「出てこいシュヴァルツを持つ人間!! 貴様がここにいるということは分かっている!!」
ゾーク邸の侵入に成功したモンスター達の中のこの襲撃の作戦のリーダーであるゼラは叫んだ。
「そして人間を匿っているゾークの配下のものたちよ! 大人しく人間を渡せばよし。そうでなければ、先程のように攻撃を行う!」
(……まあ、これにはなんの意味もないだろうがな)
そもそも絶対に人間を差し出さないと分かっているからこそ、ゼラ達は襲撃しているのだ。
この警告は人間たちの言葉で言う最後の情けというやつだった。
無駄だとは分かっている。だが主であるゾークと、その娘である雪乃をいない時を狙った卑怯な襲撃を行ったもの達のリーダーとしては、無駄と分かっていてもやらなければならない義務が発生する。
ほんの数分だがゼラは待った。
だが返事はなかった。
ゼラは背後にいる自らの部下たちに視線を送り、小さく頷いた。
「了解した。これより攻撃を開始する」
「「「うおおおおおおおお!!!!」」」
部下であるモンスター達が一斉に建物の中に突撃する。
「待ってください!!」
だが不意に聞こえた女の声にそれらの動きが止まる。
見ると、建物の中から1人の女の精霊が出てきた。
「これ以上、この家を傷つけるのは私が許しません!!」
それはシュヴァルツディスクの人間が持つという精霊……
ブラック・マジシャン・ガールだった。
『お断りします』
ルインさんからマスターを連れて逃げろと言われた瞬間、私はすぐにそう答えた。
「な、なぜですか?」
断るとは思っていなかったのだろう。ルインさんがひどく驚いた顔で私を見ていた。
『簡単です。多分マスターが起きてたら、ここで自分だけが逃げるなんていう選択はしないと思うからです』
「黒乃様が……ですか?」
『はい』
マスターと出会ってまだ短いが、この短い間にマスターがどんな人間なのかはバカな私でも十分に分かっている。
『「こんなところで借りを作りたくないんだよ」……とか言って、逃げません』
「……」
『だから、すいませんがルインさん。マスターのことお願い出来ますか? 私はちょっと行ってきます』
「ダメです! あなたが行っても何も……」
『分かってます』
勝てる……なんてことは微塵も思ってない。外から感じるモンスターの精霊の気配の数はとても多い。きっと私が行っても大した時間稼ぎにはならないだろう。だが私はここで逃げるつもりはなかった。
『ここで逃げたら、私はマスターが目覚めた時に笑顔は浮かべられません』
だから私は今ここにいる。
実体化をし、雪乃さんの家を襲撃したモンスター達の前に立ちふさがった。
私の登場が予想外だったのか。モンスター達の動きは止まっている。このまま止まってくれていると助かるんですけど……
そう上手くいくわけもありませんよね。
「……お前のことを知っているぞ」
モンスターの群れの中から巨大なドラゴンのような悪魔が前に出てきた。
「シュヴァルツディスクを持つ人間に味方する精霊だな? 何故、出てきた?」
「おかしいでしょうか?」
「おかしいな」
即答した悪魔は両手を広げた。
「見ろ。我らの数を。お前ごときが来た所でどうにもならん。こんな所にいるよりかは、主と共に逃走を図った方が賢いと思うがな?」
「生憎バカですから、そういう賢い方法なんて選べなかったんですよ」
愛用の杖を構える。
そう。私はバカだ。だがそれでいいと思う。
仕方ないという理由でルインさんを囮にして、マスターと一緒に逃げるのが賢い人だというなら、私はバカでいい。
「……いい目をしているな。自棄になり全てを投げ出したものが浮かべるものではない。覚悟を持ったよい目だ」
「いいだろう」と悪魔は私にその手の鉤爪を向けた。
「貴様を障害と認識し、我等は全力で排除する」
「っ!」
「行け!!」
悪魔の号令がかかるとモンスター達が動きだした。
「来なさい!!」
負けると分かっていても諦めない。諦めてたまるか。せめてマスターとルインさんが逃げ延びるまでの時間は稼ぐ。そのために私は命を賭け---
「悪いがその勝負私も混ぜてもらおうか?」
瞬間。突風が巻き起こった。
私に殺到しようとしていたモンスター達の進撃を妨げるように起きた突風は何体かのモンスターを吹き飛ばすと、やがて私の前に形を成した。
「え……」
その姿に私は目を見開く。だって、私に背中を向けるように現れたのは---
「貴様、何者だ!?」
「ふ、私か?」
大きな翼が特徴的の『彼』はマスターと決闘をした---
「通りすがりの剣闘獣……とでも言っておこうか」
「鳥さん!!」
鳥さん……剣闘獣ベストロウリィだった。
通りすがりの剣闘獣だ! 覚えておけ!!(笑)