「この決闘か終ったら死ぬだと?」
どういうことだ? まるで意味が分からんぞ。原作のGXではこんなイベントなどなかったはずだが?
まさかこの決闘がラーに負担をかけーー
『先程も言いましたが、私が死ぬのはあなたのせいではありません。ただの寿命です』
「寿命だと?」
『はい。私は神のコピーとしてこの世に生を受けました。私の魂は限りなくオリジナルに近いコピーです。当然神としての記憶もあります』
しかしと、ラーは自嘲気味に笑った。
『唯一、私は寿命だけはコピーしきれませんでした。コピー故に、神の力にカードがーー器が耐えきれないんです。一度全力で神として闘えば、壊れることは分かっていました』
「……わかっていながら、俺に決闘を挑んだのか?」
『本当なら仮初めの命のギリギリまで生きようとも思っていましたが、どういうわけか。実体化しましたからね。意味のない延命よりもこの一瞬を輝かせたいと思ったんです』
「――――」
『単なる自己満足ですけどね』
そう言い、自嘲混じりに笑うその姿を、
『ありがとう。このクライマックスで僕は満足だよ』
俺は嫌になるほど覚えがあった。
「バカが」
たから俺は吐き捨てた。自分でも驚くほどに声は怒りに満ちていた。
『バカ――ですか?』
「ああ。バカだよお前は。残りの命を糧に今の一瞬を輝かせたいなんて、そんなのはバカのやることだ」
『ふふ、確かにバカかもしれませんね』
「……」
笑うラーを俺は睨み付ける。どこまでもイライラする。その笑い方や、言ってること。やってることが全て『あいつ』と被る。
『しかしこれで私は自分の生に満足を――』
「黙れ」
だから黙らせた。
「俺はお前のようなバカを知ってる。自らの死の運命を知りながら、それに抗うことなく、諦め、一瞬を輝かせたいという言い訳に逃避するバカのことを」
『随分な言われようです。自らの運命を受け入れることはいけないことなのですか?』
「それがクソッタレな運命だったらな」
抗うこともせず、ただそういう運命だから。そういう悟ったような言い方で逃げようとする奴を見ると、イライラする。何故立ち向かおうとしない?
どうして――――
『それはいつか分かるよ』
自分が死ぬというのに、そんな満足そうな笑顔が出来る?
「ラー。これだけは言っておく」
『……なんでしょうか?』
「この決闘で俺はお前が自分に定めた
「行くぞバニラ」
『あ、はい!』
まずは、あの太陽神を破壊する。
「竜騎士ブラック・マジシャン・ガールでラーの翼神竜に攻撃!」
『攻撃力2600で神である私に挑むつもりですか!? 自殺行為です!』
確かにそのまま突っ込めば、ただの自殺行為だろう。
だが……
「この瞬間速攻魔法発動! 決戦融合バトル・フュージョン!!」
『バトル…フュージョン?』
「その効果でラー! お前の場にいるお前自身の攻撃力をこのバトルのみ俺の場の融合モンスター竜騎士に加える!」
即ち―――
「俺の竜騎士の攻撃力は9999999999998999ポイント上昇する!!」
『っ!!』
「墜ちろ太陽神!!」
だがと……口ではそう言いながら、俺は分かっていた。この攻撃でラーを倒せないと。この程度であの眩い太陽が沈むことはないと。
『リバースカードオーープン!』
そしてその予想は正しかった。
『トラップカード。和睦の使者! この効果でラーはこのターン戦闘では破壊されず、私の受ける戦闘ダメージも0になります!!』
竜騎士の攻撃を不可視の壁が阻む。
「やはり、防ぐ手を持っていたか」
『……分かっていたのに、攻撃して来たのですか?』
「お前の本音を見たかったからな」
『私の、本音?』
「ああ」
