「先行は俺が貰うぞ。ドロー」
『マスター。雪乃さんの様子が変です』
(分かっている)
明らかに今の雪乃はどこかおかしい。この決闘であいつを見極める必要がある。
「俺はシャドール・ドラゴンを攻撃表示で召喚し、カードを2枚伏せてターンエンドだ」
ならば、まずは様子見だな。これで雪乃がどんなアクションをするのかを観察する。
「私のターンドロー。先生、もしかして私の出方を伺ってるのかしら?」
お見通しというわけか。
「ああ。いきなり先走る男はダサいだろう」
「うふふ。確かにそうね。私は手札からマンジュゴッドを攻撃表示で召喚するわ。その効果で私はデッキから竜姫神サフィラを手札に加える」
竜姫神サフィラ……雪乃のエースにして、もう1人の雪乃自身か……
「更に永続魔法 儀式の檻を発動する。さて、これで下準備は出来たわ」
「そっちは初っ端から飛ばすな」
不敵に笑う雪乃に、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
「そして儀式魔法 祝祷の聖歌を発動! フィールドのレベル4マンジュゴッドと手札のレベル2メタモルポッドを生贄にし……儀式召喚!」
『マスター!』
(ああ)
どうやらお早いご登場のようだ。
「舞台の幕は上がった。光輝くステージに、我が魂は顕現する!」
「現れろ! 竜姫神サフィラ!」
フィールドに降臨する竜の姫神。
(うむ。いやはや、敵として見てもやはりふつくしいな。あれこそエースって感じだ。うちのバカ娘にも見習って欲しいものだな)
『聞こえてますよマスター! っていうか、やばくないですか!? このままじゃあ---』
(ああ、そうだな。流石にこの召喚を許すわけにはいかない)
というわけで、登場早々悪いが、退場願おうか。
「お前が儀式召喚した瞬間にリバースカードオープン。 黒魔族復活の柩 その効果でお前のサフィラと俺の場のシャドールドラゴンを対象に発動」
サフィラとドラゴンの背後に柩が現れ、2体を取り込む。
「サフィラとドラゴンをリリースし、先生はデッキから闇属性の魔法使い族を特殊召喚する……でいいわよね?」
「ああ」
切り札を失ったというのに、雪乃は悲しむ所か、逆に愉快そうに微笑んでいる。ブラフではなく本心からの笑みだ。
「さあ先生、呼ぶのでしょう? あなたのエースを」
雪乃は俺を、そして俺の傍にいるバニラを見る。
「……」
『マスターどうしたんですか?』
雪乃のあの目。隠してはいるが、微かに殺意のようなものが見える。そしてそれは先程感じた殺気と同質のものだ。先ほどの殺気も、今の殺意も、全てバニラに向けられている。
俺が意識を失う前には、雪乃はバニラにあんな感情を向けていなかった。俺が寝ている間に雪乃の中でなにかの『変化』があったのか?
(……バニラ)
『はい。なんですかマスター?』
(ちょっと死んでこい)
『いきなりひどいです!?』
雪乃の『変化』を見定めるためにもやはり呼ぶのはバカ娘が適任だ。
「俺はデッキからブラック・マジシャン・ガールを攻撃表示で召喚する」
「来たわね」
『マ、マスター。気のせいでしょうか? なんか私このターンで酷い目にあう気がします』
くすりと笑う雪乃にバニラがびくびくしている。いやバニラよ。それは多分気のせいではないぞ。
「更に、黒魔族復活の棺で墓地に送ったシャドールドラゴンの効果で雪乃。お前の儀式の檻は破壊させてもらう」
「あらあら、これじゃあずっと先生のペースね」
肩をすくめる雪乃。口調とは裏腹に、まだまだあいつには余裕がある。
『お、オッケーです! 雪乃さんのフィールドはがら空き!! マスターの圧倒的な優勢です!!』
自分に言い聞かせるように言ってるなバニラの奴。呆れて文句も言えんぞ。
(ソウデスネー。バカムスメ)
『なんで片言ですか。てか、私間違ったこと言ってないと思いますよ!!』
(お前、雪乃が生け贄に使ったモンスターを覚えてるか?)
