遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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トリシューラの効果解決時に、まだナイトメアデーモンズが残っているので修正しました。


GX就職準備編第6話『可能性を切り開く者』
氷結VS爆裂


「トリシューラか……」

 厄介……なんて言葉では片付けられないモンスターだ。

「トリシューラの影霊衣のモンスター効果。儀式召喚に成功した時、相手のフィールドのカード1枚と、手札の1枚、そして墓地のカードを1枚ゲームから除外するわ」

『な、なな、なんですかそのインチキ効果は!!??』

 驚愕するバニラ。まあ、そうだよな。俺もあれの元の奴の効果を見た時はそう思ったよ。

「全てを破壊しなさい。ダイヤモンドダスト!」

 トリシューラの影霊衣が手に持つ氷の剣を振るう。

 剣の氷が砕け、弾丸となり、それらは全て一斉に俺たちに襲いかかってくる。

「トリシューラの影霊衣の効果により、先生! あなたのブラック・マジシャン・ガールには消えてもらうわ!」

『マスター! なんとかなりませんか!?』

(おいおい。いくらなんでも無茶いいすぎだろう。そんなに都合よく相手の効果を防ぐことが出来るカードなんて持ってるわけない)

『ふええ! 私ここでジ・エンドですか!?』

(まあ、防ぐことが出来ないだけだけどな)

『ふえ?』

 この効果をまともに受けるわけにはいかない。まだ発動する気はなかったが……そうも言っていられないな。

「俺はお前のモンスター効果にチェーンし、トラップカード ナイトメア・デーモンズを発動する」

『おお! 流石はマスターです!! それでその効果はなんですか?』

「このカードを発動するにはまず自分のモンスター1体を生贄にする必要がある」

『なるほどなるほど。発動コストに自分のモンスター一体が必要なんですね…………って、マスター。今フィールドに私しかいないんですけど? これもしかして私って……』

「当然生贄だ」

『やっぱり――――!!!』

 バカ娘をコストにナイトメア・デーモンズが発動。雪乃の場に3体のトークンモンスターが3体現れる。

「……どういうつもりかしら?」

 雪乃がやや困惑したように俺に尋ねてくる。無理もない。俺が雪乃に渡したトークン3体は攻撃力が2000だからな。

「そんなことをしても除外はされるわよ? そして私のモンスターの攻撃は全て直接攻撃になってゲームオーバーよ?」

「くく、それでいいんだよ」

「……なるほど。理解したわ」

 雪乃が眉をしかめる。理解が早い女で助かる。

 俺の手札とフィールド。そして墓地のカードがそれぞれ1枚ずつ除外された。だが、雪乃は表情を変えない。

『ひどいです! マスター!いつも私を生贄にして!! そんなに私をいじめて楽しいですか?』

 文句を言ってくるバカ娘に苦笑する。やれやれ。何を言うかと思えば、そんなの----

(楽しいに決まってるじゃないか) 

 とってもいい笑顔で答えてやった。

『マスターがすごいゲス顔ですーー!!!』

「……夫婦漫才はもういいかしら?」

「誰が夫婦だ。誰が」

 不機嫌そうな顔で何を言ってるんだあのエロ娘は。こんな奴が妻だなんて有り得ないぞ。俺はもっと家庭的で馬鹿じゃない女の方が好みだ。

『わ、私とマスターが夫婦!?』

 そしてバカ娘よ。お前はなんで顔を真っ赤にしている?

「私は儀式の素材にした影霊衣の術師シュリットの効果でデッキからブリューナクの影霊衣を手札に加えるわ。そして手札からブリューナクの影霊衣を手札から捨て、その効果を発動する」

『え、手札から効果を発動する儀式モンスターですか?』

「……出たな」

 これが影霊衣の最大の特徴だ。影霊衣の儀式モンスター達には全てに手札から捨てることで発動できるモンスター効果がある。その効果はどれも強力だが、特にあのブリューナクの影霊衣はやばい。

「この効果で私はデッキからブリューナク以外の影霊衣を手札に加えるわ。私はデッキからグングニールの影霊衣を手札に加える」

 しかも加えたのはグングニールか。雪乃の奴、俺を殺す気満々だな。

「バトルよ。先生がくれたナイトメアデモンズトークンで直接攻撃」

「くく、これはこまった大ダメージを受けてしまうな」

「……芝居はいらないわ先生。あなたならこの程度を防ぐ方法を持っているはずよ。でないと、わざわざ私にトークンを渡したりしないでしょう?」

 まあ、そりゃあバレてるよな。

「俺は手札からバトルフェーダーの効果を発動。相手の直接攻撃時、このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させる」

