遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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太陽神降臨

「……そろそろあんたの目的を聞いてもいいかペガサス会長?」

 ヘリコプターに乗り、移動を開始してから数十分が経過した。今ヘリは海の上。デュエルアカデミアを目指して、全速前進中だ。

「……そうですね。そろそろいい頃合でしょう」

 頷くと、俺の隣に座っていたペガサスは足元に置いておいたアタッシュケースを取ると、その留め具を外した。

「ミスター黒崎。私がユーに会った目的はこれデース」

 開かれるアタッシュケース。その中には1枚のカードが保存されていた。

「……」

 そのカードを見て、俺は思わずげんなりした顔をしてしまった。ただのカードなら、もっと違った反応をしただろうが、中に入っていたカードがあまりにもとんでもないカードだったからだ。

 

 

 

 

 ラーの翼神竜。

 

 

 

 

 遊戯が扱う三幻神の中でも最高位の神であり、漫画版なら『神にもランクがあるんだよー!』とかいう意味不明効果で他の神のカードの効果を一切受け付けていなかったりとか、アニメ版でも凡骨さんが焼かれたりとか、古代神官文字とかいうゴリラ語を唱えないと、攻撃も守備も出来ないよ★とか、色々他の神様とは一線を画した通称ラーのよく死ぬりゅ――――失礼。太陽神だ。

 そのカードがアタッシュケースに入れられていたんだ。ゲンナリするなというのが無理な方だ。

「これは研究用に我社が作った神のコピーカードデース」

 ああ、そう言えばGXで出てたよな。ラーのコピーカード。

 ……ん? でもあれは二期でのジェネックスとかいう大会での話だったよな? 確かカードデザイナーに盗まれたんだっけ? アニメを初めて見た時は、神のカードなんだからもう少し管理しっかりしようぜペガサス……とか言って笑ってたな俺。

 

 

「ミスター黒崎。このカードをユーに預かって欲しいのデース」

 

 

 へー。成る程。成る程。神のカードを俺に預かって欲しいねー。

 

 

 ……はい?

 

 

「信じられないと言った顔ですが、ジョークでもなんでもありまセーン」

「ジョークであって欲しかったよ……」

 コピーカードとは言え、神のカード。扱いを間違えれば、大惨事になる上に、例え扱わずとも持っているだけで何かトラブルに巻き込まれることは明白だ。

 断ろう。一瞬でそう判断した。俺はバカ娘とあのエロ娘で手一杯なんだ。これ以上トラブルを起こしそうなモンスターの面倒を見るのはごめ――――

 

 

『ふわー。よく寝ました。マスターおはようございますー』

 

 

 いきなり俺とペガサスの間にバニラが出てきた。朝からいないとは思っていたが、やっぱり寝てやがったのか。こんな時間に起きるとはいい身分だな。

(とりあえず二度寝してろ。そして出来れば永眠しろバカ娘)

『起きた瞬間からひどいです!?』

 やかましい。こちとら社長と会長と、重役のダブルコンボで疲れてんだよ。お前の相手をしている余裕などない。

『って、あれ? なんだか懐かしい気配がしますね?』

 首を傾げ、バニラが視線を落とすと、そこにはラーのコピーカードがある。

 ……何故だろうか。今俺はとんでもなく嫌な予感がした。このままバニラを自由にさせると、何か取り返しのないことをしでかしそうな――――そんな予感だ。

(動かずに、隅で大人しく――――)

『あ! 神のカードじゃないですか!』

 制止の声は間に合わず、バニラがラーのカードに手を伸ばす。

 

 

 バニラの手がカードに触れた瞬間。異変は起きた。

 

 

 

直視するのが危険と感じるほどの光がラーのカードから溢れだしたのだ。

『きゃわ!? な、なんですか!?』

(このバカ娘がぁ!!)

余計な事しやがって!

「ノー!? 一体何事デスカ!?」

そんなの俺が聞きたいわペガサス!

光はわりとすぐに収まったので、閉じていた瞼を開き、俺はアタッシュケースの中を見る。

「おいおい」

だがアタッシュケースの中には何もなかった。ラーのカードが消えていたのだ。

おいおい。これ、大問題じゃないのか?

『マ、マスター! 外! 外見てください外!!』

(今はそれどころじゃない!)

『お願いだから見て下さい! とんでもないことになっちゃってます!』

 なにがとんでもないことだ。こっちの方が絶対にとんでもないに決ま――――

 

 

 

 

「って、なんじゃこりゃあああああ!!??」

 

 

 

 ちらりと見ただけだったが、俺はすぐに首ごと窓に向け、外にいる『そいつ』に目を向けた。

 

 

 『そいつ』は、巨大な黄金の球体の姿だった。

  俺たちのヘリのすぐ傍で浮遊している『それ』を、知らなければ冗談でも言えたのかもしれないが、『それ』の正体を知っている俺としては、冗談も口に出来る余裕などなかった。

「ラーの翼神竜!!」

 そのスフィアモード。まだ卵の様な状態だが、紛れもなくあれは太陽神ラーだ。

(勘弁してくれ……)

 あれはソリッドヴィジョンのようなまやかしの存在ではない。あれから発せられる迫力が、神々しさが、確かにあれが実体として存在することを俺に否応なく教えた。

「何故ラーが実体化してるのですか!? これはアンビリーバボー! 有り得ない事デース!!」

 しかも精霊が見えないペガサスが見えているという事は、あれは一般人にも見えるということだ。本当に冗談じゃないぞ。ここが海の上だから良かったものの、人が集まってる所なら、パニック確定だったぞ!

