さて、ここまでは何とか俺の思惑通りに決闘が進められたが、問題はここからだな。
『私のターンはまだ終わっていません』
「……終わって欲しかったんだけどな」
分かってはいたが、そう簡単にターンを渡してくれる気はないらしい。
『私は手札から壺の中の魔導書を発動。この効果で互いのプレイヤーはカードを3枚ドロー出来ます』
「ドロー加速カードか」
さっき使わなかったのは、このカードの発動で俺にバトル・フェーダーのような手札発動するモンスターを引かせないためか。見た目はバカ娘でも、中身は賢い神様らしい。
『私は手札から速攻魔法融合解除を発動します』
融合解除……なるほど。あのコンボをやるつもりか。
「まずいな……」
『へ? でもフィールドに融合モンスターなんか一体もいませんよ? その効果は不発になるんじゃないんですか?』
(確かにお前の言う通りだバニラ)
だがあのラーは……
『今私の場にいるラーは本来プレイヤーとの融合体。従って、融合解除でその融合を解除することが出来るのです』
『いや。いやいや、そんな効果ないですよね?』
『論より証拠。その目で確かめて下さい』
融合解除が発動される。すると膨大なまでの力を蓄えていたラーの攻撃力は一気に0まで落ちた。
そしてその代わりに――――
ラーLP10000000000000000
『な、なんでLPが元に戻ってるんですか!?』
(騒ぐなバニラ。あれがラーの隠された効果なんだよ)
アニメ版のラーは融合解除により、LPから自らに加算されたポイント分のライフを元に戻すことが出来る。
(少しまずいな)
『な、なにがですかマスター? 神の攻撃力が0になったんだからむしろチャンスなんじゃないですか?』
『おねえちゃん。ちょっとおくちにちゃっく』
『ウェン子ちゃんに怒られました!?』
ナイスだウェン子。しかし今は褒めてやる暇はない。
あの融合解除のコンボは顔芸さんが最初にやってから、GXでもフランツというメガネが使っていたが、どちらも相手ターンで使っていた。だが今はまだラーのターン。ならばおそらく奴は……
『私はラーの第三の効果ゴッドフェニックスを発動します』
やはり、そう来るか!!
『LPを1000ポイント払い、あなたの邪精トークンを焼き払います』
ラーLP10000000000000000→99999999999999000
ラーが姿を変える。竜から不死鳥へと。同族のモノでさえ、抹殺できる神殺しの姿へと。
『燃え尽きなさい。命の一雫まで――――ゴッドフェニックス!!』
フィールドを圧倒的な炎が支配した。
邪精トークンは成す術なく焼却され、フィールドから消滅する。
長くないとは分かっていたが、まさか出したターンに処理されるとはな。流石は太陽神様だ。
『まだです。私はラーの第二の効果を発動し、私のLPを1だけ残し、残りを全てラーの攻撃力に変換します』
ということはつまり―――
ラー ATK/99999999999998999
攻撃力が1000ポイントだけダウンした神様が、邪精トークンを処理して帰ってきたということだ。
『更にカードを1枚伏せて私はターンを終了します』
「俺のターンだ」
さてさて、本気になった途端こっちの旗色が悪くなってきやがったな。早いとこ、あのトラウマ確定攻撃力の太陽神様を処理しないとな。
だが手札に、神を倒せるカードなんてそう簡単には来ない。
……ならば、賭けに出るしかないか。
「俺はモンスターを1体セットし、カードを2枚伏せてターンを終了する」
今はこれが俺に出来る最善手だ。
『打つ手なし……とは思いませんよ。あなたは加減など出来る相手ではありません』
太陽神様にそんな高評価がもらえるのは光栄だが、出来ればもう少し油断して欲しかったな。神様だからとえらそうに決闘するより、真面目にやられる方がきつい。
『私のターンドロー……ふむ。いいカードを引きました』
「……」
なにを引いた? あのラーがほくそ笑むのだから、よほど強力なカードだということは分かるが、情報がなさすぎて流石にそれがなにかは特定出来ない。
『バトルフェイズに入ります。あなたのセットモンスターにラーで攻撃……ゴットブレイズキャノン!』
「セットしていたのはE・HEROボルテック。普通に破壊されてしまうな」
『モンスターを壁にして生き長らえたつもりかましれませんが、次にあなたのターンが来ることは永遠にありません』
「なんだと?」
『このターンであなたを倒します』
ラーの口から勝利宣言が出た。三幻神の頂点である太陽神からである。
『な! そんなの不可能です! あなたの場に攻撃出来るモンスターはもういません! バトルフェイズはもう終了です!』
おいやめろバニラ。それはまずい。そんなこと言っちゃダメだ。
『! おねえちゃん。それだめ!!』
慌ててウェン子がバニラの口を塞ごうとする。頼むぞウェン子。そのバカ娘を止めてくれ!
