遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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銀の影との決闘2

「竜姫神サフィラ……もう1人のあなた自身」

「そうよ。このモンスターであなたを倒すわ」

「なら、私はあなたを闇に堕とす」

「やってみなさい。出来るならね」

 ……と言ってはみたものの、私の手札に逆転のカードはない。そしてサフィラは攻撃表示で召喚した。このままでは次のターン私はドラゴネクロの攻撃によって大ダメージを受けるだろう。

 ならば私は希望に賭けるしかない。

「私はフィールドのマンジュゴッドとセンジュゴッドを守備表示にし、ターンエンドよ。そしてエンドフェイズ時にサフィラの効果発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚墓地に送る」

 カードをドローする。

(……来た!オネスト!)

 これで戦闘を仕掛けられても問題ない。まだ私の希望は消えていない!

「手札を1枚墓地に送り、ターンエンドよ」

 私はもう使えないカードになってしまった青天の霹靂を墓地に送り、ターンを渡す。

 これで防御は大丈夫。いくら相手に攻撃力3000のモンスターがいても、怖くない。

「私のターン。ドロー。私は冥界騎士トリスタンを召喚、その効果により墓地から守備力0のアンデット族モンスターを手札に加える。私は墓地の守備力0アンデット族ゾンビマスターを手札に加える。そして手札よりフィールド魔法を発動する」

「フィールド魔法?」

 このタイミングで?

 まさか……

「アンデットワールド」

「っ!」

 やはり! フィールドも墓地も全てのモンスターの種族をアンデットにする恐ろしいカード。

 その効果は()も例外なく受ける。

 ()は輝きを失い、アンデット……亡者の1体となってしまった。

「それだけじゃない」

「何を……っ!?」

 言っているの? という言葉は口に出来なかった。不意に全身から力が抜け、私は地面に膝をついてしまったからだ。

「この決闘ではモンスターに与えることは全て現実のものとなる。故に、もう1人のあなたに変化があれば、あなたの身にも変化が起きる」

「やってくれるわね……」 

 この脱力はサフィラがアンデット化した影響なのだろう。身体が鉛のように重い……

 だが---

 

 

「竜姫神の名は伊達じゃないわ!!」

 

 

 立ち上がるーーーと同時に、アンデットと化したサフィラも失ったかに思えた輝きを取り戻した。

「大した精神力。でもそれでは私には届かない。バトルフェイズに入る」

「その動きは読めていたわ」

 だがここでセンジュゴッドとマンジュゴッドを破壊されても、私にはまだサフィラが残る。それなら何とか私にも逆転のチャンスは……

「違う」

「え?」

「私が攻撃するのはサフィラ」

「な!?」

 攻撃してくると言うの? バカな。あの子はこちらの手札を把握している。ならば私の手札にオネストがあることはあの子も知っているはず……なのにどうして!?

「ドラゴネクロでサフィラを攻撃……ダークソウルバースト」

 冥府の竜より死が込められたブレスが放たれる。

「くっ……」

 何を考えて少女がサフィラを狙ったのかは分からない。だが私の打つべき一手は1つだけだった。

「ダメージステップ時に手札よりオネストの効果を発動! 光属性モンスターがバトルする時、このエンドフェイズ時まで、バトルを行う相手モンスターの攻撃力を加えることが出来る! よってサフィラの攻撃力は5500!! 返り討ちよ!!」

「ん……!」

 少女LP4000→1500

 光の天使の加護を受けたサフィラがドラゴネクロを迎撃する。

 解せない部分はあるが、これであのドラゴンは破壊出来た。これなら次のターンで逆転することも出来---

「それは無理」

「え?」

「あなたはもう闇に堕ちている」

「どういう……っ!?」

 瞬間気がついた。サフィラが()が何者かの手によって貫かれていることを。

 いや、何者かではない。あれはあの腕は---

「既にドラゴネクロの効果が発動している。その腕はドラゴネクロの腕」

「ドラゴネクロの……効果?」

「ドラゴネクロと戦闘を行った相手モンスターは戦闘では破壊されない。でも、ダメージステップ終了時にそのモンスターの攻撃力を0にして、そのモンスターの元々のレベル攻撃力を持つダークソウルトークン……つまり相手の魂を私の場に特殊召喚する」