ラーの言葉に俺は人の悪い笑みを浮かべながら、頷いた。
「お陰で分かった。お前が自分で思ってるほどに、自分の死を受け入れてないってことをな」
『私が自分の死を受け入れてない? 何故そんなことがわかるのですか?』
「先程も言ったが、お前のように自分の死を受け入れた奴のことを俺は知っている……」
目を閉じると、俺はあのバカの姿を容易に思い出す。それが出来るほどに何の変哲もない元の世界の俺の人生で、そいつの存在は大きかった。
「そいつとの最期の決闘……先程のような状況になった時、あいつは防ぐ手を持っていながら、それをしなかった。綺麗な
『……綺麗な
「だからわかるんだよ。お前はあいつと似てる。だが、似てるからこそ、お前とあいつの決定的な違いが分かる」
あいつは死を受け入れ、自らの
だが、ラーは違う。
「お前はまだ終わりを迎えたくないという想いもある。でなければ、今の俺の攻撃を防ぐことなんてしないはずだ」
『……』
「それが分かっただけでも、このターンは大収穫だった。俺はカードを1枚伏せてターンを終了する」
『私のターンです。ドローカード』
ラーの顔が青白い。動揺が顔に出始めてきたか。
後ひと押しという所だな。
「ラー。何故お前はそこまで自分の死にこだわるんだ?」
俺の質問にラーはびくりと肩を震わせた。
『私が、死にこだわっている?』
「ああ。俺にはどうもそう見える。お前のその死への渇望は運命としてではなく、なにかからの逃避に見える」
『逃、避?』
ラーが俯く。
……半分は揺さぶりだったのだが、どうやら一回目で『当たり』を引いたようだな。
「お前は何かに孤独を感じてるんじゃないのか?」
孤独……あえてその言葉を使う。汎用性も範囲も広いその言葉を。明確ではない言葉とは便利なものだ。
十あるとして一を尋ねるだけで、残りの九を聞き手は勝手に頭の中で考えるからだ。
『そうですね。私は孤独を感じてます』
だからこういう相手の真意を探る時は、ひどく役立つ。我ながら『おい、決闘しろよ』と言われるようなことをしているとは思う。
まあ、遊戯王は心理フェイズをどう起こすかも腕の1つだと思っているので、やめはしないがな。
それに――――これは必要なことだ。
『私はコピーカード。本物ではありませんが、それでもこの身は紛れもなく神です。そのため、他の精霊達と軽々しく交流することは出来ませんでした。オベリスクとオシリスがコピーされてたら、良かったんですけどね。そうしたら孤独も感じなかったのに……』
びきりと、ラーのむき出しの腕にもついに亀裂が入る。
『私は何の為に生まれてきたのか? ただ一体だけこの世に存在する神の写しみである私はその答えをずっとさはして来ました』
「……答えは見つかったのか?」
『いいえ』
ラーは首を横に振る。
『でも、あなたとのこの決闘でその答えが見つかるような気がするんです……だから先程はあなたの攻撃を躱したんだと思います』
「そうか……よく分かった」
そして理解した。この孤独な神様を救うことが出来る唯一の方法を。
「来い。お前の全てを俺にぶつけろ」
『はい。行きますよ――――』
『
「ふ……」
初めて名前を呼ばれたな。
「さあ、ここからがこの決闘のクライマックスだ」
『その通りですね。私は手札から強欲な壷を発動! デッキからカードを2枚ドローし、バトルフェイズに入ります』
来るか。今更だが、攻撃力9999999999998999は怖いな。
怖くて、怖くて、
「くくく……」
笑いが止まらないじゃないか。
『ラーの翼神竜で黒崎黒乃。あなたの竜騎士に攻撃です! ゴッドブレイズキャノン!!』
まったくやれやれ。俺、神からの攻撃受けるのはこれで何回目だ?
