遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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黒乃死す!?

『……いいでしょう』

 その声は直接頭に響いた。気配を感じ見ると、ラーの球体の一箇所から人の姿が生まれようとしていた。

『本来なら、あの島にいる悪しき者達を始末してからイレギュラーであるあなたに対処するはずでしたが、立ちふさがるというなら容赦はしません』

「これはこれは、怖い神様だな」

 まあ、原作のラーも天罰とかしてたからな。これぐらい行動が極端なのは仕方ないか……しかし、それはそれとして、ラーの声を、どっかで聞き覚えがある気がするのだが、どこだったか?

 

 

『私の全力で、あなたを排除しましょう』

 

 

 完全に人の姿になったラーのその姿を見た俺は驚きで目を見開いた。

 ラーの姿は、バニラ……ブラック・マジシャン・ガールの姿だったからだ。流石に衣装はあの露出度の高い服ではなく、黄金のドレスになってるが、それでもあれは間違いなくバニラだ。

「裏切ったのかバニラ!」

『え、ちょ! 私隣にいますよ!? あれは私じゃないです!!』

『そんな。ばにらおねえちゃんひどいよ。わたしたちをだましてたんだね』

『ウェン子ちゃんまで!? ここです! 私はここにいますよ!!』

 知ってるよ。面白いからやっただけだ。しかし流石はウェン子。俺のネタに乗ってくるとは。空気が読める幼女だ。

『……あなた達、随分余裕がありますね』

 呆れたように俺達を眺めるラーに、俺は肩をすくめた。

「いや、神様を前に緊張してるんだよ。だからふざけでもしないと、やってられないのさ」

『分かっていたことですが、人間とは理解するのが難しいものですね』

 黄金の決闘盤を腕に装着したラーは俺を睨みつける。

『ですが、これだけは分かります。相対した以上あなたは倒さなくてはいけない存在です。今、ここで……』

「その意見には賛成だ。俺もここでお前を倒す」

(ウェン子空中での姿勢制御は任せた)

『ん。りょうかい』

『……マスター。私は?』

(余計なことをしなければ後はどうでもいい)

『ウェン子ちゃんとのこの落差はなんですか!?』

だってお前バカだし。 

 

 

 

「『決闘!!』」

 ラーLP4000

 黒乃LP4000

 

 

 

 

『先行は私が貰いますよ。ドロー』

 さて、最高神のお手並み拝見だ。どんな決闘をしてくる?

『私は手札から魔法カード天使の施しを発動します。デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てます』

 いきなり手札交換か。しかし――

「手札から捨てたのはなんだ?」

『捨てたのはサクリファイス・ロータスとエンシェントクリムゾンエイプです』

「なに?」

 ラーの捨て札に俺は反応してしまった。

『マスター? どうかしたんですか?』

「……」

 バニラに、返答する余裕もない。まさかラーの奴、あのコンボをする気か?

『そして私は手札から王虎ワンフーを攻撃表示で召喚します』

「……おいおい」

 間違いないな。これはかなりまずいぞ。後は墓地のあいつを蘇生するカードがあれば――――

『更に死者蘇生を発動。墓地のエンシェントクリムゾンエイプを攻撃表示で特殊召喚』

 ……あるのかよ。

『いきなり攻撃力2600のモンスターですか!? マスターまずいですよ!』

(……ぶっちゃけそこはどうでもいい)

『やばいね。ますたー』

『へ?』

 ウェン子は分かるのか。そう、本当にやばいのはここからだ。

『そして私はターンエンドです』

『マスター! 私達のターンです! 一気にやっちゃいましょう』

(いや、まだだ)

『へ?』

 ……ここからが長いんだよ。

『この瞬間。墓地のサクリファイスロータスの効果発動。自分フィールド上に魔法・トラップカードが存在しない時、自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚出来ます。しかし私の場には王虎ワンフーがいます。このモンスターがフィールド上に存在する限り、攻撃力1400以下のモンスターが召喚、特殊召喚に成功した時、そのモンスターを破壊します。よってロータスは破壊されます』