「ターンエンドよ」

「俺のターンだ」

 手札を確認するが、今の俺の手札に雪乃のモンスターを破壊出来るカードもなければ、防御手段もない。

 

 

 仕方がない。ここはドローしてから考えるか。

 

 

「ドロー」

 せめて何か強力なカードが来てくれれば儲け物だが……

 さて、ドローしたカードは……

 

 

 

 

 ブラック・マジシャン・ガール

 

 

 

 

「……」

『あ、あははは。あー。なんと言いますかー』

 バニラは静かに俺の隣で――――土下座した。

『ごめんなさいぃぃぃ!!!!』

 ははは、いいさ。なんとなく分かっていたさ。どうせこうなるって。ここぞという時に必ず来るんだもんなお前。

 

 

 事故要因として。

 

 

「俺はカードを3枚伏せてターンを終了する」

「私のターンね。ドロー。うふふ。さあ、バトルよ先生」

 再び雪乃の攻撃が来る。儀式召喚をしてこなかったのが唯一の救いだが、それでもきついことに変わりはない。

「ナイトメアデモンズトークンで先生のバトルフェーダーに攻撃するわ」

「バトルフェーダーは破壊され、自身の効果でゲームから除外される」

「2体目のトークンで先生に直接攻撃!!」

 雪乃の命令を受け、俺に悪魔が迫りよって来る。やれやれ。微妙にホラーだぞこれ。

「さあ先生! これを防がないと、先生のLPは半分になるわ!」

「その心配は意味がない」

「……どういうことかしら先生?」

「くくく。すぐ分かるさ」

「?」

 

 

 迫り来る悪魔の前に影が立ちふさがる。

 その影は――――

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールだった。

 

 

「な、なんで? どうしてその子がフィールドにいるの?」

「答えは簡単だ」

 俺は俺の場に、オープンされているカードの1枚を指さした。

「お前の攻撃宣言時にトラップカード魂のリレーを発動していた」

「魂の、リレー?」

 おやおや、流石の雪乃も知らないか。

 まあ無理もない。このカードは最凶に使い勝手が悪いカードだからな。

「魂のリレーは発動した時、手札からモンスター1体を特殊召喚することが出来る。レベルは関係なしにな。そしてこの効果で特殊召喚したモンスターがフィールドに存在する限り、発動プレイヤー……すなわち俺はあらゆるダメージを受けない」

「な!? そんな強い効果を持つカードが存在すわけないわ!」

 その通りだよ雪乃。

「当然デメリットは存在する。魂のリレーで特殊召喚したモンスターがフィールドを離れた時、俺は決闘に敗北する」

「!」

「言ったはずだ。LPの心配なんて意味がないと」

 何故なら、バニラがやられた瞬間に、この決闘は勝負がつくのだからな。

「……ふざけてるのかしら先生?」

「そう思うなら来いよ。バニラは攻撃表示でその攻撃力は2000。俺のプレゼントしたトークン達なら相討ち出来るぞ?」

「……ナイトメアデモンズトークンの攻撃は念の為に中断するわ」

「ほう……」

 流石に乗ってはこないか。

「代わりに私はトリシューラの影霊衣でブラック・マジシャン・ガールに攻撃!!」

 トリシューラの戦士が飛翔する。圧倒的なスピードでバニラに肉薄すると、手に持つ剣でバニラを貫こうとする。

 だが悪いが、それを通すわけにはいかない。

「トラップ発動! ガガガシールド! 発動後、このカードは装備カードとなり、自分フィールドの魔法使い族モンスターにのみ、装備が出来る」

 バニラの前に盾が出現し、それを装備したバニラは咄嗟にその盾で、トリシューラの戦士の剣を受け止めた。

「そして装備したモンスターは1ターンに二度まで、戦闘、効果では破壊されない」

「……戻りなさい。トリシューラの影霊衣」

 悔しそうな顔でトリシューラの戦士が雪乃のフィールドに戻っていく。まあ、そうだよな。こんなバカ娘すら倒せなかったんだ。最強の影霊衣としてのプライドはずたずただろうな。

 悔しいでしょうねぇ。

「ターンエンド、よ」

 その時――――一瞬、本当に一瞬だけだが、雪乃が自らの唇を噛んだ。

 それはアイドルでもなければ、竜姫神でもない。

 本当の藤原 雪乃が見せた表情だった。

(……なるほどな)

 俺の脳裏に思い出されるのは、俺がレシェフと決闘をする前のゾークとの会話だった。

 

 