いくらなんでも、そろそろ限界だぞ? そう都合よく防御手段がいつもあるわけではない。
「……仕方がないな」
雪乃。使わせてもらうぞ。
『先生お願いがあるの』
『なんだ?』
『このカードを先生のデッキに絶対入れて欲しいの』
『……なんでこれを?』
『……あなたはいつも無茶するから。そのためのお守りよ』
『信用ないんだな俺は』
『信用してるからよ。先生。あなたはきっとこれから何かに巻き込まれる。いや、巻き込まれ続ける。その時にこのカードがきっと先生を守ってくれるわ』
『やれやれ。随分言い切るな。その自信満々な物言いの根拠はなんだ?』
『竜姫神は伊達じゃないわ』
『……またそれか』
あの時は呆れたが、今はまったくその通りだと思う。
事実、この瞬間に、お前のカードが俺の身を助けてくれるのだからな。
「俺は墓地の超電磁タートルのモンスター効果を発動する! このカードはデュエル中に一度だけ相手のバトルフェイズ中に墓地から除外することでバトルフェイズを強制終了させる!!」
『墓地からモンスター効果を!! そんなモンスターを一体いつの間に墓地へ!? さっきのデビルコメディアンの時にはなかったはずです!!』
おや。意外とちゃんと確認してたのか。もし、このカードがデビルコメディアンで落ちていたら、やばかったかもしれないな。
「いつの間にと言われてもな。最初だよ」
『最初?……っ!! あの時ですか!?』
気がついたか。そうだよ太陽神様。このタートルを墓地に送ったのは、お前が俺をまだ侮っていた、あの序盤のレインボーライフの手札コストの時だ。
『神の攻撃を常に目の前にして、ここまでそのカードを温存していたというのですか?』
「相手が神ならそれぐらいの危ない橋は渡るさ。この決闘、文字通り神頼みなんて出来ないんだからな」
何しろ相手が神なのだから。
『流石ですね。もうそれしか言えません。私はカードを2枚伏せてターンエンドです』
「俺のターン。ドロー!」
来たか! 俺のデッキで唯一まともなドローカード!!
「俺は貪欲な壷を手札より発動! 墓地に存在するE・HEROプリズマー2体と、E・HEROシャドーミスト。そしてシャドール・ビースト。シャードール・ヘッジホック。合計5体をデッキに加え、カードを2枚ドローする!!」
貪欲な壷。墓地にモンスターを叩き落とす俺のデッキではこのカードは中々の相性の良さを誇る。デッキに戻せば、またそのモンスター効果を再利用する手段もあるしな。
『マスター! どうして私をデッキに戻さないんですか!?』
と、うるさいバカが口を挟んできた。
あん? バニラ。お前を戻さない理由? そんなの決まってるだろう。
(お前をデッキに戻したら2ドローが全部お前になるからだよ!!)
『そんな! 流石にそこまでマスターの邪魔をしませんよ!』
ほう。大きく出たな。バカ娘よ。
(本当か? 本当に本当か?)
『え、あう、ほ、ほんとですよ! 私はマスターのエースです! マスターの邪魔なんてしません!!』
その豊満な胸を張り、はっきりとそう言い切るバニラ。
よかろう。
(なら試してやる)
『へ?』
俺はデッキからカードを2枚ドローする。
そしてその2枚の内、一枚は――――
ブラック・マジシャン・ガール
「……」
『……』
『……じこった』
何とも言えない沈黙が俺達を包み込む。バニラにいたっては泣きそうだ。
よかった。バカ娘をデッキに戻さないで。もし戻していたら、このドローでバカ娘は双子になっていただろう。
気を取り直して行こう。じゃないとやってられない。
(行くぞバカ娘)
『は、はい! 頑張っちゃいますよ私!!』
こいつなかったことにしようとしてるな。まあ、いいけど……
「バトルフェイズ。竜騎士でラーに再び攻撃!!」
『また攻撃を! ――――まさか!!』
気がついたか。そう。そのまさかだよ。
「俺はこの攻撃宣言時に速攻魔法 決戦融合バトル・フュージョンを発動!!」
これにより、再びバニラの攻撃力は神を上回る!