『……は! マスタープレイミスです! ラッキーですよ!!』

(黙れ、ゴッドバカ娘)

『神級のバカって言われました!?』

 これがプレイミス? は! むしろその逆だよ。

 ラーLP4000→5000

『へ!? ラーさんのライフが増えてます! なんで!?』

(エンシェントクリムゾンエイプは自分のモンスターが破壊された時、LPを1000回復する効果を持つ)

『あ、なるほどー』

『そしてまだエンドフェイズ中なので再び、ロータスの効果を発動し、墓地から自身を攻撃表示で特殊召喚します。しかし再びワンフーの効果で破壊。エイプの効果で私はLPを1000回復します』

 ラーLP5000→6000

『ほへ?』

 バニラがポカンとした顔でラーを見る。まあ、そうだよな。あのコンボを初見で見たら、そんな反応しちまうよな。

『ロータス効果で蘇生。ワンフー効果で破壊。エイプで回復します』

 ラーLP6000→7000

『……あのマスター』

(なんだバニラ?)

『これっていつ終わるんですか?』

(あいつが飽きるまでだよ)

 基本的にこのコンボに終わりは無い。遊戯王のコンボでも最上級ランクの戦術。無限コンボだからな。

 そして今ラーがやってるのは無限ライフゲインと呼ばれる凶悪なライフ回復コンボだ。

 やろうと思えば、どこまでもLPを回復することが出来る。

 本来発動には手間がかかる下準備が必要なのだが、あの神様は1ターンで完成させやがった。

 まじで厄介だな。

『特殊召喚。破壊。回復。特殊召喚。破壊。回復』

 神様も省略し始めた。まあ、そうだよな。やってる方も同じ手順の繰り返しだからめんどくさいよな。  

 しかしこのままダラダラ続けられると、このコンボだけでタイムリミットを迎えそうだ。

 ……仕方がないな。

「神様。好きなLPを言え。そのLPでやってやる。このままお前のコンボを見るだけじゃあ、退屈すぎて寝ちまいそうだ」

『分かりました』

 よし。これでタイムリミットの心配はなくなったな。後は、ラーがなんの数値を言うかで決ま――――

 

 

 

 

『では私はLPを1京にします』

 

 

 

 

 ……はい?

『マ、マスター? 1京ってあれですよね? 兆の上の……』

『さいしょから、くらいまっくす』

 バニラお前1京を知ってたのか……なんて言う台詞も出せない。いやさ、確かに理論上は可能なんだけどさ、いくらなんでもふっかけすぎじゃないかな、ラー様よ? 邪神もびっくりだぞ?

『さあ、あなたのターンですよ』

「ああ。ドローする」

 さて、これはどうしたものか。いくら俺でもLP1京を相手にしたことはない。どんな高火力デッキでも殴っても削りきれる数値ではない。となると、やはり搦手で行くしかないか。

「俺はE・HEROプリズマーを攻撃表示で召喚する」

 プリズマーの攻撃力は1700。ワンフーの効果で破壊されることはない。

『しかし、そのモンスターの攻撃力では私のエイプには敵いませんよ?』

「慌てるな。プリズマーの効果を発動。エクストラデッキの竜騎士ブラック・マジシャン・ガールをお前に見せてデッキから竜騎士の融合素材ブラック・マジシャン・ガールを墓地に送り、このターンエンドフェイズまでプリズマーの名前をブラック・マジシャン・ガールに変更する」

プリズマーが光を発したかと思うと、その姿はバニラになっていた。と言ってもただの写し見なので、本物のように喋れないが。

『それで何をするのですか?』

「お前のモンスターを全滅させるんだよ」

『?』

「手札から魔法カード黒・魔・導・爆・裂・破を発動。このカードは俺の場にブラック・マジシャン・ガールがいる時に発動可能だ。俺の場にいるプリズマーは今、ブラック・マジシャン・ガールだ。よって発動可能だ」

