遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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絶望の就職試験決闘1

 さて、時計の針は少し進む。受付で少々予想外なことがあったが、その後は概ね俺の知っている遊戯王GXの第一話の展開だった。

 十代がエアーマン三沢と、みんなの嫌われ者丸藤 翔と出会い、クロノスと入学試験デュエルを始めた。

 そして……

 

 

「くらえ! スカイスクレーパーシュート!!」

「マンマミーア! 我がアンティークギアゴーレムがー!!」

 

 

 アニメ通りの決着だ。

 いや、初めてソリッドビジョンのデュエルを見たが、やはり迫力が違うな。柄にもなく見ていてテンションが上がった。

「いえーい勝っちゃったぜ! 俺!!」

「見事だな十代」

 喜び、デュエルフィールド上で喜びをあらわにする十代。俺が近づくと、十代は俺に向かって例のガッチャポーズを取った。

「へへ、ありがとなクロノ先生」

「……先生か」

 受付で俺が教師になるためにこの試験会場に来ていることを知っている十代は俺のことを早くも先生と呼んでいた。元の世界では普通に大学生をやっていた俺としては違和感を感じまくりだ。

「はあ……まあ、まだ教師になると決まったわけではないぞ十代」

 受付では全ての受験生のデュエルが終わった後に、就職試験として受験生達の前でデュエルをしてもらうと言っていたが……まあ、普通に考えるなら勝たなきゃいけないよな。

「大丈夫だって、クロノ先生なら絶対勝てるって!」

 根拠など0だが、主人公が言うと説得力があるから不思議だな。

「まあ、やるだけやるさ」

「おう! じゃあ近くで見てるぜ先生!!」

 そう言って、十代は下がった。

『マ、マスター初陣ですね! き、緊張はしてませんか?』

(流石にあるな。だが、お前よりはマシだと断言できる)

 DNA改造手術で機械族にされたのかとツッコミたくなるぐらいにガチガチの動きなバカ娘。

 いや、お前が緊張してどうするよ?

『さっき受付では教えてもらえませんでいたけど相手は誰なんでしょうか? 強い人じゃなければいいんですけど……』

 なんという豆腐メンタル。それでいいのかモンスターの精霊よ。

(……まあ、相手はなんとなく予想がつくけどな)

『え? どうしてですかマスター?』

 不思議そうに首を傾げるバカ娘に俺は肩をすくめた。

(お約束って奴だ)

 

 

 

 

「ペペロンチーノ!!」

 

 

 

 

 と、さっきまで十代に負けたショックで膝をついていたクロノスが立ち上がった。

「あなたが新任の教師となるクロノですノーネ? あなたの就職試験の相手は私ですーノネ!!」

 びしっと俺の向かい側から俺を指差すクロノスに少し笑みを浮かべてしまう。

「はい。そうですよクロノス教諭」

「……何がおかしいのデスか?」

「いや、立ち直るのが意外と早かったと思いまして」

 原作では初期のクロノスは小悪党キャラで、プライドが高かった記憶がある。

「あんなに受験生に罵詈雑言を言っておいて負けたんです。もっとショックを受けてると思って……」

「あなた……喧嘩を売ってますーノ?」

「ええ」

『え、ちょ! マスター!?』

 驚いたように俺を見るバカ娘だが、無視する。

 確かにここでクロノスの評価を悪くするのは教師となる俺にとってはマイナスになるだろう。

 だが知ったことではない。

 何故なら---

「俺、()のあなたはちょっと好きになれそうにないです」

 そう。何を隠そう俺は初期のクロノスが嫌いだった。

 エリートであるオベリスクブルーのことを特別視し、オシリスレッド達のことを落ちこぼれと称し、下に見る……

 

 

 そういう割り切り方をする人間が俺は嫌いだった。

 

 

「年上に対する態度がなってませんノーネ。あなた本当に我がアカデミアに就職する気はあるーノデスか?」

「まあ、口の悪さは実力でカバーってことにしてください」

 俺は腕につけたデュエルディスクを展開する。

 そして一度は言ってみたかった台詞を言うことにする。

 

 

「おいデュエルしろよ」

 

 

「のぼせ上がるんじゃないノーネ! 青二才の鼻っ柱なんてへし折ってあげるーノです!」

 

 

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 

「先行は俺がもらおうか」

 さて、クロノスにヴェルズデッキの恐ろしさを存分に味あわせてやるとしよう……

「ん?」

 …………

 あれ? 手札を見て、俺は首を捻った。

 何故なら手札は---

 

 

 メタモルポッド

 賢者の宝石

 熟練の黒魔術師

 黒・魔・導

 千本ナイフ

 

 

 ……だったからだ。

(……おいバカ娘)

『は、はい! なんでしょうかマスター?』

 俺の怒りを感じ取ったのだろう。俺の傍らに控えていたバカ娘はびくりと肩をすくませた。

(俺のヴェルズデッキはどうした?)

『あ、そのーあのデッキはですね。ちょっとこっちの世界に持ってくるのは邪悪すぎますので……』

(結論を言え)

『元の世界に置いてきちゃいました……すみません!!』

 頭を下げてくるバカ娘。俺はもう怒りを通り越して逆に冷静だった。

(それで、このデッキはなんだ?)

『あ、それ、私のデッキなんです』

 ……何となく予想はしていたが、やはりそうか。

(なら、もう一つ聞くぞ。俺の記憶が確かなら、ブラックマジシャンは行方不明のはずだよな?)

『はい。その通りです』

(このデッキの中にもブラックマジシャンは入ってないんだよな?)

『はい』

 うん。もう限界だ。これはキレてもいいだろう。

 

 

(じゃあなんで俺の手札にブラックマジシャンの専用魔法が3枚もあるんだよ!!!!)

 

 

 

 この手札3枚完全に死に札じゃねえか!

 後ついでに熟練の黒魔術師もただのバニラモンスターになってるぞ!!

『……あ』

 おい、なんだその『……あ』はまさかお前……

(外すのを忘れてた……とか言うんじゃねえだろうな?)

『ま、まだドローが残ってますってマスター! 一枚のカードで逆転できるのがデュエルモンスターズです!!』

 その意見には賛成だが、とりあえずバカ娘。お前これが終わったら覚えておけよ。

 

 

「俺のドローだ……」

 

 

 とりあえず、何かまともなカードを引かないとまずい。

 いきなりだがデスティニードローをするぐらいの気合で、引かせてもらう!!

 

 

「ドロー!!」

 

 

 来い! この絶望を消し去る希望のカード!!

 

 

 引いたカードは---

 

 

 

 

 ブラック・マジシャン・ガール

 

 

 

 

『……あ、どもですマスター』

 

 

 ……これが絶望か。

 とりあえず分かったことは、俺の異世界初デュエルは苦戦が約束されたということだ。

 


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