『っっ!! その発動にチェーンし、速攻魔法神秘の中華鍋を発動し、ラーを生贄に捧げます!!』
巨大なラーが巨大な鍋に挙げられる……か。絵面として出れば、かなりシュールな光景だっただろうが、ラーは光になり、すぐに消えただけだった。少し残念だ。
『これで私のLPは再び9999999999999000です!!』
足場が消えたため、海に落ちるかと思いきや、ラーは背中から翼を出すことで、空中に留まった。
「ならば竜騎士でダイレクトアタックだ!」
『トラップ発動! ドレインシールド!! これで竜騎士の攻撃を無効にし、その攻撃力分私はLPを回復します!!』
ラーLP9999999999999000→10000000000001600
通らないか。だがトラップは使わせた。
「俺はこれでターンエンドだ」
『私のターンですドローカード! ……ッ!?』
その時、空中のラーが姿勢を崩した。見ると、顕になったラーの翼に大きな亀裂が入っている。
『まだです! ここで倒れるわけにはいきません!!』
だがそれでもラーは尚も飛び続ける。その姿は死に逃避しようとしていた者とは思えない程に力強いものだった。
『私は答えを見つけるんです! 手札から壺の中の魔導書を発動! 互いのプレイヤーはデッキからカードを3枚ドロー出来ます!』
「……ここで手札補充か」
間違いなく、このターンでラーは俺を仕留めに来るはずだ。
だが膨大なライフポイントの俺を倒すには、まずあのカードを墓地から手札に加える必要がある。
『私は手札から魔法石の採掘を発動! 手札2枚をコストに、墓地の魔法カードを一枚手札に加えます!』
魔法回収カード。やれやれ。考えた途端にこれか。流石は太陽神様と言った所か。
『死者蘇生を手札に加えます!』
このタイミングで死者蘇生となると、考えられるのはただ1つ。
1ターンキル。
ラーを代表する効果。かつて遊戯を苦しめた伝説のコンボが今蘇ろうとしていた。
『行きます! 私は手札から死者蘇生を発動します!』
やれやれ、本当にこの太陽神様は俺を楽しませてくれる。
『ラー……私自身を、蘇生召喚!!』
フィールドに不死鳥のごとく舞い戻る太陽神。
「こいつはやばいな」
バトルシティ決勝の王様の気分が少しだけ分かったような気がした。この迫力……本当に他のモンスターとは格が違う。
『そして私のLPを1残し、残りをラーの攻撃力に変換!これでラーの攻撃力は10000000000001599
!!』
だがその効果を使っても今のままでは、まだラーの攻撃力は俺のLPには届かない。
『まだです!私は手札から魔法カード魔法の教科書を発動! 手札を全て墓地に送り、デッキの一番上のカードをドローし、それが魔法カードなら発動出来ます!!』
厄介な魔法を! 本来ならランダム要素が高いカードではあるが、相手は神。間違いなくめんどくさい魔法をドローしてくるぞ!
『ドロー!! ドローカードは魔法カード天よりの宝札!! このカードの効果で互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドローします!!』
「……おいおい」
『なんですかあのドロー運は!?』
『まさにかみびき』
考えられるカードの中でも上級で発動して欲しくなかったカードだ。ここでの敵の手札6枚補充は痛いぞ。
『私は手札から魔法カードフォースを発動。あなたの竜騎士の攻撃力を半分にし、その半分にした数値分……即ち1300をラーの攻撃力に加えます!』
これでラーの攻撃力は10000000000002899!
『そして手札より通常魔法神の進化をラーに発動! 神の進化は神にのみ発動が許された通常魔法カード! 選択したモンスターの攻撃力と守備力を1000ポイントアップさせます!!』
「神専用のサポートカードか」
『更に手札より2枚目の神の進化発動! ラーの攻撃力1000ポイントアップ!』
「なんだと?」
お前、ちょっと引きがチートす……
『そして手札より3枚目。最後の神の進化を発動! ラーの攻撃力を1000ポイント上昇!!』
「……」
『……』
『……まさにですげーむ』
「これで攻撃力は10000000000005899です! あなたのLPを上回りました!!」
この脳筋神!! どんだけ進化するつもりなんだよ!! 確実にホルアクティ超えただろ!
『行きます! 最後のバトルフェイズ!! ラーで竜騎士に攻撃!!』
まずい。今の俺に、奴の攻撃を防ぐ手段はない。
この攻撃は――――受けるしかない!