「黒崎、我の頼みを1つ聞いてくれないか?」

 シュヴァルツディスクの説明を受け、デッキを調整した後、ゾークがそう切り出してきた。

「え? なんだ?」

 ちょ、なんだろう? なんか微妙に怖いんですけど。魂くれとか。一緒に世界を滅ぼうそうぜとかか? やばいな。断っても相手は闇の支配者。後が怖すぎ――――

「雪乃のことを救ってやって欲しい」

 だが俺にそう頼んできたゾークは、闇の支配者というよりかは、親の顔をしていた。

「どういうことだ?」

「雪乃はおそらく苦しんでいる。それが何かはわからんが、我やルインには相談出来ない悩み……孤独を抱えている」

「その根拠は?」

「親としての――――勘だ」

「おいおい……」

 それってほとんど根拠がないってことじゃねえか。

「親に相談できないことを、昨日会った男が解決出来るわけねえだろ」

「ただの男ならな。だが、お前は雪乃が選んだ男だ」

 「我は出来ると信じている」と、ゾークは勝手に言ってのけた。

 そんな闇の支配者――――いや、1人の父親に、俺の返答は1つだった。

 

 

 

 

「気が向いたらな」

 

 

 

 

 

 

(やれやれだ) 

『マスター?』

 こんな所で思い出すとはな。まったく間が悪すぎる。

 

 

 

 『気が向いてしまった』じゃないか。

 

 

 

「……うふふ。そんなにイカされたくないのかしら? 案外先生にも可愛いところがあるのね」

 いつも通り、艶っぽい微笑みを浮かべる雪乃。だが、先程本当の雪乃を見た俺には、それがただ取り繕っているようにしか見えなかった。

「……」

「あら、今度はだんまり? 先生って意外と子供なの――――」

「雪乃」

 俺は雪乃の名をただ呼んだ。

「……なにかしら?」

「俺はお前の事をガキだと思っている」

「あら、随分な評価ね。でも仕方ないわ先生から見たら私は確かに子供に見え――――」

「違う。歳の差とかじゃない。俺は精神的なことで言っている」

「つまり、私が子供に見えると?」

「ああ。そうだ。お前はどうしようもなく臆病な奴だ」

「……そんなことを言われたのは生まれて初めてだわ」

 「そう思う根拠を聞こうかしら?」と、雪乃は俺に問いかけてきた。

「決闘だよ」

「決闘?」

「ああ。決闘はそれを行う決闘者がどんな奴なのかがよく分かる。雪乃お前の決闘はひどく臆病だな」

「臆病……ですって?」

「ああ」

 この決闘でもそうだが、前に見た大地とかいう奴との決闘を見る限り、雪乃のプレイはひどく臆病なものだった。天魔神による手札リセットと、墓地から発動するモンスター効果を多発し、相手の動きを封殺するあの戦術は豪快とも見れるが、少し見方を変えれば過剰なまでの防御ともとれる。

「雪乃。お前は大人びた口調や言動をしているが、そんなのはただの仮面でしかない。お前の今の本質は相手を翻弄しないと不安になってしまう臆病なガキだ」

「……」

 雪乃は何も喋らない。ただ黙って俺を見つめる。

 逆にうるさかったのは、外野だ。

「雪乃を馬鹿にするな!!」

「雪乃様はそんなに弱くない!!」

「ユキノンは僕らのアイドルなんだ!!」

 自分達のアイドルが侮辱されたことが許せないのか、俺に対して汚い野次や侮蔑の言葉が聞こえてくる。だが俺は言葉を紡ぐことをやめなかった。

「お前に何があったのかは分からない。だがこれだけは言える」

 デッキの上に手を置き、そして俺は不敵に微笑んでやった。

 

 

 

 

「お前のその孤独に、俺がクライマックスをくれてやる」

 

 

 

 

 引く。カードを。

「ふ――」

 そして引いたカードを確認し、俺は思わず苦笑してしまった。

「やれやれだ」

 偶然にもそのカードは夢で渡されたカードのもう1枚の方だった。

 デッキには入れてなかったが、なるほど。ティマイオスの眼と同じで勝手に入り込んでいたか。

 だがいいカードだ。この状況で。雪乃の心に一回目の衝撃を与えるカードとしてこれ以上のカードはない。

「手札より黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)を発動する」

「! そこいる子の攻撃名と同じ名前のカード!?」

「このカードは自分フィールドにブラック・マジシャン・ガールモンスターが存在する場合に発動することが出来る。相手フィールド上の表側表示モンスターを全て破壊する!!」

「なんですって!?」

 驚愕する雪乃。それに笑みを返し、俺は指示を出した。俺のデッキの事故モンスター兼エースに。

「行けバニラ!!」

『はい!!』

 バニラが空に飛ぶ。雪乃のモンスター全てに上昇すると、滅びの力を込めた杖を雪乃のモンスター達に向け、叫ぶ。

 

 

 

 

黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!!』

 

 

 

 

 次の瞬間。フィールドは大爆発を起こした。

 

 

 

 


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