『え!? なんでですか、ウェン子ちゃん?』
『せつめい、しぬ』
『はい? 別に私はこのターンでマスターが負けることは絶対に有り得ないというだけで……』
あかん。手遅れだ。バニラの奴、完全に負けフラグを立てやがった。
遊戯王において、説明は敗北へ直結するフラグとなる。
そしてここはその、遊戯王GXの世界。
『それはどうでしょうか?』
この世界の住人……ましてや、神と呼ばれたモンスターがその勝機を逃さないはずがないのだ。
『エンドフェイズに移行し、私は手札から速攻魔法闇からの奇襲を発動します』
「闇からの奇襲……だと?」
おい、それって顔芸が使ったインチキ魔法じゃないか。
『マスター。なんだかすっごく強そうな魔法なんですけど、あれ、どういう効果なんでしょうか?』
「バトルフェイズがもう一度出来る」
『はい?』
「だからバトルフェイズがもう一度出来るんだよ!」
『はいいいいいいいいいいい!!!???』
遊戯王は基本、フェイズが巻き戻ることはない。だがその基本をぶっ壊すぶっ壊れカード。それが闇からの奇襲だ。てか、バニラよ。お前記憶がないとはいえ驚きすぎだ。一応お前はあれ王様と一緒にいるときに、顔芸から食らったはずだろうが。
まあ、いいか。今はそんなことよりラーだ。
「ならば俺はトラップカードを発動させて貰おう」
やれやれ、止む追えないな。予定よりも速く賭けをするしかない。
「トラップカード デビルコメディアンを発動する。コインの裏表を当てることで、効果を確定する。俺は表を宣言。表ならお前の墓地を全て除外する。裏ならお前の墓地のカードの数だけ、デッキの上からカードを墓地に送る」
『このタイミングでの効果――――狙いは裏の効果ですか』
俺は不敵に笑った。
「さあ、ギャンブルと行こうぜ。コイントス」
フィールドに現れた2体の悪魔がコイントスを行う。宙に舞うコインは何度も回転しながら、悪魔の手の甲に戻る。
そのコインは――――裏だった。
「グゥレイト。当たりだ」
『大した強運です』
「そうでもない。普通の運は最悪だからな。俺が強いのは悪運の方だ」
なんせ、異世界に来てからというもの、トラブル続きだからな。
「俺はデビルコメディアンの効果により、デッキからお前の墓地の枚数分……即ち、11枚のカードを墓地に送る」
墓地に送ったカードの中に……希望はあった。
『カードを墓地に今更送っても、何の意味があるんですか?』
「何かって?」
そんなの決まってるだろう。
「クライマックスの下準備だよ」
そして今、最後の仕込みを行う。
「コメディアンの効果で墓地に送られたシャドール・ヘッジホック。E・HEROシャドーミスト。シャドール・ビーストの効果をそれぞれチェーン3、2、1で処理する」
『出た! マスターの意味不明な呪文!』
『おねちゃん。おくちにちゃっく』
『ウェン子ちゃんが発言を許してくれません!?』
さあ、バカはほっといて補充フェイズだ。
「ヘッジホックの効果により、デッキからシャドール・ファルコンを手札に加え、シャドーミストの効果でE・HEROエアーマンを手札に加える」
そしてラストはランダム補充だ。
「シャドールビーストの効果でデッキからカードを1枚ドローする!」
ドローしたカードは――可能性を斬り開くカードだった。
「全ての準備は整ったぞラー」
さあ、そろそろ始めるとしよう。
「ここからがクライマックスだ」
『流石と言いたい所ですが、あなたはここで終わりですよ』
『潔く散って下さい』と、ラーに再び攻撃命令が下される。
『ゴットブレイズキャノン!!』
再び放たれる神の鉄槌。
しかし、既に俺の可能性は開かれている。
「トラップ発動。ピンポイント・ガード。相手モンスターの攻撃宣言時に発動する。俺の墓地からレベル4以下のモンスターを表側守備表示で特殊召喚し、このターン。戦闘及び効果では破壊されない」
『流石ですね。しかし、このターンのみの延命措置にすぎません』
