い影響はないと思っていたが、予想が外れた。

(と言ってもな・・・・・・)

失った時間が決して戻らないように、今更減ったものは返せない。

ならーー

 

 

「まあ、いいか」

『!?』

 

 

俺の呟きにラーが目を見開く。

『本気で言ってるんですか?』

「まあな。やったことを今更ぐちぐち言っても仕方ないし」

あーそうだ。一つだけ聞かなくてはならない。

「その寿命が減ったことで、俺は明日にでも死ぬ身体になったのか?」

『いえ。流石にそこまではーーここ数年ならなんの問題もありません』

「そうか」

逆を言えば、ここ数年を越えたら問題が出てくるということか。

まあ、いいさ。ならこの数年で俺のやるべきことをやりきるだけだ。

『どうして、そんな風に落ち着いていられるのですか?』

「落ちついてるように見えるか?」

『ええ。私にはあなたが自分の命など、どうでもいいもののように思ってるように見えます』

「そう見えるか?」

『はい』

「なるほどね」

 

 

 

 流石(・・)は太陽神様と言った所か。

 

 

 

 

 内心で笑いながら、表情には決して出さずに、俺は小さく肩をすくめた。

 

 

「もし、百歩譲って俺が自分の命に興味がなかったとして、お前に何の関係がある?」

 

 先程ラーが言った通り、俺達はついさっき会ったばかりだ。

 俺はラーを止める為にその過程で寿命を削った。

 ラーは俺を滅ぼす過程で偶然命を拾った。

 

 

 それで終わりだ。もうこれ以上の関わりは必要ない。

 

 

『関係あります』

 

 

 だというのに、ラーは納得がいかないとばかりに、俺を睨みつけてきた。

『私はあなたを死なせるわけにはいきません』

「なんだそれは? 神としてのプライドか?」

『それもあります』

 『ですが』と、ラーは俺に哀れみにも視線を送って来た。

 

 

『あなたの心の闇を垣間見ました。その闇は危険すぎます。この世界を守る者として、放っておくわけにはいきません』

 

 

 

 心の闇ねえ……太陽神様が危険と判断するということは、俺の闇は相当やばいようだ。

 

 俺はただ――――

 

 

 

 ●●●●●●●

 

 

 

 と思っているだけなのにな?

 

 

 この世界なら特別なことではないような気もするが。

「なら、どうする? さっきみたいに決闘でまた俺を殺しに来るか?」

『いいえ。そんなことをしても無意味でしょう』

 おやおや、三幻神の一体であるラーが決闘を無意味と言うか。

 

 

『それよりも、もっといい方法があります。あなたの寿命を元に戻し、尚且つあなたを監視する事が出来るいい方法が……』

 

 

 その時、ラーが浮かべたこの場には似つかわしくない悪戯を思いついた子供のような表情の意味を気付く事が出来れば、俺は面倒事を回避出来たのだろう。

 だがその時の俺は闇とやらを指摘されて、ほんの少しだけだが、動揺していたらしい。

 結局何も行動は起こさず、ただ棒立ちになっているだけであった。

 

 

 

『ふつつかな子供ですが、よろしくお願いしますね?』

 

 

 

 

「なに?」

 おい。どういう意味だと聞く前に、ラーの身体が金色に輝き始めた。

 目を焼かれるのではないかというレベルの光に思わず俺は目を閉じる。

 

 

 

 

『マスター!!』

「っ!?」

 次に目を開けると、すぐ目の前にはラーではなく、バニラがいた。

『マスター大丈夫ですか!? 突然消えちゃうから心配しましたよ!?』

「……すぐ戻るって言っただろう?」

『言われましたけど、心配なのは心配なんです!』

 やれやれ。融通がきかない奴だな。

 呆れながら、俺はあたりを見る。周りは海。足場はウェン子の人形。

 どうやら、ラーと融合する前に戻って来たらしい。

「ラーの奴は?」

『マスターがいなくなったと同時に消えちゃいました』

「そうか……」

 ということは、さっきのは夢じゃなかったのか……

『ますたー。ひとつきいていい?』

「どうしたウェン子?」

 ウェン子が質問とは珍しいな。何も言わずとも、こちらの意図を察することが出来るからな。うちのマスコット様は。

 

 

『ますたーがもってる2まいのかーど。それ、なに?』

 

 

「2枚のカード?」

 指摘され、俺は初めて自分が2枚のカードを片手に持っていることに気がついた。

「いつの間にこんなカ―――」

 持っているカードを確認し、俺は絶句した。

『どうしたんですかマスター? そんなオーバーリアクションな……って! これはなにごとですうううううううううううううう!!!???』

 やかましいバニラ。お前の方が百倍オーバーリアクションじゃねえか。

 だがまあ、今回ばかりは許す。

 何故なら俺の手にある2枚のカード。

 それは――――

 

 

 

 

 どちらもラーの翼神竜のカードだったからだ。

 

 

 

 

『ど、ど、ど、どうなってるんですかマスター!?』

「……俺が聞きたいわ」

 シュヴァルツディスクのキャプチャーが成功したのかと思ったが、おそらく違う。

 DPを確認したが、決闘開始前から何の変化もない。

 ということは、さっきまでのラーとの決闘は決着がつかずに終了したのだ。

 シュヴァルツがキャプチャー出来るのは、決闘で勝利した精霊だけだ。

 

 

 なら、どうしてラーが俺の手にある? それも2枚も。

 

 

『ますたー』

「なんだウェン子。何か分かったのか?」

『ん』

 こくりと頷くウェン子を頼もしく感じる。流石はうちのマスコット。どっかのバカとは違い、頼りになるぜ!