「でも、ドラゴネクロは戦闘で破壊したはず!」

「ドラゴネクロは嘆きの体現者。例え死しても、この効果は墓地で発動する」

「そんな……」

 それじゃあ戦闘を行えば、ほぼ確実にあのモンスターに魂を闇に堕とされるってこと?

「そう……あなたの魂を、あなたの闇を解放する」

「やめ……!」

 分かる。それはダメだと。それをされてしまえば私は---

 

 

 

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

「ダークソウルドレイン」

 

 

 

 

「あ、あああああ!!!」

抜き取られる。魂が。

これまで感じたことのない虚脱感と脱力感が身体を襲う。立ってなどいられるはずもなく、私は前のめりに倒れる。

「完了。これがあなたの闇の姿」

「私の---闇の、姿?」

顔を上げ少女のフィールドを見ると、そこには漆黒のサフィラがいた。

『うふふ……』

 サフィラが……否、()が私を見て嗤う。

「ダークソウルトークンと、冥界騎士トリスタンで、あなたの壁モンスター2体にそれぞれ攻撃する」

 私のモンスターが破壊される。だが、私にはそのことを気にかける余裕などなかった。

『聞こえるかしら?』

 声が聞こえたからだ。

 他でもない私自身の声が私の頭の中に響く。

『臆病で弱い私』

「私が……臆病ですって?」

『そうよ。あなたは本当はとっても臆病な人間よ。自分以外の全てにいつも怯えている』

「ふざけないで! そんなことあるはずが---」

『ないと言えるの? 他の誰でもないあなた自身である私が言っているのに?』

「っ!!」

 耳を貸すな。ただの戯言だ。何かの幻覚だ。

 否定する。この声を。否定しなければならない。

 そうでなければ私は---

『私。あなたはずっと孤独だった……そうでしょ?』

「違う!」

 そんなことはない! 私は孤独なんかじゃない。お父様やルイン・幼馴染の麗華。他にも私には---

『でもそれは精霊としてのあなたと、人間としてのあなた。どちらか片方の面だけのあなたを見ているだけでしょ?』

「っ!!」

『誰もハーフの、本当の藤原雪乃を見ている者はいない……あなたはそう思っている。だから孤独を感じている』

「違う!!」

『そんな孤独を埋める為に、あなたは行動した。アイドルになった。誰もが認めるスターになった。自分の寂しさを埋めるために』

「やめて」

 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない!!

『でもダメだった。むしろ逆効果。ファンのみんなは人間としてのあなたを見ているだけで、精霊としての自分を見ていない。アイドルになっても本当(・・)のあなたを見てくれる人がいるわけなんてない。そんな当たり前のことに、後になってようやく気付いた』

「やめてよ……」

『いや、本当はなる前から気がついていた。でもあなたは気づいていながら行動するしかなかった。そうしないと孤独に耐えられなかったから』

「もう、やめて……」

『あなたの自分の孤独を埋めるための行動は全て徒労だった……そうこれまでは(・・・・・)

「言わないで!」

『だけどようやくあなたは自分を理解してくれるであろう人を見つけた……それが黒崎 黒乃……先生』

「黙りなさい!!」

『一目見た時から感じた。ああ、あの人ならきっと自分のことを、精霊と人間としての両方を……本当の自分を見てくれる。理解してくれる。愛してくれる』

「黙って!!!」

『だからあの時……先生の精霊に2つ目の質問でこう聞こうとしたのよね?』

「黙---!!!」

 

 

 

 

『先生を私にくれる気はない? って……』

 

 

 

 

「っ!!」

 私は立ち上がった。脱力していた身体を動かし、無理やり立ち上がる。

「あなたは私じゃない! 私は、そんなことを考えていない!!」

『嘘。あなたは考えていた。そして欲していた。先生を。どうしようもなく独占したいと思っていた』

「私は---私は!!」

 私は……なんだというのか? 