『ファイナルゴッドブレイズキャノン!!』
10000000000005899。おそらく、この先これ以上の攻撃力をお目にかかれることはないだろう。俺は放たれた神の攻撃を目に焼き付けた。
『これで私の勝ちです!!』
勝利を確信したラー。その命は今まさに尽きようとしている。
だがそれでもラーは楽しそうだった。昏さや自嘲のない純粋な喜びからの笑顔を浮かべていた。間違いなくこの決闘が終われば、ラーは死ぬ。しかしそれでもきっとラーは悲しまないだろう。
『このクライマックスで僕は満足したよ』
そして『あいつ』のように満足した顔で死んでいくのだろう。
それを許すわけにはいかなかった。
だから俺はラーの攻撃を前にこう言う。
「どうかなそれは」
ここで終わるわけにはいかない。
「俺はこの瞬間。竜騎士ブラック・マジシャン・ガールの効果を発動する!」
『このタイミングで!?』
ああ、そうだよ。ここでなくてはならない。
「竜騎士は1ターンに1度、手札1枚をコストに、フィールドに存在する表側表示のカードを破壊出来る。俺は手札を1枚墓地に送り、効果を発動する!! バニラ!! 準備はいいか!」
『はい! いつでも行けます!!』
竜騎士であるバニラが剣を構え、大きく頷く。
『無駄です! ラーにそのような破壊効果は通用しません!』
「なに勘違いしてやがる?」
『え?』
ラーに破壊効果が通用しないのは百も承知している。俺が破壊するのは、神ではない。
「破壊するのは竜騎士ブラック・マジシャン・ガール自身だ!!」
『ば、馬鹿な!?』
『なるほどです。さあ、いきますよ! 私の効果で私自身をーーって、ええええええええええええ!!!??? わ、私ですか!?』
おい。バカ娘。ラーが驚くのは分かるが、なんでお前が驚く。
『さ、流石に自分の効果で破壊されるのは勘弁したいですマスター!!』
なるほどなるほど。その気持ちはよく分かるぞ。バニラよ。
だが断る。
「破壊対象はドラゴンバカ娘で固定!! 自害しろバニラぁぁぁ!!」
『なんか新しいニックネームが!? って、あわわわ!! 身体が勝手に!?』
(ストレス解消だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
『やめてええええええええええ!!!!!!』
「自殺剣ブレイクバニラぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『すごく不本意な技名――ごぼぉ!!』
その剣で自らの胸を貫くバニラ。子供は見ない方がいいな。もちっと歳食ってから出直してこい。
(なんてことだ。いったい誰が!)
誰がこんなひどいことを!
『マスターですよね! 自分のエースぶっ殺させたのはマスターですよね!!』
精霊体になったバニラが俺の傍に現れる。ち! 生きてやがったか。
(いや、俺も苦渋の選択だったんだぞ? エースであるお前を死なせるなんて、あぁ。心が痛む)
『そんな気分爽快だぜ! みたいな顔で言われても説得力皆無です!!』
(正解)
『いつかぐれてやるー!!!』
さて、バニラを弄るのは楽しいが、今は向こうの神様の相手をするべきだな。
『自棄になったのですか!? 自分のモンスターを破壊するなんて!』
「さて、それはどうかな?」
『あなたのことを見直していましたのに、見損ないました。やはりあなたは滅ぼすべき存在です』
おやおや、せっかく上がった好感度が台無しか。
『消えなさい! ラーでプレイヤーにダイレクトアタック!』
仕方がない。王様や顔芸以上に俺はモンスターの扱いがえぐいからな。
『今度こそ終わりです!!』
だがな太陽神様よ。俺はその分、こいつらの力を限界以上に引き出し続ける。
このようにな。
「この瞬間。墓地の幻影騎士団シャドーベイルの効果を発動!!」
『な!? 墓地からトラップを!?』