『にまいのかーど。えはいっしょだけど、こうかがちがう』

「なに?」

 おい。待てまさかそれって……

 俺は嫌な予感を感じ、手元のカードに視線を落とす。

 片方は、先程俺が闘った神の名に恥じない鬼畜効果が記されていた。

 

 

 しかしもう片方には――――

 

 

 

 

 このカードは特殊召喚できない。

 このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。

 (1):このカードの召喚は無効化されない。

 (2):このカードの召喚成功時には、

 このカード以外の魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

 (3):このカードが召喚に成功した時、100LPになるように

 LPを払って発動できる。このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。

 (4):1000LPを払い、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを破壊する。

 

 

 

 

 という、ある意味で使うプレイヤーに対する鬼畜効果が書かれていた。

「おい、これって……」

 どう見ても間違えよがない。遊戯王ファン達を絶望の淵に叩き込んだ。CONAMIの弱体化カードの代表格。原作再現どころか、まったく意味不明な効果と裁定を付属させた最弱神。

 

 

 まず特殊召喚が出来ない。

 したがって――――

 

 

『死者蘇生!!』←出来ない

『甦れ!』←甦らない

『地より蘇生し、天を舞え!!』←蘇生しない

 

 

 

 さらに神なのに、耐性なんて皆無。

 したがって――――

 

 

「このターン 神は不死の能力が備わった!!」←備わらない

「どんな攻撃も通用しない!!」←通用する

「ぐわはははは! 神に生贄効果が通用すると思っているのか!!」←通用する

 

 

 

 

「ははは……」

 したがって、このカードはラーではない。

 

 

 

 

 ヲーだ。

 

 

 

 

「さらば!! 今は遠き理想郷!!」

『マスター!? どうして突然弱い神のカードを海に捨てるんですか!?』

「あれは神ではない!」

『ごぶ!?』

 無言の腹パンをバニラにお見舞いする。

 奴はヲー。もしくはライフちゅちゅギガントだ!

『ますたー』

「なんだウェン子!?」

 今度はなんだ? 何に気がついた!?

『どうして、せいれいじょうたいのおねえちゃんにさわれるの?』

「……あ」

 言われて初めて気がついた。なんで俺は、実体化していないバニラに触れるんだ?

「ウェン子。精霊体になってくれ」

『りょうかい』

 海豚を残し、実体のない精霊体にウェン子の頭に試しに触ろうとしてみる。

『ん……』

 触れた。せっかくなので、撫でてみる。

『ほぅ……』

 ウェン子はご満悦のようだ。俺も釣られて頬が緩――――

 

 

 って、違う!! どういうことだ!? どうして一般人の俺が精霊に触れることが出来――――

 

 

『マ、マスター! う、うしろ!』

「うしろだと!?」

 腹を押さえて海豚の人形の上に蹲っているバニラの言葉を聞き、背後を振り返る。

 

 

「なんじゃこりゃあ!?」

 

 

 そこには、今さっき捨てたはずのヲーの翼神竜が宙に浮いていた。

「なにこれ怖い」

 捨てることの出来ない呪われたカードだとでも言うのか?

 

 

「……んんー」

 

 

「やばい。幻聴まで聞こえだした」

 これは本格的にエマージェンシーだ。何とかしてお祓いをする必要が……

『マスター! 幻聴じゃありません!私も聞こえてます!!』

「なんだと!?」

『ういてるかーどからきこえた』

「え、おい。まさかそれって……」

 嫌な予感はもはや予感ではない。確信となっている。

 そしてその確信はどこまでも正解だった。

 

 

 ぽん! とラーのカードの周りに、煙が出る。

 何事かと目を凝らすと、煙が晴れた所にいた者に、俺もバニラもウェン子も言葉を失った。

 

 

「うー……よく寝たー」

 

 

 一言で表すなら、全裸の美幼女。

 宙に浮くその幼女は足首まで伸ばした長い金色の髪。瞳の色はルビーだ。

 その手の趣味を持つやつなら迷わず飛びつくし、その手の趣味がない者でも思わず、見入ってしまうだろう。

 幼いとはいえ、神聖ささえ感じる美しさがその幼女にはあった。

 その幼女は寝ぼけ眼で辺りを見渡し、やがて俺と視線が合うと、にっこりとそれこそ太陽のように笑い、こう言った。

 

 

 

 

「パパ!!」

 

 

 

 

『パパぁ!?』

『なんか、きた』

 バニラとウェン子は目を見開き、俺と幼女を交互に見ている。

 俺はと言うと、先程のラーの言葉を思い出していた。

 

 

 

 

『ふつつかな子供ですが、よろしくお願いしますね?』

 

 

 

 

 原理なんて分かるはずないし、どういう意図からの行動なのかは分からない。

 だが、ただ1つだけ言えることがある。

 

 

 それは――――

 

 

 

 

「神様なんてろくな奴いない」

 

 

 

 




じゃんじゃじゃーん!! 今明かされる衝撃の真実ぅ!!
黒乃のパーティーに加わるのは、黄金バニラ姿のラーではない!!
謎(笑)の金髪幼女だぁぁぁ!!!!



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