『単純なコンボですね』

「シンプルイズベストってやつだ。魔法効果でお前の場の表側表示モンスターを全て破壊する」

『どうぞ』

ラーのフィールドのモンスターが全て吹っ飛ぶ。だがラーは悔しがる所か、余裕の表情で俺の行動を眺めている。まあ、ライフが1京もあったら余裕だよな。

『それでどうするのですか? そのモンスターで私に直接攻撃しますか?』

『当然です! マスターやっちゃって下さい!!』

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

『どぅえ!?』

バニラがずっこける。相変わらすいいリアクションだな。見ていて飽きない奴だ。

『マスター! どうして攻撃しないんですか!?』

(殴ってどうする? 相手のライフは1京もあるんだぞ?どうやって削りきるんだよ?)

『気合いです!』

(お前、本当に魔法使いか?)

戦士に鞍替えした方がいいんじゃないかこのバカ娘は?

『私のターンです。ドロー』

さて、ここからが問題だな。一応相手の生け贄要因モンスターは潰したが、無限ループを1ターンでやってくるような相手だ。

俺の予想なら、おそらく奴はこのターンーーーー

『私は手札からデビルズ・サンクチュアリを3枚発動します』

『3枚!?』

詰め込みにも程があるぜ神様。どんな手札だよ。

『今ここに3体の生贄が揃いました』

 この展開……ラーの最後の手札。あれは間違いなく――――

『私は3体のモンスターを生贄に、私自身……』

 

 

 

『ラーの翼神竜を召喚します』

 

 

 

 

 来る。圧倒的な力の化身が。

 ラーの立っているスフィアが変形する。雄々しき竜へと。

 誰もがひれ伏す絶対なる神の姿にへと。

『ラーの翼神竜降臨!!』

 三幻神最強のモンスターラーの翼神竜。それが今、フィールドに現れた。

 なるほど。身体が引き裂かれそうな絶対的なオーラ。他のモンスターとは格が違うということか。

 神を前にして俺に恐れや恐怖は微塵もない。

「くくく……」

『マ、マスター顔がまた凶悪になってますけど、大丈夫ですか?』 

 

 

 あるのはただ血が沸騰するような愉悦のみだ。

 

 

『……私を前にして、そのような反応をするのはあなたが初めてです』

「そうかい? 神様の初めてをもらえるなんてそいつは光栄だ」

『……』

「さて、それでどうするんだ? ラーの攻撃力は生贄に捧げたモンスターの攻撃力の合計によって決定するらしいじゃないか。今、お前の攻撃力は0。随分弱い最高神様だな」

 無論、ただの挑発だ。今俺が相対しているラーがそんな簡単に倒せるモンスターではないことは分かっている。

『……ラーは自分のLPを1になるように払うことで払ったLP分をラーの攻撃力に変換する効果を持っています』

「そいつはとんでもない効果だな」

 本家ラーは死者蘇生で墓地から蘇生した時にしか、このLPを攻撃力に変換する効果は使えなかったが、GXのラー。今俺が相手をしているコピーラーは生贄召喚した時でもこの効果を使えてしまう。更に、ラーの代名詞たるゴットフェニックスモードも強化されている。

 ぶっちゃけ、本家よりも今俺が闘ってるコピーラーの方が強いだろう。

『私はLPを9999999999999999を支払い、ラーの攻撃力に変換』

「やれやれだ」

これはもう笑うしかない。攻撃力9999999999999999のラーだぜ? 滅多にお目にかかれるもんじゃない。

だがこれで、1京あった奴のLPは1になった。これならまだ俺にも勝機はある。

もっともそれには、フィールドに降臨してる太陽神様を倒さなければならないのだーーーー

『サレンダーするなら今の内ですよ? この決闘でのダメージは現実のものになります。死ぬどころか、灰すら残りません』

「おやおや、随分お優しい太陽神様だな。意外と人間には寛大なのか?」

『あなたの心配をしているわけではありません。あなたが従えているモンスター達の事を案じているのです』

どうやらフラれたようだ。肩をすくめる俺など、気にもとめず、心優しい太陽神様はバニラ達を見た。

 