「ダイレクトアタックを宣言された時、墓地からこのモンスターをモンスターカードとして守備表示で特殊召喚する。ただし、フィールドから離れた場合、ゲームから除外される」
ラーの攻撃の前に、幻影の騎士が立ちふさがる。神の一撃を受け、騎士は消滅するが、その犠牲はけっして無駄ではない。
「躱したぞラー。お前の全力の攻撃を」
『……そうですか。そういうことですか。自分のモンスターを破壊したのは、ラーの攻撃対象を破壊しながら、墓地に幻影騎士団を送る為だったのですね』
「ご名答。流石は太陽神様だ」
別にただストレス解消のためだけにバニラを破壊したわけではない。全ては神の攻撃を躱すための布石。
俺と、俺のモンスターの力を結集しなければ、この結果は決して生まれなかった。
(よくやったバニラ。流石は俺のエースだ)
『は、はうぅ! と、当然です! 私はマスターのエースですから!!』
『おねえちゃん。ないすじさつ』
『それは言わないで下さい!』
顔を真っ赤にし、手をわたわたと振るバニラに苦笑しながら、俺はラーに向き直った。
「悪いな。俺の決闘はお前には受け入れがたいものだろう」
『いえ。少し羨ましくなりました』
「なに?」
『私も、自分のマスターとそんな風に楽しく一緒にいたかった』
「ラー。お前は……」
『ふふふ。神なのに、何を言っているんでしょうかね? すいません失言でした。私はターンを終了します』
エンド宣言をすると、ラーは膝を着いた。だが彼女の足場になっているラーは、霞のように姿を消そうとしている。
『このエンドフェイズに、ラーは自身の効果により墓地に戻ります』
神への魔法効果は1ターンしか受け付けない。従って、ラーは墓地に戻る。
『ありがとうございました。答えを見つけることはできませんでしたが、初めて満足が出来る決闘ができました』
「……」
『私はこれで死――――』
「待っていろ」
『え?』
「今、お前を救ってやる」
『そんなこと出来るはずが……』
「俺のターン。ドロー」
さあ、行くぞ。このターンがクライマックスターンだ。
「俺は手札からマジックカード1枚をコストに、マジックカード
『ダブル……マジック?』
「これで俺はお前の墓地のマジックカード1枚を使用する事が出来る」
『私の墓地の魔法を使用?』
「そうだ。そしてそれがお前を救う
そのカードとは――――
「魔法カード死者蘇生!!」
『! ま、まさかあなたは!?』
「そうだよ。このカードで俺はお前自身を特殊召喚する」
今死にかけているというのなら、他の奴の生命力を与えてやれば、問題ないだろう?
ちょうどここには、俺という決闘者がいる。
『ダメです! そんなことをしたら、あなたの命が危険にさらされます!』
攻撃力1京クラスの攻撃をして来た奴が何を言うか……とも思ったが、ここまでの決闘でラーは俺を滅ぼすと言いながらも、その実本当に俺を殺す気はなかったような気がする。そうでなければ、ただの人間である俺がここまで生き残っているのもおかしい話だしな。
「俺は滅ぼすべき存在じゃなかったのか?」
『それはそうですが……』
「安心しろ」
俺は決して死なない。
まだバニラの師も見つけていなければ、雪乃を1人にする気もない。
何より――――
「俺の人生の
そしてそれは今ではない。
決闘盤を装着した腕を天に掲げ、俺は叫ぶ。
「俺の元に来い! ラーの翼神竜!!」
瞬間。俺の決闘盤のモンスターゾーンに、神のカードが現れた。
そして俺達の背に、ラーが現れた。
「更に、ラーの効果を発動!! 俺のLPを1にし、残りを攻撃力に変換!」
俺の身体が消えていく。
『マスター!?』
『!?』
バニラとウェン子は驚くが、俺は分かっていた。
そう、これが本来のラーの能力。
神との融合。
俺はバニラ達に目を向けると、笑ってやった。
「少しだけ待ってろ。すぐに帰ってくる」
その言葉に、二人は何かを言おうとしたが、ぐっと耐えると、無言で頷いた。
俺は笑みを深めると、神と融合していった。