 言葉が出ない。いや出せないのだ。何故なら声が言っているのは紛れもない事実。

 そうだ。私は今、どうしよもなく先生を欲しいと想っている。

『その想いを叶えればいい』

「な、何を言って……」

『ねえ私。先生を私達のモノにしましょう?』

「っ!」

 どくん! と私の中の黒い何かが、声の提案に歓声を上げたのが分かった。

『先生を力づくで私達のモノにして、私達だけを見てもらって、私達だけを愛してもらうの……ねえ、とっても素敵でしょう?』

「そんなこと出来ない……」

声が震える。出来るわけない。私にそんなことーー

『あなたじゃ無理でしょうね』

 でもと、『声』は確かにその瞬間笑った。

『私なら出来るわ』

「どういう、意味?」

「こういうこと」

 疑問に答えたのは声ではなく銀髪の少女だった。

 見ると、少女の場に伏せられていたカードが表になっている。

 そのカードは---

 

 

 

 

「超、融合……?」

 

 

 

 

 なんだあのカードは? 見たことがない。ただの融合ではない。もっと何か……それこそ世界の理を捻じ曲げてしまうような……そんな力を感じる。

「これは本来この世界での使用は禁則事項にあたるカード。でも今回だけはマスターから特別に許可が下りた。あなたを完全に闇に堕とすために……」

「何を、する気?」

「このカードは手札を1枚捨てて発動出来る。自分・相手フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する……」

「まさか……」

 今私のフィールドにはサフィラと。そして少女の場には闇に堕ちたサフィラ……ダークソウルトークンがいる。

 更にアンデットワールドの効果でフィールドの全てのモンスターはアンデット族モンスターと化している。

 そして彼女が先程呼んだあのドラゴンの融合素材は2体のアンデット族モンスターだった……

「そう。あなたと解放されたあなたの闇を融合させる」

「やめて!!!」

 そんなことされれば私は先生を……

「完全に闇に堕ち、黒崎 黒乃を手に入れようとする」

「!」

「そうしてもらうことが私の目的。そしてあなたの秘めたる願い。何の問題もない」

「やめ---」

 

 

「超融合---発動」

 

 

 少女は無慈悲にも超融合を発動する。

「っ!」

 フィールドでサフィラと闇のサフィラが1つになる。

 それと同時に、私の中にも闇が入り込んでくる。

「あ、いや、ああああああ!!!」

 抵抗をしようとするが、だめだった。元は同じ存在。驚く程スムーズに私の中に入り込み、そして私と1つになって行く。

 

 

「おねんねしなさい。もう1人の私。後は()に全て任せてね」

(先、生……)

 自分の口から出た自分が発した声ではない声を聞きながら、私の意識は奈落の闇の底に堕ちていった…… 

 

 

 

 

 

 




ご指摘を受けそうなので念の為に、書いておきます!

ドラゴネクロの効果は---遊戯王wiki内であるように


Q:戦闘で破壊された場合、効果は発動しますか?
A:はい、その場合この効果は墓地で発動する事になります。


戦闘破壊されても発動します。
なおwikiを見た時に•このカードが戦闘破壊された場合でも、トークンは特殊召喚できる。
「ん? これってトークンは出せるけど、攻撃力は0にはならないのかな?」
という疑問が湧いた為、検証した所、ドラゴネクロを先頭は開始たモンスター攻撃力は0になり、トークンも出てましたので多分問題はないと思います。
「ふぅん。俺にカード効果の説明は不要だ!!」
という方は長々とした説明文を失礼しました。

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