『……ますたー。ちょっとまずい』

 と、俺の思考にウェン子の声が割り込んで来た。

(どうした?)

 現時点でまずいのに、まさかまだ何かあるというのか?

『あれ、ゆっくりだけどまえにすすんでる』

(ああ、それは俺から見ても分かるが……)

『たぶんだけど、あれ、ますたーがせんせいやるところにむかってる』

(なんだと!?)

 おい。ちょっと待て。それはかなりまずい! あんな物がアカデミアに行ったら、遊戯王GXの物語自体に大きなイレギュラーが起こるぞ!

 

 

「だー! もう! 畜生!!」

 

 

 止めるしかない。あれがアカデミアに着く前に何とか元のカードに戻さなければならない。基本的に物語には大きな干渉をする気がなかったが、こればかりは話は違う。

 主人公である遊城 十代では絶対に対処出来ない。今あれを止められるのは、同じくこの世界にとってイレギュラーである俺だけだ。

(行くぞウェン子!)

『ん。了解』

『あれ、マスター! 私もいますよ! 忘れてませんか!?』

 やかましい。あのイレギュラーを起こすことになった原因になった奴が何を言うか。

「ペガサス。俺はこれからあいつに対処する。あんたは出来るだけ離れてくれ」

 立ち上がり、ヘリの扉を開きながらそう言うと、ペガサスは困惑したように俺を見た。

「対処する? 一体どうやってですか?」

「信じられないかもしれないが、かつてのあんたみたいに俺には特別な力を持ったアイテムがあるんだ。それを使ってあのラーを止める」

「……そんなことが出来るのですか?」

「さあな。流石に神様相手すんのは初めてだから確約は出来ない」

 邪神を相手したことはあるけどな。

「でも何もせずに後で後悔するよりは、何かやって後悔したい主義なんだよ俺は」

「……ミスター黒崎。あなたは一体何者ですか?」

 何者かって聞かれてもな。俺自身自分が何なのかと言い切れないしな。

 あえて言うなら――――

 

 

「ただの決闘者だよ」

 

 

 俺はそう言うと、空へと飛び出した。

 

 

 

「ミスター黒崎!?」

 突然ヘリコプターから飛び出した黒乃に、ペガサスは思わず手を伸ばす。

 しかし、間に合わず黒乃は空へとその身を投げた。

 そのまま黒乃は重力に引かれ、海に落ちる……

 

 

 本来なら。

 

 

「!?」

 見ると、黒乃は落ちていなかった。それ所か、鯨の人形のような物の上で立っている。

「一体なにが起こっているというデース?」

 当然疑問が沸くが、ペガサスは黒乃が言ったことを尊重することを優先した扉を閉め、ヘリコプターの操縦席で困惑する部下に指示を出した。

「ここから離れるのデース。しかし出来れば、彼の様子を見守れることの出来る距離にして下サーイ」

 言いながら、ペガサスは友人である藤原の言葉を思い出していた。

 

 

『黒崎は予想出来ない男だ。奴の行動。そしてやつの周りで起こる事もな。だが予測不可能故に、我々が不可能と思っていることもなし得てしまうだろう……それがどんなことでもな』

 

 

 謎の多い友人だが、藤原がそこまで他人を評価しているのを初めて聞いたペガサスは、黒乃という人物に興味を持った。そして記録されていた黒乃の決闘を見、彼ならラーを託せるかもしれないと思った。

 しかし結果は予想の斜め上を行った。一体どういった現象で起こったのかはデュエルモンスターズの生みの親であるペガサスでもまったく分からないが、ラーが実体化という完全に予測不可能の事態にだ。

(……本当に彼は何者なのデスか?)

 それを見極める為にも、ペガサスは窓から黒乃の姿を、その片目で追うのであった。

 

 

 

 

『マスター。止めると言いましたけど、具体的にはどうするつもりですか?』

「簡単だ。これを使う」

 俺は片腕に装着されたシュヴァルツ・ディスクを掲げる。

「ラーが神とは言え、それはモンスターだ。ならこのデュスクなら出来ることがある」

『……マスター、まさか――――』

 バニラの顔面が蒼白になる。ほお、俺がやろうとしていることに気がついたか。珍しく察しがいいじゃないか。

「ああ、そうだよバニラ。神をキャプチャーする」

『ややや、やっぱりー!? マ、マスター正気ですか!?』

「狂気だよ」

 じゃなきゃ、神に挑むなんてやってられるか。

 最強の三幻神。ラーの翼神竜。

 相手にとって不足などあるはずがない。

「くくく……」

 俺は凶悪な笑みを浮かべている自分を自覚しながら、空中に浮遊する黄金の球体を睨みつけた。

 

 

 

 

「さあ、俺と決闘してもらおうか? ミスター神様」

 

 

 

 

 神との決闘が、今まさに始まろうとしていた  

 

 




※特別次回予告
バニラ「ついに始まったマスターとラーとの決闘! しかしラーはそのタクティクスと効果で圧倒的な攻撃力でマスターに襲いかかる! 対してマスターのフィールドにモンスターは0。頑張ってくださいマスター!! これに耐えれば、反撃開始です!!
 次回 黒乃死す!?
 デュエルスタンバイ!!」

ウェン子「またみてねー」
 

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