「……なるほどな」
バニラ達から今の状況を聞いた俺は頷いた。
「少し寝坊しただけでここまでとんでもないことになってるとはな」
さっきから聞こえるこの爆発音とかは間違いなく全部ベストロウリィ達の戦闘音だろう。どうやら決闘ではなくリアルファイトを行っているようだ。
「マスター! どうしましょうか!? やっぱり鳥さんに助っ人に行きますか?」
「いや、俺達は逃げる」
「え!?」
「ん。それがいい」
バニラは驚くが、ウェン子はこくりと頷いた。
「マ、マスター! 鳥さんを見捨てるんですか?」
「おねえちゃん。それはちがう」
「え?」
ふむ。どうやらウェン子は俺の意図を理解しているようだな。賢い幼女だ。
「話を聞く限り襲撃をした奴等の目的は俺だろ? なら、俺がここにいれば、それだけ闘いが長引く」
「でも鳥さんが!」
「分かっている」
見捨てるつもりなんて毛頭ない。
むしろその逆だ。
「さあ、行くぞ。少々派手に逃げるとしよう」
「はあ!!」
「ぐふぁ!?」
剣闘獣の拳を受け、部下のモンスターの一体が昏倒する、
剣闘獣はゼラから見ても、恐ろしい程の戦闘力だ。
だが、ゼラに恐怖はなかった。
当然だ。何といっても数が違う。
たとえ相手が強くても、それは所詮個にすぎない。物量で圧倒すれば、なんの問題もない。
事実、剣闘獣もほんの少しだが動きに無駄が出始めた。
(倒すのは時間の問題か)
そう思い、ゼラが内心でほくそ笑もうとしたーーーその時だった。
「レディースアーンドジェントルメン! ってか?」
「!?」
ゾーク邸から一人の青年が出てきたのは。
「貴様!!」
無意識の内にゼラは叫んでいた。その青年こそが自分たちの襲撃の目的であるシュヴァルツディスクを持つ人間。
確か名は---
「はじめましてだな。そこの襲撃者の団体様。俺が黒崎 黒乃だ」
くくくと、不敵に笑う青年に、ゼラを始めとした襲撃者達は殺気立つ。
「! 黒乃! 目覚めたのか?」
「ああ、おかげさまでな。それよりベストロウリィ。ずいぶん楽し
そうな遊びをやってるな。俺も混ぜてくれよ」
剣闘獣に親しげに話しかける様は、本当に命を狙われていることを理解しているのかと問いかけたくなるほどに、気楽に身構えていた。
ゼラはその事に苛立ち、剣闘獣は苦笑した。
「いいだろう。と言いたいが、残念ながらお前にはあまり時間が残っていないであろう?」
「雪乃のことか? まあ、確かにあまり時間はないがーーー」
言いながら青年は腕に装着した漆黒の決闘盤から1枚のカードをドローすると、にやりと笑った。
「これ1枚を発動する時間は十分にあるだろう?」
「!?」
まずいと、今まで青年の出方を伺っていたゼラは自らの判断の誤りを悟った。
あの青年のつけているシュヴァルツディスクにはカードを実体化させる力がある!!
「奴を拘束しろ!!」
「おいおい。間に合うわけねえだろ」
青年の動きを止められるハズなどなく、彼のディスクに1枚のカードが差し込まれた。
「魔法発動」
「!?」
ゼラの視界が消失する。一瞬にして目の前が暗闇になり、何も感じられなくなる。
「何事だ!?」
叫ぶが、誰も答えない。いや、そもそも自分はちゃんと声を出せたのか?
それすら分からない。
ゼラが分かることとすれば、たった1つだけ。それは今自分は完全に闇に捕らえられてるということだ。
だからゼラは唯一開く口で叫ぶしかなかった。
「おのれ!!」
この摩訶不思議な現象を起こしたであろう青年の名をーーー
「黒崎 黒乃ぉぉぉ!!」
「やれやれ、そんなにやかましく叫ばなくても聞こえてるっての」
苦笑混じりに言うが、意味などないだろう。今地べたに縫い付けらている奴等には聞こえないだろうがな。
「黒乃。お前は一体なんのカードを使ったのだ?」
襲撃者達を全て無力化したカードを差し込んだ決闘盤から抜くと、近付いて来ていたベストロウリィにそれを見せる。
「闇の護封剣。相手モンスター全てを裏側守備表示にするカードーーーまあ、現実で使えば行動不能にさせるみたいだけどな」
「? ならば私は何故影響がない?」
「闇の護封剣は相手モンスターにしか影響を与えられない。味方であるお前に影響あるわけないだろ」
「……そうか」
鳥が俺から顔を背ける。ん? 頬? が微妙に赤くなって見えたのは気のせいか?