 

『あなた達も今すぐここから逃げなさい。そのままではいくら精霊でも生き残ることは出来ませんよ』

 

 

ラーは本心からバニラ達、モンスターの事を心配してるのだろう。俺の時とは違い、バニラ達と話すラーには優しさすら垣間見えた。

だがそれを、

 

 

『ふざけないで下さい!!』

 

 

『ろんがい』

 

バニラとウェン子は怒りで答えた。

 

『私はマスターのエースです! その私がマスターを見捨てるなんて有り得ません!!』

『おなじく』

『って、え!? ウェン子ちゃんはマスターのマスコットでしょう?』

『えーすをねらえ』

『なんかいつの間にかエースの座を狙われてます!?』

 

 

『正気ですか? あなた達は……』

 

 

 理解出来ないと言った風に、ラーは吐き捨てる。

  

 

「さて、話は終わったようだな。決闘を続けようか」

『ふざけないで下さい。このまま決闘を続けたらあなたのモンスター達が犠牲になるんですよ? 少しでもモンスターの精霊のことを大切に想ってるなら、今すぐ決闘をやめなさい』

「断る」

『!』

 ラーの顔が怒りに歪む。まるで積年の怨敵を目の前にしたような目で俺を見る。

『あなたも、かつて私を従えた者達と同じなんですね。モンスターをただの下僕としか見ずに、道具のように自らの目的に使う』

「ふ……」

 どうにも嫌われたようだな。だが、かつて従えていた者達か……

「お前を従えていた奴って、もしかしてファラオとかのことか?」

『……』

 図星か。やれやれ。こいつもわかりやすい奴だな。バニラの姿を真似たせいで、頭の悪さも伝染ったのか?

『気のせいでしょうか。今マスターがすごく酷いことを考えてたような気がします』

 おっと。本家のバニラ最近勘が鋭いみたいだな。

 しかしコピーラーだと思っていたが、案外今俺が相対しているのは本物のラーの意思なのかもしれないな。

 だからこそ言っておかなければいけないことがある。

 

 

「勘違いするなよラー。俺はお前を従えてた奴等とは違う」

『自分は特別だと言いたいのですか?』

「まさか」

 俺は自分の分はわきまえる主義だ。自分がそんな大層な役だとは思っていない。

「俺は王様のような主人公でも、顔芸のような絶対的な敵役でもない。ただの脇役だよ」

 この世界には既に遊城 十代という主人公がいる。俺なんかじゃ逆立ちしたってあいつには勝てない。

 イレギュラーはあくまでイレギュラー。俺の物語なんて本物の奴等の物語に比べたらちっぽけな物だろう。だからこそ言える。

「だからこそ、俺はこいつらを見捨てない。脇役の俺なんかに力を貸してくれるこいつらを、俺は決して見捨てない」

『口だけでは何とも言えます』

「まったくだ。なら、行動で示してやるからさっさとかかってこいよ」

 しばらくの逡巡の後、ラーは何かを決意したように俺を見た。

 

 

『いいでしょう。あなたを私の滅ぼすべき存在と明確に認識しました』

 

 

 『受けなさい』と、ラーの首の後ろの天輪に光が収束していく。

 

 

『ゴット・ブレイズ・キャノン!!』

 

 

 光は一瞬で限界まで溜め込まれると、直線上にいる俺達にむかって放たれた。

 攻撃の先にいるのはプリズマー。考えるまでもなく、この攻撃を受ければ、俺の敗北は確定する。

 

 