『雪乃さんが生け贄にしたモンスター? えっとマンジュゴッドと、メタモルポット……って、あれ?』
ふむ。バカ娘でも気が付いたようだな。
雪乃が生け贄にした奴等は効果を発動してこそ意味があるモンスター。こんな序盤に生け贄に使うべきカードじゃない。
まして雪乃のデッキは儀式を主体としているため、どうしても手札消費が激しいデッキだ。ならば手札補充効果の持つメタモルポットは温存するべきなのだ。
なのに、雪乃はそれを生け贄にし、サフィラを召喚した。手札に他に生け贄モンスターがいなかったとも考えられるが、それでも無理してこの後攻1ターンでサフィラを召喚する必用などないのだ。
となると考えられるのは――
「私はカードを一枚伏せて手札から魔法カード天よりの宝札を発動するわ」
『! あれは鳥さんが使ってた手札増強カード!』
「……やはりそうか」
これで間違いない。先程のサフィラは囮だったのだ。俺にリバースカードを使わせ、更に天よりの宝札による手札増強を増やすために雪乃がうった布石。
俺はどうやら奴の思惑通りの行動をとってしまったらしい。
やれやれ。楽しませてくれそうだ。
「腹黒女め」
「あら、誉めてくれるなんて嬉しいわ先生」
「だが初対面より好印象だ」
『ええ!? なんでですか?』
それぐらいのテクは見せてもらわないと、こちらもイカせがいがないからな。
「うふふ。こんな所で好印象なら、決闘が終わる頃にはもう私なしじゃいられなくなってるわ」
「ずいぶんな自信だな? なら、せっかく手札が6枚もあるんだ。その自信の証拠を見せてもらおうか?」
「ええ。あなたをこのカードでイカせてあげるわ」と、雪乃は手札の1枚を決闘盤に差し込んだ。
「見せてあげるわ。私が手にいれた力を! 儀式魔法発動」
やはり儀式で来るか。さあ、何が出てくる? 藤原 雪乃と言えばリチュアだがーーー
「影霊衣の反魂術」
「なんだと!?」
これには流石に俺も驚くしかなかった。なにかやばい奴が来るとは思ってたが、俺の予想を遥かに超える激やばな奴らが来たからだ。
「その反応。先生はこの力のことを知ってるみたいね」
「……嫌になるほどな」
俺の元いた世界の現役決闘者でその名前を知らない奴はいないと断言出来るほどの超強力なカードシリーズだからな。大会に行ってもうんざりするほど闘わされた。
「なら、手加減なんて無用ね。行くわよ先生。私は手札からレベル3の影霊衣の術師シュリットを生贄に捧げ、レベル9のトリシューラの影霊衣を召喚するわ」
『レベル3のモンスターを儀式の生贄にして、レベル9のモンスターを召喚? そんなこと出来るわけが---』
「いや、出来る」
『え?』
なぜなら、あのシュリットには――――
「そう。影霊衣の術師シュリットは自身の効果で影霊衣儀式モンスターを儀式召喚する場合、このカード1枚で儀式召喚に必要なレベル分のリリースとして使用できるのよ」
『はいぃぃ!?』
「それだけじゃないわ。このカードが効果でリリースされた時、デッキから戦士族の影霊衣儀式モンスターを手札に加えられるのよ」
『イ、インチキ効果も大概にしてください!!!』
激しく同意だバニラよ。だが残念ながら今は文句言ってる暇なんてないぞ。
なぜなら早速、影霊衣の最強モンスターがお出ましするのだからな。
「さあ、行くわよ」
くすりと笑うと、瞬間、フィールドが支配された。
『なんですかこれは!?』
見たままの感想を言うなら、フィールド全体が凍っている。
温度も、景色も、時間すらもが凍結している。
その凍結の中心である雪乃は1枚のカードを天に掲げていた。
「最古にして最強の龍よ。今一度蘇り、その滅亡の力を示せ!」
全てを凍結させていた巨大な力が、雪乃の掲げるカードへと集束していく。凍結していたフィールドも元に戻る。
「汝の名は----」
そして----
「トリシューラ!!」
最強の破滅の力を持った戦士がフィールドに現れた。