「いいや。残念ながらそうじゃない」
『え?』
俺は既に笑みを隠しきれなかった。
「既にさっきのデビル・コメディアンがこのトラップの可能性を開いた」
『なにを言って……』
「見せてやる太陽神様。俺が墓地から蘇生するのは、E・HEROプリズマーだ」
『……攻撃は意味がありませんね。私はカードを伏せてターンを終了します』
「俺のターンドロー。俺はE・HEROプリズマーの効果を発動し、エクストラデッキの竜騎士ブラック・マジシャン・ガールをお前に見せる。これによりデッキからブラック・マジシャン・ガールを……」
『させません。トラップ発動無力の証明。私の場にレベル7以上のモンスターがいる時、相手の場のレベル5以下のモンスターを全て破壊します。よって、あなたのレベル4のプリズマーは破壊されます』
ラーが吠える。その咆哮により、プリズマーは為す術なく破壊された。
だが、ここで終わる訳にはいかない。
「通常召喚。E・HEROプリズマー」
『なにがなんでも、そのモンスターを場に存在させますか』
「こいつはうちの過労死マンだからな。E・HEROプリズマーの効果を発動。エクストラデッキの竜騎士ブラック・マジシャン・ガールをお前に見せる。これによりデッキからブラック・マジシャン・ガールを墓地に送り、プリズマーはこのターンブラック・マジシャン・ガールとなる」
『ですが、それでは何の意味もありません。序盤で使ったモンスター殲滅の魔法カードでも、神である私を破壊することは出来ません』
「なら、見せてやるよ」
俺の可能性を斬り開くジョーカーをな。
「手札からティマイオスの眼を発動する」
『……ティマイオスの眼』
「このカードは、俺の場のブラックマジシャンモンスター1体を対象として発動出来る。俺は場のブラック・マジシャン・ガールとなったプリズマーを選択し、発動する」
『なるほど。私の知っているティマイオスとは違うのですね』
「どうやらそうらしいな。だが、可能性を開くという点では同じだ」
例え、どんな絶望的な状況だとしてもな。
「ブラック・マジシャン・ガールを融合素材として墓地に送り、エクストラデッキからそのカード名が記されている融合モンスターをエクストラデッキから融合召喚する」
(行くぞバニラ!)
『んーんー!!』
自分の口を手で押さえて、なにやってんだお前?
『たぶん、おくちにちゃっくしてるんだとおもうよ』
あー。本当にやってるのかこのバカ娘は。
まあ、いいか。静かだし。
「竜の眼の導きにより、新たな可能性は目覚める!!」
フィールドに現れる俺のエース。その進化した姿。
「融合召喚! 全ての可能性を斬り開け! 竜騎士ブラック・マジシャン・ガール!!」
『これが、あなたの精霊の新たな姿ですか?』
「ああ。そうだ。こいつが可能性を斬り開く」
『面白いことを言いますね。あなたの竜騎士の攻撃力では私には決して届きませんよ』
「バトルフェイズに入る」
『! 話を聞いてましたか?』
「当たり前だ」
既に俺の手札には
『あの、マスター待って下さい!』
(……なんだ?)
なんで味方であるお前が攻撃するのを止めるんだよ。
(ビビったか?)
『違います。ラーの姿を見てください!』
ラーの姿だと? どっちだよと思いつつ、俺はモンスターとしているラーと決闘者としているラー。両方に目を向ける。
「!」
それで、気がついてしまった。
両方のラーの身体に目を凝らさなければ分からない程だが、小さな亀裂が入っていることを。
「ラー。お前は……」
『……ああ。気にしないで下さい。これは最初からです』
最初からだと? それは一体どういう意味で……
俺の考えていることを察したのか、頬の亀裂が入り始めているラーは微笑んだ。
(あれは――――)
死を迎える直前の人間が浮かべる顔だ。
どうしようもなく悲しく、儚いその顔を俺は知っていた。
『私、もうすぐ死にますから』