 だが、自分で言うのも何だが、俺はゴキブリ並にしぶとい男だ。

 この程度であきらめるなど出来るはずがない。

 

「トラップ発動 アルケミー・サイクル」

『無駄です。ラーに……私に、トラップは通用しません』

「残念ながら、このトラップの狙いはお前じゃない」

『どういうことです?』

「見てみな」

 俺が指差すと、ラーは釣られて俺の指の先を追う。

『な!?』

 そしてそこには、攻撃力0となったプリズマーがいた。

「アルケミー・サイクルの効果で発動時に俺の場にいるモンスターの攻撃力は0になる」

『なにを考えているのですか? それではただの自爆です』

「無論ここでは終わらない。俺はもう1枚トラップを発動する」

『ダブルリバース!?』

 驚くラーには悪いが、これはコンボと言うにはあまりにお粗末な小細工だ。

 だが、先程言ったように、派手さが決闘の全てじゃない。シンプルな技が、時に突破口を開くことだってある。

 

 

 このようにな。

 

 

「トラップカードレインボーライフを発動。手札1枚をコストに、このターン。俺への全てのダメージは回復効果になる」

『馬鹿な!?』

「言ったはずだぜ? シンプルイズベストってな」

 ラーの攻撃による受けるダメージ。つまりその9999999999999999の攻撃力が全て俺のライフに加算される。

 

 

 ……つまり

 

 

黒乃 LP10000000000003999

 

 

『先程の私のLPを上回った!?』 

「お前が連続回復なら、俺は超回復って所だな」

『……』

 おうおう。悔しそうに歯ぎしりしちゃって。やめてもらいたいな。バニラの姿だから、もっと煽りたくなってしまう。

「俺はアルケミーサイクルの効果で1枚ドローだ」

『……私はターンエンドです』

「おやおや、伏せカードはなしなのか神様?」

『そんなもの必要ありません』

「そいつは随分な余裕で……俺のターン。ドロー」

 引いたカードは……なるほど。こいつは面白いカードが来たな。

「俺はトラップカードを1枚伏せる」

『!?』

『マ、マスター!?』

『せんげんした……』

 その場にいる精霊達が全員目を見開く。いいな。お前たち。いいリアクションだ。俺も盛り上げがいがあるというものだ。

『ふざけてるのですかあなたは?』

「真面目にふざけてるのさ」

『っっっ!!』

 怖い怖い。神の怒りとやらはおっかないな。離れてるのに、首を絞められているような錯覚すら感じる。

「そう怒るなよ。これは俺からのサービスって奴だ」

『……どういう意味ですか?』

「このトラップはお前の正しい行動をとれば、ただの使えないトラップに成り下がる」

『……間違った行動をとれば?』

「神殺しのトラップになる」

『……』

 くく、いいね。その顔。俺の表情から情報を1つでも多く探ろうとしている顔だ。

 だがリアルファイトならいざ知らず、こういう闘いは俺の得意分野だ。

 

 

「ターンエンド。さあ、太陽神様。あんたの番だ」

 

 

 さあ、ここが運命のターンだ。

 

 

 

 

『ドローします』

 ドローカードをラーは確認するが、それは今欲しいカードではない。

 ラーのデッキはライフ無限回復のコンボを取り入れてるため、どうしても普通のデッキに入ってるような魔法トラップ除去カードを入れることが出来なかった。神召喚の生贄の確保と、無限コンボを優先したためである。

 そして今、それが完全に裏目に出ていた。

(屈辱です……)

 本来なら、神の強力な耐性故に、召喚にさえ成功すれば後はトラップなどを警戒しなくても済んだのだが、先程のレインボーライフがラーの攻撃を躊躇させていた。

 あのカードも先程と同じで神に対して発動するトラップではないのではないか?

 そう思ってしまうのだ。

(なにを躊躇っているですか? 私は神なのですよ?)