「とりおじさんてれてる。ますたー、ぐっじょぶ」
「お、おお」
と、後ろに控えていたウェン子が俺に親指を立ててきたので俺も返す。いや、なにがグッジョブなのかはよく分からんが……
「とりあえずこれで少しの間こいつらは無力化出来る。今のうちに俺達は雪乃の所へー逃げーー」
「その必要はない」
唐突に、その声は聞こえた。
「っ!」
声が聞こえた方ーーー背後を振り替えろうとするが、その前に俺は後ろの何者かに後ろから抱きしめられた。
「ますたー!?」
「黒乃!?」
「動かない方がいい」
「の、ようだな」
背中を取られた以上、下手に動くのは得策ではない。
「はじめまして。私はレイン恵。あなたを試すために来た」
聴き覚えのある声だとは思っていたが、やはりレイン恵か。
「試すためーーーか。それはなんのためにだ?」
「言えない。それは禁則事項だから」
「だろうな。それで? 何で俺を試す気だ? 決闘か?」
「正解」
はあ。やっぱりか。流石は遊戯王の世界。決闘脳だな。
「ならさっさとやらないか? すでに先約がいるんだよ」
「その心配はない。あなたを試すのは私ではなく、藤原 雪乃だから」
「!」
なんだと? 一体どういうーーー
「発動ーーー超融合」
「な!?」
少女が口にした言葉に俺は目を見開いた。超融合だと!? 何故そのカードをレイン恵が持っている?
超融合……それは遊戯王GXの後半に出てくる問題カードの1枚。完成させる為に何人もの人間の命を生贄にする必要があった1枚。それが何故ある?
だが俺には疑問を口にする暇すら与えられなかった。
景色が歪む。まるで何かを強制的に引き合わせ混ぜ合わせるかのような嫌な感覚だ。
思わず瞼を閉じるが、
「ついた」
レイン恵のその一言にすぐ俺は目を見開いた。
「なに? ……っ!?」
そして愕然とする。景色が変わっていた。自分でもバカみたいなことを言っているとは思うが、俺は今、空の上にいた。
一瞬で移動させられたのかと思ったが、多分違う。
おそらくこれはーーー
「そう。先程あなたが立っていた所と、この場を
「っ! お前俺の思考を---」
「さようなら」
すっと、俺の体に回していた腕が解かれる。
その結果なにが起こるか? 簡単だ。俺の身体は重力に従い、そのまま---
「ぬああああああああああああ!!??」
地面に落下して行く。
「またかああああああああああ!!!」
ディジャヴを感じる。ベストロウリィの時もこうやって空中から落とされた。
『マスター!』
と、落ち行く俺の隣にバニラが現れた。
「お前、なんでここに!?」
『マスターが消えたのを見て、マスターの気配を探って私も魔法で瞬間移動してきたんです!』
なに!? そんなチート能力を持ってたのかお前!
「よし! ならば今それを使って俺をどこか安全な所に移動させろ!」
『あ、すいませんマスター。移動できるのは私だけで、魔力をすごく使うんで今は出来ないです。私実体化する魔力もないんです……』
「このバカ娘がぁ!!」
『ひぃ! ごめんなさい!!』
お前なんの為に来たんだよ! 完全に役立たずじゃねえか! ウェン子もいないし、ここはあれか? 前のようにシュヴァルツディスクから、この状況を打破出来るカードをドローしろってか!?
やってやるよこんちくしょう!!
「ドロー!!」
デッキからカードをドローする。
引いたカードは---
「っ! これは!」
あの夢で渡されたカードの1枚! なぜそれが俺のデッキの中に!?
『マスター! まずいです!!』
「なに!?」
バニラに言われ下を見ると、ドームのような建物が見えてきた。
「ちっ!」
どうしてこのカードがあるのか?今はそれを気にしている暇はない。
俺は---このカードに賭けるしかない!!
「発動しろ! ティマイオスの眼!!!」
決闘盤に1枚のカードを差込む。
「く!」
『きゃ!?』
シュヴァルツから溢れ出す眩い閃光。それに俺とバニラは包まれていった。