 それも三幻神最強の太陽神。

(……そうだ)

 この身は写しみとはいえ、あのような男に、負けるはずがない。

 あっていいはずがない……絶対に。

「ラーの翼神竜で攻撃!」

 

 

(この私を殺せるトラップなど存在するはずがないんです!!)

 

 

『ゴッドブレイズキャノン!!』

 

 

 ラーを最後に動かしたのは、読みでも勘でもなく、神としてのプライドだった。

 

 

 そんなはずはないと、全ての可能性を否定し、自分に都合のいい未来だけを夢想した。

 

 

 

 

 そしてそれこそが……運命を分けた。

 

 

 

「!!」

 黒乃LP10000000000003999→LP4000

 神の攻撃を受け、消し飛ぶ黒乃。

『愚かな人です』

 ラーはそれを見届けると、ぽつりとそう呟いた。

 灰すら残らない。例えライフが残っていたとしても、神の攻撃に耐えられる者などいるはずがないのだ。降参すれば命までは取るつもりはなかったというの――――

 

 

 

 

「どうかなそれは」

 

 

 

 

『!?』

 ラーの目が大きく見開かれる。声がした方に目を向けると、黒乃が、彼の精霊たちが変わらぬ姿でそこにいた。

 そしてそれだけではない。

 

 

 黒乃LP10000000000003999

 

 

 確かに削ったはずのLPが元に戻っていた。

『馬鹿な!! 一体なにをしたと言うのですか!!』

「特に変わったことはしてないさ。さっきも言ったように、神殺しのトラップが発動しただけだ」

『!?』

 見ると、黒乃の場には1枚のトラップがオープンされていた。

「トラップカード。フリッグのリンゴ。このカードは俺の場にモンスターが存在しない時に、俺が戦闘ダメージを受けたときに発動出来る。その受けた分のLPを回復する」

『それで私の攻撃をかわしたと言うのですか?』

「それだけじゃない。言っただろう? これは神殺しのトラップだと」

 黒乃のフィールドに何かが現れる。一つ目の陽炎のようなその何かは、ラーと肩を並べるほどに巨大となる。

『なんですかそれは!?』

「邪精トークン。こいつは面白いトークンでな。このトークンの攻守のポイントは俺がさっき回復したポイントと同じになる」

『回復した数値と同じ? まさか!?』

「そうだよ……」

 黒乃は笑う。不敵に、だがどこか楽しそうに、神を嗤う。

 

 

「この邪精トークンの攻撃力は、今太陽神と同じ9999999999999999だ」

『バカな! トークンごときが私と並ぶなんて!』

「お前が攻撃してくれたおかげだ。感謝するぞ」

『っっ! あなた、最初から私を攻撃するように挑発していたんですね? だからさっきあえて、トラップと宣言してカードを伏せた!!』

トラップなど通用しないのだという自分の中の驕りがダメージを与える所か、相手に反撃の糸口を与えてしまった。その事がラーはどうしようもなく腹立たしい。

 

(しかし……)

 

 

認めなくてはならない。あの青年の事を。ただのイレギュラーとしてではなく、一人の決闘として。

(見つけました)

この仮初めの命を全て燃やしつくすべき敵を。少し離れた島にいる悪しきものたちでこの命を燃やそうと思っていたが、気が変わった。

 

『あなた名前は?』

 

 

「……黒崎 黒乃だ」

 

 

『黒崎黒乃。なるほど。覚えました』

 

 

自らの最後の敵として、神はその名前をはっきりと記憶に刻みこんだ。

『ここまでは失礼しました。正直私はあなたを侮っていました』

だがここからは違う。

ここまではあの青年の掌の上だったが、今からは――――

 

 

『あなたに神の決闘を見せてあげましょう』

 

 

ただ全力を持って、黒崎 黒乃という決闘者を粉砕する。

 

 

「いいだろう。ここからが本当の闘いだ」

 

 

対する黒乃は不適に笑った。


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